イワテバイクライフ 2004年9月後半
9月29日(水)
台風21号は、思いの外の速さでイワテめざす。大気は荒れ模様の明日を暗示して寡黙だ。 @八幡平アスピーテライン
台風は、はるか九州の沖合だが、 濃密な暗雲を見上げて、 ゴアテックスのロングジャケットを着る。 すると不思議なもので、 雲の中に八幡平を捜してみたくなる。 吹き付ける霧が、胸板を白く染め、 漆黒のタンクに幾筋も雫が走る。 シールドからしたたる水滴を風とともに飲む。 人の幸せは、まことに他愛ないもので、 秋に濡れ、秋に酔い、赤く染まった心が、 にこやかに私を下山させたのでした。 |
9月28日(火)
思いのほかに青空は広がった。けれど、雲は夏もどきの濁った重さで役不足。雲間の満月で、やっと秋。 @玉山村
ねえ、 人里離れた山奥の 狸や狐の通り道に 例えばフランス料理店があって 騙されたつもりで注文すると、 五つ星の料理が出てくるような、 そんな仕事が素敵だね。 でも、 ムジナやモノノケが喜ぶ料理を、 誰が作るの? 僕らは、満天の星を数えるように、 「とらぬたぬきのかわざんよう」を けたけたと楽しんだのでした。 写真と文は何ら関係ありません。 |
9月27日(月)
一時の霧雨など、うすら寒く、曇り抜いた秋空の強情に、もはや何の期待もあるものか。 @盛岡市中ノ橋通
夜の街の朝は、そう悪くない。 議論も愚痴も、和解も決裂も 別れも再会も、謀略も男女も 店仕舞と共に、暗闇に消えた。 細い路地裏は、深く眠りこけ 次の夜を思い、夕べを捨てる。 横切る猫さえ、目を合わせず、 尾行を警戒し、塒に潜り込む。 色褪せるまで、よどみぬるみ、 横たわっていられる朝を探す。 写真と文は、何ら関係ありません |
9月26日(日)
朝、やる気の無い晴れ間が、さっさと仕事をこなしていった気もする。午後を支配した一本気な曇天の方が、まし。 @早坂高原
オートバイに心が向かず イワテから心が離れたら さて、どうしよう。 (そんな日もあるさ)と笑い飛ばしてみても、 押し黙る私の影が、ひたひたとついてくる。 風に、かすかな冬が匂う。 |
9月25日(土)
濡れた朝は、どこまでも雲を押し広げ頑固だったが、大気は急転。どこか夏めいた青空の急襲。 @岩手山麓
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それは違うと円卓に大声が飛び交う。 議論の最終局面で、人が入れ変わる。 だから、話は、また振り出しに戻る。 幾度と無く同じ光景を見た気がする。 結論は、円卓の回りを先送りされる。 何を先送りしているのか忘れるまで みんな、話し合っては、先送りする。 もしかしたら、と記憶を辿っていく。 話し合われているのは私の行く末か。 先送りされていくのは私の行く末か。 おかげで今朝も楽園を堂々巡りする。 |
9月24日(金)
ゆっくり、秋の皮膜が、白く空を覆っていった。山の稜線は、頂から、ゆっくり中腹にかけて雲の中に消えた。 @盛岡市郊外
夜明けの風に匂うのは、 泣きはらした女の化粧。 地平から射す光、鋭く、 夜の言い分を黙らせる。 寡黙な道程のその先に、 山は一人、陽に染まる。 形を待つ陶土となって、 山は寝息を立てている。 |
愛機:ホンダ:モンキー
9月23日(木)
数日分の隠鬱を晴らすような青空と秋雲。まばゆい陽射しは勢い余って盛岡を夏日にした。 @岩手山麓
王子さまが、きのこ採りに来た。 きのこが小さくて、家来が3人殺された。 王女さまが、きのこ採りに来た。 毒キノコがあって、家来が9人殺された。 森は、累々たる屍で肥え、 見事なきのこをもたらした。 村人は、こっそり、ごっそり、きのこを採り、 金に換え、大砲を買った。 明日、王様がきのこ採りに来る。 森を知る家来がいなくなったから、 村人に案内しろと言う。 大砲が城に向けられ、夜が明けた。 |
9月22日(水)
冷えた雨は、ごく微量だっが、陰気な空のせいか、終日泣き濡れていたような気がする。 @滝沢村
今朝も、写っているのは、 立ち止まったままの私だ。 あたかも、時や季節を、やり過ごし見送り、 多くの友人に手を振り、留まる者のように。 何もかも 過ぎ去って、終わり、 ここに一人ぽつんと 雲の止まった風景に耳を澄ませば、 螺旋階段を巡って聖歌がわきたつ。 未来でも過去でもない私に 惨憺たるあの日の私が、追いつき、尋ねる。 (ここは楽園ですか) (ああ、悪くない場所だ。 でも、お前は、私を追い越して進むがいい) 私は私と草原に腰をおろし、 声をあげて泣き、別れを惜しんだのでした。 |
9月21日(火)
通勤通学の時間帯を狙って、雨脚強まる。その後も断続的に小雨は降り続き、展望も開けないまま夜へ。 @盛岡市(一ノ倉邸)
勤務予定表を前に僕らは立ち話。 「こんなこと申し上げるのもなんですが」と 君は微笑んだ。 (なんだい。なんなりと。) 「このところ、お元気ですよね。」 (わかるかい?) 「それはもう、凄く。」 (去年の秋より数段いいだろ?) 「ほとに、突き抜けたように。」 理由を知りたがる君の視線に 誠心誠意こたえる。 (実はね、今ね、俺ね、 叫びたいほど上機嫌だから、 今度の土曜・日曜が仕事で潰れても、 平気だよ。) |
9月20(月)
てんで期待できない曇天。予想通り小雨断続。夕闇の雨、ざざっと街を洗って行った。 @御所湖畔
モンキーは、7300km走っていた。 フロントタイヤのブロックは、 すっかり削られ、まるくなっていた。 (もういいだろう) タイヤと一緒にチェーンも交換。 スイッチを切っても エンジンが回り続ける症状は、 どうやら、水の侵入による 配線の腐食とわかり、修理。 雨雪に頓着せず走った代償か。 姿を取り戻した愛機は、 滑らかに節度ある手応えで散歩したがる。 さて、人も、摩耗、劣化するのか。 大きな困難を乗り越えた心は、強度を増す。 大きな悲しみに耐えた心は、深さを増す。 旅路を重ねるほどに輝いていく。 夕暮れの雨に濡れて、そう信じてみた。 |
9月19日(日)
深夜、車の中で寝袋にくるまっていたら、雨の音で目を覚ます。少し蒸し暑い。終日断続的な雨。 @青森県新郷村
山は、たらふくの雨を吸い、吐き出す。 濡れた黒土がタイヤにこねられ ぬめりがブレンドされる。 少しでもラインを外すと 足下を掬われ、泥の中に叩きつけられる。 東北屈指の達人が進めない、上れない。 まして未熟な私は、泥沼にはまり、 濡れた倒木に跳ね返され、 沢登りに指がつり、消耗し、 幾度となく立ち往生し、 夢遊病者のごとく完走した。 それにしても、後から走る者は、 阿鼻叫喚のトライをセンチ単位で観察する。 タイヤを押し流した土や地形を あたかも、地質学者のように分析する。 互いにデータを蓄積し、 減点ゼロ(クリーン)を手繰り寄せる。 |
9月18日(土)
カーエアコンをつけっ放しにした一日。湿度を含んだなま暖かさ。宵のうち小雨。ターフの下で前夜祭。 @青森県新郷村
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オートバイトライアルの 大会会場に到着した時には、 すっかり日が傾いていた。 少しセクションの様子を見ようと森に入った。 湿った黒土の匂いがする。 張り巡らされたコーステープの白さが、 すでに明日の闘いを始めている。 枠を作るだけで 行動は極端に規制され、窮屈になる。 正しいラインを見抜き、 精密な技術と闊達な挑戦がバランスした時、 大きな解放感が訪れる。そんなスポーツだ。 天気は下り坂。 濡れた黒土の手強さを思う。 |
愛機:モンテッサ・コタ315R
9月17日(金)
午前中、ザッと強い雨。秋の空はみるみる移ろい、午後2時には青空。夕暮れは、すがすがしく。 @盛岡市内丸
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歴史流れる街に暮らし、 祭りに心をときめかせ、 鮭の遡上に目を輝かせ 嬉しい心を転がすのです。 (何故それほど嬉しい?)と問われれば、 「昔々そのまた昔、蝦夷地より信濃への帰途、 この地に行き倒れ、助けられ、所帯を持ち、 身を粉にして働き、戦い、奉仕し、 ようやくのこと、 南部の者になることができた男が やがて老境に至り、 この鐘楼の音を聞きながら (嗚呼)と、深い感慨を受け止め、 夕陽に染まったのですが それを最後に眠りについたのでございます。」 あの眼差しの先にあったものは、 今朝の風景だったと思えてならないのです。 |
9月16日(木)
雲ひとつ無いつまならさといったら、悪友が年老いて善良に微笑むばかりのように、つまらない。 @岩洞湖畔
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