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イワテバイクライフ 2005年3月前半


3月15日(火)
盛岡の最高気温7度8分は、今年一番のあたたかさ。歩道の雪までとけて、そこかしこにフキノトウ。 @盛岡市近郊

  君の声は
  青空を貫通するか。

  君のシャウトは、
  消えゆく冬を振り返らせるか。

  線香臭い文机で
  障子の向こうの世界を
  透かし眺めていないで、

  さあ、雪原に出て、
  素っ裸の腹に清明な大気を張り、
  彼方の雪山めがけて
  「はあ」と鋭く
  明朝体の波動を送り届けてみろ。
  君の思いが音速ではね返って来るまで。


3月14日(月)
青空と瞬間の吹雪が入り乱れ、午後ようやくの春。とはいえ気温は上がらず夜の降雪・薄化粧。 @盛岡市(開運橋)

  (春の光は恐ろしい)

  目も眩む光熱の津波が、
  海原を乗り越え、はしる。

  海岸線をとかし、街の輪郭を奪い、
  音を飲み、山岳をなぎ倒して押し寄せる。
  
  一切が去ったその後に、
  橋の鋼鉄は、どうなっている。
  バスの君は、どうなっている。
  僕とカメラ、どうなっている。
  あなたの朝、どうなっている。
  
  まさか、
  北上川の痕跡だけ、
  黒く炭化した野原に刻まれては、
  いまいな。


3月13日(日)
寒気団に支配されながら、孤立状態の青空が見え隠れする。追いすがれば雪の罠。 @雫石町鶯宿

  うっすらと陽射しが
  北上高地を照らしている。

  遠望する3月の楽園は、
  追いかけるほどに遠のくことを
  知っているから、いっそのこと、
  真冬の砦みたいな奥羽山脈へ向かう。

  寒気団の待ち伏せに遭って
  牡丹雪にされた春が、
  走る者の胸板を塗り込める。
  頬まで覆ったネックウォーマーが
  雪と息で湿り、凍る。
  樹林帯の傘の下をめざしたが
  除雪は鶯宿ダムで途切れていた。

  季節との間合いを確かめ引き返すと、
  雪は止み、視界は光を得て、
  山は、温厚に波打っていた。


3月12日(土)
フェイント気味に青空が朝を飾ったが、寒気団の露払いだったことは昼過ぎに判明。 @姫神山麓

  山に迫るほど
  雪の舞いは真剣で、
  日戸から天峰山へ上がる目論見など、
  3月の妄想に過ぎなかった。

  里に続く白い道は、
  寒気団と春の板挟みにあって、
  手応えは不規則で荒れている。

  やがて、茫洋とした姫神山が現れ、
  近付き過ぎたことに気付く。

  登山口の脇から岩洞湖へ抜けようと
  圧雪路を駆け上がってはみたが、
  除雪作業は気まぐれに途絶えていた。
  姫神小学校へ下り、
  砂小沢あたりで登山口へ戻る道を探したが、
  ことごとく雪に塞がれていた。
  


3月11日(金)
沿岸南部では17度を越えて5月上旬並の陽気といわれても、内陸に奇跡は起きず。夜になって春雨。 @盛岡駅西側

  予告も無く、加減を知らず、
  雨は春の果実を気どって降り注ぐ。

  雨宿りする場所を探した。
  ひと晩でもうずくまっていられる
  安穏な場所を求めた。
  
  向かう気のなかった方角。
  選ぶ気もなかった道。
  入り込む気もなかった路地裏。
  およそ無縁な街を彷徨えば、
  密議の灯。
  尾行の影。
  神の醜聞。
  闇の暗号。
  
  ずぶ濡れの夜に
  サイレンの音が赤く滲む。


3月10日(木)
最高気温1度1分(盛岡)で1月へ引き戻された。夜になってみぞれと雨の判別微妙。 @盛岡市(館坂橋掛け替え工事現場)

  歳月の株価が高いこの街にあって、
  更新されていくもののそれは
  正直、未知数だ。

  先住の民にとって、
  CGではめ込んだように
  颯爽と北上川を跨ぐであろう橋は、
  機能としての風景以上のものでは
  ないのかもしれないけれど、
  この街に遅れてきた僕にとっては、
  せえの、と飛込んでくれる
  歳月の縄跳びの戦友みたいに思えて、
  ひそかに完成を待ちわびている。


3月9日(水)
昼過ぎ、青空に雪が舞い始めた。強風で飛行機は欠航、在来線の運行見合わせが相次ぐ。2月へ逆戻り。 @盛岡駅

  白鳥が「ほお」と、のど笛を鳴らすから、
  ひょいと見上げると
  ふっくら白い腹が編隊を組んでいた。
  
  息を詰めた二等辺三角形の間合いも鋭く、
  黙々、羽は夜を捉え、払って
  私を置き去りにする。
  
  去り行くものは美しい。
  旅立つ日があるから張り詰める。
  黒い海原に失速していく予感があるから
  死に装束のままだ。


3月8日(火)
一日の序章は、4月並に柔和な雨。洗われた街は、迷いのない青空と陽光に乾き、輝いた。 @盛岡市・厨川駅

  人待つ時間は、
  ほのかにぬくもっていて、
  君を探す目は、熱っぽく一途だ。
  
  会えなくても、
  終電まで突っ立っていた自分を許し、
  突如の雪に染まり、雨に濡れ、
  家路を急げば、天空に春雷が走る。

  もう、ずっとずっと昔の夜に
  よく似た今夜だ。


3月7日(月)
沿岸部などでは最高気温が11度〜10度(4月上旬〜3月下旬並の陽気)で全土春めく。 @盛岡市・高松の池

  名のみの春の薄日の中に
  土は引きづり出され、
  ドサ回りの手品のように
  フキノトウなど出してみせるのか。

  桜吹雪の頃、
  人は空ばかり見上げているから
  土は、若草に包まれ午睡して
  ひとひらの孤独を夢に見るのか。

  湿りきった春を乾かし始めた土よ、
  犬の小便に濡れて照れ笑いなどせず、
  今朝のファイティングポーズをとってみろ。


3月6日(日)
目を閉じて雪原を草原に置き換えてみれば、なるほど、その空と光は春に符合する。 @岩手山麓


  丘の向こうで狼が苛立ち吠える。
  おお、よしよし。
  私の上機嫌は我慢ならないか。
  そうか、そうか。
  ならば、もっと歌ってあげよう。

  肺臓の熱を帯びた空気を
  詰めに詰めて、ひと息の弾丸として、
  均一に圧を掛け、瞬時も抜かず、
  野太い音色を解き放ってやろう。

  お前が身悶えし吠え狂うほどに
  委細構わず
  お前が血を吐き声帯を失うまで
  お構いなしに、
  私は悪魔の如き上機嫌で歌いきる。

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