イワテバイクライフ 2005年9月後半
9月30日(金)
「秋に三日の晴れ無し」の通説に反して、今日も、まずは穏やかな秋晴れ。最高気温は各地22度前後。 @岩手山麓
確信を失ったものは、 つくろうことを覚える。 真実を失ったものは、 いつわることを覚える。 希望を失ったものは、 うたがうことを覚える。 劣等感と自尊心の上に均衡するものは、 陰口の匂いを覚え、 疑心暗鬼の斧を振る。 猜疑心の炎を燃やす。 善良な大地まで焼き払い、 夜明けのカラスに笑われる。 |
9月29日(木)
朝晩の冷気は鋭くなる一方で、日中の陽気ときたら、かすかな汗すら誘うほどで、何より空の高さは、文句のない秋で。 @岩洞湖畔
いかにも無垢な青空に誘われ、 長い手紙を綴ってはならない。 過去を懐かしみ、未来を謳いあげ、 心にもない筆を走らせるうち、 拷問の果ての自白のような懺悔と引き換えに、 芝居がかった握手と抱擁と債務をもらい、 確約もできない同盟条約に署名させられ、 宴に興じ、不実な酒に酔い、歌わされ、 暗いネオンの下で、 一人嘔吐などしてはならない。 夜露をしのぎ、 愛するものと暮らしていけるのであれば、 けして、してはならない。 |
9月28日(水)
天気予報の「曇り」ベースなど、黙殺して広がる秋晴れに拍手。最高気温も20度前後の爽快。 @北上高地
この空のもと、 見渡す一面に 意味を問わず、 平穏か危機か 安息か流血か、 行く手に漂う 風を嗅ぎ分け、 瘠せ犬の如く、 無事をもとめ、 最期を予感し、 背負ってきた 痛みの数々を 石榴とともに 埋葬していく。 |
9月27日(火)
最低気温6度台と知らなかったから、爽やかな冷気などを賛美していた秋晴れの朝。 @岩手山麓
憂いもなき秋晴れのたび、 だめなものが、とことん、だめであることを 確かめてみたくなるなんて、 (あなたは、何と人が悪いのかしら) 聞く耳を持たない壁に、丁重に挨拶し、 誤解にしがみつく爪に、懇切に説明し、 感情任せの正義の旗に、頭を垂れ続け、 だめなものはだめであることを確かめ、 心おきなく清々しく風に微笑むなんて、 (あなたは、何と人が悪いのかしら) 一切は明々白々な理由である事を知り、 そんなことを、わざわざ確かめるために、 馬鹿馬鹿しさの扉をノックするなんて (あなたは、何と人が悪いのかしら) |
9月26日(月)
三陸の海を波立たせ、台風17号は遠ざかった。余韻の暗い雲は、昼過ぎには払われ、爽やかな夕暮れ。 @八幡平(樹海ライン)
梟は目をつむったまま聞いている。 天空に(ひょお)と解き放たれ、 矢は風に揺さぶられ、闇に消えた。 (狙い定めるのではない) 私を、きりきりと張りつめ、 行く手の邪気をはらうのだ。 潔く、ひと筆で描き切る放物線は、 澄んだ秋の毒を含み、突き刺さる。 子兎をしめあげる蛇の頭に刺さる。 巣の卵を口ばしで破る烏に刺さる。 裏切って恥じない獣に突き刺さる。 (狙い定めるのではない) 間断なく(ひょお)と。毒を含み(ひょお)と。 何千何万という放物線を描き、まれに刺さり、 たまらず闇が呻くまで(ひょお)と放つのだ。 |
9月25日(日)
台風17号が吹き上げる風と雨は、昼過ぎに遠ざかり、夕暮れの冷気には、一段と深まった秋が漂う。 @岩手山麓
毎日が 絵画だったり、小説だったり、 音楽だったり、彫刻だったり、 映画だったりする必要はない。 素描すら憚られる曖昧さや、 とっくに破綻した筋立てや 音を立てて崩れゆく旋律や、 重心の在処を失った構成や、 鋏が過ぎた沈黙の間合いや、 それらすべてに向き合って、 完結の道を探る必要はない。 辿り着けぬまま立ち消えていくものどもを 責めることなく無言で見送る静けさこそが、 毎日を引き受けて過ごす大人達の佇まいだ。 |
9月24日(土)
秋の本隊、岩手大陸に上陸。空は深く、雲は変幻自在。吹き渡る風が雨の印象など瞬時に拭い去った。 @滝沢村(トライアルパーク)
幾度挑んでも、辿り着けない。 何度試しても、見えて来ない。 確かに存在する走りを求めて、 箱庭のような空の下に留まり、 地平線の彼方を手繰り寄せる。 時間や距離を重ねるだけでは、 到底巡り会えない天地を思い、 ターンのその先に待つものや、 跳躍のその上に聳えるものに、 恋い焦がれ突き刺さっていく。 この秋晴れが根負けするまで、 童の如く悪魔の如く微笑んで。 |
9月23日(金)
冷えた曇天は、まばらな雨をこぼしながら、実にスローな風に流され、瞬間の青空などにじませ、夕闇へ。 @滝沢村(トライアルパーク)
ざんざんと雪が降る夜空を見つめ、 りんりんと虫が鳴く闇に耳を傾け、 ごうごうと木が騒ぐ暁に身を潜め、 小刀で心を削り出していくと分る。 言いたいことなど痩せ細っていて、 伝えたいことなど声に出せなくて、 描きたいことなど枯れ果てていて、 全ては雪に埋もれ、歌い尽くされ、 風に運び去られた幻の群れなのだ。 綴らず語らず描かず、音も立てず ススキすら揺らさぬ静けさこそが、 上々の意思表示であることを知れ。 |
9月21日(水)
盛岡の最低気温が11度台。乾いて澄んだ冷気。極上の秋晴れ。そんな爽快は朝のうちだけだった。 @岩手山麓
私が、どうであれ、あなたが何であれ、 明日へ続く道筋は、 思わせぶりな紆余曲折の果てに 幾多のどんでん返しが仕組まれ おさまるところにおさまるのだ。 私の思いがどうであれ、 あなたの理屈が何であれ、 あまねく愛憎がいかなるものでも、 すでに明日は、 一点をめざして駆け出したのだ。 思案と苦渋と選択の風景を見せながら、 結局、おさまるところにおさまるのだ。 だから、自らの想像力の至近距離に 事が至ろうとしたからといって、 先に勝ち誇った方が、負けなのだ。 |
9月20日(火)
朝から天気予報とは、ほど遠い高曇り。陽射しがこぼれた時間帯など印象希薄。 @岩手山遠望
止まっているものに 走りながら話しかけちゃいけない。 目を回して、怒り出すから。 四角いものの周りを 円く滑らかに旋回してはいけない。 噛み合わず、キレ出すから。 円く回っているものを見つけたら、 そっと寄り添うだけでいい。 やあ、と微笑むだけでいい。 どんな高速の風の中でも、 互いの心が止まって見えるから。 |
9月19日(月)
印象は灰色だったが、うっすら青空も出現した、そんな一日。気温は多くの地域で25度を越えた模様。 @イーハトーブ
勲章欲しさの旅に喝采し、 結束固めの処刑に熱狂し、 権威頼みの祭典を賛美し、 何はさておき、輪の中に 何はともあれ、参加して、 ブラボーを連呼するなど、 暁の雨に濡れた大地には、 どうでもよいことなのだ。 波打つ牧草の緑が消えた、 麦藁色の丘のはかなさよ。 やがて色褪せて消沈する 喝采も、熱狂も、賛美も、 最後は、濡れた麦藁色か。 |
9月18日(日)
雲の流れ早く、霧雨は、大粒の雨に変わり、強弱変化し、まれに陽射しを許しながら降り続いた。 @青森県新郷村
次のセクション(競技区間)に向かって 3人は森を走っていた。 バイクが半分埋まるほどの泥の轍を抜け、 清流を押し分け、上流をめざしていた。 沢を抜けると 最後尾を走っていたはずのS君の姿が無い。 (さては、トラブルか) 僕とYさんは、バイクをおりて引き返す。 車両でルートの逆走は御法度なのだ。 河床の小石をトライアルブーツで踏みしめ、 飛沫を立てて歩く。 初秋の水の固さを受け止めていく。 藪の陰でキックを繰り返す音がする。 有能なメカニック・Yさんの救援で、 S君の愛機は息を吹き返した。 偶然とはいえ、望外の清流散策は まったくS君のおかげなのだ。 |
「新郷グリーンパークトライアル大会」にて(河川の走行は、この大会に限り認可されたものです)
9月17日(土)
けだるく霞んだ晴天は北上するほどに高曇り。かすかに雨の匂い。「まさか」と笑い合う仲間。 @青森県新郷
車にバイクと食料と水を詰め込んで 青森県の新郷村へ入る。 大会前日のトライアル会場に 一番乗りか、と思いきや、 この人、ポッキーさんが陣取っていた。 イーハトーブトライアルのポスターを 飾ったほどの名物トライアラーは、 昨夏、病に倒れた。 半月に及ぶ意識不明から奇跡的に生還し、 衰えた筋力を懸命に取り戻す日々だ。 大会に出られる状態ではないが、 久慈から運んできた愛機のキックバーを うめきながら踏み抜きエンジンをかけた。 トライアルの空気を胸いっぱいに満たして、 親分は、笑った。 |
9月16日(金)
濃厚な秋晴れ、はかない筆雲は、やがて白く濁り、太陽の過剰な熱を残して夕暮れ。 @滝沢村(トライアルパーク)
繰り返し、繰り返し、 不安定な地形に安定の道筋を探った。 傾き倒れようとするものを立て続けた。 立ちはだかるものを乗り越えようとした。 (もういいだろう) 秋晴れに、きっぱり告げてエンジンを止める。 ようやく定まった地平線にトンボが寄り添う。 鳶が描く輪を飛行機雲が突っ切り伸びていく。 ハンドルを掌に包み目を閉じる。 街のサイレンが聞こえる。 空耳か、山の彼方に迫撃砲が轟く。 あの秋、私の地平線めがけて飛んできたもの。 着弾の瞬間を思い息を詰めた日々の記憶。 泣き叫びたくなる静寂を破って、 再び、エンジンを蹴り起こす。 |