イワテバイクライフ2006年7月後半
7月31日(月)
梅雨明けが宣言されようと、されまいと、自立した者は、この乾いて熱をおびた大気を、どう評価する? @滝沢村(トライアルパーク)
不思議なことに、私の夢には、 いつも決まって同じ家と部屋が出てくる。 丘に連なる街には、朽ち果てる寸前の家があって、 私が住んでいるのだ。 歩けば、部屋全体がきしむほどの年代ものだ。 窓は、少なく、小さく、灯は裸電球ひとつ。 天井はおそろしく高く、中央に穴が開いている。 穴をじっと見つめていると、 漆黒の奥に誰かの眼が光る。 やがて穴から雪が舞い落ち、 ざんざんと大雪になる。 雪に埋まりながら、目を凝らして見上げれば、 永眠に向かう私が、こちらを見つめている。 夢の中には、未来への窓があり、 幾度覗き込んでも、私の最期が見えるのだ。 (これでよかったのか?)と叫ぼうとして、 夢は終わる。 |
7月30日(日)
天気予報より早々と晴れ間は現われ、陽射しは大地を照らした。だが、大気の冷涼は秋そのものだった。 @八幡平市
一切の言葉を取り上げられた日々のこと。 私は単車に跨り、 風の中で、ひとり風景を言葉にした。 流れ来る道を受け止め描写した。 頭上に木々が踊り 光と影の迷彩色に染まるカーブや、 波飛沫をかすめて 空に舞い上がる海鳥の鋭い白さや、 わき立つ夏雲の真下に漂う 水槽の匂いなどを、 即時描写したのだった。 ひとつの旅は、 つまり、幾万の決勝戦の実況に相当した。 あの日の私は、今朝の霧を、 いかに呼吸し、言葉にしたことだろう。 (大歓声の幻聴とともに) |
7月29日(土)
濃霧と低温の注意報が出される中、各地20度前後の最高気温は5月並。梅雨の総仕上げ。 @盛岡市
城壁に 毒々しいペンキで 悪口雑言を書いたところで、 塀の内側でぬくぬく生きている者には、 何も見えない、 届かない。 むしろ、 落書きの主は、 その塀の前を通るたび、 未来永劫消えることのない ある年の己の愚劣に向き合い続けるのだ。 (もしも、お前が、正しく物言う者なら) 自らの鮮血を筆に込め、 塀いっぱいに真実を記せ。 (塀の内側に嵐が巻き起こるほどの真実を) |
7月28日(金)
北陸から東北南部に雨の帯かかり、思いの外に濡れた岩手。梅雨の別れを告げる雨音。 @岩手山麓
支配する者は、いつか支配される。 その敗北が恐ろしくて夜も眠れない。 ひたすら支配される者にとって、 それは敗北ではなく日常だから、 深い寝息を立てる。 虐げられても黙々生きる。 支配する者が一人消えても 次に支配する者が現われることを知っているから、 不用意に旗など立てず、畑を耕す。 幾世代も、時をかけ、 支配者の没落を待っている。 遙か昔の恨みを土にしのばせ、 時折、腰を伸ばして、 衰退の様子を眺めている。 |
7月27日(木)
久し振りの青空。それは結構なことだが、早朝の空を彩った秋の雲に言及した者は、希だった。 @八幡平市
美しくも切ない理由を抱きしめ、 大きな決心をする時 (どうか) 目を閉じて深くゆっくり三度呼吸してごらん。 (ほら) 決まったはずの心が真っ白になっていないか。 (それでいい) 決める必要のないことだったんだね。 東西南北、前後左右、何から何まで決めなくても、 今日は過ぎていくし、明日はやって来る。 笑っていても、夜は忍び寄る。 悲しんでいても、夜は明ける。 もしも、何も決まらないことが苦しくなったら、 (いいかい) たったひとつ心に決めるんだよ。 (生きる)と。 |
7月26日(水)
遙か西の彼方の梅雨明け。その余波、北国の大気にまじり、大地かすかに乾く。 @盛岡市
馴染みの店のカウンターで カレンダーの写真に目がとまった。 夕暮れの広島だ。 川端の道の向こうに高層ビル。 オフィスの窓明かりが夕闇ににじんでいる。 (十数年前、私は、その窓辺にいた) 写真の川が大田川だったか、 天満川か、京橋川か、あるいは猿猴川だったか、 記憶は、暗渠をめぐるばかりだ。 確かなことは、 「私が、ほぼ爆心地で3年間生きた」 ということだ。 すべてを見渡す窓辺に立ち尽くし、 「燃え尽きる瞬間」を思い詰めた(あの日の私)よ 北国の片隅で酒に酔う私は、どう見える? 窓を覆う絶望の彼方に、私は、どう見える? |
7月25日(火)
重く湿った曇天に光り射し、白き夏雲などあらわれ、そこそこの夏日。いささか蒸し暑い午後。 @雫石町
明朗? それが何だ。 にわかに押し黙る者の気配など読めるのか。 闊達? だから何だ。 筆のひと運びを慎む態度を理解できるのか。 温厚? つまり何だ。 一切を蹂躙されてなお微笑んでいられるか。 ことさらに笑わず話など盛り上げず、 腰重く、濡れた森の如く静まり返り、 図に乗る悪魔の眉間に刃を突き立て、 何事も無かった様に暮らしていたい。 |
7月24日(月)
岩手全域に濃霧注意報が出され、盛岡などは、昼前後の雨で湿ったまま。 @盛岡市
梅雨が明けないまま 秋になるのか。 夜が明けないまま 朝は来るのか。 思いを明かさぬまま、 思い切るのか。 謎が明かされぬまま、 答えは出るのか。 欠落の印象を風が運び去る。 埋めきれない記憶の空洞を 冷えた口笛となって吹き抜ける。 |
7月23日(日)
昼前後の霧雨。午後、束の間にじんだ青空。乾いたばかりの街に夕立。梅雨明けの気配は皆無。 @滝沢村
秘術を尽くして競い合い潰し合う姿も稀に 事は、のんびり、常連の手で決まる。 自作の肩書きと勲章が 身の証しのすべてだから、 言い張る者が正論となり、 根深く手を絡め合った者どもの思惑通りだ。 己が愛する己のイメージそのままに うっとり権威でいられる理想郷。 這い上がりたければ、 平伏すだけで道が拓ける夢の如き大地。 (1回戦も決勝戦も無い) 球審の判定ひとつで 夏がひっくり返る野球大会の方が、 よほど美しい不条理だ。 |
7月22日(土)
梅雨の「末期」ではなく「佳境」というべき雨の断続。カタツムリなど悠然と暗い雲を見上げて。 @滝沢村(トライアルパーク)
山に一人。 まして雨だから、無理はできない。 ぬめり滑る土こそは油断ならない。 泥を纏い艶めく木の根など 罠以外の何ものでもない。 ところが、そのような孤独と困難が あやしい熱情に火を放つから厄介なのだ。 今日の空転やスリップダウンは、 青空の日の挑戦を遙かに楽にする。 (きっと、そのはずだ)と信じてトライする。 ひたすら「ままならないこと」に向き合い繰り返す。 越えられず、抜けられず、上り切れず。 そんな印象ばかり積み上げて、 少し熱が冷め、私の事が嫌いになったりする。 |
7月21日(金)
夏休みだとか、高校野球の準々決勝だとか、およそ似合わない梅雨寒。やがて小雨も重く。 @盛岡市
例え何もかも見えていても、 私が見ようとするのは、 ほんのひとかけらの真実だ。 見えなくてよいものは白濁のままでよい。 見たくないものは墨に塗り潰されていてもよい。 見てはいけないものなど闇に埋没していてよい。 (けれど) 本当に見たいことも 霧や闇に隠されている。 (だから) 流れる朝霧よ、 道の彼方に束の間途切れろ。 ひと筋の光よ 明日の行方を照らし出せ。 |
7月20日(木)
梅雨寒ほどではないにしても梅雨涼ではあった。空気もやや乾き加減、かすかに青空など滲んだ。 @葛巻町
見限られ、 切り捨てられ、 置き去りにされ 忘れ去られていくものよ。 荒野に 目を疑うほど美しい花を咲かせろ。 廃墟に 耳を疑うほど澄んだ歌声を届けろ。 そこに立ち会うすべての人々が、 (何故ここに?)と 理由を求めて立ち尽くすほど 底無しに不可解な(美)となれ(力)となれ。 |
7月19日(水)
どうやら岩手は、梅雨空の圏外で、青空を滲ませながらの曇天。夕刻からの小雨断続。 @盛岡市
丘は、 流れる霧に支配され、 すでに光の所在すら定かではない。 夕暮れなのか、 (私は、水の微粒子を纏い、火炎を起す) 梅雨の風を満たして爆音は 胸にしまった明日の涙を |
7月17日(月)
梅雨前線は寸止めで岩手安泰。曇り空は、時折明るくなり、吹く風はかすかに爽やかだった。 @盛岡市
1点をめぐる攻防に、 さあ、目を凝らせ。 使うのは、 カーブかシュートか、あるいは手榴弾か。 狙い澄まして叩くのは 金属バットか、速射砲か。 高々と頭上を越えていくのは、 ホームランか、巡航ミサイルか。 立ち上る煙は、 反撃の狼煙か、それとも宣戦布告か。 台本の無い世界を即時描写せよ。 試合終了まで、熱く。 すべてが炎の中に終る瞬間まで、命の限り。 (鮮やかに伝え切るがいい) |
7月16日(日)
梅雨空に変化無し。濃淡を重ね行き場を失った雲は小雨を撒き、幻の様な青空を滲ませて。 @盛岡市
正義を旗印にするのは自由だ。 勇気を褒め称えるのは自然だ。 理想を追い続けるのは自分だ。 (そして) 正義を捨て去ることも自由だ。 臆病風に吹かれるのも自然だ。 現実に飲まれるのも又自分だ。 (いいか) 自由であることの怖さを知れ。 自然であることの危さを知れ。 自分が正気であることを疑え。 |