イワテバイクライフ 2004年3月前半
早いものですね。 3月も折り返し点にさしかかりました。 年度末、というやつでしょうか。 朝から晩まで仕事に追われています。 よって、今朝は40分ほどの散歩でした。 曇っていましたが、岩手山が立っていました。 厚化粧のまま、青白くて、幽霊みたいでした。 雪の中に飛び出した日々を思えば、 乾いた舗装路に馴染むタイヤの手応えときたら いやあ、もう極楽です。 でもねえ、なんだかなあ、寂しいのですよ。 冬の思い出まで、今朝のお山のように 幽霊みたいで。 |
こいつで走り出す日は、 もっと上出来な青空と春風が 欲しかったのですが、 どうも、うまくいきません。 道が乾いているだけでは、いけません。 冬の邪気を含んだ大気は、 冷えた欠伸や妄念を運んできます。 束の間、オートバイのことを嫌ったり、、 愛しいイワテが疎ましくなったり、 人生の歯車を逆回転させようとしたり、 ひととおりの鬱を駆け抜けた後で、 気付くのです。 名も無き農道で 無心に演奏する私に気付くのです。 道は楽譜。愛機は楽器。 生涯かけても終わらないステージ「イワテ」。 |
ひらりひらりと 舞い降りてくるじゃありませんか。 大粒の雪です。予定にはなかった雪であります。 積もる雪ではないのですが、戦意喪失。 所用で安代町へ。四輪で走ります。 昼食は、モチのロンで、田山ドライブイン。 キノコラーメン、大盛りであります。 「うめじゃ〜」、キノコの風味と食感を堪能。 親爺さまと若旦那は、お出かけとのことで、 お母さんと娘さんが、厨房を守ってました。 帰りの車中で地元局のラジオを聞く。 これが正しいイワテライフであります。 大塚さんのDJ、なんとも、なごむのです。 (は〜、岩手県人になれて良かった) |
春。・・・そのはずなんですが、 先走る気持ちに、どうも季節が 併走してくれません。 なんといいますか、判断中止、というのでしょうか。 とりあえずの晴れ間、とりあえずの陽射し。 走っていても、どこか、現実味に欠ける風。 でも、水田の雪がとけていました。 先日の大雪にもかかわらず、写真の通りです。 畦道の土が、ぬかるみまして、 季節の言葉で言うところの「春泥(しゅんでい)」 といった風情です。 これで、どかんと春本番が現れても 心身共についていけるかどうか、疑問。 ちょうど良い加減の「猶予」と受け止めました。 |
黒々と道が走る。 雨に洗われ伸びていく。 冬に疲れた 辺り一面の殺伐は、 青い合羽すら憚られ、 うつむき、そそくさ駆け抜ける。 心を向けるだけの旋回。 耳を傾けるだけの加速。 カーブの先に待つのは、 すっぴんの日常ばかり。 記録に値する朝か。 論評に値する旅か。 氷雪の消えた道程。 ただ水しぶきだけ。 |
雪が落ちる。 音を立てて 雪崩を打つ。 凍って鋭い 雪ではなく、 襲いかかる 雪ではなく、 泣き濡れて 身投げする 二人の様に 陽射しの中 こと切れる。 |
「凄い、完璧だ」 自然観察に長けた仲間が声を上げた。 岩手山麓に3時間待って、 ようやく滲み出した青空。 それは、日陰の斜面に時間を止めていた。 「雪まくり」 冬の厳しい寒さが緩み雪解けが始まる3月頃、 新雪が降り、湿度が高く、風が吹くと、 雪が斜面を転げ落ち、 表面の雪をロール状に巻きながらできる自然現象。 道の彼方に 岩手山が、みるみる稜線をあらわしていく。 いずれ、陽射しは、ここにも及び、 すべての奇跡は、リセットされる。 |
風が、市街地のサイレンを運んでくる。 赤信号に入るスピーカーが叫んでいる。 そんな朝が白い丘の向こうに遠ざかる。 耳を傾けていたカラスが枝から離れる。 さて雪どもよ。3月に降った雪どもよ。 その分厚さで街を騙すことはできても、 消えていく日のことばかり考えている お前達の魂胆など、とうにお見通しだ。 土を凍らせ屋根を押し潰す気概もない。 じっと積もっていることさえ出来ない。 行きずりの陽射しに身をまかせたがる。 冬の幕引きを引き受けた大道具たちよ。 踏み付け、蹴散らしても、もの静かに 崩れるだけの、春目前の銀世界たちよ。 やる気のない泥水が、お前達の正体か。 |
抜き身の太刀を肩に乗せ 雪野原を駆け下る。湿った雪だ。 巻き起こす風に北上高地の春が匂う。 まだ、斬られたことはない。 今日も、冬を斬るために走り出す。 雪は固く、飛ぶが如く伸びる歩幅を受け止める。 とりかえしのつかない速度の中で、太刀を構える。 みるみる数体の鎧姿が振り向き槍を向けてくる。 まだ斬られたことはない。それだけがすべてだった。 切ないほど鋭い己の気合いを聞いた。 鋼の重さを、まっすぐ振り下ろすと、 鎧の隙間に食い込み、腕がとんだ。 ほとばしる鮮血は、五月の風のように奔放だ。 返す太刀で背後を横に払った。 半狂乱の視野に、呼吸だけが孤独で、 転がる冬の首を見送っていた。 |
わたくしは、 つまり、かつて、ここに行き倒れたわたくしは、 多くの皆様に抱きかかえられ 白湯など飲ませていただき、手厚い看護を受け、 どうにか生きるメドを立たせていただいたわたくしは、 本日、どうにも、抑えきれない感情に従いまして、 もう一度、ここに、行き倒れるのであります。 あの日のように、雪は天地の境すら消して 何を聞いてもこたえない冷たさではありますが、 見渡す限り、わたくしに駆け寄る人影も無く、 ああ、これで、あの日に戻って、 存分に、のたれ死にできると、 何故、あの日、ここで立ち往生していたのか もう一度、確かめられると、 ざんざんぶりの、場所すら特定しがたい、ここに わたくしを置き去りにすること、お許し下さい。 |
しがらみ。 あるいは、会員証。 バッジのようなもの。 しがらみなく100mを9秒で走っても、 会員証付きの10秒には敵わないという仕組み。 それでうまく回る程度の社会は確かにある。 ならば、1ダースほど会員バッジを胸に並べ、 12秒台で暮らすのも、ひとつの選択。 さて、そのバッジだが、 どうやら、貸し借りの山の彼方にあるらしい。 厄介なことに、下界から見上げるその山は、 ひどく物語に溢れ、美しいという。 だから、9秒をめざす。 |
跨る愛機は3速ギアに固定して、 左右の長靴で雪をかきわければ、 弾みが付き、するする前に出る。 春めき空気圧を上げていたから、 しばしば、後輪が前に滑り出す。 不本意ながらの180度ターン。 パワースライドで再び向き直る。 冷えた天空がもたらす雪は大粒。 しかも止めどなく降る雪だから、 重みに耐えかねた枝が反発して、 瀑布となり、行く手は白く霞む。 願わくば、我が身に降りかかれ。 春の夢に溺れた私に降りかかれ。 |
春を無効にするというのなら、 なまじの光や色などいらない。 言葉を探す余地すら奪う雪が、 見渡す限りの音を消すがいい。 無力な私は、瞬きを繰り返す。 足踏みするうち、白く染まる。 ちりちり透明な針が頬に痛い。 乗り越えたはずの季節の遺言。 そんな安泰でいい気になるな。 |
話はついていないが、春だ。 だから、決着をめざすのだ。 誤解も解けないまま、春だ。 だから、絡んだ糸をたぐる。 仲直りもしないまま、春だ。 だから、潔く全てを忘れる。 釈然としないけれど、春だ。 だから、覚悟を決めるのだ。 あるのは思いだけで、春だ。 だから、恋い焦がれるのだ。 |
3月1日(月) 平年並みかと問われれば、2度ほど寒いだけかもしれないが、3月の響きに期待した御祝儀には、ほど遠い陽射し。 @玉山村 |
455号線。 カーブに飛び込んで、はっとする。 白く流れる路面は、乾いた融雪剤だった。 二本のタイヤは、ザラリと道を噛んで たかだか49ccが絞り出す「快速」。 ところが、そんな時間は、 再び身構える私は、やがて笑顔で |