イワテバイクライフ 2005年12月前半
12月15日(木)
夕べの小雪の薄化粧は、冬晴れの陽射しに崩され、道を洗い街を洗い、夕闇と共に凍結。 @玉山村
ほら今日も、ここで埋もれていられる。 進みたいだけ進んで、新雪に分け入る。 まったく我が儘だね。呆れた贅沢だね。 とことん進み続けた私と とことん道を塞いだ雪が、 ここで折り合いをつけて、 呼吸がおさまる時を待つ。 春が来てね、雪がとけてね、 若草が風になびく夕暮れに、 私は、何かひとつ納得して、 今日の記憶を下山させるよ。 だから、しばらく、こうして、 遭難していてもいいだろうか。 |
12月14日(水)
盛岡の最低気温・氷点下8度1分。走れば風が頬を刺す。唯一の嬉しさは、束の間のパウダースノー。で、真冬日。
日陰で 芸術や哲学を匂わせ 辛辣を気取る者に限って、 旅人の力強い握手や明朗な挨拶には、 無力なものだ。 陰気な手を差し出し、 照れ笑いを浮かべ、 口ごもるだけだ。 杯を交わしても、 無抵抗な相づちばかりだ。 所詮、数人に支配される森の 悲しさだ。 |
12月13日(火)
最高も最低も平年を5度前後下回り、1月下旬並の冷え込み。青空は添え物の真冬日。夕暮れの凍結路はソリッド。 @盛岡市近郊
重力よ、 私をまっすぐ立てる力よ。 幾多の悲嘆、別離と邂逅の種を蒔いた 見渡す一面に私を立てる力よ。 泣き崩れそうな心を掴みあげる力よ。 時に膝を折りそうな魂を 叱らず、諭さず、励まさず、 ただ大地にまっすぐ突き立てる力よ。 やがて夕闇に飲まれる私だが、 満天の星座を この一点から見上げろというのか。 何がどうであれ、 顔を上げ心を立てろというのか。 |
12月12日(月)
一気に1月下旬の冷え込み。玉山村の藪川で最低気温は氷点下20度2分。当然、盛岡でも青空ありの真冬日。 @岩手山麓
敵意も無い、 好意も無い、 関心も無い、 離れていて困ることもなく、 交わす言葉を捜すことすらないが、 会えば笑顔のひとつも差し出せる。 そんな僕らの仲は、 善良の旗を振り乱し、 あたり構わず徘徊し、 好意を押し付けたがる 嘔吐すべき影にくらべれば、 よほど清々しい。 |
12月11日(日)
青空の印象は、白銀の中で一層蒼く深くなった。圧雪の道は、日向でぬめり、日陰で凍り、二重人格。 @玉山村(岩手山遠望)
ずるいね、君は。 他人の顔を使って悪態をつき、 他人に立ち小便をさせて汚し、 他人を競わせ結果を持ち去る。 この丘に続く雪道を走る間、 私は、ずっと君のことを思い浮かべていた。 凍りかけた轍が交差し、 前輪が払われ、 天地をひっくり返される前に、 何食わぬ顔でバランスを保つには、 カーブの先に潜む君の正体をイメージするのが、 一番だ。 |
12月10日(土)
灰色の画布に終日舞い続けた雪は、乾いて、よそよそしく、凍結の大地をコーティングするばかり。 @岩手山麓
雪は、 私の暴言のすべてを 生き埋めにした。 悲鳴を上げるエンジンを押し上げ、 凍土を掻き、もがくタイヤを引きづり上げて、 半狂乱の息の中に 言ってはならない何十行もの台詞が入った。 もう一歩も進めない「どんずまり」に立たされて、 鞭当てる道も消えた安堵の中で、 思ったものだ。 (まんざら、私は、悪人じゃない) 振り向くと、 来た道に血の跡が追ってくる。 吐き捨てた台詞が、点々と凍る。 (これだけは始末していけ)と、山は呟いた。 |
12月9日(金)
雪の薄化粧は、陽射しにとかされ、すぐに、化粧直しの雪が降る。そんな繰り返しで水浸しの街は、冬の序の口。 @岩手山麓
この朝を、 そっとさしだして、 黒にも白にも見えるように さしだしてね、 誰かが、色を決め付けるのを 微笑んで待つ。 そう、陽だまりに仕掛けた罠のようにね、 小枝を組み合わせた程度の粗末なものだが、 冬雀が寄って来て、 首をかしげる様子を眺めるだけで、 それは、もう楽しいものです。 |
12月8日(木)
相次ぐ放射冷却現象で県北は最低気温が氷点下5〜6度(1月下旬並)の冷え込み。日中の青空が慰め。 @岩手山麓
何を語れば、 あなたが和らぐか、わかっている。 ずっとそうしていたいけれど、 それは、私ではない。 何を語れば、 あなたが険しくなるか、わかっている。 ずっとそうしていることも、また、 私ではない。 微笑むあなたを少し曇らせ、 冷えたあなたを少し和らげ、 行きつ戻りつの日々もある。 あれやこれやの日々がある。 |
12月7日(水)
教科書のような放射冷却現象。盛岡の最低気温が氷点下4度5分。ここから研ぎ澄まされていく冬。 @岩手山麓
あるがままに立ち、 風に抗わず、 雪を厭わず、 陽射しに微笑み 移ろうものと戯れ、 消えていくものを見送り、 記憶など手繰り寄せず、 日々の空に在り続けるものを慕って、 雲は流れてくるのかも知れない。 |
12月6日(火)
天気図の寒気団は、一切をマイナスに導くイメージだが、余程のエアーポケットなのか、青空と緩んだ冷気。 @岩手山麓
誰もが誰かを待っている。 君の行く手に友が立てば 心熱き賞賛が乱舞する。 君の行く手に敵が立てば、 悪辣な揶揄が泳ぎ回る。 寂寥の道に立つ者は、 すでに誰かを褒め称えたくて、 沸騰寸前の拍手を握り締め、リズムをとる。 すでに誰かを踏み潰したくて、 根拠も希薄な非難を用意し、リズムをとる。 さて、私の行く手には、 一面の静寂が待つばかりだ。 |
12月5日(月)
朝方のみぞれは重く薄い白さを印象として残したが、やがて雨にかわり、午後には乾いた街に忘れ去られた。 @岩手山麓
走る者は、 大地の彼方を求める。 嬉しいことに、走り続ければ、辿り着ける。 やがて、 その場所から更に遙か彼方があることを知る。 自らの心の手に負えない広大を知る。 人一人の箱庭の中に、 本当の地平線がある。 天地の狭間にあって、 ここがアラスカであろうと、 イワテであろうと、 魂が辿り着く場所は おそらく一緒だ。 |
12月4日(日)
寒気団に支配された青空や陽射しは、鋭利な影を伸ばすばかりで、その先には夕闇が凍結していた。 @岩手山麓
昔日に結論が決まっている明日達よ、 暗闇を照らす力も無い議論の数々よ、 あたかも黙秘の如く流れる時間達よ、 愚劣な保身の群れが結束した要塞よ、 僅かな蜜の為に廃人を装う論客達よ、 もはや、夕闇は凍り始めているのだ。 いかなる弁明も訂正も手遅れなのだ。 蒼い山岳の彼方に消える最後の光が、 その喉元に突きつける影は、漆黒だ。 |
12月3日(土)
陽射しは、じっと受け入れる限り優しいが、風は、逆らい走れば刺すように冷たい。夜は乾いた雪。 @盛岡市近郊
刺し込む寒気をやわらげるものが、 金属の塊だったりする。 心中に猛る吹雪をしずめるものが、 樹脂の板だったりする。 人の三叉路に忽然と現れるものが、 妄想の器だったりする。 寒気に固まり、 吹雪に遮られ、 選択に窮する者の前に 一切の意味も価値も語らぬ無機質な夢が、 確かに、あるのだ。 |
12月2日(金)
明け方降ったらしき雪が、ぶしつけな朝陽にとかされて、街は水浸し。夜には凍結。 @雫石川
何を持つのか、ということではない。 何を引き出すか、だ。 何処へ行くか、ということではない。 何を発見するか、だ。 何を満たすか、ということではない。 何を想像するか、だ。 何を見せるか、ということではない。 そこに、何があらわれるか、なのだ。 |