イワテバイクライフ 2007年1月前半
1月15日(月)
盛岡市街地に限ってみれば早春と言い切れる陽射し。ひとたび山岳部へ至れば地吹雪もあった。 @八幡平市(安比高原)
2ストライク2ボールからの きわどいボール球を嘲笑う者は、 勝負所で立て続けに ストライクを求めるに違いない。 少年にも見透かされる配球で 結局自滅する。 この純白の大地に 力任せの速球や ひねりにひねった大魔球で 夜明けのたびに ストライクを欲しがる者よ。 だから、ほら いつまでも辺境のマウンドで エース気取りなのだ。 注:画像と本文は一切関係ありません |
1月14日(日)
昨日の雪や氷は、すっかり置き去りにされて、空の蒼さと柔和な光の中に「違和感」の一種だった。 @岩手山麓
その必死の様を 少しは理解してやれないものか。 力を見せつけ、金で飾り立て、 情を振る舞い、情をかき集め、 絆を謳い上げ、恩で縛り上げ、 星を並べ立て、中心を譲らず、 一流でかため、権威を味方に、 正統を主張し、首位に拘泥し、 獣のように走り回らなければ 認めてもらえぬ者の悲しさを 心の均衡を保てない悲しさを 居場所すら守れない悲しさを 少しは理解してやれないものか。 見て見ぬふりをしてやれないものか。 どんな闇にも生い立ちがあるのだから。 背負わされた物語があるのだから。 この空のもとで何が起きようと、 もう驚くことなく 知らん顔をしてあげられないものか。 |
1月12日(金)
透明度を上げた空の蒼さ。人肌に接近する太陽の熱。さすがに木々が「春」を確信し始めている。 @岩手山麓
また今日もここにいる。 (動かないわけではない) 何かを一周して 再びここに戻って来ただけだ。 (変らないわけではない) 幾度見渡しても 創世記の朝が広がるばかりだ。 (求めないわけではない) 手を伸ばしても、 大地の影は遠ざかるばかりだ。 だから、今日もここにいる。 幾度追いつこうと、 幾度収穫しようと、 けして手に入らない光速の憧憬が 爆音を残して山岳を越えていく。 |
1月11日(木)
陰影の濃いシャープな晴天。そこかしこに冬雲の乱舞もあったが、陽射しの印象がまさる。やがて夜の寒気。 @岩手山麓
俺は覚えている。 家来を従え威風堂々のあんたは、 近付いてみれば、なるほど大男だった。 笑うことなど知らぬと言いたげに 大股で赤い絨毯を踏んでいく。 雑兵の俺が命乞いに飛び出すと、 あんたは俺を見下ろした。 俺の口上は、みすぼらしいほどに手短だった。 決死の直訴にさっさと背を向け あんたは立ち去った。 忘れはしない。 あんたの眉間に訴えた俺の目を、 あんたはけして見なかった。 (見られるはずがなかったのだ) それを確信するまでに どれほどの冬が繰り返されたことか。 その事実に遂に向き合うこともなく あんたは城を追われたのだ。 |
1月10日(水)
晴れた。陽射しの熱もあった。束の間、春めいた。だが、夕刻から急降下。底冷えの街に雪が舞った。 @姫神山遠望
今思えば、よかった。 あの日、すべてを失い、 だから自由になって、 今日ここにいるのだから。 今思えば、よかった。 あの日、みんな去って、 だから真実だけ残り、 今日ここにいるのだから。 今思えば、よかった。 あの日、群から追われて。 だから旅に旅を重ね、 今日ここにいるのだから。 今思えば、 この夕暮れに向って あの日、 私は走り出していたんだね。 |
1月9日(火)
ひかえめな雪化粧は陽射しを浴びて雫と消えた。そんな街の暢気を山岳の雪雲は遠巻きに眺めていた。 @岩手山麓
追っ手の数は増えるばかりだ。 雪原の彼方を振り返るまでもなく、 手負いの獣にはわかっていた。 ここまで走ってきたのは、 逃げ切るためではない。 最期の場所はここと決めていたのだ。 (何としても、ここだったのだ) 山は、はたして待っていた。 匿うでもなく突き放すわけでもない。 黙って見届けてくれるだけだ。 (それで充分だ) 獣は立ち止まり、頂を背に向き直った。 猟犬の黒い影が散弾となって向って来る。 一面を染める血しぶきも春が来れば消える。 もはや心を決めた牙が冬を噛み切る。 山麓に吹き渡る風に巻き上げられて 瞬間、新雪は花吹雪になった。 |
1月8日(月)
朝方の雪を纏った山里の薄化粧は、台本にない陽射しに狼狽え消えていった。 @滝沢村
綴った分だけ疎まれて 黙った分だけ憎まれて 離れた分だけ誤解され 消しても消しても届く (デジタル・レター) 鏡のような僕らの世界。 好かれたければダイヤ。 嫌われたければ深い闇。 映せ映せミラーダンス。 鏡にキスして愛し合い 鏡を割っていがみ合う (デジタル・レター) 映ることに夢中だから 映すものを見失うのさ (デジタル・レター) 〜 以上、井上陽水の気分で 〜 |
1月7日(日)
沿岸部は大荒れ。内陸は曇り空から時折の小雨と弱い日差し。 @盛岡市
もはや、私は旅人ではない。 目的地や時刻表を捨てて久しい。 ひと月だとか、一年だとか 意味ありげな時を 積算することも忘れ、 ただひたすら川のような歳月に 浮かぶだけだ。 いつか見た風景が回遊して来ても、 ぼんやりと迎え見送るばかりだ。 (嗚呼、日々は繰り返す) 繰り返されることに、 理由など無い。 理由が無ければ続かぬものなど 幾多の季節を 越えられるものではない。 |
1月6日(土)
山の雪をとかす雨も、雪にかわる気配を漂わせ、大地を冷え冷えと洗った。 @滝沢村(トライアルパーク)
そうだよ、雨だよ。 (悲嘆の涙ではない) そうだよ、滑るよ。 (けして罠ではない) そうだよ、辛いよ。 (失恋ほどではない) いつか巡り来る 大切な日の空を 選べないのなら 困難の感触を 記憶するほかないのだ。 暗い空の下にこそ 光が隠されているから、 そうさ、夢中なのさ。 (恋ほどではないが) |
1月5日(金)
その手触りも、その棘の痕も消し去り、街から遠ざかる冬は、春光浴びる山岳に立て籠もっていた。 @盛岡市(岩手山遠望)
新しい泥にまみれる前に どうしても あなたに見てもらいたかった。 宇宙と地球を分ける 蒼い蒼い天空に 白く白く描く無限軌道を 見てもらいたかった。 やがて 呼吸は火炎となり、 血は煮えたぎり、 太陽の所在すら不明の光の中、 なおも直線と曲線を繋ぐ意志は、 成層圏あたりで発火し、 ついには、 燃え尽きるのではないかと 思うのです。 |
1月4日(木)
最高気温など、どうでも良い。山陰の雪まで消していく冬の正体が知りたいだけだ。 @滝沢村(トライアルパーク)
昨日の花巻の泥を纏ったまま 今日は滝沢だ。 (よもや)とは思ったが、 先客のエンジン音が轟いている。 重低音の波動が、 山上の雷神さながら 冷気を揺さぶる。 考え深い間合いから、 一気の決断。 躊躇せず弾け 息長く挑む音の主は 顔を見なくてもわかる。 あまりに穏やかな光の中で、 愛機は、すくすく温まる。 今にも飛び出す気持を抑え、 熱い珈琲などすすり、 頂を見上げ、 私を暖機する。 |
1月3日(水)
明らかに何かが間違って出現した「春」だ。陽射しの強さ、空の蒼さは、正月のそれではない。 @花巻市(山屋トライアルパーク)
誰にも 思い定めた道がある。 辿り続けることさえ困難で、 行き着くことなど希な事で、 それでも最善の道と信じるから 見据え、飲み込み、腹に沈め、 力が漲った時、踏み出すのだ。 走り出した者は もはや助けられない。 助けてはいけない。 一切を引き受けるために 選んだ道だから 結末を握りしめるまで、 誰もが一人なのだ。 |
1月2日(火)
冬という冬がとけるとける。地球温暖化を原因にするつもりはなくても、説明がつかない「穏やかな正月」。 @岩手山麓
私をめぐる様々な出来事は、 どうも、ある一点に向って 束ねられていく糸のようだ。 悲しい糸は涙を吸って頑健で、 喜しい糸は夢を含み柔らかく、 熱情の糸は明日を巻き取る。 日々解き放たれ舞う糸よ。 重なり、絡み、絞られて、 今日の私を紡ぎ出せ。 |
1月1日(月)
初日の出を遮る雲無し。極上の青空と陽射し。最高気温7度1分(盛岡)。尋常為らざる元日。 @岩手山麓
失ったわけではない。 神が運び去ったのだ。 ひとり残された私が 何を始めるのか確かめようと、 今朝に続く大地だけ、 残したのだ。 頼らなくてよいもの。 追わなくてよいもの。 夢見なくてよいもの。 競わなくてよいもの。 語らなくてよいもの。 それら一切を神は運び去り、 ひとり残された私が、 何を起こすのか見届けようと、 この新しい光を 与えてくれたのだ。 |