イワテバイクライフ2006年5月後半
5月31日(水)
曇ってはいたが、時折、青空など開け、風も心地良く、まれに降り注ぐ水滴も、また優しく。 @滝沢村(トライアルパーク)
夕べは仕事場で過ごした。 深夜のソファーで仮眠をとっていて(夢を見た)。 山を覆い尽くす新緑は、無数の緑の蝶のようだ。 乾いた風に羽を揺らし、何かの拍子に舞上がる。 空は緑に染まって暗く、山は色彩を瞬時に失い、 取り残された私は一人、無限軌道を描いている。 (そんな夢だった) いや、夢などではない。確かに見た覚えがある。 枯れ果てた初冬の山だ。モノトーンの雑木林だ。 無限軌道を描いていた。答えのない道程だった。 遠い過去の私の孤独が、命の色を求め夢に出る。 (だから、今日も、ここに来た) |
5月30日(火)
雲の切れ間の青空は、いっときの陽射しをもたらすのだが、乾いて柔和な風に運ばれ消えていく。 @遠野市
私は、この30年近くの間に ご大そうな人々から教えてもらった事と言えば、 「責任という恐怖」と「責任の取り方」と 「責任を巡る人の豹変」ぐらいのものだった。 今日、トライアル修行に 私を導いてくれた達人は、 「もがく者をじっと見守る優しさ」と 「挫けそうになる者に夢を与える言葉」と 「自分の進む道を見極める目」と 「とにもかくにも進み続ける技」と それに「太陽のもとで食う昼飯のうまさ」を 教えてくれたのだった。 |
5月29日(月)
降るぞ降るぞと見せておいて、単なる牽制の構えの曇り空。夜に至り、注意報も「雷」から「濃霧」へ切り替わった。 @盛岡市
聞き分ける気も無いのに、 深くうなずいてはならない。 どうにもならないことに 解決を約束してはならない。 何ひとつ変わらない状況を前に 「あと一歩及ばなかった」と 見えすいた言い訳をしてはならない。 「私も辛い立場なのだ」と逃げてはいけない。 じっと座ったまま過不足無く微笑む者よ、 保身のための「聞く耳」を 鏡に映してみたことはあるか。 |
5月28日(日)
曇りのち雨。まれに雨脚は強まったが、強風や雷の注意報とはほど遠い小雨模様だった。 @滝沢村(トライアルパーク)
夕刻の山中にひとり、 泥を纏い雨に洗われ、 繰り返し問いかける。 (なあ、私よ) 心が定まらないなら、 体を地に押し付けろ。 高々と跳びたければ、 心底の力を溜めこめ。 明日を信じたければ、 挫ける私を突き放せ。 行先を知りたければ、 今日の私を凝視しろ。 |
5月27日(土)
薄曇りのち晴れ、夕刻には曇り、そして霧雨。すこし風強く日曜日の雨が匂ってくる。 @滝沢村
国際B級のS氏に マンツーマンの手ほどきを受けた。 正面切って向き合えなかった岩や斜面を 氏は、次々に練習台にして私を挑ませる。 夢中でクリーンしていくと分かる。 見た目で「不可能」と決め付けているものが、 いかに多いことか。 S氏の授業は、時々道草する。 山上の樹林帯で「シラネアオイ」の花を探した。 すると「ぴい、ぴい、ぽお、ぴい」と鳥が鳴く。 私が聞入っていると、氏は木漏れ日の中に呟く。 「あれは、イカルです。 くちばしが分厚くて、けして可愛い鳥ではないけれど」 人が越えられるものなど限られたものだが、 人が受け止められる自然の表情は無限だ。 |
5月26日(金)
朝方の冷え込みで雲海発生の地域もあった。晴れるには晴れたが、周辺の山並みも霞み加減。 @八幡平市(樹海ライン)
青空の下で、人は次の雨を心配する。 雨雲の下で、人は次の陽射しを願う。 (けれど) 繰り返す明暗と曲折の果ての風景は、 透明な青空や暗澹たる黒雲ではない。 (きっと) 大星雲の静けさにも似た孤独なのだ。 (だから) 濡れたといって落胆することなかれ。 照ったといって喜び勇むことなかれ。 天空の相貌に惑わされることなかれ。 すでに確定している未来を思いつつ、 今日の雲行きなど眺めているがいい。 |
5月25日(木)
冷えて乾いた夜明けの風が、雲無き空に溢れる陽射しを運び、やがて穏やかな夕焼けをもたらした。 @盛岡市(某バイク店)
夕刻、仕事から解放されて 半年ぶりにKTMを引き出す。 キャブレターに残ったガソリンを捨てた。 シリンダーのガスを抜いた。 プラグを点検・清掃した。 タンクのガソリンを入れ替えた。 そして、ミッションオイルを交換し、 ドレンボルトを締めて走り出すはずだった。 鼻歌まじりで回るT型レンチが、 唐突に手応えを失った。 (溜め息・・・)つまり、ねじ切ったらしい。 アルミのネジの溝を潰してしまったのだ。 急遽のピットイン。あられもない手術風景。 幸い、職人技で事態は収拾された。 帰り道、宵闇に飲まれていく岩手山に 君の声がだぶった。 「力いっぱいしくじる人ね」 私は、流れ来るヘッドライトの行列に照れ笑いした。 |
5月24日(水)
確かに晴れていた時間帯は多かったが、濃淡を折り重ねながら刻々姿を変える雲こそ「空の実態」だった。 @盛岡市玉山区
夜は、そこまで来ているのに、 鶯は、夜明けを告げるように鳴いている。 猫は、轢かれて息絶えながら、 カラスの餌として道の真ん中を占領する。 落日も日の出も、生も死も、 吹き渡る風ひとつで香りが決まる。 (神よ) この夕闇の深さに 私は、魂のすべてを沈めようと思うのです。 時を忘れて鳴き続けるものの熱情と 飢えしものに悠然と喰われる矜持を 抱きしめて、 この夕闇に沈み、ひとり冷え冷えと 聖歌など口ずさんでみたいと思うのです。 |
5月23日(火)
朝からためらいがちな小雨は、ろくに水溜りも作らず、ひたすら緑を艶めかせた。 @滝沢村(トライアルパーク)
徹夜の勤務を前に、 少し体を休めようかとも思った。 けれど、次の大会まで3週間足らずだ。 出来ることはすべてやっておきたい。 競技用のテープが消えた山は、 どこをどうトライしようと構わないのだが、 ざっと見渡した瞬間、 私が辿ることの出来るラインは数えるほどだ。 高さも角度もささやかなものだ。 ところが、憑かれたように反復していると、 挑める高さと角度が増していく。 新緑の画布いっぱいに 奔放な筆を走らせる日を思い、 基本を練りに練る。 |
5月22日(月)
盛岡の最高気温が21度4分など実態を語るものではない。若葉と鳥の羽を乾かす強い風の心地よさ。 @盛岡市
君が私をどれほど嫌っても、 所詮、私は君の人生の一部ではない。 (だから、私は、たかをくくっている) 君に嬉しい知らせが届けば、 君は、私への呪文のことなどすぐ忘れ、 ワインと花束を求めて駆け出す。 君に悲しい知らせが届けば、 君は、私を困らせる思案など放り出し、 溢れる涙を忘れようと駆け出す。 (ほら、遠ざかる、消えていく) 所詮、君は、私の生涯とは無縁だから、 君がどこへ駆け出そうと、 今日も私はここで一人安らかだ。 |
5月21日(日)
強烈な紫外線や、時折の風が巻き上げる砂埃はさておき、爽快な大気だった。麦酒日和。 @滝沢村(トライアルパーク)
愛機にゼッケンを付けてトライするのは久し振りだ。 まして初めての岩手県選手権だ。 あわよくばクリーン(足つき無し)などという 淡い希望は急坂を転げ落ちていった。 非力を思い知り、 ひとつひとつ「私の現実」を辿っていく。 一喜一憂せず、向き合うことで、わかる。 出来ることが確かに幾つかある。 出来ないことは、目を見張るほどの膨大だ。 出来るのに出来ない詰めの甘さもある。 観察する目。時の過ごし方。心の運び方。 挑むほどに 身に付けるべきものを突き付けられる。 (何と正直な五月の山だ) 試合後、初めてのシャンパンファイトにも、 有頂天にはなれなかった。 |
5月20日(土)
明確な雨音は夜が明けても続いたが、その後の回復ぶりはめざましく、各地で夏日(盛岡・25度) @葛巻町
北上高地に開けた牧野は、 彼方へ波打つ。 なだらかな丘を幾つも越え、 ここに停まる。 天上に続く若草の絨毯に 一人たたずむ。 風を遮るものなど無いから、 澄んだ口笛だ。 何という音色の懐かしさだ。 寝ころび聞く。 この地で生きると心決めた あの日の私と。 |
5月19日(金)
雲は天気図に従って着々と厚みを増し、天気予報より早く雨を降らせた。 @盛岡市(不来方橋)
私が、じっとしていても、 変ろうとするものは、変っていく。 私が、眺めている間に、 変る算段は、どこかで進んでいる。 私が、思いを寄せても、 変るものは、残酷に昨日を捨てる。 変らぬ思い出の中に 私の「住所」を探してみても 居場所を失った心に見付けられるはずもない。 途方に暮れる私に、 「明日」が夕闇の中で手を振るばかりだ。 見慣れぬ橋の向こう側で 手を振るばかりなのだ。 |
5月18日(木)
盛岡は夏日(最高気温25度7分)。透明度は低く、山並みは霞み、にじむ汗の印象まで白濁。 @上外川牧場
心に映るものを描き出さなくても、 生きていける。 その日の酒がうまければ、 よしとする。 心が求めるものに辿り着く為には、 生きる外ない。 今日の私に嘘が無ければ、 よしとする。 酔って、なお、真っ直ぐ 傷つき、なお、清清しく 生きているなら、 よしとする。 |
5月17日(水)
ひどく濁った晴天。霞む山々もけだるく。けれど、風は乾き、爽やかに。 @滝沢村
まずは すべて 土から 始まる。 芽生え 茂って、 実って おわる。 幾億の 希望も 絶望も 新しき 土中に やどる。 |
5月16日(火)
最高気温22度2分(盛岡)の晴天は穏和そのもの。大気乾燥。紫外線強烈。夕刻の俄雨。 @滝沢村
澄んだ湖水を 魚のように泳ぎ回ることができたら、 本当の深さがわかる。 清々しい山を 鹿のように駆け回ることができたら、 本当の高さがわかる。 北国の五月を 思いのままに泳ぎ、駆け回れるなら、 出会う幸せは本物だ。 光は影を従え踊り、 若葉は轟々と騒ぎ、 その場を離れる理由を失う時間の 何と恐ろしくも安らかなことだろう。 |