イワテバイクライフ 2004年12月前半
12月15日(水)
三陸・宮古で初雪。昭和14年に統計をとり始めて最も遅い記録。平年に比べて29日遅いのも、もはや納得。 @玉山村(天峰山)
その丘へ立つのは、 さほど難しいことではない。 北国の師走だから、道は白く染まり、 朝陽にとけだすアイスバーンが待っているが、 愛している場所と風景であれば、 まず辿り着ける。 前後に足を出し浮かせて、 地雷原を行くように優しく走れば、辿り着く。 そんなことより、 冷えた朝靄に包まれ、 生涯の大地を眼下に見渡し、深く呼吸し、 押し寄せてくる歓喜や明日に潜む落胆を、 すべて受け止め、よしとして、 束の間、声を上げて泣き、 毅然と今日という一日に向き合う為に、 怖れず、淀みなく、美しく 山を下ることができるか、それが問題だ。 |
12月14日(火)
最高気温は、ほぼ平年並みかやや高めだが、それ以上に穏やかな空と光と街の平和な光景こそ全て。 @盛岡市近郊
自尊の台座に砲を据え 自ら動くこともなく 太古の祝詞を撃ち放し、 それでことたりる朝もあるとは。 嗚呼、哀れ絵に描き棒を突き通したる様かな。 ならば、我は、 良き光の方角を見据え、 天も地も、あるいは鉄とメッキの塊までも、 美しく輝く瞬間を探し、 あまねく命の言葉を受け止めん。 |
12月13日(月)
概ね晴天。氷点下の朝を迎えた地域もごく僅か、日中も8度から12度のゾーンにおさまった地域がほとんど。 @岩手山麓
いったい どれほどの大地を駆け抜け 照らしてきたか知れぬ光よ、 空高く吹き上げる風に乗り 雲もろとも彼方へ奔る光よ、 せっかくだが、 お前に貰った私の朝の影を 冷えて濡れたこの丘に残し、 まずは即刻、撤退するのだ。 キャタピラの音が鳴り響き 地鳴りが辺り一面揺さぶり、 黒い砲身が迫り上がる前に、 希なチャンスをじっと窺う レジスタンスの様に機敏に、 私は、この丘を離れるのだ。 |
12月12日(日)
やわらかい陽射しの中を、これでよいのかと考えながら職場へ急ぐ背中に汗。薄気味の悪い師走中旬。 @盛岡市近郊
静かに。聞こえなかったか。 あれは、確かにピストルだ。 硝煙が、日曜日の空に散り、 乾いた空気の皮膜が破れて、 その音が、丘を越えてきた。 無造作に出した答えなのか、 迷いに迷った挙げ句の事か、 引き金の距離に理由を込め、 初めと終わりを決めた音だ。 冬鳥の囀りがおずおず戻る。 遠くにサイレンの音がする。 雲がわき出る丘の向こうで、 とめどなく血が溢れている。 |
12月11日(土)
寒波は北海道止まりで、そこそこ陽射しのぬくもりは伝わった。が、日が陰るほどに冷え冷え。 @滝沢村
山は、すっかり冬枯れていた。 陽射しと戯れる木々の葉も、 寝ころばせてくれる草地も消えて、 時折の強風に、轟々とどよめくばかりだ。 所々に用意された トライアルの障害物は、 あたかも、野ざらしの骨となって 夕闇に浮き立つ。 やがて氷雪の季節に飲まれていく 僕らの山よ、 光の中に飛び交った 歓声と笑顔の記憶を抱きしめ 眠るがいい。 |
12月10日(金)
この20年間で、盛岡の初積雪で最も遅い記録は12月21日。今年は、第2位の記録を更新中。 @盛岡市近郊
あなたは、 来る日も来る日も箴言など掌に転がし 人間や世界を見通している風情で 辛気くさいけれど、 まんざら悪い人じゃない。 居酒屋のカウンターで声を上げて笑うだろうし、 部屋の片隅で小声でぼやくだろうし、 面倒な伝票の処理に忌々しく向き合ったり、 天井に向かって口を開け居眠りしたり、 風呂場で機嫌良く歌ったり、 布団の中で屁をしたり、 まんじりともせず夜を明かしたりするのだろう。 (友達になれそうな気がする) |
12月9日(木)
雲ひとつ無い冬晴れ。陽射しも申し分無かった。各地の最高気温が10度を越えて、やはり、どうかしている。 @岩手山麓
こんな朝を願って 何年、言葉をのんだ? 何年、自分を騙した? こんな朝を守って、 幾度、曖昧に笑った? 幾度、尻尾をふった? もしかすると私が愛したのは、 こんな朝のたった一人の私で、 他の事など、 もう、てんで、どうでもよくて、 今朝の蒼さのような「うわのそら」の中に 生きてこなかったか? |
12月8日(水)
冷えた風、灰色の空の重さ、それはそれで冬の歩みではある。が、温度計が捉える「冬」は、依然「晩秋」。 @玉山村
どこかで誰かが、 こうして走っている間に、 最期を迎えている。 冷えた風だ。 虚ろな私だ。 薄暗い朝だ。 一生の間に酔った時間の総量とか、 一生に占める判断停止の時間だとか、 ぼんやり思って、山に上ったら、 忘れていた光景が待っていた。 (お前は、生きて、この冬を越せ) どこかで、誰かが生まれてくる。 こうして走っている間に、誰かが。 |
12月7日(火)
盛岡あたりでは、街の雨、山の雪。大雪(たいせつ)というには、あまりに貧弱な降雪。 @盛岡市内(中津川沿い)
特別なこともない岩手の朝に のんびり向き合うことの幸福。 通りがかった中津川の細道に 私とは無関係に流れる冬の水。 遠くから届く国道の音に揺れ、 鴨が数羽、川面に流れていく。 気紛れに私をここに停めた私。 安心しきって風景に寄り添い、 しみじみと呼吸など繰り返す。 ああ、こんなに安らかな朝を、 10年前の私に告げてみたい。 (大丈夫、君の確信の通りだ) そして、事実は、確信を遙かに越えていく。 |
12月6日(月)
師走らしからぬ陽射しが・・・いや、もう止めよう。五葉山で初冠雪。平年より29日も遅く。それで充分。 @岩手山麓
長い長い時を経て。 神は、私を、イワテへ導いた。 慰めもせず、戒めもせず、予告もせず、 ただ、静謐な歳月をお与えになった。 ただ、鮮烈な道程をお与えになった。 気が付くと、私は、この大地に辿り着いていた。 そして、あたかも、 生まれる前から定められたことのように 来る日も来る日も、 イーハトーブの風になるのです。 (これで、よかったのですね) 光の中に返事は無い。 一切の懐疑を捨てて、 愛しむことで進むことができる。 そう教えられて、明日もまた走るのです。 |
12月5日(日)
台風崩れの低気圧などの接近で、一時、風雨が強まる。直に濡れて走ってみれば、そこそこの寒気。 @雫石町
正面から打ち付ける雨は 安物の合羽の胸板を貫く勢いで、 しかも、 路肩に続く深い水溜りで飛沫を上げるうち、 エンジンは息をつき出す始末だ。 防寒手袋ではシャッターが切れないから、 薄手の防水グローブを選んだが、 瞬く間に冷えた雨を吸って 手首まで痺れる。 そうしている事で、 いくつか嫌なことを忘れた。 そうしている事で、 精彩を欠く師走の休日すら 至極好ましい一日にできた。 まして、こんな柔らかく乾いた雨宿りなど、 忘れられない午後になった。 |
12月4日(土)
南の海に温帯低気圧へと格下げされる台風の断末魔か、薄気味悪い温暖傾向、更に強まる気配。大荒れとともに。 @岩手山麓
こんな寂しい道で、 五十歩百歩の人生論を聞く。 こんな奔放な天空の下で、 田舎じみた(したり顔)の論調に頷く。 「ほお、それは鋭い」 「おや、それは大変」 「いや、大したもの」 欠伸して、暢気に相づち打ちながら、 空高く見渡し、すっぱり遮るのです。 「待て。静かに。光が来る」 |
12月3日(金)
高気圧に覆われ、11月上旬から中旬並の穏やかさ。真冬への入射角は、すでに公式を逸脱。 @岩手山麓
撃つな。 誰が黒幕でも、いいじゃないか。 所詮、闇に消される。 撃つな。 誰が帝王でも、いいじゃないか。 所詮、押し流される。 哀れなほどに粗末な工作や独裁では、 この山の姿は変えられないのだから。 じっと見ていれば、いいじゃないか。 大口径の狙撃銃のスコープで眺めていれば、 いいじゃないか。 |
12月2日(木)
吹く風は頬に凍み、陽射しの明るさは、体の芯から遠く、なるほど、これを冬晴れと言うのか。 @小岩井農場
この北国の厳冬を いったい何十回越してきたのか知らないが、 あなたは、疲れもせず、諦めもせず、 いたずらっぽく笑うのです。 ダイヤモンドダストが縫い針のように 目に痛い朝、 あなたは、ウインクすると 扉を開けるのです。 すっかり歳月の色に染まった箱から、 バニーガールが新雪の原に飛び出すのです。 何百台のハーレーが轟音を立て続くのです。 何千という旗本退屈男が花道を行進します。 正装した何万という私が高らかに歌います。 夢のような色彩と光の乱舞に 私は、幸福の幻覚を追う廃人となるのです。 |
12月1日(水)
最高気温も10度を越えて、北国師走のスタートは怖いほど穏やか。案の定、南の海には台風などあって波乱含み。 @玉山村
実る度、 強欲な輩が持っていく。 情け容赦も無く持っていく。 破廉恥にも根こそぎ持っていく。 だから、 種をまくのは夜明け前。 収穫するのは闇の中。 それすら囮(おとり)の偽物で、 ほんとの畑のことは、 カラスに飲ませて葬った。 (さあ、持っていけ、好きなだけ) 日溜りに、まがい物を並べて春を待つ。 あたかも詐欺師となって春を待つ。 |