イワテバイクライフ 2005年10月後半
10月31日(月)
秋晴れの舞台を準備する作業にメリハリもなく、どこか焦点のぼけた薄日の一日。 @イーハトーブ
重き体を まどろみの朝に横たえれば、 昨日は遠く、明日は彼方で、 今日を探る手すら重い。 頬に流れるのは、 夢に流した涙か、枯れ草の露か。 目を閉じ、音を遮る私に、 雲は黙々と形を変えて 光を招き入れる。 有無を言わさぬ夜明けの中で、 過去と未来の境界線に立ち上がれば、 長く伸びる影が 今日の私の居場所を指し示す。 |
10月30日(日)
寒冷前線の背後にはいつも寒気が控えていて、青空のかけらなど瞬く間に隠す冷えた雲。 @滝沢村(トライアルパーク)
昨日の雨を含んで、山は滑る。 壁に挑む時、 タイヤの回転ひとつひとつを支配する技術は重要。 行くべき場所に愛機を導く体の捌きも勿論、必要。 でもね、壁をきちんと見渡す力は、もっと大切なんだ。 見ることによって狙い定めた高さに届く力が生まれる。 そのエンジンの叫びや、最初の一回転を思い描ける。 駆け上がり、旋回し、駆け下りる。 それは、単なる道筋ではなくて、 胸におさめた大地を イメージという炎で燃やし、 ひと筆で描き切る大壁画なのだ。 |
10月29日(土)
陰鬱な雲ではなく、気温も朝から10度を越えて、穏やかに昼休みが終わった頃、雨は、おもむろに降り出した。 @イーハトーブ
排気量90cc以下の単車で ツーリングトライアルの真似事を楽しむ。 行く手が、マーカーやテープで仕切られるだけで、 心地良い緊張と、技量を問う場面が生まれる。 いつもは挑まない斜面の昇降。 露出する岩をかわしてターン。 雨を吸った黒土の際どいグリップ感覚。 笑顔に汗がにじむ。 すべての楽しさは、 イーハトーブの地形の恵みだ。 いつしか遊びは、熱を帯び、 更なるトライへかきたてる。 (遊ぶ時ぐらい、真剣にやれ) 誰かの言葉を思い出す。 |
10月28日(金)
朝方の岩手山麓など霧がたちこめ、晴天の予報とはほど遠い雲の大群。 @雫石町
居心地のよい隠れ家と よく手入れされた牙と、 研ぎ澄まされた計画と、 失う事を恐れぬ覚悟と、 躊躇を許さない確信と、 怒りと表裏の悲しみと、 歳月を数えない勇気と、 懐に何か楽器があれば、 君は何をしでかすのだ。 埋葬されてなお燃える 君の胸のうちは、何だ。 |
10月27日(木)
早朝の雲は、みるみる払われ、鋭利な冷気が風にまじるが、強まる陽射しに好々爺の風へ。 @岩手山麓
時の流れは気まぐれに 曲がり、くねり、溢れ、枯れながら、 いつか記憶の海へ消えていく。 轟々たる本流も、 地が割れ、星が落ちれば、 行く先を失う。 それでも、なお、 今朝の流れに乗ることに腐心し、 今夜の流れを止めるべく暗躍する者どもよ。 明日には記憶の海へ消えていく者どもよ。 浮き沈みの阿鼻叫喚を 虚しい一喜一憂を 一本の杭となって見届けてやろう。 |
10月26日(水)
この秋一番の冷え込み。最低気温1度9分の盛岡で初霜。秋晴れも、日が沈めば、冷えた刃物へ。 @岩手山麓
何かを捨てて、 何かを迎えて、 何か変わるような明日なら、 僕らは、とっくに、すべてを捨てて、 生まれ変わっている。 束の間、新しい風に吹かれて満たされる気分など 季節を数える度に、 色褪せ、ひび割れ、やがて、破棄される。 ところが、人は、 捨てたものの広さや深さを埋めかねて、 また、同じ形の何かを迎え、 (永久)を口にしながら、 別離の日を予感する。 |
10月25日(火)
岩手山の頂には、今朝も雪の白さ。それでも、里は穏やかな陽光のもと、秋たけなわ。 @岩手山麓
今日 銃弾に倒れる人がいる。 飢えて果てる人がいる。 絶望し命絶つ人がいる。 同じ星の上に 争いや飢餓や暗黒とは無縁の空があり、 晩秋の大地を眺め渡すだけの者がいる。 眉間に突きつけられた銃口の熱は、 この陽射しに比べて、どうだ。 泥水で流し込み吐いた草の色は、 この秋枯れに比べて、どうだ。 見渡す心の地平を失った寂しさは、 この道端の影に比べ、どうだ。 (君の最期の朝も、せめて、青空であれ) |
10月24日(月)
秋晴れを脅す唐突で暗い雲が冬を匂わせる。最高気温18度1分は、季節の猶予か。岩手山で初冠雪。 @北上高地
冷えた路上で激突した。 行く手に舞い踊る枯れ葉の一団と 冬へ突っ走る私が、激突した。 束の間、刺さり、振り払い、 潔く、縁を切り、すれ違った。 鋭角な光線の中に 焼け爛れ、燃え尽きた秋よ、 恋い焦がれたものは何だ。 すべてを風にまかせた理由は何だ。 走り去る私を見送る事なく、 枯葉よ、そこで舞うがいい。 踏まれ、砕かれ、粉々になるまで、 道の彼方が凍りつく日まで、 枯葉よ、そこで舞うがいい。 |
10月23日(日)
昼過ぎまで、昨日と何ら変わらない雨。すっかり諦めきった夕暮れに雨上がり。かすかな光。 @滝沢村
吸った息を吐きながら話す。 文章の長さを見越して、 意味を損なわない適切なポイントで 瞬時に息をつぎ、 何事も無かったように言い切る。 言い切れてこそ、メッセージは伝わる。 冷えた雨にぬめる斜面を登る。 正しく見抜いた道筋でも タイヤは滑り空転する。 瞬時にスロットルコントロールで 繊細な爪を立て、登り切る。 (呼吸を音声に) (回転を駆動に) 実力は、鮮明に聞こえてしまう。 誤魔化しが効かないから 楽しい。 |
10月22日(土)
いかに空を読もうと、濡れずに済む場所など無い。冷えた雨に、山野の秋、鮮血の如し。 @北上高地
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10月21日(金)
そろそろ初氷の平年日(盛岡・10月24日)。小春日和も猶予されているだけのもの。天気下り坂。 @岩泉町
去年のカレンダーを飾る格言に 励まされ、叱られ、諭され、 日々の道を選ぶ人生もあるのか。 三日前の新聞紙の片隅の言葉に 脅され、嘲られ、毒づかれ、 来た道を返す臆病などあるのか。 夕べ、自らの心に綴った言葉に、 とらわれ、問われ、試され、 道端に立ち尽くす朝もあるのか。 |
10月20日(木)
盛岡などでは、この秋一番の冷え込み。秋晴れの予報を覆す曇天と局地的な雨。 @八幡平
沈黙は、ひとつではない。 語るに足るものを持たない沈黙。 いつでも語れると自惚れた沈黙。 行動せず熟慮を装うだけの沈黙。 威厳のための口ひげ同然の沈黙。 内向した性格にほかならぬ沈黙。 自尊心の逃げ場にすぎない沈黙。 負け犬の用心深さにも似た沈黙。 私憤を晴らすまでの陰気な沈黙。 地縁血縁情実の社会に漂う沈黙。 残酷な罠で獲物を待つ悪の沈黙。 結論を人任せにする卑怯な沈黙。 貧弱な知性の常套句の様な沈黙。 事実の前に抗えず俯く者の沈黙。 そして、 向き合うものの深さを知る沈黙。 |
10月19日(水)
4日連続の晴天など「秋の空」の掟を破るが如き現象。最高気温20前後。怖いほどの快適。 @玉山村
この色は(私にしか語れない)と長老が言う。 この風は(私にしか綴れない)と重鎮は言う。 この道は(私以外に走れない)と王様は言う。 それでもなお、 語り、綴り、走る者の道は、三つ。 対決か、追従か、黙殺か。 (それはさておき) この空の蒼さのもとで、選択すべきものなど無い。 一切は、明らかな光の中だ。 心ゆくまで見渡し、呼吸し、 語ることも、綴ることも、歌うことすら許されている。 この朝に立ち会う者には、許されている。 |
10月18日(火)
いいのか。北国岩手で、10月も下旬だというのに、これほどの温暖、青空が許されるのか。 @玉山村
お前が思うほど 憎まれてはいない。恨まれてもいない。 まして、期待も信頼もされてはいない。 何をしようと、 誰も、訊ねない、質さない、気にしない。 (何という自由だ) 黙々と丘を越える雲の影よ。無縁の風よ。 夜を越える者どもに、せめて口笛を吹け。 信じ、夢見て、山並みの彼方に待つのは、 ひたすら一人挑み続けるお前である事を。 清明な朝の光を添えて伝えてくれないか。 |
10月17日(月)
草原で寅さんが昼寝をしているような穏やかこの上ない晴天。いよいよ天気安定の圏内へ。 @岩手山麓(八幡平への途上)
枯れ葉が、当たった。 カーブの奥に現れ、 一瞬、躊躇して、宙に舞い、 胸板を叩きつけてきた枯れ葉よ。 風に描く軌跡は無限にあったろうに、 お前が選んだその先は、 こともあろうに悲しい私だった。 その私は、今朝も走る。 カーブの奥を窺い、 一瞬、呼吸を置き、飛び込み、 鋭利な影を従え曲線を描く私よ。 風に描く軌跡は無限にあったろうに、 お前が選んだその先は、 こともあろうに寂しい秋だった。 |
10月16日(日)
夜を濡らした雲は、朝には晴れて、何事も無かったように麗らか。 @北上高地
ブロンズの秋よ。 私の指は、おずおずと、 貴女の髪を撫でるばかりで、 閉じた瞳を開くこともできず、 唇を撫でるばかりで、 冷えた沈黙を解きほぐせず、 うなじを撫でるばかりで、 深く沈んだ影を払えない。 見渡す限りの大気の一角を 頑なに閉ざす精神よ、 ブロンズの秋よ、 いっそ、抱きしめてしまえば、 誰も救えない私の体温を思い知り、 絶望する前に凍え死ねるのに。 |