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イワテバイクライフ 2005年2月前半


2月15日(火)
午前中、湿った雪が舞ったけれど、夕方には穏やかな陽射しが戻り、寒さも一段落。 @盛岡駅東側

  安住の地を持つことは、
  けして困難なことではない。
  
  血族の塔を打ち立て、
  地縁の王国を築くことにくらべれば
  ごく容易いことかもしれない。

  ただ、心の住処は、
  王国を見下ろす丘に建ててはならない。
  


2月14日(月)
青空も陽射しもある。けれど主役は雪雲で、周囲の山並みは白く霞むばかり。 @姫神山遠望

  静かだな。

  休刊日だったから、
  土地の一面を眺める「ほのぼの」を失ったが、
  見渡す限りの善良で純朴な朝に変わりはない。

  誇り高き火縄銃をかつぐ神々の姿はなく、
  錆びた正統をことさら強弁する姿もなく、
  薄暗きものを指し嘲笑う薄暗き姿もない。

  すべてが、冷えて澄んでいる。


2月13日(日)
午前中の青空は、慌ただしく冬雲に押し流され、雲間に漏れる陽射しの衰弱が、いかにも北国。 @玉山村(天峰山)

  雲が早い。
  山ひとつ越える頃には
  さっきの青空が消えていた。

  天峰山への途中、
  雪の山中に消防車と警察車両。
  乗用車が黒こげになっていた。
  電気系統のトラブルらしい。

  風に2サイクルオイルの匂いが混じる。
  スノーモビル2台が丘を越えていく。
  藪川から走って来たらしい。

  丘のてっぺんの行き止まりに
  トランスポーター2台。KTMを積載している。
  膝ほどの積雪を切り分け
  アタックツーリングに飛び出した後だった。
  


2月12日(土)
山岳に雪雲わき立ち、切れ切れに青空を駆け抜け、やがて、彼方の山々を霞ませる。 @北上高地

  国道を離れて山に入った。
  古い轍を新雪が覆い、
  ひどくフロントが揺さぶられる。
  袖と襟を捕まれた小兵のように
  反応し、バランスを取り返す。
  山腹に吹き上がる雪の通り道は、
  まったくの吹き溜まりになっているから、
  全開のスロットルをそのままに
  両足で雪を蹴立て車体を立て、
  それこそ一気に駆け抜ける。

  展望を得た時には、
  したたか汗に濡れていた。
  さすがに誰も上がってこない。
  気の済むまでシャッターを切って息を整え、
  地吹雪の山頂へ向かった。
  


2月11日(金)
盛岡では、真冬日ながら、青空や陽射しは健闘。夕刻に至り冷え込み、全域に低温注意報。 @盛岡城址

  初めてこの街をたずねる旅人でいられたら
  よかったのにね。
  人の優しさに酔い季節を愛でていられたら
  よかったのにね。
  街を離れる日を指折り数えるうわのそらで、
  ただ思い出作りに熱中する者でいられたら
  よかったのにね。

  路地裏の暗闇も、昔日の面影ですんだのに。
  迷宮の仕組みも、村の不思議ですんだのに。
  反目する神々も、辺境の地蔵ですんだのに。


2月10日(木)
雪雲と青空が隣り合う一日。ただ、時折の雪の湿り気に、真冬日の気配無し。 @岩手高原スノーパーク

  この寒冷地で
  私が衰弱するとでも思ったか。

  この寂寥感に
  私が絶望するとでも思ったか。

  この地吹雪に
  私が火を消すとでも思ったか。

  白銀の風など
  ありえぬ妄想とでも思ったか。
  
  さらば誤算だらけのライオン。
  とどめさす春は、すぐそこだ。


2月9日(水)
かろうじて真冬日を免れたが、終日の小雪断続。ただ、日の長さだけが春の気配。 @盛岡市

  船底の闇に
  轟々と溢れる海の音を聞きながら
  削り出した木舟は、
  過去を積むほど大きくはないが、
  明日を乗せるには充分だから、
  さあ、安心してお眠り。
  沈む夕陽にまどろみ、
  闇を埋めていく終末の音を子守歌に
  もう、おやすみ。


2月8日(火)
盛岡で最高気温3度は、まずまず平年。薄雲と淡い光線と寡黙な北国の人々こそ、春に焦がれる風景。 @盛岡市(中津川河畔)

  ほら小鳥
  日溜まり
  雪溜まり
  枝揺らし
  光と影を
  行き交う。
  
  ねえ小鳥 
  嘘の実や
  夢の香り
  ついばみ
  吐き捨て
  空に帰る。


2月7日(月)
盛岡で最高気温4度など3月上旬並みの陽気は、所詮、大気の気まぐれに他ならない幻。 @岩手山麓

  おそるおそる
  ブレーキレバーを握り込むと、
  太陽の熱をはらんだ路面が、
  ぎゅっと握り返してくる。

  まだ2月だ。半信半疑の春だ。
  乾き切ったアスファルト道路を離れ、
  馴染んだ畦道に甘える。

  ひと晩凍った雪の原は、
  春そのものの光線を吸って、
  さらさらと、とらえどころがない。
  あたかも砂丘に難破した舟となって、
  山麓から届く砲撃の波動に身をまかせる。

  いずれ消えゆくものに埋もれ、
  いずれ消えゆく私を確かめる。


2月6日(日)
まぶしい青空は、やがて切れ切れに孤立し、灰色の冬雲に包囲されていった。 @玉山村(岩洞湖)


  形になる意志もなく
  大気に染まりきれない絵の具となって、
  冬の雲は風に運ばれていく。
  その狭間に岩手山は
  時折の陽射しを反射する。
  天峰山からの眺めを胸にしまい、
  岩洞湖まで走る。
  
  外山ダムから、圧雪路が固さを増す。
  
  心の軸を垂直に立て、一切の想念を捨てて
  行く手に集中していると、
  長い長い旅に臨んだ日々の体温が蘇る。

岩洞湖漁協の監視員の方の了解をいただき、駐車場近辺で撮影させていただきました。
氷上は一切走行しておりません。現場は、エンジン停止の上、押し歩きです。


2月5日(土)
天気は、まずまず。青空大さじ3杯、冬雲1杯。陽射し小さじ2杯。寒さ、パラパラ程度。 @玉山村


  急勾配も佳境に至り、
  さすがのスパイクタイヤも
  黙ってしまう。
  
  愛機をおりて押し上げる。
  新雪の下の氷を踏んで
  ブーツが掬われる。
  膝を突き、なお、ハンドルを支え、
  息を弾ませ、丘の上を睨む。

  ピラミッドの頂に石を運ぶ
  たった一人の奴隷のように、
  振り返らず、粛々と進む事実だけを
  積み上げていく。


2月4日(金)
昨日まいた節分の豆が部屋の片隅に転がる立春は、朝こそ寒さゆるむも、日中は明るいだけの例の冬。 @盛岡市近郊
  
  ひとつの玉が、黒くあってほしいと願えば、
  白い玉も黒く見えるから不思議だね。
  その逆も、また、あるから面白い。

  黒いものは、わかりやすい。
  今日もこうして僕が
  白く染まっていることに苛立つんだね。

  で、僕はというと、
  明日の白さを思って
  風の中に溢れる痛快な笑顔を
  抑えることができないよ。

  雪と雲との境界線も無い世界のように
  純白の球体となって
  刻々変化する影を持ち、
  見る者の角度を問うものになれればいいな。


2月3日(木)
立春とはいえ、多くの時間帯が凍っていたが、午後の空明るく、夕闇に星の瞬き。 @盛岡市・国道4号線沿い(盛岡食道)

  夕べも、そうだった。
  夜更けの家路は、
  乾いた小雪に覆われ、
  踏みしめれば無垢な音がたつ。
  人通りの無い銀世界は
  格別に澄んで冷えていた。
  オレンジ色の街灯の中に
  足を止め、影を置き、
  私の歳月を眺めていると、
  頭上を白鳥の羽音がかすめていった。
  満たされて行き倒れる者のように
  (いいなあ)と幾度も呟いた。
  永遠に凍り付いていてほしい冬の夜は、
  けれど、そっけなく白く明けていった。


2月2日(水)
南の国の銀世界やスリップ事故のニュースなど遠い世界のことのように穏やかな岩手。 @滝沢村

  獲物希なる雪原に
  競う者無き狩人は、
  野ウサギ一匹追いかけて、
  意地になって追いかけて
  撃っては走るを繰り返し
  いつの間にやら弾(たま)も尽き、
  ウサギに笑われムキになり、
  雪玉投げて悔しがる。
  そんなこんなで狩人は、
  精度に思慮に決断を
  哀れなほどに失って、
  足跡ばかり残してく。
 、
 


2月1日(火)
県内およそ6割以上の地域で真冬日。だが、降雪量そこそこ、午後の陽射し。 @盛岡市(高松の池)

  昔、村の岬の灯台守は、
  行き交う船の希望の灯。
  皆を励ます明るい未来。
  
  時は過ぎて、灯台守は、
  行き交う船を監視する。

  舵の切り方が許せない。
  帆の張り方が許せない。
  航路の選択が許せない。
  めざす場所が許せない。

  やがて老いた灯台守は、
  岬に砲を構え仁王立ち。
  態度ひとつで撃ち放つ。
  村が消えても撃ち放つ。

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