イワテバイクライフ 2005年9月前半
9月15日(木)
朝晩の冷気は、すでに「涼しさ」とは次元を異にするもの。空の蒼さは雲の白さが寄り添い際立った。 @北上高地
深い霧は、轟々と風に引き裂かれ、 青空が引きずり出された。 ちょうど、雲の一団が 北上高地を越えていくところだった。 網膜を焼き切るほどの光線や あたりを闇に染める雲の影が 交互に見渡す限りを跨いでいく。 秋の蒼さは、 劇薬を混ぜたように鮮やかで、 心まで塗り込められそうだから、 僕は、2サイクルエンジンの高周波を ちくちく尖らせ、 真紅のポスターカラーをしたたらせる 切っ先となって 雲の中へ突っ込んでいく。 |
9月14日(水)
陰気な秋の雨が、最高気温を20度そこそこ(盛岡)に抑え、大雨や洪水や雷注意報とともに夜へ。 @雫石町
さて、昨日の続きだ。 (森で一人最期を迎えるなんて、 いかにも、あなたらしいのね) 君は僕を笑い、別の物語を綴ってみせた。 「城に入れなかった者は森に集った。 夜毎宴が開かれ、議論は白熱した。 よく芸術をし、武術を磨いた。 森は、村から町へ、町から国へ発展し、 ついに王様の城は森の王国の前に滅んだ」 (なるほど、でもね) 森のリーダーは、やがて王となり城を建てる。 滅ぼされる事を恐れ、優れた者を呼び寄せる。 城に入れない者達は、森で暮らすようになる。 そして再び森は栄え国となり城を滅ぼすのだ。 |
9月13日(火)
22度前後の最低気温など、秋の朝とは、ほど遠く、ぼやけた青空も、やがて雲に隠されていった。 @岩手山麓
王様は、 その学問の意味が、よくわからなかった。 異国から連れてこられた学者は、 城の外で何年も何年も待たされた。 王様は、やがて学者のことを忘れた。 学者は、 仕方なく作物を育てた。 狩や釣りを覚え、森に遊び、暮らした。 雪に閉ざされ、 光に満たされ、 鳥の囀りに従い、 学者は、学問を忘れ、多くのことを学び、 そして、眠りについた。 心底の幸せを抱きしめて。 |
9月12日(月)
選択の夜が明けて、澄んだ秋空。何を予感してか、30度前後まで気温を引揚げる陽射しの強さ。 @滝沢村
眠りついたのは、暁のころだった。 2時間まどろみ、気付けばここだ。 昨日のままの光。昨日の汗の続き。 昨日の軌道の中に今朝がつながる。 途中15時間ほど欠落した時間が あるにはあったと記憶するのだが、 騒然たる嵐に粛々と向き合った後、 膨大な事実は全て切り刻んだから、 私の昨日と明日はうまく繋がって、 何事も無かった様に風の中に居る。 音も無く踊る木漏れ日の中に居る。 乾いて軽く弾む息の中に私は居る。 |
9月11日(日)
雷雨の一夜が明けて澄んだ秋空も束の間、薄雲のベールに覆われ、幾分の蒸し暑さ。衆議院選挙投票日。 @滝沢村
うまくやろうとするから 動けない。 ほめてもらおうと思うから やり過ぎる。 あしたを気にするから、 怖くなる。 当たり前のことを当たり前に 必要なことを迷い無く、 自分のことなど捨て去って、 悲鳴や怒号に顔色変えず、 その瞬間を切り取れ。 剃刀の如く。 |
9月10日(土)
朝から泣き出す構えの空は、遂に機嫌を直すこともなく、夜の雷雨。 @滝沢村(トライアルパーク)
出来ることを、ひとつ 繰り返すことが好きだ。 難しいことではなく、ごく初歩的な、 基本中の基本のようなことを 果てしなく繰り返すことが、好きだ。 親の仇のように、 これでもかと反復するのが、好きだ。 すると、 一度として同じように出来ないことが分かる。 その、ほんの僅かな違いの中に、 よりよい加減が見えてくるまで、 あたかも 不器用な私の息の根を止めるが如く、 無限軌道に棲む狂人の如く、 風景の一部になるまで、繰り返すのだ。 |
9月9日(金)
夏と秋の攻防は、僅かに夏の優勢。風は乾いているが、陽射しの強さは過剰。で、盛岡は28度を越えた。 @滝沢村(トライアルパーク)
トライアルパークに向かう車中。 ラジオで誰かが言い切る。 「男は誰でも自爆装置を持っている」 (なるほど) それは、自らを滅ぼす事ではない。 無自覚に抱え込んだものを破棄して 生き様の原点に立ち返ること。 その決断、引き金、あるいは覚悟のことだ。 さしずめ、私は、 この大地を選んだあの日 スイッチを押したのかもしれない。 そして今朝、大会議の前のトライアル修行だ。 悠然と舞う鳶の目線に駆け上がり、 爆破したものを振り返っても、 爽快な汗に霞む秋が広がるばかりだ。 |
9月8日(木)
台風は早々に遠ざかったが、雲は長々と空を覆い、夕刻ようやくの清々しさ。沿岸部は真夏日寸前。 @イーハトーブ
いっとき泣いた君は、 すぐに笑顔を作れず、 物憂げに雲を見つめ、 黒髪を風にまかせて、 ことばを探している。 北へ遠ざかるものが、 爪跡を残す事もなく、 君を置き去りにして、 何もかも曖昧な朝だ。 雲は途切れ光が走り、 あたりを照らしても、 求める山の姿は無く、 草の青さが踊るだけ。 取り返せない何かを 持ち去られた何かを 君だけは分っている。 |
9月7日(水)
風雨の強まりに気をとられている間に真夏日近辺の蒸し暑さ。台風14号は無愛想なほど足早に去った。 @玉山村(姫神山遠望)
迫り来る大嵐や、 卑劣漢の暗躍や、 道を塞ぐ倒木や、 それらすべてが、 天の仕業ならば、 猛る風も音楽で、 悪事も他愛なく、 遠回りも旅路だ。 惨憺の夜の後に、 理由は明かされ、 雲に隠れた山も、 青空を従え戻る。 光射す時を待て。 |
9月6日(火)
低く垂れ込める雲にかすかな光が宿ったり。嵐の前の静けさ。やがて、先ぶれの小雨。 @玉山村
彼の地の風と この地の風の違いを述べよ。 彼の地の色と この地の色の違いを述べよ。 彼の地の光と この地の光の違いを述べよ。 ただし、彼の地に至るのに要する 距離と時間に関する特別な感情を 排除して述べよ。 その上で (積算できない道程)というものについて 考察せよ。 |
9月5日(月)
大型で非常に強力な台風14号は、遙か九州の彼方だが、みちのくの空は早くも黙りこくって灰色。 @雫石町
画布と絵の具の狭間に 塗りこめられて 何百、何千という歳月の中で 外気に触れることも 光に当たることも 誰の眼差しを受けることも無く、 ため息ひとつ漏らさないであろう この田園の静寂に 私は、幾度も幾度も 言い残すことはないかと訊ね、 黙殺され、取り残され、いたたまれず、 エンジンを掛け 完敗した者となり、 秋の風に唇を噛み締めるのです。 |
9月4日(日)
長々と東北にかかる秋雨前線をはらう術もなく、小雨断続。太陽の匂いも大地の体温も薄れていく。 @滝沢村(南昌山遠望)
旅の車窓に流れる山を 止めてみたくて、 旅することを止めたのかもしれない。 その山に恋をし過ぎて、 流れ流れ、やがて視界から消えていく山に、 遂に耐えきれず、 旅先を車窓から捨てたのかもしれない。 山は動かないものだという 至極自然なことが 信じられるようになったのは、 つい最近のことだが、 それでもなお、 もしや知らぬ間に 山が消えたりしないかと、 立ち止まり、振り向くことが恐ろしい。 |
9月3日(土)
秋雨前線は、僅かに岩手の芯をはずし、雲を薄くし、午後には青空など見せ、風も涼しく。 @滝沢村(トライアルパーク)
一週間が経ったのか。 本当にそうなのか。 イーハトーブトライアル大会の余韻の中で すっかり、うわのそらだった自分に気付く。 大会の整理体操のつもりで 滝沢にマシーンを持ち込めば、 はたして、戦友のY氏が待ち構えていた。 さっそく、雨を含んだ赤土の斜面で、 出来る範囲を超えた特訓に引きづり込まれる。 (今年を超える為の1年が始まった) かすかな秋風の中で息を弾ませ つまり、今日は、元日なのだと思うことにした。 |
9月2日(金)
回復への意欲も無い曇天は雨を漏らし、南風を浴びて汗を誘い、清々しさのカケラも無い残暑。 @八幡平市
見知らぬ道を抜けるのは、 今朝に限った事ではない。 そこに待ち受ける風景や、 そこに至る自らの技量や、 そんなことの為ではない。 生きる為に通る道がある。 不運覚悟で挑む道がある。 引き返せず進む道がある。 どうせ分け入る道ならば、 気配を消し去り身は低く、 遮るものにはきっぱりと、 情け容赦無くまっすぐに、 道が尽きるまで走り抜け。 |
9月1日(木)
汗に霞む8月の印象を断ち切っても、なお、9月の真夏日。晴天に関わらず夏雲に覆われた岩手山。 @岩手山麓
綴るべき詫び状もない秋。 君は君で、一人旅に出て、 僕は僕で、一人満たされ、 音沙汰無き事の清々しさ。 眺めは心のままに広がり、 明日は青空のもとにあり、 水筒の冷えた麦茶を飲み、 残した悔いなど探しても、 すでに懐かしいばかりで、 最果てに佇む君の記憶を、 風となって撫でてみたい。 |