イワテバイクライフ 2005年7月後半
7月31日(日)
真夏日だったと思う。薄日に誘われて屋外に出ようものなら熱気と湿気に、消耗するばかりだ。 @滝沢村(トライアルパーク)
聞こえないか。遠くで吠えている。 聞こえないか。狼では無いようだ。 不憫にも、 痛い目に遭ったか。 愚かにも、 勝てない戦をしたか。 哀れにも、 自尊心すら噛み切られたか。 無残にも、 二度と光の中に出られない姿になったか。 醜悪にも、 闇夜に紛れて毒づきたくなるのか。 牙において天地。 知において論外。 完膚無きまでに敗れたものよ、 最後の穴ぐらにもぐり込む前に、 山が振り返るほどの気を入れて吠えてみろ。 (ここで、ゆっくり聞かせてもらおうか) |
7月30日(土)
不快指数上昇の一途。日中の陽射しは、波乱の雲に遮られ、夕刻のゲリラ雨。 @滝沢村(トライアルパーク)
暑さは山の中まで追ってくる。 汗をしたたらせるほどに 息はあがり、気は遠くなり、 体は鉛のようで、 しばらく、草の上に大の字になる。 (上手になることが誰よりも好きだった) 昔、そんな機会を一切取り上げられたことがある。 どんなことでもよいから 上手になってみたくて、 手元にあったバイクで 来る日も来る日も八の字を描いた。 誰にも奪えない、僕の意志に任された 「向上の場所」が、つまり、バイクだった。 全身を重くしていたのは、 暗い時代の思い出だと気付き、 跳ね起きてキックスタートした。 |
7月29日(金)
白濁した陽射しは、真夏日を誘い、各地に俄雨をまねき、北国のエアコンの稼働に拍車。 @北上高地
つまらぬものが先頭を行く。 まずは、ほっとする風景だ。 比較しなくて済む。 追わなくてもいい。 いずれ消えていく。 最後尾を行く僕の背後に、 先頭を自認するものが迫るから、 慌てて道を譲る。 今朝もまた、誰かが誰かを追っていく。 この片田舎で、 何と、のどかな首位争いだ。 |
7月28日(木)
空の蒼さは、その深さにおいて、すでに秋なのだが、乾いた風と陽射しが、北国の精一杯の夏気分。 @西根町(岩手山麓)
この朝のために 僕は走ってきたんだね。 この時のために 雲は流れてきたんだね。 この大地は、 何もかも知った上で、 じっと待っていてくれたんだね。 |
7月27日(水)
台風7号は、早々と岩手から離れていった。昼前には青空が現れ、各地で真夏日周辺の暑さ。 @滝沢村
私は、やがて、この私ではなくなる。 あなたにとって 座興の私ではなくなる。 便利な私ではなくなる。 頭数の私でもなくなる。 ならば、いっそ、今日から無関係。 関わらないのが思いやり。 飾り物にもならない私に 舌打ちする日が来る前に、 どうか、話しかけず、目を合わさず、 関わらないのが思いやり。 未来をいたわる思いやり。 |
7月26日(火)
近所のバイク店のシャッターが下りていた。台風7号への備えではなく、定休日だった。 @盛岡市近郊
(人に行きずり、道に行きずり、川に行きずり) 空から舞い落ちる一粒の雨滴が 私の肩を濡らすほどの縁(えにし)を 今朝に求めて、 (人に行きずり、道に行きずり、川に行きずり) あざなえる禍福の万分の一の狂いが、 私を、この北国にひきとめ、 繰り返される風の理由を、 今朝に求めて、 (人に行きずり、道に行きずり、川に行きずり) ただ、果てること無き水と鳥の歌に聞入る。 |
7月25日(月)
台風7号の影は、まだ遠く、夏らしい陽射しもあったが、吹き付ける夜の霧雨に、ただならぬ予感。 @玉山村
ふたつ目のキックで 目覚めたエンジンからは、 沈黙していた時間など一切欠落していた。 2週間前、そぼふる雨の中で火を消した瞬間と、 今朝のキックスタートが、 大胆に編集され、ひとつに流れ出す。 それほどに野太く乾いて鋭利な走りの印象は、 体の芯に宿り、どこまでも連続していく。 しかも、いつもの丘に広がる眺めは、 呆れるほどにいつも通りだから、 黙って突っ立っていると、 過去と現在の風景が錯綜してつながり、 今朝の僕まで編集され カットされてしまう気がしたから、 見渡す限りの大地に向かい、 この瞬間の年月日を叫んでおいた。 |
7月24日(日)
落胆を誘った予報の分だけ、夏空めくと、すべてが好転しそうだから、げんきんなものだ。 @滝沢村鵜飼
夏休みの匂いがしないか? 濡らしても、焼いてもいい。 すべて僕に任せられた時間。 どう使おうと、失おうとも 点数の付けられない居場所。 日記に綴るは光や影の印象。 空の彼方に逃げた虫の羽根。 したたる理由すら乾いた汗。 気紛れに追いかけてみた恋。 太陽がとけて揺れる水の底。 蒼い静寂に止めたままの息。 昨日や明日など無縁な瞬間。 夏休みの匂いがしないか? |
7月23日(土)
日中は限定された青空に小規模な夏雲。朝夕の乾いた涼しさが「秋の予感」となってしみる。 @滝沢村
何をしても、そうなのだが、 私のスタート台は惨憺たるもので、 おそろしく無様だから、 助けようにも、どこから手をつけていいのか、 誰もが口ごもるほどだ。 それでも、のたうちながら止めようとしない。 (それで、いいのだ、いつものことだ) うまくいかないから、楽しいんじゃないか。 楽しいことを繰り返し繰り返し、 なお繰り返せるから嬉しいんじゃないか。 イメージできるものを持つことは素晴らしい。 挑戦するから見知らぬ自分に出会える。 道程は長いほど、味わい深い旅になる。 だから、何かひとつ旅をした者は、 けして諦めない。 |
7月22日(金)
それ見たことかと梅雨空は居座り、それでも気がすまぬとばかりに低温注意報。 @岩手山麓
紳士淑女のみなさん。 まったく、漆黒の時代に抹殺された良識は、 星の数でありましょう。 懲罰と差別と追放と拷問の果てに ある者は、自らの命を絶ち、 ある者は、憔悴の果てに隠棲し、 あるいは、気がふれたのであります。 さて、ついに、 愚かなライオンは神に指弾され、 哀れな末路を辿ったのであります。 待ち続けた再生の時であります。 絶望することに慣れた人々を 蘇生させなければならない。 為すべき困難な一歩です。 ところが、何と驚いたことに、 あの時代に森で遊び呆け、 正気を失わなかった男が、 今ここに、帰ってきたのであります。 |
7月21日(木)
高校野球の準々決勝を濡らす雨もあったけれど、何かを止めるほどの梅雨空ではなかった。 @盛岡市近郊
この楽園(ホスピス)を 立ち去らねばならない朝、 見渡す一面の愛しさに火を放ち、 一切の記憶を焼き払ってやろう。 かわりに、 封印したはずの 暗黒の時代を引きずり出し、 あなたの卑劣、あなたの偽善、あなたの背信 それらすべての胸ぐらを掴み、ゆさぶり、 一緒に坂を転落してやろう。 そう思うだけで、 狂い死んだ私の日々が、 川面を埋めて流れて来ます。 |
7月20日(水)
薄日を許しながらも宵の雨へ向かった曇天。夜の乾いた冷涼は、すでに雨季とは異質。 @北上高地
いつの日か、 形あるものは、崩れ、 力あるものは、衰え、 光放つものは、翳る。 暁の薄明かりのなかに 大量のガソリンを抱え、 北上高地を彷徨う私は、 形に至らず、力を持たず、光から遠く、 ただ、揮発し、燃え尽きていく時間だ。 「そういえば、 草を刈る音を眺める立ち姿があった」と 牧野の主が語る印象が、 おそらく、今朝の私の唯一の痕跡なのだ。 |
7月19日(火)
暑さもひと休み。各地、真夏日寸止め。雲は目立ったが朝夕の爽快は特筆。 @岩手山麓(春子谷地)
梅雨明けを宣言できずにいる君よ。 何を待っているのだ。 何を憚っているのだ。 何を恐れているのだ。 澄み切った朝の風を浴びて、 雨季の終わりを直感できない経験値とは、何だ。 横並びの顔色を窺いながら、 一面の夏空を見殺しにしていく規則とは、何だ。 異論を許さぬ理由を探すうち、 季節に読点を打ち損ねていく手堅さとは、何だ。 (さあ、こいつに跨り山を一周してきたらどうだ) |
7月18日(月)
一関で34度5分など、内陸南部と沿岸部で軒並みの真夏日。熱気の余韻は大気を不穏にして雷注意報。 @滝沢村
祝日の住宅街は、まだ眠りこけていた。 息を殺してマシーンを車に積み、 街を出て、山へ入った。 藁に火を付けるようにエンジンは掛かった。 8年通って、初めて向き合うラインもある。 固く乾き、荒れた赤土の斜面に飛びつく。 宙に振られる前輪を立て、押し上げる。 (不思議だ) 地形が(挑んでいいよ)と誘って来た。 それが出来ると、 笑いかけてくる風景が次々に現れる。 私が出来ることと出来ないことを、 大地が知っているスポーツ。トライアル。 たった一人の朝練習、150分の汗の後、 職場へ向かう車中で、深く頷いていた。 |
7月17日(日)
日照りに霞むあたり一面。各地軒並みの真夏日。江刺・一関では32度。実質的な梅雨の終焉。 @玉山村
もくろみ通り、まんまと、 暮らし、働き、満ち足り、 あくせくせず、思い煩わず、 痛快な日々を反復する者に、 (さあ、夏よ、異議など唱えてみろ) 造作なく風になり、 止める者は無く、諫める声も無く、 無力な揶揄などその背中に届かず、 ざまあみろと、ほくそ笑む者に (さあ、夏よ、辛辣を極めて何か言え) 不敵な声帯から迷い無く言葉を打ち込み 人生に定規を当て、黒々と墨をひく者に (さあ、夏よ、その目を見て何か言え) 順風のうまさを噛み締め高笑いする者に (さあ、夏よ、足払いのひとつも仕掛けてみろ) 出来るものなら、さあ。 |
7月16日(土)
体の芯に熱気の杭が打ち込まれ吹き出す疲労困憊の汗。真夏日を確信。梅雨明けの序章か。 @滝沢村
午前中は、ハンドルを換装。 作業を見守るだけで汗がにじんでくる。 ほんの26ミリ短縮されたハンドルで、 驚くほどコンパクトな乗車感覚になった。 さっそく、滝沢の山で試運転。 (おっと)勝手が違う。 これまで、 広いハンドルに しがみついていた自分がわかる。 新たなハンドルは、 体のさばきの基本を思い出させてくれた。 たかが金属の棒一本。 されど、明日のライディングのタクト、である。 |