イワテバイクライフ 2005年11月前半
11月14日(月)
青空は、確かにあったが、冷え冷えとした蒼さに過ぎず、気難しく姿を変えていく雲が、氷雪の季節への覚悟を促す。 @岩手山麓
貸し借りなき我ら、 気紛れに向き合い、 ただ微笑み交わし、 心満たされ別れる。 貸し借りなき我ら、 一切の思惑を離れ、 あるがままを眺め、 心癒やされ別れる。 貸し借りなき我ら、 明日の事を語らず、 今流れる雲を愛し、 確かめ合い別れる。 |
11月13日(日)
晴天予報の根拠を問い質したところで、寒気の気紛れがもたらす時雨など、理論の網で捕捉するのは至難。 @石鳥谷町(トライアルパーク)
時雨に濡れる斜面に 幾度も旋回を重ね、 最後の岩を蹴って跳ぶまでに、 ひと筆で刻まれていくラインは、 叶うことなら美しくありたい。 強弱、緩急、渾然一体の流れを思い描きながら、 最後の困難に向き合う時、 無様な足跡を残してきた私は、 立てるべき心を、 すでに失っている。 (所詮、こんなものなのか、私は) この日の惨憺の数々が、 果てしも無い悔しさに向かうなら、 せめて、明日を照らす炎となれ。 |
11月12日(土)
寒気のもたらす雲と晴れ間は、空を奪い合い、秩序を失い、冷えた夕闇に仲介を申し出た。 @小岩井農場
車検を済ませた愛機を受け取り、 夕闇の中へ走り出した。 国道のヘッドライトの海の中に、 ワックスで磨き込まれた燃料タンクが艶めく。 車影の薄い岩手山麓に加速していくと、 調整の手の入ったハーレーは、 柔和な火炎を踊らせ 熟した波動が私を包む。 (今朝、別れることを決めていたのに) 誘惑の正体を暴いてやろうと、 道端に立たせ、乱雑に写真を撮った。 (なんて、ことだ) ファインダーの中で私は、お前を抱き寄せていた。 |
11月10日(木)
沿岸の宮古でも初霜・初氷を観測。岩手山は砂糖をまぶしたクリスマスケーキ状態。青空があればこそハッピー。 @岩手山麓
心を大きく決めると、 長く放置していた難問の数々が いともたやすく解けていく。 その明快さは、 劇薬にも似て、淀み無く、迷い無く、 疑問すら寄せつけず、 ことを運んでいく。 そのように すっかり整理された私が 絶対にしてはならないことが、ひとつ、ある。 (振り向くこと)だ。 |
11月9日(水)
山間部など雪化粧。盛岡は、午前中、冷えた雨に濡れ、午後の晴れ間にも、街を乾かす力は無く。 @雫石町
合羽の下に二枚重ねたフリースで挑むには、 あまりに冷えた雨だ。 まして孤立無援なら、 砦を高くするのか。 堀を深くするのか。 それとも、酔漢となり、 他人の懐で、束の間、あたたまるのか。 あるいは、一切を見透かされて凍りつくのか。 雪の匂いただよう風の中で、 濡れ手袋だけが、 黙々と加速し減速し、 遭難したがる私を正気へ導く。 |
11月8日(火)
柔和な光と乾いた青空は、瞬く間に暗い雲に覆われ、強い風が吹き付ける雨に冷えていった夕暮れ。 @岩手山麓
真に軽蔑すべきものに、 人は、石など投げたりはしない。 遠くから吠えたてたりはしない。 やりこめるための台詞など思案しない。 ありのまま、思いのまま、自由に泳がせ、 やがて破綻し赤面し恥辱にまみれ、 自ら消え入る様を一瞥するだけだ。 真に軽蔑に値するものに対する態度とは、 そのようなものだ。 石を握り、牙を剥き、嘲笑をあらわにするなど、 軽蔑とは対極の心模様に他ならない。 |
11月7日(月)
冷えた青空に暗い雲の闊歩など、立冬の表情に過ぎない。20度前後の最高気温が今日の実態だ。 @玉山村
私が求めているものは、 眺めの美しさではなく、 季節の色の妙でもなく、 澄み切った空でもなく、 生きて朝を迎えた私が、 辿り着ける場所なのだ。 雲を追い、光に従って 彷徨った果ての場所だ。 焼け爛れた心に満たす、 一面の風の匂いなのだ。 これが最後の場所だと、 心底思える道端なのだ。 |
11月6日(日)
冬への助走は、あまりに緩慢で、歩道を埋める枯れ葉が無ければ、春そのもの。夜の雨は、荒れ模様の気配。 @岩手山麓
すべてを捨てれば、 もはや苦しまない。 すべてを失うなら、 もはや傷つかない。 けれど、 どんなに暗い地平線であろうと、 迎えなければならない朝がある。 莫大な犠牲と勇気をその腕に抱きしめ、 一滴の涙も許さず、 冷えた風に打たれる覚悟はあるか。 一言の弁解もせず、 氷の切先を受ける覚悟はあるのか。 一瞬の夢も求めず、 星無き夜に向き合う覚悟はあるか。 |
11月5日(土)
実に6週間ぶり。忘れていた土曜日の青空。頑張った分だけ汗が流れる陽射し。穏やかに冷える夕闇。 @滝沢村
跳んだり、越えたり そんな繰り返しの休日だった。 太陽は山の向こうに隠れ、 あたりに冬が匂う。 タイヤとブーツの泥を落とすうち、 結局、仲間は去り、一人、山に残る。 いや、取り残されたのではなく、 一人になりたかったのだ。 その為の、 ゆっくりとした帰り支度だったのだ。 エンジンを鼓舞したり、 大地を蹴り立てたり、 ささやかな挑戦の中で、 私が越えようとしていたものは、 夕闇を好む孤独癖だったのかもしれない。 |
11月4日(金)
風に初冬の辛気くささも無く、秋の燃えがらの匂いも無く、漫然たる薄日。夕闇の鋭さだけ本気。 @八幡平市
はたして私は、 お前を、どれほど大切にしただろうか。 お前を、どれほど快走させただろうか。 お前に、どれほど旅をさせただろうか。 実のところ私は、 お前を、古臭いやつだと見下していた。 お前を、重くて遅いと馬鹿にしていた。 お前を、売り飛ばそうと目論んでいた。 こんな私を、今朝のお前は、 安らかな波動と滑らかな駆動で慰める。 枯葉一枚の色彩を鮮やかに引き寄せる。 愚かな私の心を知りながら黙っている。 いっそ、あの道の先で転んでくれたら、 私は、泣きじゃくって許しを請うのに。 |
11月3日(木)
物憂げな霧が晴れても、青空に精気なく、光線に覇気もなく、ただ、試験管から漂う初冬。 @八幡平(樹海ライン)
色付き、色褪せ、枯れ葉舞い、 森は懐をあらわし、私を誘う。 足を踏み入れては引き返して、 落ち穂拾いのように道を拾う。 道に行く先をたずねる事なく、 曲がり角の先の困難を訊かず、 夕闇へ至る旅路と受け止める。 (ほら三角フラスコに冬が匂う) やがて一切が雪に埋まろうと、 同じ場所を掘り返してみれば、 この蒼い影が、きっと現れる。 山上めざす私の影が、現れる。 春に恋する私の影が、現れる。 |
11月1日(火)
盛岡で初氷を観測。冬の試し斬りなど、2度の地震(大野村・衣川村で震度3)で、うやむや。 @岩手山麓
埃を纏った8ミリ映画が、寝息に寄り添う。 南フランスの片田舎。 邸宅の庭を走る少女。 手には赤ワインの瓶。 白い花に振り掛ける。 赤く染まっていく花。 (その家は、代々、花をワインで育ててきたの) 屋敷の中で爆発の音。 飛び散る硝子の破片。 辺りに立ち上る硝煙。 母親を呼び泣く少女。 夢から覚め、隣に眠る君の名を呼べば、 (おそろしいわね)と寝返りを打つ暁。 |