TOP

イワテバイクライフ 2004年3月後半


3月31日(水)
迷い込んだ雲を、どやしつけ追い払う風は、春一番の称号も貰えず、荒れて、アパートの屋根をはがし、やがて夕暮れの雪を招く。 @玉山村


  天峰山をめざしました。
  日の戸経由のルートは今年初めてです。
  
  里の雪は、すっかりとけていました。
  岩洞第一発電所から山頂に続く斜面には、
  大山桜の苗木が植えられています。
  桜吹雪を浴びて走る日を思います。
  
  花のかわりに風が迎えてくれました。
  強い風です。
  ファインダーの中で、小さな愛機が
  いつ倒されるか、気がきではありません。
  
  でも、風のおかげで、
  空半分を覆っていた雲がみるみる払われ、
  大地一面が輝き出しました。

  
(停車場所は、道の脇)


3月30日(火)
沢内村の道端で朝陽を背にしていたら、脊椎パッド(プロテクター)がほてってきた。鎧の意味すらとかす春霞の素性は5月だった。 @沢内村


  県道1号線で沢内村へ向かう途中、
  不思議な感覚が訪れた。
  
  見慣れた道を走っているこの瞬間が、
  過去のようでもあり、未来のようでもある。
  
  ただ、明らかなことは、
  私は、見渡す限りの岩手の中で、風を浴び
  安らかに呼吸しているということだ。
  2004年だとか、3月だとか、
  思い出として綴る必要もない朝。
  明日も、あさっても、その次の日も、
  私は、この春に包まれ走っている。
  
  胸を塞いでいた鉛の海が熱くとけ出す。
  押し寄せる感慨を抱きしめ、泣いた。


3月29日(月)
宮古は7月上旬並み。コートはいらない。上着も脱ぎたい。春霞の幸せが、じわりじわり命に届く。 @盛岡市飯岡


  春になると
  冬の痛みなど知らない正論が横行する。
  その厄介を熟知しているから、
  誰も心の襞など語らない。

  微笑み、当惑し、腕組みし、首をひねって
  やりすごし、そして、茶を入れる。

  平凡の裏山に宝を隠し、けして競わない。

  踏みにじられた歳月が長く重いほど、
  人は、物音ひとつ立てず、
  木戸の隙間から笛や太鼓を見つめている。


3月28日(日)
青空と温厚な白い雲がカクテルされて、春ウララな一日。風もなく動いた分だけ汗が流れる爽快日。 @滝沢村(三上トライアルパーク)


  逆落としでブレーキを締め上げる。
  前輪0.38、後輪0.29。
  空気圧を下げても、乾ききった赤土の斜面は滑る。
  その感触は、すでに初夏だ。

  まだ三月だというのに、
  思い切りの良い陽気の振る舞いだ。
  遠慮無く汗を流す。

  ひと息つくたびに、
  気心の知れた仲間と言葉を交わす。
  入会地で挨拶を交わすキコリのように。
  至極当たり前の人と人の有り様。

  何かを背負い、何かを引きずり、
  けれど、突き抜けた笑顔を空にまっすぐ向ける。
  だから待っていられた。この日を。岩手のこの春を。
 
 
  (ライダーは、滝沢の名人の一人・シェルコ吉田さん)

  
  

3月27日(土)
澄んだ青空なのに、戯れたがる雲の群れが、いささかうるさく、日が陰り、強風と相まって、体の芯に届く寒気。 @宮城県・唐桑半島


  求めた気分は「県南の里山コースで日光浴」。
  スポーツスターも初期の慣らしは済んでいた。
  3500回転まで回してみる。
  道を走る雲の影を追って、
  やわらかな爆音をたなびかせていると、
  胸の潰れる日々の記憶が風にちぎれ飛ぶ。
  もう、いいのだ。
  (今、こうして岩手を走っているではないか)

  花巻から東和町。江刺から大東町。
  室根高原。山頂に続く道を縁取る残雪。
  気仙沼から唐桑半島。
  陸前高田に北上して昼食。
  磯ラーメン(450円)と焼きホタテ(550円)。
  大船渡、釜石。45号線の難所は相変わらずだ。
  仙人峠を越えて遠野に入り、宮守村、大迫町。
  盛岡が近付くほど、光線は衰弱し、風は冷える。
  幸福と残酷を考察し続けた380km。
  湯船の中で、まだ、海がきらめいている。


3月26日(金)
最高気温10度前後と、平年並み。などと、たかをくくることなかれ。岩手町から西根町へ丘を越えれば雪が舞った朝。 @岩手町


 吹く風は、とんちんかん。
 お説教は、ちんぷんかんぷんで

 私は、うわのそら。
 だから、笑っていられルンバ♪
 
 誠実な瞳は、何も聞いていない。

 退屈をやりすごす化粧覚えたの。
 
 海峡を泳ぎ切ったら

 月が酔い潰れていた。
 馬鹿ね♪本気にしたの♪待っていたの♪
 

 押し寄せる嘘。引いていく夢。

 だから、笑っていられルンバ♪

  


3月25日(木)
そっと、うかがう路面は濡れていたが、すでに空は刀をおさめた後で、曇天は、みるみる平凡な明るさを受け入れていった。 @滝沢村


  風に向かって
  聞こえよがしに声にしてみるほどの
  諸問題も無い身にとって、
  まことに、すがすがしい雨上がりでありました。
  
  濡れた牧草地の丘を越えていくと、
  ブーツやタイヤが、道にこぼれた泥をもらって
  つんと堆肥の匂いです。

  春の汚れを落とそうと、
  ことさらに残雪を踏み、
  雪解けの水溜まりを選んで走ります。

  けれど、見渡す限りの土の風景に誘われ、
  いてもたてず、再び泥の中に進むのです。

3月24日(水)
チェーンを張り直した。オイルを交換した。格納庫へ直行するはずの愛機だったのに、町内を一周させた春光。 @玉山村


  羽化したばかりの春は、
  湿って、脆弱で、不確かで、
  目覚めきらない陽射しすら眩しくて、
  無抵抗に車輪を受け入れる。

  むき出しの黒土に甘酸っぱい発酵が香り、
  かなたのトラクターの発動に目を凝らせば、
  霞の中に岩手山。

  ひばりは、天空にとどまり、さえずり、
  じきに力尽き、田園に舞い降り、
  再び、空に駆け上がる。
  
  すべては、春を始めるのに懸命だ。

3月23日(火)
愛想笑いの苦手な親爺のように、澄んだ青空や透明な光線など出しようもない大気なのだが、ちゃんと夜まで平穏。 @岩手山・北東麓


  貸し借り無き我ら。
  たまに向き合い、微笑む。

  この大地の法典となって、
  歳月を纏うあなたを、
  飽きることなく眺める。

  私が走れば、あなたも走る。刻々変わる。
  私が止まれば、あなたも止まる。

  止めようもないのは、
  その山肌に移ろう季節の相貌で、
  見つめる私には触れることさえ許されない。

  だから、貸し借り無き我ら。
  たまに向き合い、微笑むだけ。

  

3月22日(月)
春ですかと、木戸の外に向かって尋ねれば、返事する思いの強さも無く、立ち去る足音。・・・やはり、あなたは春だったのですね。 @盛岡市・館坂橋


  旅立つ者は、
  ことさらに息をひそめ、
  痕跡の始末に打ち込むものですが、
  一羽の白鳥が、
  舘坂橋の路上を徘徊していたと聞き、
  何故か胸が痛んだわけで、
  現場に駆け付けたのですが、
  すでに多くの白鳥は立ち去った後で、
  取り残された家族に、
  とんちんかんな返事をされることも悲しく、
  その場を離れました。

  あとで聞けば、
  警察官二人が見守る中、
  白鳥は、往来の狭間で
  途方に暮れていたというのです。

  
  (まるで5年前の私です。

3月21日(日)
めざましい朝陽と青空は、昼前に冬雲がしのびこみ、白濁し、寒々しい西日を招いた。 @東北新幹線・八戸駅前


  性癖か、あるいは習性か。
  引っ越した直後、
  それまで住んでいた街やアパートを
  見たくなって、よく旅に出たものです。

  そんなDNAが
  今日のツーリングに現れてしまいました。

  新幹線で乗り越して一泊するはめになった
  夕べの宿「ホテル・メッツ八戸」を
  見たくなったわけで・・・。

  7時間前引き払った
  部屋の窓を見上げて
  「馬鹿だなあ」と呟き、帰ってきました。


3月20日(土)
動くことも暴れることもない。無為無策な雲と風は、むしろ、おだやかな陽射しを許し、人を4月へ向かわせる。 @玉山村


  出張帰りの新幹線は、
  懇親会のほろ酔いも手伝って、熟睡できた。
  
  車内アナウンスで目を覚ますと、
  見慣れない夜景が流れている。
  すでに盛岡駅を出た後だった。
  (オ〜、マイ、ガア〜)
  
  八戸から引き返す電車は無かった。
  駅ビルのホテルに一泊した。
  
  朝、丘の上に突っ立ていたことが
  遠い遠い出来事のように思えた。
  「フール・オン・ザ・ヒル」な一日だった。

3月19日(金)
中尊寺の仏像と仏具が国宝に指定されることになった。「金色堂堂内諸像及天蓋」を照らすに十分な味わいの夕陽だった。 @玉山村


  ぬくもった山岳道路の上り坂。
  トップギアの3馬力は、失速する一方です。
  シフトダウンせず、時速25キロで進みます。
  
  ころころと柔らかい鼓動が尋ねてきます。
  (ほんとうにやりたいことは、何?)
  (どうしてもやらなくてはいけないこと?)
  言われてみれば、
  所詮、趣味の範囲を出ないものばかりで、
  挑む値打ちも無い競争と徒労が見えてきます。

  さて、今朝も走り出したのは、何の為でもない。
  1杯のミルクを飲み干すようなものです。
  (これで、いいんだね)
  
  坂を上り切ると、愛機も未来も、
  すっと、軽くなったのでした。

  


3月18日(木)
たった一日ではあるが、昨日の初夏が、この大地に残したものは、多少の疲労感と困惑。夕方、岩手山が冷えて、稜線、日本刀の如し。 



  春なのに、
  しずしずと冬の大名行列が通る。
  
  ひれ伏す私は、くすくす笑う。
  「笑ったのは誰だ」蒼白の冬が刀に手をかける。
  「めっそうもありません」と舌を出す。
  「無礼者」と、刀を抜く。
  くすくす、くすくす、くすくす、
  あたり一面、ひれ伏す大地が笑い出す。
  私は、我慢しきれず吹き出した。
  
  「おのれ」
  怒りにまかせた刀は、手当たり次第に斬りつける。

  私達は、血しぶきを浴びながら
  腹をよじって笑い転げる。

 
 (画像の色彩には、一切、加工は施しておりません・・・笑)
  

3月17日(水)
岩手の各地で20度を越えた。暑さ寒さも彼岸まで、とはいえ、三月の最高気温としては観測史上例の無い陽気。 @西根町(岩手山麓)


  やわらかく、ぬくもっていました。
  確かに、春は来たようです。

  もう、すっかり満たされて
  何事も起きそうにない道に、
  笑いが、こみ上げて来るのでした。

  冬の間、飲み込んだ言葉は、
  春の種となり、その数だけ花は咲くようです。

  こんな道が、どこまでもどこまでも続くなら
  ひきかえに、ただ黙って微笑んでいてもよい。
  そう思い始めています。

3月16日(火)
自分の思った通りに、感じたままを表現してごらんと言われて、今日の空を「春霞」と言い切る勇気は、まだ、無い。 @盛岡市大沢川原


  アテネオリンピック・女子マラソン
  日本代表に高橋尚子選手の名前は
  ありませんでした。
  今後、多様な場面で、
  この国の判例になりそうな結論でした。

  さて、今朝も気ままな散歩です。
  この街の居心地の良さといったら・・・。
  怖いほど平穏な時が流れます。
  
  「欠伸にも値しなければ、
  石を投げられることもない」
  そんな川の呟きを、
  心の判例として掬い取りました。

戻 る