TOP

イワテバイクライフ 2004年2月前半


2月15日(日)
街から氷柱が消えていく。屋根から氷の塊が落ちていく。小雪は、みぞれに変わり、やがて、まぎれもない雨へ。  @玉山村


  どうかなさいましたか。
  とても顔色が悪い様ですが。
  どうかなさいましたか。
  
  何か、起きるのですか。
  とても緊張の御様子ですが。
  何か、起きるのですか。
  
  大丈夫。
  どんな恐ろしい機密事項や
  ひとたび背負わされ特命も、
  この大地にあっては他愛もない暗闇遊び。
  だから、目を見開き、目に笑みを忘れず、
  そして、狙いを外さず、
  春を待つのです。

2月14日(土)
うつろな陽射しだった。たかをくくる冬は、けれど、じわじわと、とかされていることに気付き、うろたえ、屋根の氷を落とす。 @西根町


  とけかけた雪道は走りにくい。
  前輪の勢いを受けただけで、もろく崩れるから、
  ハンドルに捻り倒されそうだ。
  ザラメ状の雪はグリップせず後輪は身をよじる。
  結局、二輪二足の雪上ダンス。

  とかされることで、その重みを思い知った冬が、
  終焉の存在に気付き、とたんに胆力を失うのだ。

  春の本隊が到着するまでの猶予。
  消えていく事への怖れは諦観へ移ろう。
  寒気団の援軍を待つうち、雨など降ろうものなら、
  冬は身を持ち崩し、雪崩を打って飛び降りていく。
  
  生きる意志を捨てた季節の質量は、
  急速に冷却された溶鉱炉にも似て、
  タイヤを掴み揚げたまま離さない。
  

2月13日(金)
陽射しは圧雪をとかし、艶々の凍結路をザラメ状にほぐし、その先に顔を出す舗装や砂利、赤土。 @盛岡市郊外


  ごく普通のことを
  丁寧に、精魂かたむけ、汗を流す。
  
  当たり前のことを
  謙虚に、身を粉にしてやり遂げる。
  
  芸術じゃあるまいし、
  潔き放屁の如きこと。
  
  平凡な一日を平凡に終わらせる力。
  
  握りしめた拳をゆっくりと開く力。
  ゆったり微笑み溜息を漏らさぬ力。
  時々山を見上げて季節を見通す力。
  猛毒ひとつ懐にしまい黙り通す力。
  空気をひとゆらぎもさせず待つ力。


2月12日(木)
湿って生暖かい風は、夜の残した冷気に反応し霧となる。やがて、弛緩した晴れ間と大気。 @滝沢村


  見渡す限りの冬は、いずれ消えていく。
  
  消えて無くなる雪の膨大を思った時、
  妙な吐き気におそわれる。
  
  張り詰めたり、癒されたり、夢中になって
  この雪の中に生きている私まで、
  とけて消える季節の記憶だ。

  おそらく、夏のある日、
  陽炎立つアスファルトの上で、私は怒鳴る。
  「もういい。わかった。冬はまだか」

  出来ることなら、この新雪に血を吐いて
  真っ赤な血を吐いて、うずくまり、
  凍ってしまいたい。


2月11日(水)
光は、一層やわらぎ、黙っていれば、いつまでも立ち去らない春の使い。 @盛岡市近郊

  
  誰の言いぐさだったか忘れたけれど、
  わかる、わかるよ、よくわかる。

  「そりゃあ、もう、難儀なこった。
  ひと度、くだらねえと切り捨てたものなんざ、
  金輪際、くだらなくちゃいけねえ。
  そうでねえと、理屈が通らねえ。
  もう何が何でも、くだらなくちゃならねえ」

  なるほど、障子の隙間に
  それみたことかと嘲りたがる目がのぞく。
  
  わかる、わかるよ、よくわかる。
  思わず吹き出し、雪を蹴る。
  今朝も白いぞ、愉快なほどに。


2月10日(火)
二戸・遠野で氷点下14〜15度。この冬一番の冷え込み。けれど、陽射しを遮るものは無く、春の気配ばかりが匂う。 @盛岡市近郊



  偶然、
  破れかけた蜘蛛の巣に枯葉がひっかかって
  もうずいぶん経つのだけれど、
  僕らの友情は、
  いわば、そのような出会いであり、
  いい加減な絆だった。
  いつ切れるかわからない糸と、
  いつ風に飛ばされるか知れない枯葉と
  それはそれで、お互いわかっていることだから、
  怠惰に、気紛れに、時に疎遠で、
  あえて肩を組むことはなかった。
  でも、糸は切れず、離れる気も無く、
  嵐が来ても、しらんふりして一緒だよ。

  切れることに未練の無い糸と、
  放浪流転など恐れない枯葉と。


2月9日(月)
放射冷却で持って行かれた熱は莫大で、光の春とはいえ、脆弱な陽射しで取り返すことも出来ず、小雪が一日の幕を引く。 @盛岡市郊外


  陽はさしても、冷えた夜の痕跡は、
  4号線上に黒々と凍り付いていた。
  
  日陰に入ると、
  後輪が、ぷつんと、手応えを失う。
  日向に出ると、
  何事も無かったように風は流れる。
  
  何か起きない事の方が不思議な朝。
  偶然とか、気まぐれに過ぎない無事。
  幹線の苛立ちを離れ、林へ入れば、
  木々は、高々と空めがけ、立っていた。
  幾多の不運など語らず、頑と立っていた。

  「何があってもいい。もう、ほんとうに、いい」
  光だけ先に春を迎えて駆け出した。

  


2月8日(日)
曇りのち雪。 @沢内村銀河高原


  一日、沢内村で過ごしました。
  
  山伏トンネルを抜けると、
  道路脇の雪が一気に背丈を伸ばしました。
  
  豪雪地帯の暮らしに触れて
  帰路、言葉数が少なくなりました。
  雪が、音や声を吸い取ってしまったから、
  人の笑顔が、とても印象に残りました。

  お土産に買った黒ビールを
  炬燵で真面目に飲みました。
    

2月7日(土)
曇り時々晴れ。日中、自動車の気温計(外気温)は、氷点下1度をさしている時間が長かった。 @雫石町


  雪原でKTMのスロットルを開けても
  スポンジめいた駆動力しか生まれない。
  こんなはずではないと全開にしたまま、
  クラッチを当てると車体が飛び出した。
  天峰山を蹴り去って高々と宙に舞った。
  逆光の中に岩手山が裾野を広げている。
  玉山村、日の戸の集落が、眼下に迫る。
  着地に身構えたところで、夢は覚めた。

  氷点下の樹林帯に、黒々と舗装路が続く。
  ブロックパターンは爪を立て速度が乗る。
  一瞬、かすかに、中心線が左右にゆがむ。
  滑らかに破綻の兆。駆動感が抜けていく。
  反射的に両足が開きバランスを取り戻す。
  ほっと振り向けば滑走していく愛機の影。
  凍った路上に仰向けに転がる我が身の幻。
  辛くも掴んだ安堵の風。リアルな白日夢。
  (本日も無事帰還)

2月6日(金)
雪解けを続行する陽射し。里山の純な雪原は、あまりに眩しく、思わず立ち止まり、目を閉じる。 @玉山村日戸


  365日の気象通報となれ。

  異議をさしはさむ余地のない客観性と、
  いかなる誤解もまねかない事実の提示。
  揺り籠のように、正確に、ゆっくりと、
  あるがままを、微塵の思いも加えずに、
  雲や風や波の動きを読み上げるがいい。
  レトリックや趣味の高尚から遠く離れ
  明朝体のデータを粛々たる音色で読め。
  嘲りや中傷や、一切の邪険が舌打ちし、
  解散していく客観と事実を身に付けろ。
  仕掛けも返しもない物静かなナイフを。

  (自戒として記す)


2月5日(木)
あまりに率直な晴天。雪は紫外線を反射し、眉間の皺を深くして、せっかくの青空を仰ぐ心を押さえつけた。 @盛岡市山岸2丁目(中津川橋そば)


  おい、おまえ。そこをどいてくれよ。
  
  おい、おまえ。こわくなんかないぞ。
  おい、おまえ。礼儀だ。名を名乗れ。
  おい、おまえ。猿が気に入ったのか。
  おい、おまえ。いいやつじゃないか。
  
  おい、おまえ。ご主人様の声がする。
  おい、おまえ。怖そうなご主人だな。
  おい、おまえ。帰りたくないのだな。
  おい、おまえ。ぶたれたりするのか。
  おい、おまえ。見切りをつけたのか。
  おい、おまえ。堪忍袋はもってるか。
  おい、おまえ。いっそ、逃げちまえ。
  
  おい、おまえ。その前に記念撮影だ。
  

2月4日(水)
内陸は煮え切らない小雪。三陸沿岸は屈託のない青空。地域間格差を訴える前に、穏やかな夜が仲裁に入った。 @盛岡市郊外


  立春の日の午後。
  縦揺れ2回。
  盛岡市・大野村・玉山村で震度4。
  蜂の巣突く騒ぎの中で、
  揺れる愛機を思ってた。

  跳ねる50cc。踏ん張る1200cc。
  タンクに巻き起こるガソリンの大波小波。

  無事でいろ。待っていろ。

  2004年2月4日(水曜日)午後3時8分を、
  春の火炎に放り込み、
  そんな冬もあったと微笑もう。



2月3日(火)
3月並の気温に、昨日の湿った雪は、一斉にとけ出し、街は水浸し。夕刻の底冷えで凍結。 @盛岡市愛宕町


  冬の長い里では、
  みんな寄り添い生きている。
  支え合い、認め合い、褒め合って生きている。
  
  今朝も、黒々見出しが踊り、
  「よかった、よかった、ワンダフル」

  鍵盤と戯れられれば、今日からピアニスト。
  スクリーンを熱く語れば、立派に映画監督。
  可愛い茶碗が焼けたら、はい、陶芸家。
  
  君が願えば、不思議に叶う理想郷。
  拍手喝采、祝ってみせる。
  なにせ、冬を乗り切る戦友だから、
  死にものぐるいで手も叩く。
  「すごいぞ、すごいぞ、ワンダフル」
  「とことん、とことん、ビューティフル」

2月2日(月)
やけに静かな午前中の空に気を許し、春への道程など語り出した己のお人好し。夕刻、横殴りの雪。 @国道455号線(早坂峠)


  AM7:00、ランドクルーザーで盛岡を発つ。
  岩泉へ向かう国道455号線には、
  思いの外に車が連なり、速度が上がらない。
  ヒーターの効いた助手席で
  ナビゲーションシステムの画像をぼんやり眺める。
  山腹に刻まれていく急カーブにシンクロして、
  進行方向を示す赤い矢印が回転する。
  その動きに、リーンウイズで寄り添ってみる。
  風の印象は、克明な地図とともに辿ることで、
  なるほど、現実の出来事だったのだと確認する。

  AM8:10、早坂峠に到着。
  この風景をテーマに仕事を始める。
  4年間、岩手を離れ、インターネットのライブカメラで
  毎日見続けていたこの風景の中に私を置く。
  「帰ってきた。ここに」
  感慨が、樹林越しの朝陽に照らされていく。
  
  

2月1日(日)
憂いのない青空はよしとして、さくさくと、かけてしまう雪の柔らかさは、いよいよ春の密使の仕業かと、あたりを見回す。 @玉山村(天峰山)


  こんな時間は、久し振りのことだ。
  
  夫婦でドライブ。藪川そばで昼食。
  氷上のテントの群れに歓声を上げる。

  午後は息子と合流し、花巻へ。
  産直で手作り菓子などを買う。

  帰路、お約束のイオンに道草。

  帰宅し、雪かき。
  炬燵で娘と「ちびまる子ちゃん」。
  早池峰ワインの赤いのを飲みながら笑う。
  気分は、友蔵(ともぞう)じいさん。

  平凡を極めた一日の不思議な充実。
  そうさ。バイクも、所詮は、暮らしのひとつ。
  

  

戻 る