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イワテバイクライフ2006年3月前半


3月15日(水)
昨日のなごり雪は、みるみるとけて消えたが、曇り空からの陽射しは無気力そのもの。 @岩手山麓
  
  狙いすました一撃を受けて、
  彷徨うものよ。
  
  狩人渾身の焼け火箸を突き刺したまま
  息をひそめるものよ。
  
  許されるなら
  うめき、のたうち、ころげまわり、
  苦痛を忘れ去りたいものよ。
  
  屈辱の雪を口一杯に詰め、
  次の銃声に身構えろ。
  (夜明けを貫通してくる第二弾は、鋭い)
  凍土の朝を真っ赤に染めて、
  血が枯れ果てる前に、
  風に匂う追撃の狼煙を嗅ぎ取れ。


3月14日(火)
終日のなごり雪は、思いの外に化粧を厚くして、真冬日をもたらした。 @盛岡市(高松の池)
  
  一球目のボールが
  決め球の伏線だったりする。

  初回の1失点が
  完投勝利に繋がったりする。

  すべてのプレーには理由がある。
  だから、結果は必然なのだ。

  どんなにひどい一日にも理由がある。
  だから、明日の行き着く先は、正しいのだ。
  確定していた未来なのだ。

  そう思えるようになると、

  心は実に静かだ。


3月13日(月)
真冬日。寒気は針となって頬に刺さる。雪雲に包囲された青空など、孤立無援な春だった。 @盛岡市(玉山区)

  あなたの難解を理解しなくても
  人は、充分に不可解だ。

  あなたの深遠を覗き見なくても、
  人は、すでに崖っ淵だ。

  あなたが、どれほど軽蔑しても、
  人は、遠慮なく生きる。

  如何にあなたひとり正しくても、
  人は、涼しい顔でいる。
  あなたひとり立派であることを
  証明したがるものなど、
  所詮ひとり立派なあなただから。


3月12日(日)
未明の雨に濡れた街に終日小雪が舞った。春にのめりかけた身に寒気の針がしみる。 @盛岡市(玉山区)

  ねえ、おまえ、
  花の名前を教えてくれないか。

  春へ向かうある日、
  気紛れに山野を白く染める花の
  その名前を教えてくれないか。

  旅の途中で幾度も見た記憶がある。
  希望が見えたかけた途端、
  あたりを霞ませる花の名前は、何だ。

  生まれてくる命を凍らせる
  無残な白い花のことを
  何としても覚えておきたいから、
  ねえ、おまえ、
  花の名前を教えてくれないか。

  


3月11日(土)
用心深い防寒具は汗を誘い、春霞のとけた風は眠りを誘う。春の幻覚は夕刻の雲に隠れた。 @盛岡市(玉山区)

  累々たる屍だ。
  腐乱した冬だ。
  
  走り続けた記憶まで途切れ途切れで、
  呆然と見上げれば、丘は深い迷彩色だ。

  横殴りの雪に染まりながら、
  頂をめざした私は、
  あれから、どうした。

  立ち往生の果てに凍り付いたのか。
  満天の星を一人胸におさめたのか。
  どちらにしても無事ではいられまい。

  光を吸ってあらわになる黒土に
  髑髏がのぞき、微笑んでいたりしないか。
  
  (私を探して息は弾む)

  


3月10日(金)
曇り空は、まれに陽射しを許したが、薄ぼんやりとした印象のまま夜を迎えた。空気だけは、どこか柔らかく。 @岩手山麓

  最期を悟った雪は、
  かすかな陽に照らされただけで、
  雫になりたがる。

  その色のはかなさは、
  絵筆にふくませた
  黒土や若草の印象を
  一層まろやかにする。

  凍ることで在り続けたものが揮発して
  漂わせる香りは、春の水彩。
  心優しき劇薬。

  ひと筆、心を撫でただけで、
  膝から崩れてしまいそうだ。


3月9日(木)
朝から晴れた。その霞み具合が、紛れもない春だった。けれど、冷気は、どちらかと言えば「冬びいき」だった。 盛岡市(玉山区)

  ひとり真ん中で輝く為に、
  人を利用しない。
  何かを連ねない。
  喝采を求めない。
  絆を披瀝しない。
  夢など煽らない。

  ひとり片隅で安らぐ為に、
  己の中心に佇み、
  心地よい呼吸を
  繰り返せるなら、
  それこそが輝く春なのだ。


3月8日(水)
未明の雪に街はうっすら雪化粧。山はふっくら銀世界。陽射しにとけ、強い風に乾いた一日。 @盛岡市(天峰山)

  青空を霞ませる地吹雪の中に
  とめどなく笑顔が溢れるのだ。

  螺子か何かが脱落したように、
  どくどく歓喜がこぼれるのだ。

  もはや結末の確定した舞台を
  新雪が埋め尽くしたところで、
  美しいだけの残像に過ぎない。

  その無垢な懐かしさに涙して、
  (苦しかった、長かった)と
  告白するほどに心は安らかで、
  轟々たる乱気流に立つ自由は、
  刻み続けた轍まで忘れていく。


3月7日(火)
放射冷却現象で始まった鋭利な空。濃厚な春の蒼さ。雲の影ひとつ無し。ただ、光の印象ほどに温もりも無し。 @盛岡市

  そこへ近づくために走る日もあれば
  遠ざかり振り返る為に走る日もある。

  どんなに走っても近づけない明日や、
  いくら走っても振り切れない昨日を
  今朝も、この街から眺めているのだ。


3月6日(月)
沿岸部では、山田の15度1分を最高に4月中旬並の地域続出。盛岡でも朝方、春の雨。午後の陽射し。 @盛岡市(中津川河畔)

  人が逡巡していると、
  神は手荒い作法で駒を弾き、
  思わぬ扉が開くこともある。

  何が、ああなって、こうなって、そうなるのか。
  めぐり巡って転がりこむ「どんでん返し」。

  陰と陽、幸不幸、運不運。
  めくるめく反転のドラマの為に、
  すべての出来事は用意されている。

  (ただし)
  求め、描き、走り続けないと、
  因果の螺旋は、そこで止まる。


3月5日(日)
お愛想程度に滲んだ青空だけでも街は乾いた。ひとたび山野へ入れば雪と雨の狭間。 @岩手山麓

  シールドの雨粒は凍り付き、
  道端に止まる。

  いったい私は、
  幾つ約束をしたのだ。
  いまだに果たしていない約束は、
  幾つある?
  幾度、人を失望させた。
  何年、人を待たせている。

  (思い出せないのだ。おそろしくて)

  雪原の彼方に現れた人影が、
  やがて私の前に立ち止まり、
  「まだ覚えていますか」と
  微笑まれることほど、
  おそろしいことはない。


3月4日(土)
にぎやかな陽射しと薄雲の乱舞のもと雪解けは着々。けれど、とかすべきものは膨大。 @岩洞湖畔駐車場の片隅(氷上は一切走行せず)

  崩れていくだけの雪は、
  ひとすじの陽射しにすら無力で、
  最期の時を道の真ん中で待っている。

  踏まれ、砕け、飛び散れば、
  (あとは路肩の水溜り)

  覚悟の出来た雪に法則など無いから、
  手応えも唐突で、
  掴み損ね、振られ、払われ、捻られ、
  (やがて、旅の午後は、ずぶ濡れ)


3月3日(金)
朝方の小雪も止み、みるみる晴天。昭和三陸津波(死者3000以上)から、今日で73年。 @滝沢村

  ゆっくり、目を開くと、雪野原だった。

  突然の青空と陽射しに目が慣れるまで、
  言葉を忘れて、瞬きを繰り返していた。

  どこかで鳥が囀る。彼方に爆音が轟く。
  
  振り返れば、まっすぐ轍が続いている。
  私は、どこへ向かおうとしていたのだ。
  
  私を眠らせ、目隠しをしたのは、誰だ。
  光が戻るまでの間に、何があったのだ。
  
  記憶を喪失したことさえ記憶に無い朝。
  喪失するほどの記憶さえ記憶に無い朝。
  
  ここで、目を見開いたことが全ての朝。


3月2日(木)
頑張りすぎた春の雪は、好転する空の前に、崩れ、とけて、街を水浸しにした。 @滝沢村

  消えゆくものが、
  見渡す一面を支配することもある。
  (これだけは言っておきたい)と思い詰める。
  すでに冬でもなく、まして春にもなれない
  今朝の白さの何という哀れだ。

  濡れた黒土に潜む季節たちよ、
  けして笑顔で立ち上がってはいけない。
  息を詰め、その恨み言が終わるまで待て。
  (去り行く季節が、どれほど美しかったか)
  切々たる申し立てに、抗わず、頷きながら、
  春爛漫を思って、指折り数えろ。


3月1日(水)
未明からの湿った雪はみぞれになりながら、降り続き、冬のなごりを積み上げてみせた。 @盛岡市近郊

  雪かどうか、
  カーテンを開けば、わかる。

  どんな雪か、
  手で受け止めれば、わかる。

  雪の匂いは、
  風を胸に満たせば、わかる。

  雪の気持は、
  私を深く沈めれば、わかる。

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