イワテバイクライフ2006年4月前半
4月15日(土)
北国特有の気温へのこだわりなど溶解し、桜噴出への起爆剤のように陽射しは降り注いだ。 @岩手山麓
まあ、いろいろある。 あるにはあるが、 この光にとけていく私には はるか異国のことだ。 まあ、いろいろな声もある。 あるにはあるが、 この山に心を広げる私には、 みすぼらしい意見だ。 まあ、いろいろな毒もある。 あるにはあるが、 この風に包まれる私には、 春の大地の肥やしだ。 まったく、 槍の如き異議を唱える豪腕不在の朝よ、 この私を蒼白にするほどの影は、あるか。 |
4月14日(金)
桜の蕾をやさしく撫でる朝風。けれど、薄雲は払われることなく陽射しは遮られ、春本番は足踏み。 @岩手山麓
どんなに不自然であれ、 生涯に一度の別れを迎える者は すべての人々が、別れを惜しみ、 賛辞を贈ってくれるものと信じ込んでいる。 自分がいかに正しく美しかったか 永久に覚えていてくれると、 てっきり信じ込んでいる。 (何十回も見てきたよ、儀式の後を) お前の我儘放題の残像など、 さっさと掃き出され、 春風に残り香も飛ばされ、 皆、清々しく今に向き合うだけさ。 お前一人、いい気な涙を流した 空々しい儀式のことなど、すっかり過去だ。 |
4月13日(木)
5月並の陽気。うっすら霧に包まれて夜が明けた。日中は薄日もさした。何より、桜の蕾が膨らみ始めた。 @盛岡市玉山区
つい半月前のことなど、 人は忘れ始めている。 (それでよし) 人は半月先のことで頭は一杯で、 君の美しい思い出など霞んでいく。 (それでよし) どんなにひどい結末も、 花とともに散っていく。 君の暗い思惑など、 笛や太鼓の音とともに、 どうでもよい文書になって、 やがて、机の奥で黄ばんでいくのだ。 (よしよし、それでよし) |
4月12日(水)
最低気温が二戸、釜石で10度を越えるなど季節の勇み足。けれど陽射しは無く、まれに霧雨。 @盛岡市(本町通り1丁目)
至福への道は、 概ね、最悪の日々の中に芽生える。 明日を選択しようにも 目の前には、ろくでもないものばかりで、 とにもかくにも奇妙な標識に従い、 いかがわしいカードを握らされ、 とぼとぼ歩き出す夕闇がある。 (そんな時こそ) 自分を信じ、愛する者の手を握り、 歌を歌って歩き続けるがいい。 (すると、どうだ) みるみる完成するパズルのように 夜が明けてくるではないか。 (汝の前に現れしものを選べ) |
4月11日(火)
降り出しそうな曇天に気を配ったが、雫ひとつ落ちてこなかった。街の空気は、心持ち柔らかかった。 @盛岡市(北山)
街を愛し、 人に恋し、 佇む時間。 寄り添う壁に歳月。 香る暮らしは飴色。 通りすがる明後日。 流れ去る雲の下に 一人我が身を休め、 今日を見送る道端。 出来ることなら この塀にとけて 陽射し待つ午後でありたい。 |
4月10日(月)
優柔不断な空は、まず朝の曇天で探りを入れ、もったいぶった薄日をこぼすのが精一杯。薄雲に覆われて夕暮れ。 @岩手山麓(八幡平市)
残雪を撫でる風に血がまじる。 口腔外科で麻酔から覚めて5時間が経つ。 なお、わずかに血液はにじみ、 意識を赤く染める。 青白い夕闇にとける血の味は 鉄錆びていて、手負いの獣が匂う。 陰気な早春から脱走し、 雪原のまっただ中で撃ち抜かれ、 とどめを刺されるまでの間、 喉に溢れるものを飲み込む者の思いが どうにも、たまらなく、 今日の私には、わかるのだ。 |
4月9日(日)
春回復の歩みは、おずおずと、行きつ戻りつ、陽射しを小出しにして、結局、澄んだ晴天は月夜のこと。 @盛岡市
この路地に誕生した命がある。 この路地に流れた歳月がある。 この路地に行き着く旅もある。 縁もゆかりも無いから出会いがある。 まずは寄り添うことから始まるのだ。 止まり佇む場所を見つけ時を過ごす。 すれ違う人々に会釈するのも嬉しい。 町の音に耳を傾け匂いを胸におさめ、 光の中に我が影を得て救われていく。 (神よ、これが私の選んだ朝だから) |
4月8日(土)
ふっくらと雪化粧した朝は、やがて刺すような雨や霙に洗われ、西部戦線の塹壕の如く凍えた。 @岩手山麓
道は、覆われ、隠され、解けて、現われ、 人は、求めて、探って、踏んで、越える。 曖昧な春の雪よ。 何を怖れて私の行く手を覆い隠す? 見渡す一面に悪意のペンキが ぶちまけられていても、 (それが、どうした) 味方という味方が去って、 あとにはカラスが鳴くばかりだとしても、 (それが、どうした) なあ、お前。 俺は、愚かな暗闇から 消えたくて消えたくて仕方ないのだ。 この命と引き換えに 小心で薄汚い臓物どもを、切り裂き、焼き払い、 清々(せいせい)して滅んでしまいたくて、 それはもう、舌なめずりして、 うずうずしているのだ。 |
4月7日(金)
氷点下で始まった一日は、注意報・警報も無く、柔和に霞んだ青空に包まれ、やがて冷えた夕闇。 @岩手山麓
形を真似することは簡単だが、 他人(ひと)の思いをコピーすることは至難だ。 それを敢えて 金と暇にまかせて試みることは、 けして無駄な行為では無い。 何故なら、 他人(ひと)の心に芽生えた 色彩や模様、体温や言葉を あたかも自分のもののように あらわすことなど 到底叶うものではないことを 学べるからだ。 例え、どんなに、ささやかな(思い)でも。 |
4月6日(木)
青空と吹雪が交互にやって来て、何も変らなかったことは、寒風の痛さが本物の冬だったこと。 @姫神山遠望
待ち望んでいるのは、何だ。 復帰か。離脱か。破壊か。 あるいは、 跪き、額をこすりつけて哀願するか。 さもなくば、 酒宴のさざ波を離れ裏木戸を開くか。 いっそのこと、 上座の者どもに爆薬ごと躍り込むか。 (もう、いいではないか) 誰が首位に立とうと、 誰と誰が共謀しようと、 誰が誰を籠絡しようと、 (もう、いいではないか) 春の原子爆弾が落下してくるのだから。 |
4月5日(水)
暦の上では「清明(せいめい)」だが、5度にも届かない地域多数。冷えた雨の印象のみ濃厚。 @盛岡市
終ったわね。 (そうだね、長かった) 馬鹿馬鹿しい冬を一人で片付けたのね。 (ひどく濁っていたよ) よく正気でいられたわね。 (慣れていたからさ) もう十分に頑張ったのよ、あなた。 (その結果が、この空か) きっと、今年の春は、あなたへのご褒美よ。 (そうだといいね) 新しい地図に珈琲の香りがゆらめく。 川は、冷えた雨を集めて淀む暇も無い。 流れに居座り異臭を放つ者の姿など無い。 束の間の沈黙が雫を纏って、 僕らの朝は、水彩画さ。 |
4月4日(火)
春霞というより単に陽射しが濁っていたのだ。青空をかすめて吹く風は冷たかった。 @滝沢村
火曜日を私の休日に定めた者に、 まずは、感謝しなければなるまい。 その意図が、 犠牲を負わせたつもりかどうか知らないが、 私は、狂喜を奥歯で噛み締め、 ガッツポーズを背後に隠し、 ほくそ笑んだものだ。 私が打ち込む道の達人が この山の上に現われるのは、火曜日なのだ。 直に教えを請い、手ほどきを受け、 またひとつ階段を上がることが出来る日だ。 こんな私の休日を 毎週火曜日に決めた者の(うかつ)に、 乾杯するばかりだ。 |
4月3日(月)
夕べの雨に濡れた街に、冷えた風が吹き渡り、まれに白いものがまじり、冬の雲が乱舞した。 @岩手山麓
私よ。いま以上のことを願ってはならない。 (もっと何かできる)とか (まだ何かあるはずだ)などと思った途端 「純粋」は「単純」へ落ちぶれ、 「無垢」は「空疎」へ転落して、 「平穏」は「退屈」へ色褪せる。 「美しき絆」は「地縁血縁」に成り下がる。 すべて承知で選んだ道なら、 知らぬふりして向き合い通せ。 果てしない単純と空疎と退屈に親しめ。 なまあたたかい絆の闇に身を任せ、 地獄という地獄を極め尽くせ。 |
4月2日(日)
十中八九、雨の予想は、奇跡の余地もなく、曇天の濃度を高め、冷えて濡れる夕刻をもたらした。 @盛岡市
ここに出会い、ここを選び、 ここに再び帰ってきた日、 (旅は、終わった)と確信したのです。 もう、どんなことがあっても、 心はここにあり続け、 愛する人も仲間もここに暮らし続け、 私が帰る場所は、まさに、ここなのです。 どう逆立ちしても、ここなのです。 誰も手出しできない事実なのです。 この確定してしまったことの前には、 気紛れに巡って来る旅など、 春霞のうわ言のように 縁側のうたた寝のように さっさと流れ消えていく出来事です。 そして、気付けば、 結局、ここにいるのですから。 (おかえり)と微笑む人がいるのですから。 私の旅は、ここに終ったのです。 |
4月1日(土)
まったく思わせぶりな青空と陽射しじゃないか。最高気温が7度とか8度とか(盛岡)。 @八幡平市(岩手山麓)
その春の山肌に叩きつける。 「いわて」と。 艶めく冬の脱殻にぶつける。 「いわて」と。 芽吹きのどてっぱらへ撃つ。 「いわて」と。 嗚呼「いわて、いわて」と 幾万回の思いをめりこませ、 声帯を失うほど叫び続けた。 母音は心の質量を宿す砲弾。 ありったけの愛を込めた声。 思い残すこともない爆破音。 その度、山はこだまを返す。 嗚呼「イワテ、イワテ」と。 |