イワテバイクライフ2006年11月後半
11月30日(木)
制空権は冬の雲に握られ、時折の青空や陽射しに巻き返す勢いもなく、宵の空に小雪などちらゆく。 @盛岡市
列車の窓外に その山並みが流れると、 帰るべき場所へ 帰ってきた思いが込み上げる。 一日でもこの地を離れる時、 その山並みが流れ去った後の 列車の窓辺の何という寂しさだ。 (そんな時は) いっそ音速の戦闘機におさまり、 数限りない海峡や山岳や砂漠を越えて 紺碧の宇宙へ上昇し、 束の間 この山並みのことなど忘れてしまいたい。 |
11月29日(水)
朝方の雨雲は天気予報を置き去りにして、さっさと払われ青空到来。師走目前の妙に生ぬるい一日。 @盛岡市(高松の池)
青空に包まれて 冬を越すのは難しいけれど、 仲間と身を寄せ 冬を生きる事なら叶いそう。 木枯しを受けて肩をぶつけあったり、 凍り付いて寄り添えず黙り込んだり、 大雪に埋まって沈みそうになったり、 そんな冬の思い出を青空に包んで 僕らも浮かんでいたい。 動乱の火の手や 悪魔の流星群や 大地割る地震に この空を失っても、 隣に君が寄り添ってくれれば、 冬はいつか動きとけていく。 僕らを包む皮膜も払われる。 |
11月28日(火)
流れる雲は間断なく霧雨をもたらし、冬支度の山野を雫で飾った。 @滝沢村(トライアルパーク)
この二日ほど、 いい気になっていなかったか? 日曜日の祝杯で 今年のトライアルの幕にしようと 思ってはいなかったか? (何という愚か者だ) そぼ降る雨に濡れたこの山で 私が出来ることなど幾つある? 見上げる斜面に挑んで滑り落ち、 ぬめる倒木に足元を払われ越えられず、 急旋回する度タイヤは流れ、 泥の中に手を着いて ただ喘ぐだけの私こそ、 今日向き合うべき本当の私なのだ。 |
11月26日(日)
朝方の田園・山野など霜柱・薄氷に白く染まり、放射冷却現象ここに極まる。日中は束の間の温暖。 @滝沢村(トライアルパーク)
他人(ひと)を窺わず、その道筋を見る。 他人(ひと)を追わず、自身から逃げず。 他人(ひと)を頼まず、天地と共に走る。 (そして) すべて終われば、他人(ひと)は我が友。 |
11月25日(土)
絵に描いたような放射冷却。盛岡で氷点下3度5分。その代償の青空は、あまりにポスターカラーで。 @岩手山麓
うれしい朝は、終わったことを忘れさせる。 すべてが、ついさっき始まったみたいだ。 かなしい朝は、終わったことばかりが蘇る。 すべてが、遥かな旅の途上に見えて来る。 むなしい朝は うれしいことも、かなしいことも ただ、蒼く染まっていく。 その明るさが許せず 声を限りに天空を切り裂けば (ならば)と 核爆発の如き火の玉が、 うれしいことも、かなしいことも ついさっきのことや、ずっと昔の物語を 焼き尽くす。 蒼い印象さえ炭化させる。 |
11月24日(金)
盛岡の最低気温は氷点下2度。空の蒼さに気をとられていると足元に薄氷。 @岩手山麓
花の乱舞に陶酔した代償か。 緑陰の風に午睡した代償か。 秋の色に心を染めた代償か。 今朝の風は鋭利に私を貫き、 熱を、光を、道を奪い去る。 花々を追い心を開いた私が それほどまでに憎かったか。 瑞々しい光に心癒やす私が、 それほど妬ましかったのか。 色付く山々に心燃やす私は、 それほど疎ましかったのか。 底冷えの影にうずくまって、 轟々たる雲河を仰ぎ見れば、 ゆっくり氷山が押し寄せる。 |
11月23日(木)
青空さえ寒気がしみて固く、陽射しさえ西に傾くほどに冷え冷えと。 @滝沢村(トライアルパーク)
僕らの道程は 直線だけではないし曲線だけでもない。 直進と旋回を繰り返す無限軌道なのだ。 まっすぐ走るから、曲がることを覚える。 曲がった後だから、直進の構えを覚える。 その果てしない輪の中で知るのだ、 バランスの意味を。 真っ直ぐだけでは、退屈だ。 曲がるだけでは、窮屈だ。 うれしいことに僕らの道程は ぎりぎりのターンと存分のフル加速。 その渾然一体の流れを指揮するものは、 行く先を掴んで離さない視線なのだ。 |
11月21日(火)
朝方の雨に濡れた街は、おずおずと射す午後の光ぐらいでは乾ききるはずもない。 @盛岡市(高松の池)
洗っても、洗っても 消えない秋の記憶がある。 散っても、散っても なお燃え盛るものがある。 奪っても、奪っても 実り続ける人の夢がある。 斬っても、斬っても、 立ち上がる人の業がある。 新雪に覆われてなお、 しみ出す鮮血の如き思いがある。 |
11月20日(月)
強まることも弱まることも大した問題では無く、ただひたすら大地を濡らす雨。 @滝沢村
いつものトライアル場には、 コーステープが張り巡らされ、 大会の準備は整っていた。 当日までセクションは封印され、 「入り口」と「出口」の判別も定かではない。 その閉じられた風景を推し量るほどに、 堂々巡りする孤独が見えてくる。 (なるほど、道の途上では、皆たった一人だ) この当り前のことが 夕闇を照らす真実のように揺らめいている。 |
11月19日(日)
見渡す限り空蒼く、光ぬくもり、ぴたり風は止み、初冬の幻覚。 @安比高原(八幡平市)
さあ君の番だよ。 葉を落し現われた大地のうねりに挑むのは。 さあ君の番だよ。 目も眩む陽光の中で新雪にまみれ叫ぶのは。 さあ君の番だよ。 尽きる事なき風景の奇跡に立ち尽くすのは。 そして私の番だ。 歳月の不思議と人の情けに とめどなく溢れる涙を抑えきれないのは。 |
11月18日(土)
束の間、空から雲は消え、見渡す一切の眺めは鋭利な輪郭を持ったのだ。 @岩手山麓
人びとが、等しく微笑み歌を口ずさみ、 明るい丘の頂に手をつなぎ輪をつくり、 勤労の汗を浮かべ、奉仕に目を輝かせ、 明日の理想を語り、空に向い胸を張り、 豊かな大地めざし、芸術の機運を高め、 英雄を賛美し学び、堕落と退廃を嫌い、 たえず自己批判し、総括に明け暮れて、 同じ旗と鎌を手に、進軍ラッパを吹く。 そんな丘の麓に張り出される壁新聞は、 温厚と分別、従順と結束を説くだけだ。 月夜の丘にひとり佇む影など現れれば、 暁の大気を切り裂くサイレンとともに、 粛清の大号令が黒々と紙面に躍るのだ。 |
11月17日(金)
冷えた青空の中に岩手山の雪化粧が際立った。その山麓では、日が陰ると走行風に小雪がまじった。 @八幡平市
雲を追う。 ただ、それだけの距離。 光を求める。 ただ、それだけの時間。 ひたすら見渡す。 ただ、それだけの休日。 失ったり、掴んだり、 泣いたり、叫んだり、 そんなことばかりの歳月を 遙か彼方に見送り、 ただ、それだけの私。 |
11月16日(木)
津波に身構え解放されて夜は明けた。大気混濁。小雨や陽射し。気難しき大気。冷え冷えと冬の夕暮れへ。 @イーハトーブ
時の力に取り立てられたものを 人は、けして忘れない。 無垢なる者から取り立て過ぎたものは、 いつか必ず返さなければならない。 取り返しがつかなければ、 何か形を変えて返さなければならない。 金に代えて星。地に代えて天。 涙に代えて夢。傷に代えて愛。 花に代えて時。道に代えて光。 絶頂にある者ほど、 返すことを忘れて奪い、 返す前に滅んでいく。 |