イワテバイクライフ 2005年8月後半
8月31日(水)
盛岡近辺は晴天予報からほど遠く、朝の雨、山沿いの霧。それでも県南部では真夏日。 @松尾村
湿った大気にとけたガソリンの香りを タンクに満たした途端、 空は、あたりを叩いて泣き出した。 流れる雲を見上げてGSで雨宿りなんて 久しぶりだ。 先週までの僕なら、 きっとずぶ濡れになることに 何か意味を求めて走り出していた。 雨上がりの岩手山麓は、 濃い霧に包まれていた。 いつもなら通過地点の牧野の片隅で 流れる霧の音に耳を澄ますなんて、 どうしたことだ。 (何だか、今朝の僕は、別人だ) |
8月30日(火)「過去の日記」は下記を御参照ください。
早朝、体の芯に届く冷気など、日の上昇につれ嘘のように真夏日まがいの汗を誘った。 @玉山村
朝霧が消えて 岩手山が現れた。 光を取り戻した田園に 稲が実っていた。 この青い風を呼吸して お前は、 ほのかな火炎をゆらめかせ、 私をここへ導いた。 振り向けば 遠ざかる山がある。 辿って来た道がある。 あたり一面の眩しさは、 今日という秋の体温だ。 |
8月29日(月)
澄み切った秋空からは、ほど遠い白濁の印象。息の長い残暑は健在で、真夏日近辺。 @イーハトーブ
ほんのいっとき、 満足しなかったか。 まさかと思うが、 もう充分だと考えなかったか。 例え、戯れにも力を緩めなかったか。 (思い違いをしてはならない) 蒼い静けさをたたえた森も、 竜となり天空へ昇る白雲も、 金色に染まりそよぐ草原も、 それら一切は 走り続ける心が見たものだ。 報われることなど願わず、 ひたすらに繰り返す日々がもたらした 王国の印象と知るがいい。 |
8月28日(日)
空は、回復への意欲を見せながら、力尽き、暗い雲の闊歩を許し、所によりスコール。 @七時雨
(昨日、確かに、ここで闘っていた) 清流に連続する苔むした岩や、 雨にぬめる黒土のヒルクライムや、 底なしの泥沼や、土手に浮く木の根の罠や、 さんざんの自然の手応えが夢に出た。 前日の興奮から醒めやらない日曜日。 イーハトーブトライアル大会の最終日に、 僕の影を探した。 (まったく、今年もハッピーエンドだった) 去年より今年、今年より来年。 前進することは楽しい。 けれど、だから、後退することが恐ろしい。 努力や思いでは、けして解決できない何かが、 大地の行く手には潜んでいるから、 来年の夕暮れを思うほどに、恐ろしい。 |
8月27日(土)
我が身に夢中になっているうち、雨上がりの空は蒼く染まり、澄んだ秋風が大地を鎮めた。 @安比高原
薄氷を踏む思いの満点もあれば、 手応えと引き換えの0点もある。 得るも失うも、 運に任せた1点ではなく、 自覚できる1点でありたい。 まずは、最善の道を見極めたか? その道に何をもって挑んだのか? 何故、出来たのか、出来なかったのか。 そのように、 今日という日を、すべて我が事として引き受け、 けして奢らず、落胆せず、 今年も美しいイーハトーブに微笑む者となり、 再び出発点に戻って来るのです。 |
8月25日(木)
ゆるやかな下り坂。薄雲に覆われた夕闇に台風11号の気配は希薄。それより何より秋の接近。 @七時雨
さて、イーハトーブトライアルである。 日本最大の規模を誇る ツーリングトライアルの大会は2日後だ。 (早くも到着した強者の姿はあるのか)と、 七時雨を確かめたくなる。 スタートゴールの設営の様子を 遠くから見守っていると 私を呼ぶ声が風に乗って届く。 入っておいでと手を振っている。 大会運営実行団のI氏だった。 コースの草刈りに追われた疲れも見せず、 直前の準備に余念がない御様子。 GS乗り同士、談義に花を咲かせながら、 暗くなっていく空に嵐を心配する。 ここに集う何百人というライダーを、 思いひとつで支える人の目は、 初秋の夕闇にまぎれることなく輝いていた。 |
8月24日(水)
晴れ渡ることの爽快は、久し振り。乾いて軽い陽射し。空の蒼さ、深さ。風受けて広がる薄雲。 @イーハトーブ
向き合う困難を 見渡してごらん。 乗り越える君を 想像してごらん。 大きく息をため、 弾み車となって 焦らず、怯まず、 黙々と突き進め。 倒れかけたなら、 地をひと蹴りし、 目標へ押し出せ。 失う無念を越え、 突き進む意志を 励ます者は君だ。 |
8月23日(火)
大気の湿気は薄れた。空は明らかに秋のブルーだが、わきたつ雲の群島は、サマーなのだ。 @滝沢村(トライアルパーク)
今朝も、硫黄臭い湯に身を沈める。 湯治とは、よく言ったもので、 抱えこんでいたあれこれが離れていく。 先週アブに刺された腕の腫れが、消えた。 8月の激戦で打った脇腹のこわばりが、消えた。 昨秋、突いて痛めた手首の違和感が、消えた。 雲は音もなく上昇し、 照りつける陽射しは目に入る汗で乱反射する。 かすかに鼻孔をかすめる風が秋を告げている。 この湯の中で、じっとしていれば、 歳月の重さや、悪夢の異臭まで消えて 爽快な記憶喪失になれると言うのか。 |
8月22日(月)
小雨模様の初秋は、夕暮れに至り、斜光に輝くシャワーをもたらし、涼やかな夜へ。 @岩手山麓
空を眺めるには、場が必要で、 雲を愛でるには、風が必要で、 光を感じるには、時が必要で、 (だから、私は、この地を求めたのです) |
8月21日(日)
照りつける陽射しと汗に濡れる人の我慢比べに入った。とはいえ、北国の残暑など、はかない。 @滝沢村
いいなあ、颯爽たる者は、いい。 力と技で完結した姿の 何という清々しさだ。 有象無象と斬り結ぶこともなく、 ねたみ・そねみの意味すら忘れ、、 大樹を頼まず、 あるがままで、すでに痛快だ。 一瞬の風の淀みなど、 その微笑みではらい、 涼しげに舞ってみせる。 凡庸のイメージを蹴って いとも容易く越えていく。 いいなあ、颯爽たる心が、いい。 |
8月20日(土)
最高気温32度6分(盛岡)。残暑のスタミナに、人も大地も完敗。夕刻の積乱雲の輝き。若き大気の混乱。 @滝沢村
出来ることもあれば 出来ないこともある。 出来る気がする日もあれば、 出来る気がしない日もある。 (で、実際どうなんだい?) 怖じ気づいて出来ないのか、 勘違いして挑んでいるのか。 (で、本当はどうなんだ?) 何故、挑む必要があるのか。 何故、敢えて挑まないのか。 そこに我が身を置かないと 教えてもらえない事がある。 |
8月19日(金)
陽射しの印象は弱かったが、湿った南風で、県内くまなく真夏日地帯。夕刻、雷鳴が大気の不安を告げる。 @岩手山麓
そんな良い日もあったと思えそうな一日。 そんな夢中な時もあったと思えそうな姿。 そんな美しい場所があったと思える初秋。 いつか、深い皴(しわ)を幾筋もきざみ、 しんしんと雪の降る空を一人見つめる私。 身動きすらままならない体を抱える深夜。 冷えていく住処に目を閉じたままの時間。 (眠ってはいけない) 思い出が私の肩を揺さぶり叫ぶのならば、 今朝の私は、さしずめ楽園に遊ぶ童子だ。 この愛しい記憶に、私は涙をにじませて、 厳寒の暁にゆっくり目を見開くだろうか。 |
8月18日(木)
雲の多い一日だったが、二戸、宮古などでは真夏日。夏の未練は、まだまだ健在。 @八幡平
晴れていく霧の中で、 山にカメラを向ける姿があった。 (撮ってあげましょうか) 私の申し出に、男は大袈裟に首を振った。 (照れくさくて)と 中年の愛想を添えて固辞する。 (よろしければ、私が撮りましょうか)と 逆に提案されたので、カメラを渡した。 目的地など告げぬまま、会釈して別れた。 今、撮ってもらった写真を見ている。 見ていて、男が何を撮っていたのかわかった。 流れる雲を追い、移ろう光を待ち、 何千、何万の瞬間の為に、 一枚の記念写真も許されなかったのだ。 |
8月17日(水)
盛岡など内陸では30度を越える残暑の中で、2学期が始まっていく。 @八幡平
立派であることに異論などあろうか。 正しくあることに反論などあろうか。 その見事なレトリックは、さておき、 喝采に値するかどうかは、さておき、 同じ旗を振るかどうかは、さておき、 徒党を組めるかどうかは、さておき 一緒に闘えるかどうかは、さておき、 夜通し飲めるかどうかは、さておき、 命懸けになるかどうかは、さておき、 助けに走れるかどうかは、さておき、 どうか、いつまでも立派でいてくれ。 どうか、とことん正しくあってくれ。 |
8月16日(火)
藤沢町で震度5強など大揺れの岩手。一方で、雲はうっすら、空の蒼さもうっすら、陽射しもうっすら。 @岩手山麓
天災や大火や爆撃で、 一切を失い廃墟に佇み 握り飯など黙々食らう 私とあなたが出会う時、 いや大変でしたね、と 互いの惨状を告げあい、 明日の不安を述べあい、 ではお気をつけて、と 振り返りながら別れる。 そのようにごく自然に 言葉をかけられる日は、 天が裂け地が割れない限り、 やって来ないのか。 |