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イワテバイクライフ2003年10月前半


10月15日(水)
寒気団の影響で、ことさらに言い立てるほどの青空は無く。 @高松の池


  「盛岡は、周囲の森にすんなり続いていく街」だと
  誰かが言っていた。
  高松の池は、さしずめ、森への中継点。

  街を離れようとするライダーにとっては、
  裏木戸のような所なのだけれど、
  めずらしく、その角に佇んだのは、
  秋の色合いではなく、
  枯葉一枚も許さぬ気合いや、
  気ままな繁茂すら許さぬ志を感じたから。

  風まで清掃されていたから。
  
  
  

10月14日(火)
澄んだ青空のホリゾントに、控えめな雲の群舞。 @盛岡市郊外(雫石川そば)


  なぜだろう。
  岩手に届く光線は、圧倒的な透明度で
  見たこともない陰影を顕わしていく。

  純度の高い風景に向き合うことで
  絶望すらとけていくような気がする。

  「何故、また、岩手なのか」と問われる度、
  「おそらく、決定的に光が違うのです」と
  こたえることにしている。

  けれど、困ったことに、
  光に救いを求めるほどの病は、
  到底言葉に出来ない闇の記憶と
  相場が決まっているのだ。
  

10月13日(月)
雨のち曇り、夕刻かすかな晴れ間。 @大善ストア(盛岡市立北陵中学校前)


  イーハトーブの秋にまみれた翌日だから
  精も根も尽き果てていたのだけれど、
  雨音を聞きながら生業の仕込みなどする。

  夕刻、家の照明で切れた電球5個を
  黒石野のホーマックで調達。
  ほったたかしにしていたものに
  やっと灯りをともす情けなさ。

  緑が丘の坂を上田に下れば
  雲間に岩手山。

  50ccに飛び乗ったのは17時前。
  シルエットに収まったお山は、
  「もう、そっとしておいてほしい」と言うばかりで、
  すがるようなものを探すうち、
  とりあえずの灯りに出くわした。

10月12日(日)
透明鮮烈とはほど遠い、いちおうの晴天だから、山野に遊んでいられた。 @安代町(の、はず)


  同窓会の日って、ワクワクしません?
  
  「秋トライアル」は、まさに同窓会。
  8月の「イーハトーブトライアル」の記憶を辿りながら
  「あの日」とは違うイワテに出会う一日。

  主催者、万澤安央さんの言葉。
  「本当にやりたかったトライアルです」
  「気を入れて作ったセクションです」
  「魂を入れて下見しなくちゃ」
  「大切なことは、出口に辿り着こうという気持ち」
  「基本を身につけたライダーは、
   (爺さん婆さんになっても)下手にならないんです」

  「野戦」という言葉が浮かぶ。
  技やセンス以上に、
  生きて進むことへの執着が
  結果をもたらすのですね。

10月11日(土)
雲の皮膜が、秋の散華をおしとどめ、かろうじて穏やかな終末、もとい、週末。 @北上山地


  仕事のリサーチで釜石へ向かう。
  久しぶりの三陸だが、
  心は、その途中の秋に向く。
  
  収穫しきれない程の紅葉の連続に
  300kgに迫る愛機を停める理由を失い、
  やっと止まったのは、
  小便を我慢できなかったから。
  
  見渡す限りの孤独に、カラスが鳴く。
  狼も鳴いたような気がして、
  身支度に慌て、振り向く。
  
  私の体温に濡れ、やがて、朽ち果てていくのは、
  季節の葉ではなく、私の終末。

  嗚呼、生きて帰ろうじゃないか。

10月10日(金)
長期安定などと言ってみたくなる秋空。 @岩洞湖畔


  モーターサイクルで走っていると
  道にとける、という感覚が、ある。
  
  タイヤが路面に馴染み、
  エンジン内部の爆発、回転が筋肉を纏い、
  車体の質量が、道や地形の変化に同化していく。
  そのような感覚は、
  たいてい雑念の無い日にやって来る。
  
  光と風を静かに呼吸する私を
  優しく丘の向こうに運んでいくのも、また私。
  先回りする私と導かれる私を感じ続ける時間。
  
  途切れることなく
  秋晴れにセンターラインは流れ、
  いつもの道に新たな記憶が刻まれる。

10月9日(木)
塞ぎ込んだ夏の記憶があるだけに、こうも穏やかな秋晴れ続きは、どこかツジツマ合わせのような気もするわけで・・・(岩手山)


  玉山村から西根町の裏道を辿る。
  田園地帯は、秋晴れの朝に
  爽快なクリームイエローでこたえている。
  けれど、問題は、頭を垂れる穂の中身だ。

  農業共済組合の損害評価員が、
  ニコリともせず、稲穂を手に乗せ見入る。
  「厳しい。いつもの年の半分だ」

  共済金は、万が一の天災に備えた保険。
  保証されるまでには、二重三重の審査・手続きが待つ。
  損害評価員の登場は、
  その、ほんの序章だという。

  稲作農家の長い秋を思わずにいられない。

10月8日(水)
純度の高い秋晴れも、北上山地の懐に至れば、頑固な雲が居座り、大地は光と影の迷彩色。 @葛巻町


  紅葉は、教えられて見に行くものではない。
  罠を仕掛けた猟師の様に
  確かめに行くものだ。

  雲は無造作に影を走らせ、日溜りを追い込む。
  求めた色は、先送りされ、もしかしたら、
  二度とめぐり逢えない。
  
  闇とまでは言わないが、
  秋空の一寸先は、まあ、わからない。
  ひとつ先のカーブや、まして明日のことなど。

  冷えた風に涙が流れ、瞬きを繰り返す時、
  全身に施したプロテクターが、
  死に装束に思えてくる。
  
  センターラインを奔放に横切り、
  色付いた藪へ飛込む野性の尻尾を見送る。 

10月7日(火)
完璧な秋晴れの予報も、山沿いの気まぐれな雲までは予期できず。まあ、そこそこの夕焼け。 @安代町


  安代町の「田山ドライブイン」で
  キノコとイワナの料理を見学・試食。
  食材は71歳のお爺ちゃんが近所の山からとって来る。
  ひとシーズン4千匹近い魚を釣り上げ、
  毎朝、大きな籠いっぱいのキノコを詰めて帰ってくる。
  「米と塩さえあれば、何日でも山に入っていられる」
  そんな口癖のお爺ちゃんが
  開店35年の味を支えている。

  イーハトーブの秋を満喫する
  「秋トライアル」は12日(日)。
  食事は、件のドライブインで
  「キノコひっつみ」と「イワナの唐揚げ」。
  思いを更に深めて本番まで5日。

  秋の森にコーステープを重ね、
  「クリーン(減点ゼロ)」のイメージを楽しむ。

10月6日(月)
曇り時々雨、祈るような思いで求めた青空は遅れてやってきた。 @安代町


  「今年の紅葉は早い」
  安代に暮らしてきた爺様が言い切る。
  「霜で、紅葉は傷む」とも。
  すると、見頃ですか。
  たまたま仕事で立ち会った秋。

  ブナ林にさしかかって、
  雨が降り出した。
  森の中なら雨はしのげる、と思った。
  けれど、葉が落ちかけている森は、
  破れ傘のように肩を冷たく濡らす。

  進むか、戻るか、決めかねて
  とりとめのない身の上話は続く。

10月5日(日)
秋晴れ、時々曇り、通り雨。 @滝沢村


  行かなければならない所へ行けないのは
  悲しい。
  山の向こうに大切な人が待っているのに
  岩や倒木や谷に阻まれて進めないのは、
  せつない。

  スコットランドの原野で、
  大切な人に思いを届けられず、
  君は自らの力に向き合い、一日泣きに泣いて、
  進み続け、走破することの意味を知った。
  
  オートバイトライアルは、そうして生まれたのだと、
  僕は信じている。


  終日、滝沢村でトライアル修行。


  

10月4日(土)
晴れ間と雲の折り合いは付かず、県北部に暗い雨雲。 @玉山村


  一日、空の曲折を辿った。

  燦々たる滝沢村の牧場地帯に始まり、
  トライアルパークや天峰山、
  北上山地で雨上がりの夕暮れを迎えるまで、
  2台の単車を乗り継ぎ、
  ひたすらにイワテの光線を追った。

  1秒前と1秒後の風景は、まるで別世界で、
  流れる雲の中に太陽の現在地を睨む。

  たかが風景を、そこまで追わせるイワテ。
  シャッター音は、的はずれな対空砲にも似て
  雲の彼方に散っていく。

  気付けば、880枚撮っていた。

10月3日(金)
幾万件の狐の嫁入りだろうか、晴天から透明な降雨の不意打ち、のち、洗いざらしの秋晴れ。 @田代平(安代町)


  風が強い。
  30リッターをタンクに満たし、錨(いかり)とする。

  安代町の田山ドライブインをめざし、
  田代平にさしかかる。
  なだらかな牧草地に挟まれ
  愛機を休ませる。

  秋の光線を反射し、
  騒々しくハレーションを起こす大地が、
  みるみる押し黙る。
  広大な雲の影が、彼方から押し寄せ、
  濡れた皮膜が目前に迫る。

  陰影の津波に備え、道端で息を詰める。
  仕事の予定はさておき、
  週末の目論みまで流されないように
  ぎゅっと拳を握る。
  

10月2日(木)
青空、黒雲、風雨、また青空 @盛岡市太田(雫石川堤防道路)


  「まわり道 DETOUR」
  そんな映画があった。
  
  恋人に会うため
  ニューヨークからハリウッドまで
  ヒッチハイクで旅を続けるラウンジ・ピアニスト。
  彼を拾った一人のドライバーが、
  旅の途中心臓発作で死亡する。
  警察を恐れた彼は、
  死んだ男になりすまして旅を続けるが、
  運悪く死んだ男の知り合いの女を拾ってしまう。

  1945年公開。
  監督:エドガー・G・ウルマー。

  

10月1日(水)
薄日差す朝は、しだいに愛想を失い、日が暮れて小雨。 @雫石町


  畦道でコンバインの動きを眺める。
  冷夏の記憶を飲み下すように、
  稲穂は消えていく。

  実りの質量は、
  育てた者が一番よく知っている。
  遅れて来た陽射しに
  コンバインの農夫は、
  怒るでもなく、悲しむでもなく、
  ありのままを収穫していく。

 
  

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