イワテバイクライフ2006年2月前半
2月15日(水)
音を立てて屋根から崩れ落ちる氷雪。人を閉じこめるも解放するも、大気の陰影ひとつなんて。 @盛岡市
君は、僕のブーツを見て笑い出す。 (あら、犬の糞かしら) ああ、そうかもしれない。 君は得心して青空を見上げる。 (また、踏んじゃったのね) ああ、そうかもしれない。 (困ったものね) ああ、困ったものさ。 僕ら二人、あの遠い秋の空を思って 微笑み合った。 |
2月14日(火)
曇りベースで、そこそこ滲んだ青空など論評すべきものではないが、県内10度前後の最高気温は春の兆し。 @盛岡市
どんなに 愚かで、 腰抜けで、 的外れで、 お笑いぐさであっても、 私の前に現れたものは、 すべて正しいのだ。 何故なら、 私が、いかに 愚かで、 腰抜けで、 的外れで、 お笑いぐさであるか、 (よく見ろ)と 誰かが突きつけた鏡なのだから。 |
2月13日(月)
薄ら寒いグレーに染まった朝に雪は舞い散り風に飛ばされていたが、夕刻に至り雨。夜気もやわらかく。 @盛岡市
戦闘は瞬く間に終わった。 後部銃座は被弾し 僕の肩は吹き飛ばされていた。 高度1万メートルの陽光の中に だくだくと血液は溢れている。 ガラスドームの中に薄れていく意識に 雲海の彼方へ散った弾丸の印象が蘇る。 コンピューターの予測通り 天空に描いた撃墜の火炎が 鮮やかなスローモーションとなる。 (ねえ機長、僕が撃墜したのは何ですか?) はるか空洞の先に呼びかけても、返事は無い。 レシーバーの中に聞こえるのは、 吹雪にも似た口笛だった。 |
2月12日(日)
冬将軍は、ほどなく陣形を崩すと言われていたが、冬晴れの後に押し寄せた凍結の夕闇。 @盛岡市玉山区(天峰山)
結論が用意されていることには、 沈黙が一番だ。 やがて、 何故黙っているのかと聞かれる。 いずれ、 それでは埒があかぬと罵られる。 時には、 不利なことが起こると脅される。 (いいのだ、黙っているがいい) すると、 退屈な打ち明け話など語りだす。 いいのだ、放っておけばいい。 遂には、 仲良くやろうと手など差し出す。 いいのだ、吹雪でも眺めていればいい。 |
2月11日(土)
朝方の貧弱な青空など、冬雲の不機嫌に蹴散らされ、刺すような雪と寒気に包まれ夜へ。 @盛岡市近郊
氷壁に突き立つ牙よ。 孤立する闘志の証よ。 春の怒濤の前に、 お前を支える苛烈な大地はない。 お前の根に絡みつく凍土もない。 お前が食い縛る風雪の夜もない。 魂をとかす光の中で、 ぬくもった黒土に白く横たわれ。 安らかな遺骨を装い花に埋まれ。 |
2月9日(木)
雪もちらついた。束の間、青空もにじんだ。印象の薄い空に反し、気温だけは、岩手全域、真冬日だった。 @盛岡市玉山区
眠れぬ夜の正体は、何だ。 世界の悲惨か。自身の無残か。 それとも、新雪に見失った未来の尻尾か。 (闇に目を開き、深く夜を呼吸せよ) 世界は、お前一人の為に立ち止まらない。 けれど、未来は、常に世界の中に拓ける。 夜明けが来る前に、 覚悟を決めろ。 |
2月8日(水)
重く湿った雲の布団のぬくもりは3月中旬並(最低気温)。日中も小雪は舞いながら真冬日の地域は稀。 @雫石町
初夏の風に命ざわめく頃、 洪水は一切の眺めを変え、 邪気や暗愚も押し流され、 私は、未来を語っている。 正しい天秤に身をゆだね、 花の香りを胸にみたして、 それはもう真っ直ぐ働き、 屈託の無い汗を纏い輝き、 うまい麦酒に喉をならす。 丘の向こうで地団駄踏む 野犬の群れに草笛を吹き、 そよぐ若草に身をしずめ、 溢れる歓喜に胸は波打つ。 |
2月7日(火)
湿った雪は飽きることなくチリチリとあたり一面を刺して、重くふくよかな銀世界を引きずり出した。 @盛岡市玉山区(姫神山麓)
もしや君が、 膨大な真実を手にしていて、 万が一、それが堰を切れば大変なことになる。 (とすると) 怯える影どもは、 君を大嘘つきか、 およそ下らぬ人間に仕立て上げることに 腐心する・・・。 それだけ告げると、 トレンチコートは夢の彼方に消えた。 ざんざんと大地を埋めていく 雪のスローモーションに息を吐き、 曇ったガラスに指で書いてみた。 (巨悪)と。 |
2月6日(月)
盛岡の最低気温は3月上旬並。それだけで陽射しの中、屋根の雪が励まされ滑り落ちる。 @岩手山麓
希望があるから走り出す。 道が続くから加速できる。 美しいものが美しく見えるのだ。 優しいものに優しくできるのだ。 オートバイの風は正直だ。 ひとかけらの嘘でも見抜き、 道端に黙りこくり、 てこでも動かない。 絶望の予感を楽観論でまるめこむ輩に 耳を貸そうとはしない。 それほどに この風は、素っ裸だ。 |
2月5日(日)
晴れ間の印象に広がった朝の希望も、冬雲の拡大に消沈の夕暮れ。 @盛岡市近郊
その時々 人は、何者かにならなければならない。 賞賛される者、非難される者、 誰かの思惑を背負わされる者。 立たされる舞台がどんなものでも、 幸いなことに、千秋楽は必ずやってくる。 ともあれ、客席の最後列に 我が身の孤軍奮闘を見守る本当の私が いれば、それでよい。 全てを見届け 静かに椅子を立つ人影を思い、 私よ、せいぜい楽日まで立ち回れ。 迷わず、怯まず、淀まず、颯爽と演じきれ。 |
2月4日(土)
この冬一番の冷え込みで迎えた立春。盛岡で最低気温氷点下13度8分。岩手雪まつり開幕。 @盛岡市近郊
通りすがりの影が、言葉を残す。 行きずりの影が、思わせぶりに立ち止まる。 やがて、言葉は風に飛ばされ、影は夜に飲まれる。 所詮、それぞれの人生のことで一杯だから、 私のことなど記憶の塵になる。 それぞれが、それぞれの明日の為に 束の間、関わる私の人生など、 何とどうでもよい事案だ。 すべてが過ぎ去った私の道に 箒をかけるのは、この私なのだ。 掃き清めた時間にじっと佇んでいれば、 ほら、彼方に春が現れる。 |
2月3日(金)
青空もあった、雪も舞った。宵の空に弓なりの月が出ていた。ひどく冷えていた。 @盛岡市玉山地区
最終列車の時刻が迫っていた。 私はイーハトーブへ帰らなくてはならなかった。 ところが、どうしたことか、 駅に切符売り場が見当たらないのだ。 駅員に聞くと、 少し離れたところにあるらしい。 私は、雪灯りの田圃の一本道に立っていた。 雪原の彼方に、ぽつんと灯りが見える。 行き先どころか明日を買う気持ちで 走り出していた。 (そんな夢を見た) 小窓の奥の 裸電球を背にした切符売りのことは、 あまりに怖ろしくて、 春が来るまで語れない。 |
2月2日(木)
夕べの大雪。今朝の銀世界。思いのほかに早かった天候の回復で混乱には至らず。 @盛岡市近郊
山岳を越えて押し寄せる光を浴びて、 胸を張り振りかぶれ。 丘一面の草を躍らせる朝風を受けて 足を高く蹴り上げろ。 竜神となってうねる雲の群れを纏い 弓なりの右腕を真っ向振り下ろせ。 花吹雪を切り裂いてうなる剛球よ。 大地の熱を巻き込み走る決め球よ。 躍りこめ、外角低目の疾風となれ。 |