イワテバイクライフ 2004年2月前半
どうかなさいましたか。 とても顔色が悪い様ですが。 どうかなさいましたか。 何か、起きるのですか。 とても緊張の御様子ですが。 何か、起きるのですか。 大丈夫。 どんな恐ろしい機密事項や ひとたび背負わされ特命も、 この大地にあっては他愛もない暗闇遊び。 だから、目を見開き、目に笑みを忘れず、 そして、狙いを外さず、 春を待つのです。 |
とけかけた雪道は走りにくい。 前輪の勢いを受けただけで、もろく崩れるから、 ハンドルに捻り倒されそうだ。 ザラメ状の雪はグリップせず後輪は身をよじる。 結局、二輪二足の雪上ダンス。 とかされることで、その重みを思い知った冬が、 終焉の存在に気付き、とたんに胆力を失うのだ。 春の本隊が到着するまでの猶予。 消えていく事への怖れは諦観へ移ろう。 寒気団の援軍を待つうち、雨など降ろうものなら、 冬は身を持ち崩し、雪崩を打って飛び降りていく。 生きる意志を捨てた季節の質量は、 急速に冷却された溶鉱炉にも似て、 タイヤを掴み揚げたまま離さない。 |
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見渡す限りの冬は、いずれ消えていく。 消えて無くなる雪の膨大を思った時、 妙な吐き気におそわれる。 張り詰めたり、癒されたり、夢中になって この雪の中に生きている私まで、 とけて消える季節の記憶だ。 おそらく、夏のある日、 出来ることなら、この新雪に血を吐いて |
「そりゃあ、もう、難儀なこった。 |
切れることに未練の無い糸と、 |
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一日、沢内村で過ごしました。 山伏トンネルを抜けると、 道路脇の雪が一気に背丈を伸ばしました。 豪雪地帯の暮らしに触れて 帰路、言葉数が少なくなりました。 雪が、音や声を吸い取ってしまったから、 人の笑顔が、とても印象に残りました。 お土産に買った黒ビールを 炬燵で真面目に飲みました。 |
雪原でKTMのスロットルを開けても スポンジめいた駆動力しか生まれない。 こんなはずではないと全開にしたまま、 クラッチを当てると車体が飛び出した。 天峰山を蹴り去って高々と宙に舞った。 逆光の中に岩手山が裾野を広げている。 玉山村、日の戸の集落が、眼下に迫る。 着地に身構えたところで、夢は覚めた。 氷点下の樹林帯に、黒々と舗装路が続く。 ブロックパターンは爪を立て速度が乗る。 一瞬、かすかに、中心線が左右にゆがむ。 滑らかに破綻の兆。駆動感が抜けていく。 反射的に両足が開きバランスを取り戻す。 ほっと振り向けば滑走していく愛機の影。 凍った路上に仰向けに転がる我が身の幻。 辛くも掴んだ安堵の風。リアルな白日夢。 (本日も無事帰還) |
異議をさしはさむ余地のない客観性と、 |
おい、おまえ。そこをどいてくれよ。 おい、おまえ。こわくなんかないぞ。 おい、おまえ。礼儀だ。名を名乗れ。 おい、おまえ。猿が気に入ったのか。 おい、おまえ。いいやつじゃないか。 おい、おまえ。ご主人様の声がする。 おい、おまえ。怖そうなご主人だな。 おい、おまえ。帰りたくないのだな。 おい、おまえ。ぶたれたりするのか。 おい、おまえ。見切りをつけたのか。 おい、おまえ。堪忍袋はもってるか。 おい、おまえ。いっそ、逃げちまえ。 おい、おまえ。その前に記念撮影だ。 |
立春の日の午後。 縦揺れ2回。 盛岡市・大野村・玉山村で震度4。 蜂の巣突く騒ぎの中で、 揺れる愛機を思ってた。 跳ねる50cc。踏ん張る1200cc。 無事でいろ。待っていろ。 2004年2月4日(水曜日)午後3時8分を、 |
冬の長い里では、 みんな寄り添い生きている。 支え合い、認め合い、褒め合って生きている。 今朝も、黒々見出しが踊り、 「よかった、よかった、ワンダフル」 鍵盤と戯れられれば、今日からピアニスト。 スクリーンを熱く語れば、立派に映画監督。 可愛い茶碗が焼けたら、はい、陶芸家。 君が願えば、不思議に叶う理想郷。 拍手喝采、祝ってみせる。 なにせ、冬を乗り切る戦友だから、 死にものぐるいで手も叩く。 「すごいぞ、すごいぞ、ワンダフル」 「とことん、とことん、ビューティフル」 |
AM7:00、ランドクルーザーで盛岡を発つ。 岩泉へ向かう国道455号線には、 思いの外に車が連なり、速度が上がらない。 ヒーターの効いた助手席で ナビゲーションシステムの画像をぼんやり眺める。 山腹に刻まれていく急カーブにシンクロして、 進行方向を示す赤い矢印が回転する。 その動きに、リーンウイズで寄り添ってみる。 風の印象は、克明な地図とともに辿ることで、 なるほど、現実の出来事だったのだと確認する。 AM8:10、早坂峠に到着。 この風景をテーマに仕事を始める。 4年間、岩手を離れ、インターネットのライブカメラで 毎日見続けていたこの風景の中に私を置く。 「帰ってきた。ここに」 感慨が、樹林越しの朝陽に照らされていく。 |
こんな時間は、久し振りのことだ。 夫婦でドライブ。藪川そばで昼食。 氷上のテントの群れに歓声を上げる。 午後は息子と合流し、花巻へ。 産直で手作り菓子などを買う。 帰路、お約束のイオンに道草。 帰宅し、雪かき。 炬燵で娘と「ちびまる子ちゃん」。 早池峰ワインの赤いのを飲みながら笑う。 気分は、友蔵(ともぞう)じいさん。 平凡を極めた一日の不思議な充実。 そうさ。バイクも、所詮は、暮らしのひとつ。 |