イワテバイクライフ 2005年3月後半
3月31日(木)
にじむ程度の青空だが、そこそこ大気はやわらかく、田畑の土はのぞき、農作業の姿も多く。 @玉山村
どこかのポチがね、吠えるんだよ。 (アインシュタイン、アインシュタイン)って、 気持ちよさそうに吠えるんだよ。 (ベートーベン、ベートーベン)って やぶ睨みで吠えるんだよ。 (ピカソ、ピカソ)って 天才気取りで吠えるんだよ。 だからね、僕も吠えてみたんだ。 (波田陽区)ってね。 そしたらね、ポチがね、怯んだよ、一瞬。 想定外だったんだろうね。 で、ポチはね、気を取り直して、 (近松門左衛門)と、きたもんだ。 いや、ほんとに。 |
3月30日(水)
確信犯の吹雪と臆病な青空が占有権を争ううち、盛岡で2月下旬の冷え込み。 @盛岡市郊外
(ねえ、それで、どうなった) 君がセンタリングしたボールは、 どうなったんだい。 国籍不明の青空に舞い上がった 渾身の展開を受け止めたのは誰だ。 遠い記憶の中に蹴り上げたアイデアは、 緊迫を纏い鋭利に いまだ宙に浮いているのか。 恐ろしくスローモーな風の中に 軌跡を描き続けているのか。 ならば(飛び込め) 音を失った熱狂を総立ちさせろ。 |
3月29日(火)
朝の曇天は、まあ、よい。昼前から降り出した雪の本気は何だ。吹雪いて白く、遂に夕暮れの薄化粧などとは。 @玉山村
夕べの雨が 雪の思惑を越えて 道を攪乱したものだから、 水なのか、ザラメなのか、氷なのか 手応えに秩序は失せ、 判然としない音が続くばかりで、 前輪は掬われ振られ、ひねられ さんざんな楽しさに僕は歓声をあげ、 今年一番の賛辞を贈ろうとしたのだが、 すでに冬は、記憶の彼方で、 不意を突く光が、 (今朝を覚えておけ)と 網膜に斬り付けてきた。 |
3月28日(月)
予報にあった朝の青空を探しても剣呑な曇天ばかりで、午後に至り冷えた雨が本降り。 @雫石町
いずれ消える雪は、 思い通りに消えるわけではない。 彼方へ続く足跡は、 春への近道であるとは限らない。 いつか消える私も、 君の思い通りに消えるとは限らない。 緩慢に、曖昧に、婉曲に、 消えていく時間を楽しむのだ。 苛立つ君を眺めながら、 一滴一滴の雫となって、 一切が馬鹿らしくなるほどの速度で 光にとけて消えるのだ。 |
3月27日(日)
春を引き戻す光が青空を輝かせ、けれど波乱を封印するほどの絶対的な勢力になれるわけもなく。 @玉山村
あたかも、人助けに向かう途中のように、 あるいは、大仕事を終えた家路のように、 風をさばく眼差しは、真っ直ぐなのだが、 実は、先を急ぐ理由すら摩滅した日課で、 同じ道を走り、同じ里を抜けて この丘へ来てしまったことが、 つまり今朝の僕の全体なのだ。 空を見上げ、風を匂いとり あるべき場所のあるべき様を思い、 また、ここへ来てしまったことが、 この地に暮らす僕の心の全体なのだ。 |
3月26日(土)
思い詰めたように寒気団が足を引きづるものだから、いっときの冬が、いよいよ真顔で吹雪く。 @玉山村(天峰山)
除雪は、日戸から天峰山、 更に、岩洞湖畔まで進んでいた。 湿った雪が、前輪を掴んで離さなさず、 その展望を断ち切った日々が 嘘のように、風はとめどなく流れる。 気まぐれな寒気に とけることを猶予された氷雪は、 駆け上がる質量を値踏みしては、 みしみしと異議を唱え、 乗り越える意志を試すように ばりばりと気色ばむ。 撤退か占拠か、答えを出せず、 厚みを増すばかりの冬の瘡蓋を引きはがし、 春の丘をめざした。 |
3月25日(金)
冬の面影を追って薄化粧した朝は、青空まじりの吹雪以上の援軍は無く、乾いた夕暮れへ向かった。 @盛岡市・中津川
雪が消えた街に雪が舞う。 言い残したひと言を告げる為に引き返し、 幾万キロを歩き続けてきた執念が、 遂に旅を終えて燃え尽き、 白くなるような壮絶を思って、 一瞬の吹雪に眉をひそめた。 花の季節に粛々と向かう私は、 やりすごした冬に 未練もなく、恨みもなく、思いもない。 だから、こんな時に、こんな所で、 踊り狂う雪よ。 来た道を引き返せ。 幾万キロの徒労を噛み締めろ。 |
3月24日(木)
夕べの雨に洗われ、淡い青空と陽射しに晒され、雪解け水すら道を渡り切るのは稀なこと。 @岩手山麓
ひと冬、 身じろぎもしなかった鉄馬は、 澄み切った風を吸って、 恋い焦がれた光に肢体を晒す。 喉を細め、うまそうに 春の粒子を腹に満たし、 火炎を遊ばせ弾き出され、 直進する筋肉を震わせる。 ひとすじの涙は、 乾いた道が眩しいからではなく、 雪の黙々に聞き入った日々の あまりの孤独が、とけて流れ出したのだ。 |
3月23日(水)
気温は上がり地価は下がり、そんなこんなの混濁で3月も撤収の身支度。夜を濡らす雨もけだるく。 @北上高地
さて、さらばだ。 こんな白い朝を 点々と汚すインクのシミよ。 旅を全うした者の言葉を 掠め取り、なりすますし、 あたかも縁者の如き馴れ馴れしさで、 存分の誤謬を謳い上げる者よ。 威風堂々積み上げた無惨こそ、 汝が背負い切れない真実と知れ。 人の道の途上にあって、 高らかに言い放つ厚顔は、 寒村ひとつを拐かすのがやっとの 説法詐欺と知るがいい。 |
3月22日(火)
いくら曇っていても、わかるさ。和解以上の融和を思わせる大気の弛緩など、わかるさ。 @盛岡市郊外
求めるものは風景ではなくて 今朝の走りっぷりでもなくて、 一面に沈殿する空気というか 匂いの様なものかもしれない。 幾度同じ場所に通ってみても 記憶に焼き付いた色彩は幻で、、 季節がすっかり移ろい果てて、 置き去られ、追いすがる私を 静める香が立ちこめています。 冷えた聖堂に射し込む光線が、 棺を温もらせるあの空気です。 何もかも終った後に涙は無い、 乾いた眠り薬の色と匂いです。 |
3月21日(月)
やわらかい青空と8度を越える最高気温も、8mに届く風を受けて、体感温度はいまひとつ。 @岩手山麓
すでに、充分なのだと思う。 安らぎに満たされた井戸は、 いくら美しい時を注いでみても、 もはや、控えめな微笑を揺らすだけだ。 抗うことでみなぎった高揚の波は引き、 怒りに震えることで纏った鋼鉄の皮膜は、 赤錆びて重く、ひび割れて空疎だ。 今朝も大地は悠々たるもので、 吹き渡る風には春光が香る。 (だから、もう、充分なのだ) こんな朝を思い焦がれた日々に罪は無い。 無垢な雲を彼方に眺めるばかりの私に、 昔日の剣を持たせようとする残酷こそ罪なのだ。 |
3月20日(日)
朝方の青空は、薄雲に透明度を奪われ、太陽の熱は遠のき、およそ春とは無縁の一日。 @碁石海岸(大船渡市)
寒い寒い、と大声で たった一人の風の中で だだをこねていた私は、 住田あたりの谷筋から、 みるみる開けていく空を見上げ、 太平洋の匂いに包まれるほどに、 分別を取り戻し、 碁石の波打ち際に 今日の最果てを定め、 ぬるんだ海の音に もはや、波乱の予感も洗い流され、 ひそかに朽ち果てるのは、 この一切の眺めか、あるいは私の魂か、 どちらが先か見届けておきたくて、 春一番の重さを錨(いかり)として 夕暮れに降ろしたのでした。 |
3月19日(土)
寒気団通過の余波は思いの外に濃く、午前中は雪が舞い、青空から冬雲の影が消えることはなかった。 @宮守村
北国の3月中旬に 山が雪に閉ざされていることなど 明白なのだが、 好き嫌いに理屈が無いことを知りながら、 理由を求めたがる失恋男のように 寺沢高原にアタックをかけた。 2kmも進まないうちに 濡れ布団の如き積雪が道を隠した。 底冷えの国道396号線を引き返す。 慣れた道から光は消えて 風はダークブルーに染まる。 もはや、ここがどこであるか 噛み締めようともしない不機嫌の理由を 突き詰めることがおそろしくて、 私は私に寡黙を通す。 |
3月18日(金)
朝のシールドが水滴を纏った記憶は、やがて、うすぼんやりした陽射しに乾いていった。 @玉山村(天峰山)
背負いきれない言葉や 遂に届かない意味の深さは、 むしろ、すがすがしい墓標となって 歳月の丘に立つ。 地吹雪に視界も凍り、 私を押し黙らせた夕闇が あの日の体温と共に埋葬されている。 ここに通う本当の理由を求め、叶わず、 幾度となく心が息絶えた冬の日々に 季節の風が変わる頃、 花を手向けようと思うのだ。 |
3月17日(木)
彼岸の入りは、本降りの雨に洗われ、最高気温3度3分(盛岡)。雪に変わりかねない冷たい水滴。 @雫石町
背番号だけで エースを気取る三角ベースの主よ。 我をルールに胸を張り 見透かされて痛打され、 腹立ちまぎれの投球は 走らない、曲がらない、入らない。 それでも昔なじみは帰らない。 のんびり無残を眺めてる。 ほら、心を静めてみてごらん。 インコース低めの澄み切った夕焼けを。 鋼のシュートひとつもねじ込めないか。 ざっくりえぐる昔日の決め球とやらを さあ、見せてもらおうか。 赤面の朝が刷り出される前に。 |
3月16日(水)
気難しい雲が、いくら冬を気取ろうと、すでに春の領地。盛岡で最高気温が9度を越える。 @滝沢村
麻酔から覚めた春の薄日の中で、 僕は、来た道すら忘れて、 まして、明日のことなど空の彼方で、 ぼんやり今朝に突っ立っているだけなのだが、 知らぬ間に 敵にされ味方にされ、 此岸、彼岸の立ち位置まで決められ、 いよいよ舞台が回ろうとするものだから、 (もう春ですね)などと言われても (さあ、どうなんでしょう)と 腕を組む始末だ。 |