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イワテバイクライフ 2005年12月後半


12月31日(土)
かろうじて真冬日を免れた青空は、精一杯の光を振りまき、雪をわずかにとかし、結局、氷柱を長くしただけ。 @岩手山麓


  (冷えたレールの音がする)

  終着駅を思い描いた日から、
  残された距離と時間が流れ出す。

  通過する駅を数えだす。
  車窓の海や山を見なくなる。
  無駄口と笑い声が消える。
  新しい約束はしなくなる。
  昨日まで綴っていた夢を燃やして暖をとる。
  炎が尽きる前に
  逃げ切る手立てを思案する。

  生返事ばかりが増えていく。

  そのように人は衰弱していく。


12月30日(金)
衰弱した青空は、西から押し寄せる冬雲に飲まれ、かすかな光など漏らすから、殊更に冷えて寂しい夕暮れ。 @姫神山東麓(山谷川目牧野)

  太陽は、
  まさに山の稜線にかかろうとしていた。
  蒼白の大気に、
  凍り付いた獣の匂いが漂う。
  
  家路の距離を思った。
  逃げ帰る時間を思った。
  肺臓が焼き付くほどの復路を思った。

  胸のポケットを探った。
  身元がわかるものを探した。
  免許証の私が笑っている。
  役に立たない百円玉がこぼれ落ちる。
  誰にも届かない携帯電話が凍えている。

  


12月29日(木)
青空を背景にした屋根の上の雪の厚みは暗雲に他ならない。充分に固められ凍った雪は来春まで健在。 @岩手山麓

  夜明け前
  とぼとぼと雪道を歩く私の手に
  ハンマーが握られている。
  
  (夢の中で何かを叩き割った気がする)
  
  どんな夢だったか、
  思い出そうとするが、辿り着けない。

  ふと見上げると、人の影が近付く。
  斧を握り締めた私だ。

  やがて正面切って向き合う二人は理解する。
  
  恐ろしい夢を思い出してしまった私を消すために
  私は私を探していたのだ。


12月28日(水)
大雪は踏みしめられ、真冬日をいいことに分厚い氷に変った。雪雲に包囲された青空の何と無力なことか。 @玉山村

  希望と自信に満ちた顔で
  神頼みをしてはならない。

  猜疑と辛辣をにじませて、
  友情を結んではならない。

  一家言を懐に隠しながら、
  恭順を誓ってはならない。

  それより外に道なくば、
  すがりつくように拝む。
  目を潤ませて握手する。
  素っ裸で雪上に平伏す。


12月27日(火)
冬のグレーは、曖昧な水色に染まり、けれど、山並みは冬雲の中。夕闇とともに街全体分厚く凍結。 @岩手山麓

  いつも、片隅で、慎み深く、
  じっと焚き火でも見つめる眼差しが、いい。

  話の輪に火などつけず、
  賛否を問われても、
  困ったように微笑むが、いい。

  星など仰ぎ、酒を含み、
  酔った話を見送るのが、いい。

  春待つ森のように、
  じっとしているのが、いい。

  雪の重みを乗せたまま、
  黙っているのが、いい。


12月26日(月)
盛岡では12月としては観測史上最高の大雪。歩道は塹壕となり、片付けきれない雪は、まるで「かまくら」。 @岩手山麓



  走るのではない、
  噛み締めるように進むのだ。

  もがくのではない、
  折り合いをつけて進むのだ。

  冒険するのではない、
  道端に親しみつつ進むのだ。

  無事に帰り着くだけではない、
  ポケットに入り切らないほどの野苺のように、
  愛しんだ風景の数々を
  机に並べて微笑むのだ。


12月25日(日)
記録的な積雪が陽射しに緩んだ昨日。そのまま凍って道は荒れ放題。冬曇りに漂う小雪は夕闇とともに大雪へ。 @岩手山麓


  進むことを許さない雪がある。
  倒れそうな私を支える雪もある。

  ひたすらに走った果てに
  なお雪の中に呼吸するものがある。

  ある日、ここに生きることを選んだ者が、
  ある冬の大雪の夕暮れ、
  遂に立ち往生する場所は、
  とうに決まっていたのかもしれない。

  ここに行き止まり
  半ば凍り始めた水筒の水を
  あえぐように飲むことが
  決まっていたのかもしれない。

  


12月24日(土)
ひと晩でマッチョな銀世界へ。盛岡の積雪量61センチ。12月としては最高記録。日中は濃厚な青空とぬくもり。 @玉山村

  踏み荒らされ凍った雪道は、
  いかに険しくても
  私の非力を受け止め
  先に行かせてくれる。

  ところが、
  新雪と名が付く無垢な行く手は、別だ。
  とりわけ今日のそれは、
  夕べ初めて立った門番のように堅く、
  埒があかない。
  湿って重く分厚いだけだ。

  (なるほど)
  無数の轍が、そこで消えた理由を知る。

  オートバイを捨て、
  とりすました白さを蹴散らし踏み越える狂気を
  生き埋めにして引き返す。

  


12月23日(金)
曇りのち小雪、そして夕暮れの大雪。湿って粘度の高い雪。拭っても払っても銀世界は重くなるばかり。 @岩手山麓

  誰かの轍を頼りに
  私の轍を刻んでいく。

  滑ってうねる後輪を励まし、
  唐突に傾く前輪を立て直し、
  両足でもがき、蹴り進む。
  それらすべてが
  今日の私の痕跡となって続く。

  振り返れば、
  ざんざん降りの雪に
  夕暮れが青白く霞むばかりだ。

  もしも、私の轍を辿る者があれば、
  やがて気付くかもしれない。
  (こいつは闇夜に消えていくつもりか)

  今日という轍や記憶は
  ひと晩の大雪にかき消されていく。
  


12月22日(木)
大雪に身構えて肩すかし。盛岡などでは小雪舞い散る曇天。県北の湿って重い積雪を思うばかり。 @盛岡市近郊

  (何を求めて埋まっているのか)
  
  その理由を掘り出すために、
  今朝もまた
  膨大な白さに溺れているのかもしれない。

  あるいは、また、
  限りなく冷えていく愛機に
  再び火が入るかどうか怖くなり、
  キックスタートすら
  出来ずにいるだけかもしれない。


12月21日(水)
冷え込みで岩手の電力消費量は過去最高を更新(20日)。日中の温厚な冬晴れも束の間、大荒れの雲行き。 

  一番輝いていたいから苦しむのだ。
  常に横に並ぶものが気になるのだ。

  ならば、迷わず立ち止まるがいい。
  全てを見送り取り残されるがいい。
  数億光年の静寂にたたずむがいい。

  君が星屑であることに気付くまで、
  冬空一面の大星雲を見渡しながら、
  全ては一人である事を知るがいい。

  するとどうだ、愛しくならないか。
  皆等しく、実に懸命に孤独なのだ。
  その姿を仲間と言える日が来た時、
  君は、一切の調和を取り戻すのだ。


12月20日(火)
盛岡の最低気温が氷点下9度1分。師走寒波にも慣れてきた。一方で、こう続くと日中の青空にも有り難みが薄れてきた。 @玉山村

  己の未熟や臆病を
  良識の問題にすり替え、
  無為無策に安住してはならない。

  行くべき場所があれば、行く。
  すべきことがあれば、する。
  決めるべきことがあれば、躊躇しない。

  あらゆる手立てを尽くしてやり遂げる大人は、
  時に子供のように真直ぐだ。

  「ルールには従う、常識には縛られない」
  ほら、誰かが不敵な笑顔を浮かべて走り出す


12月19日(月)
盛岡で最低気温・氷点下9度。高速道路や空の便に影響が出たというが、日中の青空と陽射しは「別世界」の穏やかさ。 

  冬とは、こういうものだ。
  私の冬は、少なくとも、このようなものだ。
  
  すでに、あまりに当たり前で、
  すっかり、私のいつもの冬なのだ。
  おそらく、いつまでも変わらぬ冬なのだ。

  寒気を胸に満たし、炎の如く息を吐き、
  目を見開けば、見渡す限りが、これだ。
  幾度目を閉じリセットしても、これだ。

  当たり前のように、北国の冬だ。
  叫びたくなるほど、一人の冬だ。


12月18日(日)
寒気団襲来・猛吹雪の予報に諦めていた晴れ間がみるみる広がった。したたるほどの濃厚な蒼さで。 @玉山村

  走らなくても一日は過ぎていく。
  雪にまみれなくても生きていける。
  
  でもね、
  この冬の手応えを知らないまま
  春を迎えるなんて、
  僕には考えられないことだ。

  冬眠という温厚な怠惰で、
  歳月に空白を残すなんて、
  僕には耐えられないことだ。

  だから、
  今日も、こいつとスクラムを組んで
  鋭角に押し上げるのだ。
  


12月17日(土)
未明の地震(岩手県沿岸南部で震度4)と湿った雪。青空に励まされ雪かきの音あちこちから。 @盛岡市近郊

  この地に初めて立った私は、一人だった。
  けれど、ひとつの山脈を生きて越えた誇りがあった。
  
  この地の何処に山があり川があるか知らなかった。
  けれど、大地のひとつひとつを確かめることで、
  心の白地図は、染まっていった。

  誰にも知られず、関わらず、走り続けることを
  「孤独」と言うのなら、それは、つまり、
  切ないほどに澄み切った心のことだと
  思えるようになった。

  もしも、
  あのまま走り続けてきた私が、ここに現れたなら、
  今朝の私は、
  恥ずかしさのあまり、
  吹き溜まりに身を隠し、息を殺すに違いない。


12月16日(金)
師走寒波もひと休み。盛岡の最高気温3度5分。平年より低くても、昨日まで比べれば、風のやわらかさ。 @盛岡市近郊


  宝の山へ通じる道には、
  しばしば次のような文言が掲げられている。
  「この先行き止まり」

  (ほお)と一瞥し、歩み続ければよい。
  
  橋が流されているのではない。
  道が寸断されているのではない。
  ただ、お前の歩調の力強さを恐れる
  誰かがいるだけだ。

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