イワテバイクライフ 2004年12月後半
2004年12月31日(金)
浮かない曇り空は、大晦日の賑わいを横目に手持ちぶさたで、結局、午後を白く染め上げた。 @盛岡市近郊
何か越えたのか。 何か迎えたのか。 何か変えたのか。 越えるべきものを思ったか。 迎えるべきものを思ったか。 変えるべきものを思ったか。 天空に届かんばかりの山岳を、 震えが止らないほどの幸福を、 刺し違えても構わない悪魔を、 思ってみたことはないか。 すべては、心の中のできごと。 流れ去る時も、彼方から訪れる時も、 すべては、心の中のできごと。 |
12月30日(木)
北国の白い夜の記憶など、みるみる、とけて消えていく。四輪駆動が踏みつけていく年の瀬。 @盛岡市(大沢川原)
雪が、 陽射しにとけて 前輪を右に傾けた。 光が、 しばらく、 そうしていろよ、と 頬をはさみ、横を向かせた。 風や雨や雪に 前輪を真っ直ぐ向けてきた私は、 改めて、横を向いた愛機を眺める。 いっとき停まり、 佇み方はどうであれ、心を立て、 進むべき道筋を腹に落とす間合いがあれば、 人は救われる。 |
12月29日(水)
昼前からの小雪に、街はみるみる白く染まり、冷えた午後は、容赦なく凍結を促した。 @盛岡市近郊
ちりちり、ちりちり、と 冷えた小雪が刺してくる。 こんな午後に、 こんな道に立ち止まる私。 こんな午後に、 そんな道で血みどろのあなた。 こんな僕らのことなど 思い出してくれる人々も、 やがて、いなくなり、 残された画像の意味や、 責任をめぐる文書の解読を試みる人など、 あるはずもなく、 せめて、消え去る寸前の2004年という ある年の瀬の風景に いつまでも口吻(くちづけ)するばかりです。 |
12月28日(火)
1年を振り返る前に、インド洋沿岸の大津波や新潟県中越の震度5弱など、動いている2004年。 @盛岡市(中津川)
ようやくのこと、 今朝の居場所にもぐりこみ、 光など確保して、 ほっと、空を見上げれば、 音もなく雲は流れ、影が街に移ろう。 権威をめぐる、さんざんの斬り合いや 哀れを極めた保身の断末魔など 早晩、時の川に流され、 ごみ同然に始末されるのだから、 もはや異議を申し立てもせず、 案の定の結末を見届けるとしよう。 ああ、それにくらべ、どうだ、 この朝の安息は。 行き倒れの犬の骨までも、 雪を纏い凍り付いて美しい。 |
12月27日(月)
なまじ街の頭上に青空がのぞき陽が射したりするから、周囲の山を隠す雪雲がひねくれるのだ。 @南部片富士湖
黒い要塞は崩れ、暗闘の夜も明けていく。 何事も無かったように振る舞う陽射しは、 詰め寄ろうが、胸ぐらを掴み上げようが 真相のかけらも出してこない官吏に似て、 馬鹿馬鹿しいほど沈着冷静で生真面目だ。 幾多の残酷の跡を照らし出してみせても、 その意味すら問う気力も無い陽射しなど、 光の世界を追放されるべき怠慢の提灯だ。 雪明かりの中に果てる覚悟の暗さの方が、 よほど清明な光となって行く手を照らす。 発狂の熱情を冬の水深く沈める者たちよ。 怒りに変形したまま湖底に立つ屍どもよ。 けして目をそらさず黒い時代を記憶せよ。 |
12月26日(日)
穏やかな年の瀬。あたりの雪はとけるばかりで、乾いたアスファルト道路に砂埃。 @矢巾町(南昌山)
南へ向かうのは、久し振りのことで、 開けた田園地帯に、 雪と黒土の迷彩色が走る。 歴史的建造物の徳田倉庫を探し、 田舎町の日溜まりを右往左往する。 矢幅駅の西側に見つけた倉庫は、 周囲をシートに囲まれ、 いつでも解体作業ができる状態だった。 昭和9年に建設された倉庫には、 時代の魂が宿り、往時の香りが匂い立つ。 多くの人々の心を掴み、 取り壊しに「待った」がかけられている。 その志と思いは尊い。 けれど、倉庫の何よりの味方は、 背後にそびえ、人々の生業を見守ってきた 故郷の山(南昌山)であるに違いない。 |
12月25日(土)
切れ切れの冬雲。印象希薄な青空。兄弟喧嘩をおろおろ見守る母親のような陽射し。 @雫石町
矢巾町の徳田倉庫を見ておこうと、 走り出すと、西にかすかな青空の気配。 ああ、いけない、いけないと思いながら、 方針転換。結局、雫石町へ。 でも、そこだけ、奇跡のような冬晴れでした。 あまりに優しい陽射しなので、 雪原に腹這いました。 飛行機の音やカラスの鳴き声が、 遠い彼方から聞こえてきます。 もう、そのまま眠ってしまいたいほどで、 目を閉じてみました。 思いもかけない涙が溢れてきて、 慌てて、立ち上がりました。 午後は、車のタイヤをスタッドレスに交換し、 夫婦で師走の渋滞のドライブを楽しみました。 |
12月24日(金)
昨日の雪を、何としてもクリスマスイブに残そうという寒気が、街の白銀を凍らせた。 @盛岡市青山
どんな男だったか、 どんな物語だったか、 どんな道程だったか、 そんな一切のことを語る必要もなくなる いつの日か、 誰かの役に立って、黙々と 汗をかき、身を削り、微笑んでいたい。 陽射しにとける雪と日陰に凍る雪を、 かたわらに見つめ、 (暑かろう、寒かろう)と、いたわり、 もの静かな午睡を楽しみに、 しばし朝の活気に寄り添い、 生真面目な顔をするものでありたい。 |
12月23日(木)
束の間の雪化粧も、陽射しにとけて流れ、夕刻からの冷え込みに氷の皮膜へ。 @盛岡市(高松の池)
まだ、庭陰に潜んでいるのですか。 もう、いい加減に出てきませんか。 長い間、本当に大変なことでした。 ご覧なさい。 焚き火にくべられた悪魔が、 まだ、こっちを睨んでいる。 黒こげになって凄んでいる。 悪臭を放ちながら威嚇する。 真に汚れたものは、なるほど、執拗です。 こんなものの為に尽くしてきたのですか。 それは、あなたの本意だったのですか。 この澄んだ冬の朝のことを 最期の調査報告として、 故郷に帰ったらどうですか。 |
12月22日(水)
この冬初の真冬日は、脆弱な銀世界で始まり、とけかかった夕刻、更に白く塗り固められた。 @盛岡市(高松の池)
野営地に焚き火が燃えさかる。 誰もが目を輝かせて語り出す。 ねえ、もしもだよ、もしも、 道を塞いだ氷河が消えたら、どうする? 「止められていた水が出るぞ」 「久しぶりに故郷へ戻れるぞ」 「遠くの国から商隊が来るぞ」 「戦友の傷を癒してやれるぞ」 いやいや、それだけではない。 「好きな本を読もう」「美しい花を植えよう」 「大きな声で歌おう」「未来を語り合おう」 「壊れた橋を直そう」「新しい道をつくろう」 ああ、思っただけで、叫び出したいほどだよ。 |
12月21日(火)
雪雲に包囲された青空を「穏やかな冬至」などと言っているうちに夜更けの降雪。 @盛岡市(北上川河畔)
ねえ、 今が一番幸せなのかもしれないね。 ほら、 どんどん流され、失い、老いていく。 僕が、僕でなくなったら、 きっと、犬も素通りするだろう。 そんなこんなを受け止めて、 静かに微笑んでいられればいいね。 黒い河にはまって抜けられず、 あたりを睥睨(へいげい)する老醜より、 冬の日溜まりに 機嫌良く永眠できる僕でありたいから、 ねえ君、その朝 ちゃんちゃんこを着せてくれないか。 |
12月20日(月)
終日の雨は、そこそこ師走めいて冷えているのだが、白銀の気配からほど遠い大気のゆるみ。 @盛岡市(上ノ橋町)
いつも吠えていると、 引き下がることができない。 いつも睨み付けていると、 歩み寄ることもできない。 いつも斬り付けていると、 打たれる覚悟もできない。 いつも心地よくされていると、 鏡すら見なくなる。 それが全部、人相と言葉に現れる。 (本文と写真は何ら関係ありません) |
12月19日(日)
夕べは黒く凍った橋やカーブでスリップ事故多発の模様。朝からの陽射しが冬をとかした。 @滝沢村
光と影に切り分けられた世界ならば、 迷わず影を選ぶ。 山かげ一面の雪の吹き溜まりは、 ついに陽射しのぬくもりを知らず、 冬の白さで塗り固められ、 ささいな寒波や、 思い出にもならない小雪を 律儀に預かり、斜面に遊ばせる。 気分にまかせて明暗を踊らせ、 いずれ西の山並みに消えていく太陽など あてにせず、黙々と、 蒼白の空気を研ぎ澄まし、頑なだ。 樹木や人間に澄み切った居場所を与える 冷えた影の、何という潔さだ。 雪の下に隠れた凍樹の枝に 前輪を払われながら、 僕は、子犬のように汗をかいた。 |
12月18日(土)
雫になるために舞い降りてくる小雪。盛岡では観測史上2番目に遅い初積雪。 @盛岡市(中津川河畔)
辿り着いた場所は、 小雪舞う北国でした。 追い求めた夢の在処が、 つまり、この国でした。 その名前が 「イーハトーブ」だと聞かされたのは、 ずいぶん走った後のことでした。 この大地の、この街の、この冬の朝、 誰に咎められることもなく 暮らしていられることなど、 恋い焦がれてきた瞬間なのですが、 思いを果たした後に取り残された私は、 雪に濡れていく命の行方を ぼんやり思うばかりです。 |
12月17日(金)
朝方小雪が舞う。風が師走の本気を少し伝えて来た。大船渡市は観測史上最も遅い初雪。 @雫石川(滝太橋西側)
行く手から小雪が 私めがけて飛んでくる。 シールドの内側で瞬きを繰り返し、 黒く凍る寸前の道に身構えるうち、 昨日までの道程を忘れていく。 東の空に朝陽は、 冬の雲を白銀に縁取り眩しい。 河は、蒼い朝を映して流れ、 私の影を遙か下流へ運び去る。 流れる雲の下で、私も移ろう。 そこに停まっていた私が 風になったとたん、 もう、さっきの私じゃない。 そのように、何もかも変わっていく。 |
12月16日(木)
鉛色の空や時折の小雨も、平年という基準から見れば、晩秋並みのようで、夕刻、陽射しまでここぼれ。 @玉山村(天峰山)
昨日の雪は、すっかりとけていた。 けだるく波打つ丘は、 湿って、くすんで、 泣きはらした女のように重い。 ふらりと戻ってきた私に、 狼狽し、霧を払い、陽射しを出した。 (どんな夜だった)と問うこともせず、 私は、飽きることもなく、 灰色の大気を見渡すばかりだ。 思い描く自由。現実とする自由。 その単純極まる行為の反復が 心の弾み車となって、今朝も私は風の中だ。 |