イワテバイクライフ 2006年12月後半
12月31日(日)
地上の無残な一年を、よほど不憫に思ったのか、雪の無い街に戸惑うほど柔らかい陽射し。 @岩手山麓
人を励ますことは、古臭いのか? 斬り捨てることが、教養なのか? 拾い集めた皮肉の切れ味で 自身の値打ちを決めたがる者ほど、 勇気を与える術を知らず、 深く癒やす言葉を知らず、 微笑み頷く事を知らない。 自らの毒に酔いしれる者よ、 足元を見るがいい。 お前が斬りに斬った 「人間」とやらの檻から お前もまた逃げられないのだ。 拠って立つ場所を 自ら切り刻んで迎える落日は、 どんな眺めだ? |
12月30日(土)
駅や空港の混雑。市場や神社の慌ただしさ。あたりまえの人の動きを見下ろす空は、異様に穏やか。 @盛岡市
一番効くパンチは、 良い知らせの後、 ほんの少しの間を置いて 放り込まれる 悪い知らせのような一撃だ。 最終列車がホームを離れる時、 別れのテープが海原に舞う時、 舞台に幕が下りかけたその時、 ひとつ、ぽんと、繰出すがいい。 力ではない。タイミングなのだ。 |
12月29日(金)
雪は舞った。山沿いは白く染まった。けれど、街は雪の無い正月を確信して暢気だった。 @盛岡市
手をつないで 同盟を結んで 血判を押して 何食わぬ顔して、 それぞれの砦で ひとつの山塊を支配する者どもよ。 そうまでして結託しなければ 越えられぬ冬が来るというのか。 そうまでして偽装しなければ 続かない仕組があるというのか。 そうまでして庇い合わなければ 保てない伝説があるというのか。 そうまでして大勝利しなければ 御旗を守れない宿敵がいるのか。 |
12月28日(木)
なお冬とは思えない雨に濡れて、戸惑う大地は黒く重く、ひとかけらの雪の印象すら残さず。 @盛岡市(北上川)
遅れて流れ着いた私は この川縁に灯をともし 濁り酒など酌み交わし 歌って踊って物語って 夜をやり過ごしている。 (まったく同じ時刻) 源流を支配するお前は 画策の狼煙を上げたり、 逆転の秘策を練ったり、 不穏な風を封殺したり、 勢力図を書き変えたり、 告発者を闇に葬ったり、 報復の炎を燃やしたり、 見事に腹など切ったり、 立場を貫いているのだ。 およそ流れとは無縁に。 |
12月27日(水)
沿岸部を中心に大雨と強風に揺さぶられたイワテ。平年を10度前後も上回る温暖に、リセットされた師走。 @盛岡市(中津川)
溢れるものも枯れるものも 流れ来るものも去るものも 私は、ここで じっと見つめていていいのだね。 泳ぐものも舞い降りるものも 辿り着くものも旅立つものも 私は、ここで 生きるものの一人として 迎えていいのだね。 見送っていいのだね。 上流の記憶はどうであれ、 下流の明日はどうであれ、 私は、ここで 生まれ育った一人として 暮らしていていいのだね。 岸辺の窓から 移ろうものに微笑んでいて いいのだね。 |
12月26日(火)
寒気に鋭い棘もなく、確実に雪はとけていく。空を塞ぐ冬の灰色も皮膜程度で、時折青空がにじんだ。 @岩手山麓
風に運ばれ消えゆくものに 誰が真実を明かすものか。 曖昧に微笑み 空の行方を見上げるばかりだ。 (嗚呼、消えていけ消えていけ) お前の夢に向って消えていけ。 惜別の情など見せず、 消えていけ。 時が来れば去りゆくものに 誰が未来など託すものか。 言葉を濁して、 カレンダーに目をやるだけだ。 (嗚呼、流れていけ流れていけ) お前の欲に従って流れていけ。 言訳などいらぬから、 流れていけ。 きれいさっぱり忘れてやるから 私の朝から消えていけ。 夜の彼方へ流れてしまえ。 |
12月25日(月)
氷点下10度を予想した夕べの天気予報は、今朝の柔らかい大気と陽射しのぬくもりに赤面した。 @雫石町
朝風に硫黄の香が揺れる。 私は、誤解されたままだが (いいお湯だ) 私は、取り戻せぬままだが (いいお湯だ) 私は、やり直せぬままだが、 (いいお湯だ) いろいろ残念ではあるが、 湯にとける私には (もう、いいのだ) ゆっくり、ふかく、 ここで呼吸していけるなら、 (もう、いいのだ) 湯煙の向こうの新雪に 心の筆をはしらせ (ありがとう)と書いてみた。 |
12月24日(日)
取り急ぎ年末の化粧とばかりに降った雪の皮膜は、陽射しにとけ、夕刻には氷の鏡と化していった。 @盛岡市
神よ、 心一面の雪がとけるまで、 私をここに佇ませたまえ。 人知れず降り積もり、 陽射しにゆるみ、くずれ、 とけて消える一部始終を 記憶させたまえ。 願わくば この雪のすべてを与えたまえ。 生涯をかけて とかすべきものに埋もれることを 許したまえ。 |
12日23日(土)
ちりちりと朝を染めた雪は、やがて雨となり、シャーベットな夕暮れに街の灯りが滲んだ。 @盛岡市
友は、歳月とともに友になり、 季節のように友である。 捜し求め、作り出すものではない。 募り、集い、輪になって 日々刻々、絆を確かめ合うものではない。 団結を謳い上げるものでもない。 予定行事のように アルバムに残すものではない。 時折、向き合い、すれ違い、 まれに酒酌み交わし、 縁あって、同じ泥にまみれ雪をまとい、 (君もか)と心寄せ合ううち、友になる。 何十年という音信不通など それぞれの事情と受け止め、 再会の日には何も訊ねず、微笑みあう。 それを友というのであれば、 私は、何という幸せ者だ。 |
12月22日(金)
「冬至」にまつわる短い日照時間を忘れ去れる穏やかな晴天。とにもかくにも光の時間は、ここから上向く。 @岩手山麓
この世に 明日を保障するものなど、無い。 それらしきものがあるとしたら、 約束ではない。 (おおよその気分だ) 確約ではない。 (そうであればという意向だ) 契約ではない。 (歩み寄った末の利害だ) 条約ではない。 (一発の銃声に破られる休戦だ) それでも人は 明日の保障を願って 他人の言葉に明日を探す。 砂金のような明日を探す。 |
12月21日(木)
予想よりは温かい朝。その後、予想通り気温も上がらず、薄命な陽射しは西の空を束の間赤く染めた。 @雫石町
鳥は 傷ついた羽を広げて、幾つも空を越えた。 飛び交う対空砲火をかわし、夜を越えた。 炎上する戦車群を見下ろし、冬を越えた。 どれほど飛び続けたことか すでに風に運ばれるだけの鳥は 美しい山裾にひとつの止まり木を得た。 大地は凍っていたが、 一面の静寂に邪気の爪跡は無かった。 もはや鳥を追いやるものも無かった。 (その枝は、お前のものだ。ずっと) 神は、そう囁くと、霧を払った。 雪原の彼方に祝福の鐘がきらめいた。 鳥は、血に染まった胸を羽で包むと 深く目を閉じ、 二度と羽ばたくことはなかった。 |
12月20日(水)
深刻な予報ほどに冷え込みは無く(平年より温暖)、青空や陽射しも、雪の匂いからほど遠く。 @雫石町
そこに至り 彷徨う理由を失う。 冬雲を切り拓いて射す光線は、、 安息すべき時を告げている。 冷えて静かな路傍に 永久の縁を握りしめ、 とにもかくにも、 雲が、太陽が、私が、 この一点で、どう暮れていくのか見届けようと 突っ立つのだ。 もはや 追い求める理由もない「乾いた道」の彼方に 私の背中だけが遠ざかる。 |
12月19日(火)
晴れ時々曇り。白日の雲は鳥の羽のように軽く奔放に舞い流れ、やがて冷えたシルエットへ。 @滝沢村
すでにレールに乗った者は、 面倒を嫌い、 責任を恐れ、 矢面を避け、 平穏を好む。 期限付きの役割を担う者は、 変化を嫌い、 革命を恐れ、 対決を避け、 無傷を好む。 (逃げ切ることで頭がいっぱいだ) この要点を知り尽くした者は、 見渡す限りを睥睨(へいげい)し 居直り、恫喝し、脅迫し、居座り、 今夜も高枕の大いびきだ。 斬るべき時に斬らないと、 悪魔が蔓延る(はびこる)ばかりだ。 |
12月18日(月)
曇り時々晴れ。日陰の残雪をとかす大気の温厚は、すでに無い。 @盛岡市
頷いてばかりいると いざという時、縦に振る首が無くなるぞ。 束の間の雪景色に満足して 引き返しかけた。 (しかし、だ) めざしたのは白銀の天峰山だったはずだ。 そのために走り出したのだ。 今日も「ライダー」であるために、 踵(きびす)を返す。 「向かうべき場所」へ加速する。 スパイカーズ倶楽部へ。 |
12月17日(日)
雨は霙に、霙は雪に、本気の師走へ向かうと見せて「寸止め」。街をまだら模様にした湿り雪。 @盛岡市
寡黙な水鏡は 深い森の奥にあればいい。 降り積もった歳月に濾過され 澄み切った世界に 醜悪な影を投げ込まれて 濁るくらいなら、 いっそ映すものなど無くていい。 ひとすじの木漏れ日すら許さぬ番人を立て、 悪魔の如き剣を沈めて、 漆黒の鏡になればいい。 |
12月16日(土)
夕べの雪がうっすら積もっていたが、朝方の雨を吸って脆く、陽射しを浴びてとけ出した。 @滝沢村(トライアルパーク)
冒険の旅を始めるのは 容易い。 けれど、全うするのは 難しい。 広大な地平に横たわる たったひとつの困難を越えられず 引き返す前に、 小さな雪山に転がる困難を越えて 楽しむ力ぐらいは身に付けておきたい。 金と地位次第で 安楽なルートを選べる者でない限り、 黙々汚れて重ねる何かが必要だ。 |