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イワテバイクライフ 2007年 2月前半


2月15日(木)
狂い咲きの春一番。大雪と強風。交通網はズタズタ。東北自動車道(八幡平市・田山トンネル近辺)で多重衝突事故。 @盛岡市

  鬱蒼とした森の中に沼はあった。
  暗い水鏡を指差し古老は言った。
  
  「我々村人の魂は、
  ここに深く沈んでいるのだ。
  寡黙を通すのは、
  言葉を失ったからではない。
  思慮深いのだ。
  動かないのは、
  決断出来ないからではない。
  見極めているのだ。
  うわついた町の輩とは違うのだ。」
  
  (しかし)と澄んだ声が森に響く。
  
  「その魂とやらが、
  本当に沼に沈んでいるかどうか、
  見た者はいない。
  もしや、
  その昔、村を通り過ぎた
  都人(みやこびと)の寝言を真に受け、
  後生大事にしているだけでは
  ないのか。」


2月14日(水)
それは薄化粧で始まった。湿った小雪はやがて粒を大きくして分厚い銀世界をもたらした。 @岩手山麓

  難事から解放されると、
  忘れていた仲違いを思い出し、
  誤解をといてみたくなって、
  手紙など綴っていないか。
  
  幸福の見通しが立つと、
  放置されていた怒りが再燃し、
  一気にケリをつけたくなって
  復讐など企てていないか。
  
  すっかり満たされると、
  どうでもよい「あれこれ」が蘇り
  美しい記憶にしておきたくて、
  善人面を作っていないか。
  
  関わる値打ちも無いものに
  関わる暇ができて、
  結局、こじれ、からんで、
  自由を失うというのに。


2月13日(火)
久々に凍った朝。盛岡で氷点下7度3分。日中は一秒の陽射しが幾億の金貨に変る「暖冬の密約」。 @岩手山麓

  誰かが往来に立ち、
  いかにも正しいことを
  謳い上げなくても
  人は先刻承知で暮らしている。
  
  誰かが壇上に聳えて、
  約束しきれない決意を
  吐き散らさずとも
  人は眉に唾して暮らしている。

  そんな暮らしを見下して
  何者かになろうとする者が
  演説に酔いしれ、
  現実を理想で繕い、
  お天道様に向かって嘘をつく。
  (ひとたび王冠を得れば)
  冷めた眼(まなこ)と声音で
  世の惨状を
  他人事のように棒読みする。

  そこに責任の
  かけらも無いことなど、
  人は見透かし、暮らしている。
  


2月12日(月)
冬雲は青空の中を流れに流れて行った。タイヤが纏った雪や泥は夕闇の中で凍り付いた。 @滝沢村(トライアルパーク)

  山かげの雪は
  とけずに残る。
  光を遮られて
  温もり奪われ
  消えずに残る。
  
  真冬の狂気は
  黙々轍を残す。
  春を待ち侘び
  春にとどかず
  消える恐怖で
  深く轍を刻む。
  
  消えることを
  ひたすら待つ
  蒼白の残雪は、
  寂寥の夕闇に
  刻まれた轍を
  なぞり恋して
  今夜も凍える。


2月11日(日)
見上げれば青空も広がっていたし陽射しも眩しかったが、山並みは雪雲に霞んでいた。 @岩手山麓

  めざすものは
  場所にあらず。道程の風にあり。
  抗わず、とけて、光の帯となれ。

  求めるものは
  眺めにあらず。大気の河にあり。
  舞い降り、吹き上げる雲となれ。

  刻むべきは、
  積み上げたものにあらず。
  流れ去ったものにあらず。
  なおその先を求め走り続ける志。


2月10日(土)
暖冬に揺らぎ無し。この時季に最高気温が5度を越えれば(盛岡)笑いが止まらない。まして陽射しがあれば。 @盛岡市(中津川)

  何かを乗り越えては
  束の間
  優しくなったり
  静かになったり
  微笑んでみたり
  強くなった気がして
  やがて満たされ、
  いい気になり
  振り出しに戻る。
  
  もしや、
  そんなことを
  繰り返していないか。
  
  ならば、
  己がすがりつくものを捨て去り
  信じることから遠く離れ、
  なす術もない者として
  ひとかけらの雪の冷たさを
  噛み締めろ。


2月9日(金)
明るい青空に流れる雲の何と柔和なことか。4月のイメージの完璧な再現。真冬の自覚はもはや崩壊。 @奥羽山脈の麓

  三日前の山の記憶と
  今日の山の眺めを比べてみても、
  季節の移ろいなど断言できない。

  夕べの雪原と今朝の雪原を
  並べてみたところで
  歳月を語るのは至難だ。

  まして
  昨日の自分と
  はるか昔の自分の間に
  何があったか言葉に出来ない者が
  進む一方の時間に
  追いすがれるわけがない。
  
  けれど、昼と夜の境界線上には、
  不思議に過ぎ去った時が匂う。
  
  取り返しのつかない時の重さが

  赤錆びて匂う。
  無為に過ぎ去った莫大な時の無念が
  血糊のように匂う。


2月8日(木)
山並みを白く霞ませる雪雲は活発だが、およそ市街地を覆うものは希薄で、柔和な陽射しにとけた。 @岩手山麓


  正解に興味の無い子供にとって
  元気に手をあげることが
  うれしいのだ。

  行き先など二の次の者にとって
  今日限りの天と地こそが、
  うれしいのだ。

  長閑な里の分けしり顔にとって、
  己の力量で叩けるカモが
  うれしいのだ。

  思いつきであれ、
  幻想や誤謬であれ
  立場や自尊心であれ、
  束の間、うれしいのだ。

2月7日(水)
まったく毛布すらはねのける暁の暖冬よ。もはや日中の温暖など話題にもならぬ冬の異変よ。 @雫石町


  じっとしていても波紋は広がる。
  押し寄せるものを堰き止めるのは
  もはや不可能だから。
  
  黙っていても波風は立つ。
  わき出すものを封印すれば、
  鼓動は強まる一方だから。

  微塵も思わなくても
  誰かが風を送り込む。
  (さあ、受けて立て)と。

  そぶりすら見せなくても、
  誰かが事を動かす。
  (さあ、飛んでみろ)と。

  決断の翼が
  一斉に舞い上がるその日まで
  水鏡は静かであればあるほど
  恐ろしい。

2月6日(火)
薄着の人々がニュースのTOPを飾る首都圏情報は、さすがにイーハトーブあたりで色褪せる。 @八幡平市(安比高原からの帰路)


  秋晴れの斬首の後
  血のしたたる刃を握ったまま
  あなたは告げたのです。
  
  「禍福はあざなえる縄のごとし」
  
  今でも覚えています。
  実に有り難く思い出すのです。
  
  辿った道程の一切を斬り落された私は
  ひたすら両手を未来に差し伸べ、
  この至福の大地に
  巡り逢ったのですから、
  まさに、
  あなたは正しかったのです。
  
  だから私は、
  この幸福の行方に潜む禍(わざわい)に
  耳をそばだて
  思いもかけない方角に
  沸き立つものの意味を
  凝視するばかりです。

2月5日(月)
最高気温5度8分(盛岡)。昨日の雪は急速にとけて流れて道を洗った。この時季の水飛沫は透明だ。 @盛岡市(岩洞湖畔・家族旅行村の近く)


  排気量50cc。
  おおむね三馬力。

  4サイクル単気筒エンジンの鼓動は
  あたかも掌をコロコロとくすぐる
  小動物だ。
  
  気持を加えるだけで
  回転は穏やかに上がり、
  抱え込んだ質量を
  柔和に押し出す。
  
  膨らむ駆動力と真新しい圧雪路が

  濃厚にからみあうと、
  
かすかに湿った弾力が
  心臓に届き、ほぐされ、
  
旅心がとけていく。
  
  前輪をそっと立て、

  体の軸は
  大地のあれこれに
  屈託無く折り合いをつけて真っ直ぐ。

  
  滑り流れる一切の出来事は
  スローモーションだ。


2月4日(日)
暦の上では春が立ったが、この冬一番の積雪。青空もあったが、最高気温・0度5分は、この冬一番(タイ記録)の冷え込み。 @滝沢村


  ざんざんと雪降る夜、
  汽車に乗り遅れ
  次の汽車を待ち続けるうちに
  駅員になった男は、
  それからどうした。

  夜明けのホームに立ち
  野太く高らかに
  「次の列車」や
  「行き先」を告げた声は、
  それからどうした。

  一切の往来を支配しようと
  雪崩の如く暗躍する黒幕達に
  警笛を鳴らした男は、
  それからどうした。

  終着駅から
  明日に向う鉄路を拓くことを
  訴えた男は、
  それからどうした。


 (雪よ、それからどうしたのだ)

2月3日(土)
冷えて浮かない曇り空から時折の小雪。それでも真冬日でないのは暖冬の範囲。 @盛岡市(神子田)


  鳥でも
  星でも  
  神でも

  何でもよいのだが、
  天上に映る私は
  およそ筋道の無い
  気まぐれそのものなのか?
  
  今朝も駆け出した理由と

  その角を曲がった理由と
  そこに立ち止まる理由を
  どう考えてみても
  思いつかず
  小雪舞う空を見上げ
  嘆息するのだ。

  私を見下ろすものよ、
  今朝の道筋は
  いつかどこかへ辿り着く為の
  必然なのか?

2月2日(金)
春三月へ急ぐ心には、つまづく石のように転がる二月。晴れ間はあっても、最高気温1度6分(盛岡)。 @北上高地


  どんな馬鹿げたことでも
  休み無く積み重ねていれば、
  (そうなのか)
  10年も経てば誰かが祝賀会を
  開いてくれるのか。

  20年も経てば地方紙の片隅を
  飾ったりするのか。

  いよいよ30年で
  反目の輩が握手を求めるのか。


  (冗談じゃない)


  その日だけ持ち上げられて

  翌日には忘れられ、
  置き去りにされるような
  儀式の為ではない。

  今日ここに、

  存分の轍を刻める私を
  祝福したくて
  記念したくて、
  走り続けているのだ。


2月1日(木)
山岳部を中心に前夜から降り出した雪は、そこそこの銀世界をもたらしたが、温度計は暖冬を証明するばかり。 @雫石環状線

  夕べは
  奥羽山脈の麓で
  眠れぬ夜を過ごした。

  屋根から
  雪崩を打って滑り墜ちる雪の音は、
  わかってはいても、
  身構えやりすごす時間の長さを
  思い知らされた。

  結局、午前3時に布団を離れ
  本日の職場「雪原のど真ん中」で
  吹雪に打たれた。

  昼過ぎ、盛岡に帰れば
  小雪がちらつくだけで
  らしくない冬景色が待っていた。

  たった一日、五感にしみついた
  懐かしい「雪国」が忘れられなくて
  来た道を引き返した。


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