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イワテバイクライフ2006年5月前半


5月15日(月)
夕べの雨に濡れた街路樹の緑もみるみる乾き、霞加減の青空が広がり、初夏の汗がにじんだ。 @岩洞湖畔(盛岡市)
  
  どうしたら出来るのか、四六時中考える。
  少しでも参考になれば、噛付いて離れず。
  どこまで進歩できるか、終止符を打たず。
  僅かなヒントを掴めば、果てしなく試す。

  (それを努力とは言わない)
  自らに残されている鉱脈の気配に
  夢中になっているだけだ。

  (幻想でもいいのだ)
  例え、その熱の入れ様が尋常ではなくても
  本質に至る瞬間の至福に
  転げまわって歓喜する風景に比べれば、
  まったく静かなものだ。

  金鉱・油田にまさる宝は、
  (そこに至りたい)という熱情そのものなのだ。


5月14日(日)
「曇り時々晴れ」などという予報では、原色原形に支配された空を、表現しきれるものではない。 @滝沢村
  
  錬度の低い慎重さより、
  覚悟のある冒険の方が、
  結果的に越えられるものは大きい。

  理詰めに選んだ道より、
  魂の方角に従った方が、
  結果的に掴み取れるものは大きい。

  転落も、誤謬も、絶望も
  いいのだ。それも、また、私のひとつだ。

  すべてを受け止め、抱きしめ、噛み締め、
  生き続けることの狂気を思い知れ。

  (おそろしいほどの笑顔で絶壁に挑め)


5月13日(土)
花も散るこの季節に、最高気温11度1分(盛岡)の肌寒さは、こたえる。曇天小雨模様の陰気はともかく。 @盛岡市

  月の裏側で何が起きていても、
  私は、今夜も、ぐっすり眠る。

  どんな暗闇も潜み続ける限り、
  ただの(無)だ。

  月の裏側に心すら向けないから、
  私は、すっかり鏡の世界だ。

  そんな風景が癪に障って眠れぬ者よ。
  満たされて月を仰ぐ私に
  せめて、ひとつ鋭く吠えてくれないか。
  理路整然と、言語明瞭に、
  清明な精神を弾力に富む音声にこめて、
  吠えてみせてくれないか。
  月の表に仁王立ちして。


5月12日(金)
白濁した晴れ、のち曇り。日中から少し冷えた風は、夕刻、肌寒さへ。 @八幡平アスピーテライン

  (めざす北の岬は、すぐそこにあるけれど)
  
  この眺めを捨てて、
  何を見に行こうというのだ。
  この舗装路の先に、
  どんな冒険が待つというのだ。

  (もはや充分)
  雪の回廊が跳ね返す波動を浴びて心は決まる。
  至福の中で道程を断ち切る贅沢。

  引き返して、すぐトライアル。
  たった一人、
  存分のヒルクライムやステアケース。
  水筒を干しながら繰り返す。
  
  (求めていた時間は、つまり、これだ)


5月11日(木)
流れゆく雨雲、朝の葉桜濡らし、思い切った青空取り戻せず、低気圧に置き去られた雲のみ勇躍。 @岩手山麓

  夢の中で瞬間手にした真理を、
  書き留めることもなく、忘れた。

  (ともあれ)
  二日間トライアルに打ち込んだ私を
  露天風呂に沈めた。
  芽吹きの森林に霧は晴れ山が現われた。
  
  二日間走ったトライアルマシーンを
  師匠の元に運んだ。
  修理の合間に昨日の反省点が示された。
  
  こんな人生に思い焦がれてきた私を
  岩手山麓に置いた。
  迷いもなく流れる雲を見上げ微笑んだ。

  (もしや)
  夢の中のことは、こういうことだったのか。


5月10日(水)
低気圧接近の中で、昼前後には初夏めいた青空も陽射しもあった。岩泉町では真夏日。 @一戸町

  トライアルと温泉である。
  一戸町のトライアル愛好家の皆さんが
  出迎えてくださった。
  数年かけて整備されたトライアル場の、
  何という居心地の良さ。
  芝生の広場でゆったりくつろぎ、
  やおら、緩やかな斜面にトライ。
  障害物は適度にまるく、
  箱庭のように居心地がよい。
  ここに同行の師匠が練習問題を出す。
  小岩の群れの中にタイトターンの連続。
  最後のステージは、ブナ林の急斜面。
  県北の芽吹いたばかりの緑の下で
  黒土を捉え、急旋回、急上昇を繰り返す。
  吹き渡る風を深呼吸すれば、
  確かに「イーハトーブトライアル」の匂いがした。
  練習後の湯の中で、
  8月までの走行ラインを思い描いた。


5月9日(火)
目も眩む光線。飛行機雲が似合う青空。最高気温22度(盛岡)。乾いたTシャツのような風。 @滝沢村

  到底越えられないものばかりだが、
  ひとつの関門のことを思い続けていると、
  ある朝「越えてごらん」と私の前に立っている。
  10年前、初めてこの山に来た時、
  生涯無縁だと思っていた関門に心が向いた。
  大先輩のY氏が立会人になってくれた。
  試技は、あっけなく成功した。
  タイミングと勢いで越えられる高さだった。
  
  「問題ありません」と手短に褒めてくれた後、
  氏は、倒木だらけの林に私を導き、
  赤子でも跨ぐ高さの障害の上に
  恐ろしく窮屈な走行ラインを設けた。
  ハンドルをいっぱいに切った状態から
  前輪を浮かし体のひねりを入れて越えるのだ。
  見た目の難しさより、
  何気ない風景に潜む基本の大切さを、
  氏は、私に伝えたかったに違いない。


5月8日(月)
朝方は曇り。のち、おずおずと青空の断片が現われ、昼過ぎには快晴。ただ、風の冷たさは印象のひとつ。 @北上市

  新しいオイルを腹に満たしたこいつは、
  まったく人が変ったように上機嫌で、
  北へ引き返すつもりの私を南へ向かわせ
  さっさと裏道へもぐりこんでしまった。

  田園には水鏡が広がり
  開けてきた青空を一面に映す。
  かすかに冷えて乾いた風を浴びて、
  さざ波が立っている。

  (桜のことを言う風など、すでに無い)

  残雪纏う奥羽山脈の麓には、
  淡い緑を含んだ水彩の絵筆が走り、
  私を見知らぬ里へと誘い込む。


5月7日(日)
天気予報を遙かに上回って天気回復。午後には青空。が、夜になって再びの雨。 @盛岡市

  夢の続きだ。

  永久に満開の桜の下で、
  二つの村は向き合ったままだった。
  すべての村人が桜の木を挟んで
  相手の呼吸をうかがっていた。
  二つの村の男と女の縁談を
  双方きり出せないまま、対峙した。
  すでに何億光年という歳月が流れていた。
  
  その時、気まぐれな南風が吹きぬけた。
  はらりと花びらが宙に舞った。
  どよめきが上がった。
  花が散るなど、見たことも無い光景だった。
  
  人々の胸に(無常)の波が押し寄せた。
  これを合図に、双方の村人は輪をつくり、
  宴を始めたのだった。


5月6日(土)
最低気温13度6分(盛岡)など夏の朝。立夏は花曇り。艶消しされた桜花と若葉。 @滝沢村

  夢の続きだ。
 
  満開のまま永久に散ることの無い桜の木に
  一羽の烏(からす)がとまって鳴いた。
  (お前を惜しむ者など、もはや、いない)
  すると、淡雪のような花に包まれて、
  烏は、艶めく今日の羽を美しいと思った。
  空の果てに、いつか屍になる日が見えた。

  満開のまま身じろぎひとつしない桜の木に
  ひとりの旅人が通りかかって呟いた。
  (お前を待ちわびる者など、もはや、いない)
  すると、甘い花の香りに包まれて、
  旅人は、遠い昔に捨てた故郷を思い出した。
  道の果てに、老いて待ちわびる母が見えた。


5月5日(金)
雲に覆われ時折の小雨もあったが、花曇りというのか、気温は20度に迫った。桜は散り始めている。 @盛岡市

  夢を見た。
  黒雲が流れる丘に
  見上げるばかりの桜の木が一本。
  それは見事に満開なのだ。

  けれど、轟々たる風を浴びているのに、
  花は揺らぎもせず、まして散ることもない。

  私は、若草を引きちぎらんばかりの嵐の中で、
  空にあふれる桜花を見上げるほどに恐ろしい。

  このまま花は咲き続けるのか。
  未来永劫そうなのか。
  ならば、この丘に歳月は止まったままか。

  この春に閉じ込められ、置き去りにされ、
  狂い死ぬまで、
  同じ花を愛でていろというのか。
 


5月4日(木)
一点の曇り無き行楽日和。野山の季節到来。奥州市で熊が山菜採りの人を襲うなど影もさしたが。 @岩手山麓

  花は、待っていてはくれない。
  
  人に相談もせず咲き出すのだ。
  人を置き去りにして散るのだ。
  
  誰に求められ咲くのではない。
  誰にせかされ散るのではない。

  人の心とは無縁の花の決断だ。

  その日に咲き、その日に散る。
  全ての花に夫々の理由がある。
  
  人が寄り添おうと花は孤独だ。
  人が酔い歌おうと花は寡黙だ。

  (せめて花吹雪に耳を澄ませ)
  一年という歳月の儚さを聞け。


5月3日(水)
陽射しを遮る雲は無く、盛岡でも桜満開の春霞。一方で、沿岸は冷たい海風で3月下旬の肌寒さ。 @岩手山麓

  雲雀はさえずり、
  空を独り占め。

  私は風に染まり、
  山を独り占め。

  ねえ、雲雀、
  すべては分厚く重い冬に埋まっていた日、
  この季節(とき)を信じた私だけれど、
  本当に凄い春は、
  氷雪の世界に現れた幻だったのではないか。

  叶うものなら、
  幻に佇む私の記憶を遺影にしてくれないか。


5月2日(火)
満開の桜を照らす初夏めいた陽射しも束の間、雲流れ、日は陰り、肌寒く。 @滝沢村(トライアルパーク)

  おとといの大会の復習をした。
  斜面上の木々をかわしながらの急ターンに
  苦しんだから、今日は、こだわった。
  
  もの静かな仲間は、私の思いに頷くと、
  逆Vの字のターンをしてみせた。
  一昨日を越える高さと角度がある。
  何より頂点の木の下には根が浮き出ている。

  (出来るはずです)
  穏やかな口調が、私を押し出す。
  
  木漏れ日に染まって、
  幾度も心を決めては、挑んだ。

  息が荒くなる頃、気付くと、
  氏が音も立てず拍手してくれていた。



5月1日(月)
強烈な風は、乾いた赤土を巻き上げ行く手を霞ませ、沖合の波は、銀の魚の群れとなって輝いた。 @下北半島(尻屋崎)

  叩きつける風に弄ばれて
  私は蚊トンボ。
  乾いた羽も波の飛沫に濡れて、
  磯辺に舞い落ちる蚊トンボ。
  
  海鳥、私を見下ろし、飛び去った。
  「せめて、海を持ち帰れ。
  広すぎるなら、心に色染め、持ち帰れ。
  走っても、ひとり。佇んでも、ひとり。
  言葉と無縁の夕暮れならば、
  せめて、春の海に染まれ」

  涙が出るほど欠伸して走ってきた道を、
  忘れられるものなら忘れて、
  いっそ、記憶喪失の旅人になって、
  絵など描いていたいのだ。
  

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