イワテバイクライフ 2006年12月前半
12月15日(金)
ふくよかな陽光は、明らかに春の種族であって、ゆえに北国の師走にあっては異端なのだ。 @盛岡市
光は 大地を均等に照らすわけではない。 熱は 襞の奥底までとどくわけではない。 辿り着いた場所に ひとかけらの雪が無いからといって、 日陰のカーブを覆い尽くした アイスバーンを忘れてはいけない。 その悪戦苦闘の汗が乾ききらないまま、 落日に促され、山をおりるのだ。 白く凍った下り坂に足がかりなど無く、 流れ出す後輪に身構えて、 おそろしく深い呼吸を繰り返す。 乾いて安らかな山の手触りなど、 みるみる彼方に滑り去る。 |
12月14日(木)
青空の印象は朝方だけで、まずは薄雲に覆われた一日。最高気温も平年を3〜4度上回って「らしくない」師走中旬。 @岩手山麓
名乗らず 署名せず 隠れ家の 小窓から 毒針吹く 卑劣にも 雪は降る。 白く白く 清らかに |
12月13日(水)
温厚な曇天。大気は湿っぽいけれど、かすかに柔らかい。先送りされていく岩手の師走。 @盛岡市
吐息が 凍った墨絵をとかす。 血流が 滞る描線を走らせる。 私が現われ 始まる一日もあるのだ。 心地よい記憶の断片を アルバムに貼り付ける旅ではない。 ほどよい花の色香に微笑む旅ではない。 人生の節目に一喜一憂する旅ではない。 昨日と明日の間に燃え盛る魂が照らすものを あるがままに記憶する旅なのだ。 |
12月12日(火)
ぎしっと凍り付いた朝。水道管凍結の声も聞く。空は晴れ渡る気力も無く薄曇り。 花巻市(トライアルパーク)
(特別なことではない) 雪は、泥沼以上のものではない。 霜は、濡苔以上のものではない。 冬は、梅雨以上のものではない。 触れて、荷重して、駆動できれば、 それは同じ大地の出来事だから、 (特別なことではない) 怖がることはない。 構えることもない。 誇ることでもない。 春を迎える道程として 辿らなければならない 季節があるだけなのだ。 |
12月11日(月)
頭上の冬晴れより、ぐるり山並みを白濁させる雪雲の印象こそ今日の全て。夕闇も凍って放射冷却の予感。 @岩手山麓
(誤解をとく道は無い) 言い訳のない言動に 説明を求め続ければ、 決着は誤解の他無い。 それは両者の意志の果ての結論だから、 あながち間違いではない。 あえて誤解をといてしまうと、 闘争の白熱に代わって 心一面を氷が埋め尽くしたり、 反目の緊張に代わって 虚しい大津波が押し寄せたり、 それはそれで寂しいものだ。 (だから、このまま) 誤解という絆で君とずっと。 誤解という鍵で私とずっと。 (それでバランスするなら、ずっと一緒) |
12月10日(日)
ごく淡い青空や温もり切らない陽射し。遅々とした冬の歩みだが、だから嬉しい。 @滝沢村(トライアルパーク)
どれほど 思うにまかせない 軌跡であろうと、 途切れることの無い意志が 今朝も、そこにあった。 (もはや、努力とは言わない) 辿るべき道程と その果てに待つものを 直感した者が迎える 夢中の時間だ。 たとえ、 同じ力を持っていても この魂が宿らぬ限り、 歓喜の時は望めない。 |
12月9日(土)
薄雲は鱗模様に光を纏い、けれど流れ去る気もなく、師走の街の渋滞に寄り添った。 @滝沢村(トライアルパーク)
最強のライバルは、 トライアル歴1年未満。 気負いなく、今朝もここへ来て、 白い山を見渡し、微笑み、 焚火を燃やすように エンジンをかけ、 ごく平凡な練習問題に 黙々取り組み、 「難しいなあ」 「楽しいなあ」と白い息を吐く。 誰かが師走の朝寝をむさぼり、 炬燵でぼんやりし、 デパートでお歳暮など品定めしている間に、 君は、試技の跡を黒々と刻む。 めざすものとの距離を 刻々縮めていく。 (春が、君の春がおそろしい) |
12月8日(金)
最低気温も、かろうじて0度を越え、昼前には青空が広がり、師走中旬へ向かう北国の緊張など希薄。 @盛岡市
虐げられて 牙をむきたくなったら、 (まあ待て) 罪深い者は、 断罪されるまで罪を重ねる。 自らの罪を重くしていくのだ。 弱きものから一日ひとつ、 ささやかなものを奪う者が 百年同じことを繰り返せば、 膨大な量刑に値する。 歳月という骨格を持った重罪だ。 その道理を知った途端、 雌伏する者は、 強くなる。 |
12月7日(木)
昼前から降り出した雪は湿っていて、放っておけば夕刻の雨。実害軽微な「不快」。 @盛岡市
雪原のマウンドに立つ者よ。 何ひとつ好転の兆しが無い空の下、 わけもなく沈む者よ。 どうせ沈み込むなら 決め球のフォオークボールになれ。 この冬を人差し指と中指で挟み、 春を見据えて投げ下ろせ。 ホームベースを垂直に叩くほど鋭い軌跡を描け。 敵味方が黙り 次の瞬間、スタジアムを揺らす魔球となって 沈み切れ。 |
12月6日(水)
寒気は遠ざかり、人の良さそうな陽射しに撫でられたところで、日陰の氷雪の剣呑こそ真実。 @盛岡市
旅する雲が 束の間、天空を覆い、 この丘の将来を思案する。 いくら希望を論じ絶望を訴えたところで いずれ雲の群れは、 無縁な地平へ消えていく。 あとに残されるものは、 丘に自らを打ち込んだ杭の群れだ。 ひたすらに、突っ立ち、見晴らし、 季節の風に身じろぎもせず、 ゆっくり朽ち果てることに感謝し、 明日のことなど声高に語ることのない 直線の影たちだ。 この夕暮れの凍土のかたくなを思いやる 直線の影たちだ。 |
12月5日(火)
朝方の青空。寒気かすかに緩み、氷とけだした途端、冬の雨。 @滝沢村(トライアルパーク)
技は無い。 あるのは気力だ。 繰り返す意志だ。 道は無い。 あるのは思いだ。 思い描く意志だ。 仇は無い。 あるのは自分だ。 満足する心根だ。 満たされる事なく、 春の私を思い描き、 この冬を噛み砕け。 |
12月4日(月)
透明度と痛さをまじえた寒気。日中は陽射を揺さぶる風もなく穏やか。夕刻からの冷え込み急速。 @滝沢村(トライアルパーク)
向き合った瞬間、了解した。 雪氷を纏い山は黙りこくる。 刻まれた傷の在処や深さが、 モノトーンの版画となって、 精密に浮かび上がっている。 余程の腕と覚悟がなければ、 触ることさえ憚られるのだ。 それでも関わる者があれば、 情け容赦無い仕打ちで返す。 山に挑む季節は終ったのだ。 山は思索の時を迎えたのだ。 だから私は、一人そのへんの日溜まりで 水溜りの氷を割って無限軌道を描いたり、 火縄銃みたいに小岩に飛びついたりして、 もう帰れと山が言い出すまで遊んだのだ。 |
12月3日(日)
氷にコーティングされて朝を迎え、真冬日寸前の地域も多数。凍土を溶かすほどの陽射しも無く。 @盛岡市
りんご、りんご、青いりんご。 里では見向きもされず、汽車に乗る。 りんご、りんご、熟してりんご。 うまい、うまいと都の市場で大評判。 りんご、りんご、出世のりんご。 帰ってこいよと里の便りが矢継ぎ早。 りんご、りんご、色褪せりんご。 錦を飾って里帰り。 さすが、さすがと故郷の人は大騒ぎ。 りんご、りんご、旅したりんご。 やがて腐って崩れて眠る。 すっぱい涙に濡れて眠る。 |
12月2日(土)
盛岡で初積雪を観測。平年より8日、去年より2日遅い「初もの」。ほんの顔見せ程度で、すぐ消えた。 @盛岡市
純白の大地を諍いで汚してはならない。 だから、支配する者は、 千年先まで決まっている。 誰の次は誰で、誰の代わりは誰で、 誰のために誰が犠牲になり 誰がその座につくか、決まっている。 粛々と進むこの営みに 気恥ずかしさを覚える者は、 心をくすぐる文化論や 装飾としての芸術論や 体裁に過ぎぬ改革論で 束の間、時をあたため、 論議を尽くしたことにして、 さっさと票決に雪崩れ込む。 (こうして血は流れず夜が明ける) ただ、嘔吐の跡が雪原に続くだけだ。 |
12月1日(金)
寒気団押し寄せ野山は雪化粧。午後には陽射しに照らされたが、夕闇に雪なのか雨なのか、ちりちり。 @盛岡市
(ねえ、今、どこにいるの?) 芳醇な光をグラスに満たし 寄せては引く時を眺める君の居場所が カリブ海であれ、 地中海であれ、 エーゲ海であれ、 どうでもよいことなのだが、 こんな時に 気紛れな声などかけてくれるな。 僕は、脆い雪道を辿り、 丘をひとつ越えようとしている最中だ。 波打ち際の光にとろける君には、 同じ地球上のものとは思えない 光景かもしれないが、 この先に待っているのは、 どんな海や空も及ばない 蒼い蒼い静けさなのだから、 どうか、そっとしておいてくれないか。 |