イワテバイクライフ2006年10月後半
10月31日(火)
空の高さ、光と影の深さ、見事に熟成した秋。 @滝沢村(トライアルパーク)
(忘れもしない) あの10月も、血のしたたるような秋だった。 私の絵筆を叩き折り、 染め上げた命を白紙に戻したのは誰だ。 燃え盛るものを 「無常」のひと言で消し去ったのは誰だ。 かろうじて息するものを 夜通しの雪の下敷きにしたのは誰だ。 いずれ来る春を囮(おとり)に、 あの秋の出来事を「忘れろ」と囁くのは誰だ。 我が世の春を謳歌するために ささやかな炎に託された私の思いを 踏みにじるのは、お前か。 |
10月30日(月)
まずは上々の晴天。下り坂の気配すら無く、冬の匂いなど皆無で、大地は素っ裸になって陽射しを浴びた。 @岩手県北部
光は、 雲に支配されている。 その雲も風まかせだ。 光を つかみ切れない私は、 雲の流れを見上げる。 風は にわかに歩調を落す。 大地に雲の影が止る。 (わかった、そうか、もうよい) 私はここに杭となって突っ立ち、 光を浴びるまで欠伸していてやるから、 お前も、この天空に居座ってみるがいい。 大気の気紛れに断ち切られるまで、 影をとどめてみろ。 |
10月28日(土)
霞みすぎる辺りの眺めは、つまり霧なのだ。言い切る間もなく晴れていくから厄介だ。 @盛岡市
無為無策の群れよ、 崩壊への傾斜に 身を固くするだけの群れよ。 無傷を誇った履歴にできるのは、 小声の陳謝と俯くばかりの懺悔か。 昨日までの平静、 先週までの威勢、 去年までの矜持、 その昔の皮算用と高楊枝は、どうした。 巧妙に仕組まれた最悪の道筋を 他人事(ひとごと)のように眺める群れよ。 おぞましき時代の降臨を 拍手などして迎えるお前の姿が見えてくる。 |
10月27(金)
白く霞んだ朝は、ひと筋縄ではいかない一日の暗示。気休めのような青空を嘲笑って各地で小雨。 @岩手山麓
見上げる山が すっかり変わったように見えるのは、 見上げる者が すっかり変わってしまったからだよ。 山は、 向き合うものの心に そびえているものだから。 歳月の中に 崩落と隆起を繰り返すのだ。 |
10月26日(木)
大気やわらぎ、安穏。そこそこの青空や陽射しもあったが、主役は奔放雄大な雲の乱舞だった。 @盛岡市
憎悪に燃える日まで、 愛す。 反乱へはしる日まで、 従う。 破壊し尽くす日まで、 創る。 (だから、その日まで) いかなる後悔も残さぬほど、 道は一途であれ。 いかなる躊躇も許さぬほど、 道は冷徹であれ。 |
10月24日(火)
終日の小雨。時折の北風。傘の中に吹き込む冷えた雫。秋のどん底。 @盛岡市
ねえ、僕の目の前に どうにも許せない あの秋の卑劣漢が現れたら 僕は、引き金を引いてしまうと思うのだが、 ねえ、それでもいいかい。 引き換えに、一切を失ってしまうけれど、 それでもいいかい。 幾度も念を押す僕に、 君は微笑んだ。 「あなたの思いのままに。 その日のために あの日々を私たちは生き抜いたのだから」 (夢の涙が枕を濡らしていた) |
10月23日(月)
秋霖の匂い漂いながら、曇天は思わせぶりに、風に水滴をしのばせたり、街を乾かせたり。 @盛岡市郊外
深い理由(わけ)があるのだ。 十年の経緯。百年の物語。千年の宿命。 わけしり顔を寄せ付けない理由の淵があるのだ。 数年の断片を読み解いて正邪を論じ、 ありきたりな判定を下しても、 一切は解けず、一向に動かず、 結局、何ひとつ変わらないものがあるのだ。 その理由を 生涯をかけて知ろうとする者など希だから、 真実は、離れゆく者のカレンダーを見透かす。 歳月は、忘却の彼方へ整然と流れる。 わたしが、ここにいる理由すら、 そういうもののひとつなのだ。 |
10月22日(日)
盛岡など初霜観測。寒気を呼吸する大地の白い息たなびく朝。日中は極上の秋晴れ。 @室根山
例え、小さな大会であっても、 参加する顔ぶれには、 その時、その土地の達人といわれる人々がいる。 私が這々(ほうほう)の体で抜け出た関門で 遙かに困難な道筋に 「緩急・強弱」「間合い・決断」の妙を織り交ぜ、 水の如く流れていく姿がある。 行く手を見据える眼差しの頼もしさ。 複雑になりかける道筋を解き進む逞しさ。 何事もなかったように微笑む強さ。 (なんという生命力の眺めだ) すっかり歳を重ねた者には、 永久の印象なのだ。 |
10月21日(土)
澄み切った青空に雲の群れ舞い踊り、木々の色付きもいよいよクライマックス。そして鋭利な星空。 @岩手山麓
この朝に辿り着いた。 この光に辿り着いた。 (琥珀に閉じ込めてしまいたい時間) 手を伸ばして掴もうとすると、 雲が踊り、影は流れ、 見渡す一面を運び去った。 幾億の秋の記憶を消し去った。 大地が再び光を取り戻す時、 私は、この私に辿り着くのだ。 |
10月19日(金)
早朝の雨に濡れた街は、陽射しを減衰する薄雲に精彩を欠き、どこか湿って、もやもや。 @盛岡市近郊
人食いライオンは森を支配していた。 誰も手出しは出来なかった。 ところが、一匹の猿の耳打ちで、 ライオンは、ついに村人の罠にかかった。 檻の中で処分される日を待つことになった。 森は平和を取り戻した。 けれど、用心深いジャッカルは安心しなかった。 ある晩、檻の鍵を壊し、血のしたたる肉を差し入れた。 腹の減っていたライオンは、 逃げることも忘れて、むさぼり食った。 鼻面を鮮血に染めて、たらふく食った。 その様を見て、村人たちは怒った。 (この獣め、どれだけ殺せば気がすむのだ) 無数の銃口が一斉に火を吹いた。 |
10月19日(木)
街は穏やかな秋空。周囲の山々は濃霧注意報が解除されても、うっすら霞んだまま。妙になまぬるい夕闇。 @花巻市郊外
「あなたの、あの秋の出来事を 詳しく伺いたいのですが」 電話の向こうの言葉の勢いに 封印された記憶が、にわかに熱をおび、 私は国道4号線を南下した。 「何故、微笑んでいられるのですか?」 「何故、憎悪すべきものの懐で眠るのですか?」 「何故、正気は、あるいは狂気は、保たれたのですか?」 矢継ぎ早の質問は、 巨大なものを突き崩す確信に満ちていて、 北国の四季に安住しようとする私を わし掴みにしてペンをはしらせる。 (これが、すべてです)と語り尽くした私に その眼差しは、かすかに濡れて、深くうなずいた。 |
10月18日(水)
季節の舞台は、いつの間にか移ろう。その「いつの間」のような一日。冬へ向かう北国を曖昧にやわらげる陽射し。 @盛岡市
先頭を行く者は、夢をのこす。 その後を追う者は、轍を残す。 更に後を追う者は、埃を被る。 埃すら立たないところで 追いかけやすい影ばかり追う者は、、 いつも一日遅れで、 苔むした轍を堂々巡りだ。 さあ、たまには風を追い越し、 未踏の大地に轍のひとつも刻むがいい。 |
10月17日(火)
束の間「秋晴れ続き」と喜ばせた青空は、午後の雲に覆われ、街は夕刻の雨に小一時間濡れた。 @内丸一丁目(岩手公園)
東京の、 音楽業界で、 それも最前線で 精一杯頑張ったMさんは、 8年前、 奥様の故郷、 東和町の土沢に 移住して喫茶店を開いた。 今では、 地域の人と 手を携えなながら、 音楽の輪をひろげている。 「岩手に移住して、夫は、 肉食獣から草食動物になったんです」と 奥様は真顔で話してくださった。 (わかります、私も・・・)と言い出して、黙った。 Mさんがギターを爪弾き始めていたから。 |
10月16日(月)
概ね「秋晴れ」なのかもしれないが、爽やかさとか透明度において、生命力は希薄。 @滝沢村(トライアルパーク)
10日前の大雨と強風は、 山の眺めを一変させた。 木々の葉は、色付く間もなく飛ばされた。 煽られ揺さぶられ耐えかねた木立の屍が続く。 落ち葉は、 乾いて痩せ細り、 色に込める思いすら奪われ、 踏みしめるほどに「ちりちり」とすすり泣く。 もはや何も遮るもののない場所に、 冷えた光がしみわたる。 「冬が来る前に、ひとつ階段をのぼれ」と 私を照らす。 |