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イワテバイクライフ 2006年8月後半


8月31日(木)
夏のエネルギー充ち満ちて、炎を消す術もない。最高気温28度5分(盛岡)。 @八幡平市

  
  八月の熱気が冷めるまで
  北を彷徨った。

  田山のドライブインで偶然
  イーハトーブトライアル実行団員の方に会う。
  大会の後片付けに奔走されているとのこと。
  「私にとって、大会はまだ終っていないんです」
  別れ際にそう呟いた氏の笑顔が
  無性にうれしくて、
  夕刻、トライアルの練習をした。
  
  次の目標を夕闇に手探りしながら、
  トライした。

8月30日(水)
薄雲は、いつしか厚みを増して、昼過ぎから小雨断続。最高気温は24度1分(盛岡)。夕刻の冷涼。 @岩手山麓

  馴れ合いの徒党においては、
  百にひとつの成功もあれば絶賛ものだ。

  孤立無縁の陣地においては、
  たったひとつの失敗も許されはしない。


  まして砲声を黙らせるには
  完膚無きまでの現実がすべてなのだ。

  しかし、それでは、益々目障りだから、
  追われ、揶揄され、潰される。
  


8月29日(火)
夕べの雨に湿った街は、生焼けの陽射しに晒され、何とも濁った風を生んだ。 @滝沢村

  道の行方を
  楽な場所から眺めているだけでは
  わからない。

  容易いか、そうでないか、
  手足を汚して確かめないと
  わからない。

  すべてわかったつもりでも、
  イメージ通りにやり抜けるかどうか、
  わからない。

  容易く見えるものほど
  おそろしい。


8月28日(月)
残暑は急速に衰え、大気寡黙にして冷涼。その落差に耐えきれず夕刻の土砂降り。 @盛岡市近郊

  何を組み伏せようというのだ。
  夕立は激しさを増し、
  見渡す一面を白く霞ませ、
  どうどうと大地を叩く。

  なまぬるい滝を浴びて走るほどに、
  この夏が洗い流されていく。
  夢中の日々が色褪せていく。
  結末の意味まで虚ろになる。

  ずぶ濡れの夕闇が
  (明日もイーハトーブはあるのか)と泣き叫ぶ。


8月27日(日)
アメダスの観測地点で30度を越えたのは岩泉だけ。澄んだ空に秋の気配も濃厚。 @八幡平市(七時雨)

  イーハトーブトライアル(最終日)の朝。
  二日間の旅を終えて
  トライアルライダーが戻って来るまでには、
  まだ時間がある。

  がらんとした七時雨を秋の光が満たす。
  丘に吹き渡る風は乾いて軽い。
  
  昨日、私がトライしたセクションからは、
  コーステープが消えて、いつもの高原風景だ。

  年に一度巡って来る(瞬間)のために
  人は何かを積み上げて来たのだ。
  その記憶は、ほのかな熱を宿し、
  やがて冬をとかし、春のぬくもりとなり、
  夏の炎となって蘇る。

  「次の1年」という長い長いセクションを前に、
  心は蒼く染まるばかりだ。


8月26日(土)
季節の移り変わりは暦に従うとは限らない。ほぼ真夏日前後の照り付け。 @八幡平市(イーハトーブトライアル大会)

  うまくいったり、いかなかったり、
  運があったり、なかったり、
  失敗の数がどうだとか、
  満点の数がどうだとか、
  一喜一憂してはいないか?
  
  入り口から出口まで、
  初めから終わりまで、
  偶然に身をまかせていなかったか?
  意図の無いまま走っていなかったか?
  地図の無いまま道を決めていなかったか?
  確信の無いまま挑まなかったか?
  
  うまくいったことの中に危うさはなかったか?
  うまくいかなくても、手応えはなかったか?

  何より、苦しむ仲間を励ましたか?助けたか?
  (今日という日は、結果がすべてではないのだ)
  


8月25日(金)
秋の気配など微塵も無い夏空。雲はエネルギーを溜め込み、夕刻になると劇的。 @八幡平市(安比高原)

  (おそらく)
  人は、ここに
  勝つために集うのではない。

  時を越えて友と語り、
  新たな友を心に迎え、
  ともに挑み、乗り越えるほどに、
  物語のような大地と天空が待っているから、
  今年も「明日」を求めて集うのだ。


  理想郷(イーハトーブ)の形を
  ともに確かめるために
  「明日」はあるのだ。


8月24日(木)
日中こそ夏空、数値こそ真夏日だったが、夕刻からの大気は初秋の手触り。夏の余熱を冷ます。 @盛岡市近郊

  数あるホームセンターのひとつの
  それも何故か金属資材コーナーで
  我らトライアル仲間二人は鉢合わせした。
  (あなたもですか)

  二人肩を並べて
  ボルトが5ミリだとか6ミリだとか、
  金具の厚さや長さがどうだとか、
  およそ暮らしとは無縁の思案を続けた。

  (偶然ではない)
  この週末、同じ場所で同じことをする者どもの
  今日という木曜日の行動は、
  そんなものかもしれない。

  それにしてもだ、
  (祭りの準備)には夏雲が似合う。


8月23日(水)
暦の上では「暑さもおさまる頃」と誰が決めたか知らないが、この盛岡の残暑を知っているのか。 @盛岡市


  世界最大のツーリングトライアルは目前だ。
  
  公道を走る準備は夕暮れまで続いた。
  競技に最善を尽くす仕掛は、
  宵闇の中で仕上がった。
  
  (まったく感激したことに)
  痛みに痛んだ愛機を
 
  諸先輩が取り囲み、、
  助けの手を差し伸べてくださった。

  (お陰で)
  バリッと火が入る2サイクルエンジン。
  控えめだが明確に点滅する方向指示器。
  少し嗄れているが一年ぶりに反応する警報器。、
  
  夏の最後へ私を導く装置は整った。

8月22日(火)
曇天に青いものが滲み出て、いつの間にやら真夏の陽射し。しぶとい残暑。 @滝沢村(トライアルパーク)

  夏のレッスンは、すべて終った。
  やるべきことは、やった。
  思い残すこともなく、
  山をおりた。

  目標という幻は
  大魚の如く私を深みに誘い、
  竜神の如く私を高みに導き、
  尽きることの無い練磨の時をもたらした。

  緑におう汗の中で気付いたのだ。

  夏の終わりの一日を、
  よりよく生きたい一心で、
  我が身を鍛えた日々こそが、
  つまり、
  私の「イーハトーブトライアル」だったのだ、と。


8月20日(日)
ギラギラの残暑に衰える気配無し、拭ったことも無い汗の量に呆然。ただ、夜風に秋の感触。 @雫石町

  (さて、私よ)
  この夏の結末が、どんなものなら
  嬉しいのだ?誇らしいのだ?気がすむのだ?

  何かを望めば、何かが遠のき、
  何かを得れば、何かを失う。
  それが許せない限り
  不安な夜は終わらない。

  お前が強く望むほど、人は、喜劇にしたがる。
  お前が深く祈るほど、人は、悲劇を期待する。

  目を閉じ、耳を塞ぎ、風に吹かれ、
  結末を迎えるがいい。
  すべてを爽快な笑顔で受け止めるお前を
  想像するがいい。


8月19日(土)
最高気温33度(盛岡)。平年比4度9分(高め)。急速な秋風も寂しいが、北国の熱帯も辛い。 @盛岡市

  愛機の総点検が始まると、
  主治医は、その惨状に呻いた。

  (もしや私は)
  自分の思いばかり押し付けて、
  相棒に何が起きているのか
  目を向けず、耳も傾けず、
  今日まで頑張って来なかったか。

  (単車は乗り手そのものだ)
  走ることだけに夢中になっていると、
  単車も大切なものを失いながら、
  なお、走り続けていたりする。
  本来の力とはほど遠いところで
  諦めながら走り続けていたりする。

  (私の走りは、所詮そんなものなのか)


8月18日(金)
インド帰りの同僚が「ちょうどこんな感じです」と笑う蒸し風呂状態。夕刻の大雨洪水警報。 @滝沢村

  この夏のカレンダーに従えば、
  がむしゃらに挑めるのは、今朝が最後だった。
  あとは、来週末に向けて、
  マシーンを整えるだけだ。

  それにしても
  「理想」というやつは身勝手なものだ。
  わずかな余暇も見逃さず、
  曖昧を認めず、迷いを許さず、
  暮らしを予定で埋めていく。
  (あとは、お前次第だ)と突き放す。

  黙々と計画に従った私にとって、
  理想など、どうでも良いことで、
  二度とない夏に
  悔いを残したくなかっただけなのだ。
  
  (ほんとうに精一杯の夏だよ)
  息は淡々と弾む。


8月17日(木)
夕べ秋の風を呼ぶ「舟っこ流し」が終ったというのに、熱帯の南風吹きつけ、べたつく真夏日。 @滝沢村

  美しい山野があるから
  「理想郷」なのではない。

  仕事の後のこんな時間に、
  夕食の前のこんな場所で、
  思いの限り大地の手応えを噛み締められる。
  夕闇にとける炎となって私を確かめられる。
  爽快な孤独に包まれ、
  募る思いを抱きしめ、
  ひたすら流れる汗の果てに希望を見る。
  こんな事が日課になるなんて
  (理想郷でなくて、何だ?)


8月16日(水)
蒸し風呂めいた混濁の残暑。吹き出す汗。冷房に正気を取り戻すなど、西日本並の真夏日。 @盛岡市
  
  少し立ち止まった。

  連日のトライアル修行で
  出来ないことばかり増えていくから、
  汗を吸ったジャージの重さにすら潰されそうで、
  だから、
  夏の流れを束の間止めた。

  (するとどうだ)

  柔らかくなる手のマメの寂しさよ。
  喘ぎ飲む水も無き寂しさよ。
  「もう一度」と張る意地も無き寂しさよ。

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