イワテバイクライフ 2007年 2月後半
2月28日(水)
この冬(盛岡の昨年12月から今年2月まで)「真冬日なし」。観測史上初めての暖冬。 @岩手山麓
村のはずれで 幾世代も人の往来を見てきた者に限って 思い込んでいる。 「旅人は旅を続けるものだ」と。 「雨が止めば軒先を離れ歩き出す」と 思い込んでいる。 「雪がとければ旅支度を整え出す」と 思い込んでいる。 「花の季節には蜜を求め飛び出す」と 思い込んでいる。 だから、眩い光の中で 「そろそろ良い季節ですな」と 山を見上げ、旅立ちを催促する。 それでも腰を上げず 空を仰ぐばかりの者を 変わり者として疎んじる。 |
2月27日(火)
陽射しは朝の氷を雫にして、風に春の匂いをしのばせ、屈託のない青空が広がった。 @盛岡市
他人(ひと)の悲しむカレンダーを 先へ先へと めくりたがる者がいる。 (何万枚でもめくるがいい) 別れの日は何時かと 聞かれたら (明日か昨日か)と 思案しておく。 せっかく馴染んだのにと 同情されたら、 (あとは、よろしく)と 握手しておく。 次の旅先は何処かと 聞かれたら (知るは風のみ)と うなずいておく。 爽やかに微笑み、そうしておく。 |
2月26日(月)
南極にも光あふれる日があるように、北国にもそんな一日がある。冷えて眩しい青空。 @八幡平市
正しいことでも 大きな声は慎むことだ。 その声ひとつで、 正しくなくなる。 花が咲いても 勇んで告げないことだ。 幸福も過ぎると、 誰かが花を折る。 夢が叶っても、 その先を急がぬことだ。 熱望も過ぎると、 すべて夢に終る。 |
2月25日(日)
いつもの光、いつもの風を浴びているのに、指先が凍った。放射冷却で氷点下7度2分(盛岡)。これが本当のいつもの冬だ。 @岩手山麓
汚れた血も、 腐った肉も、 漆黒の心も、 蒼き氷雪の影に飲まれて眠れ。 とけてしたたり、 大地に吸われる日を夢見ることなく どす黒いまま眠れ。 張り詰め揺れて、 大地を駆け巡る日を求めることなく、 形失ったまま眠れ。 松明をかざして、 大地隈なく照らす日を待ち焦がれず、 深い闇のまま眠れ。 銀河の果ての氷の星で もはや、濁らず、崩れず、狂わず、 冷え冷えと美しく眠れ。 |
2月24日(土)
青空は凍り、光は震え、山にからむ雲は鋭利な冬の吐息だった。街の残雪という残雪は氷になった。 @岩手山麓
走り出すのは、私の気持ち。 選ぶ道のりは、雲の影任せ。 辿り着く所は、光のただ中。 とけて消えた幾億の冬の中に、 見えるものは、今日限りの山。 聞こえるのは、今日限りの風。 思い出すのは、牢獄からの空。 求めたものは、底なしの静寂。 失ったものは、頂めざす熱狂。 捨てたものは、気休めの希望。 流れたものは、わけもない涙。 道端に一本の杭を打ち、 春の大津波に身構えれば、 花の香にむせかえり、 この朝を幻だったと叫ぶ私が 見えてくる。 |
2月23日(金)
盛岡で気温10度を越えた。天気予報に従う気配も無い空は、昼過ぎ束の間小雨を降らせ、さっさと回復に向った。 @盛岡市(中津川河畔)
今日は今日で、 何が何でも正しくなくてよい。 昨日は昨日で、 是が非でも美しくなくてよい。 明日は明日で、 すんなり完結しなくてもよい。 昨日と明日をわける境界線など 遂に明らかにならないまま、 今日という日は、 夢にとけて流れていく。 (雫は、やがて河になれば良い) その流れの中に私の今日が 浮いては沈む。 人生は「果てしない一日」だ。 |
2月22日(木)
最高気温9度3分(盛岡)。春霞のベールを纏い空は柔和な水色。花匂う幻覚すら風にまじって。 @岩手山麓
すべてが終わった後の静けさに 恋焦がれて 黙々とカレンダーを破り捨てる。 追うことも待つことも無い朝を 思い描いて 流れ流れた夢の面影を焼き払う。 去りゆく者の群れから遠く離れ 振り向けば、 そこに絶対の孤独が立っている。 雪原に捨てられた鍬を拾い上げ、 雪崩に飲まれた思いを掘り起し、 吹雪に隠されていた地図を広げ、 ここに置き去りにされた日々を 涙枯れ果てるまで眺めていたい。 |
2月21日(水)
昼前まで曇ったり小雪が舞ったり、いつもの2月だったが、午後には緩み切った光に満たされた。 @盛岡市
爪を立て走る者にとって、 前途は凍っていてほしい。 一面蒼ざめていてほしい。 道は頑なであってほしい。 (それでこそ) 噛み付き、突き刺さり、 這い上がり、押し上げ、 山の頂きに立てるのだ。 (ところがどうだ) 今朝の雪ときたら、 しっとりと湿ってもろく 底無しにやわらかく深く 前輪を握ったまま放さず、 後輪を受け止めず、 崩れ沈むばかりだ。 消えゆくものの柔和な手触りこそ 難関だ。 |
2月20日(火)
朝の風に冬の針が混じった。けれど、冷却された大地は早春の陽光を吸ってみるみる温もった。 @盛岡市(岩手山遠望)
天空を仰ぐだけで 大地にひれ伏して、 光と闇に染まって、 |
2月19日(月)
雪が雨に変る頃とされる「雨水」。温厚な陽射しと明朗な青空は、暦の先へ進んでいる。 @岩手山麓
風向きに理由などない。 南に向う私が 北に引き返すようなものだ。 (予想出来るものじゃない) 雲は待っていてくれない。 道の彼方に 遠ざかる楽園のようなものだ。 (掴み取れるものじゃない) 光はじっとしていない。 悲嘆と歓喜の狭間に立つ 私のようなものだ。 (凡そ正気の沙汰じゃない) |
2月18日(日)
どこかうっすら春の皮膜を纏った青空。残雪からしたたる雫、間断なく。 @花巻市(山屋トライアルパーク)
トライアルは 中学生になって始めた。 才能は瞬く間に目を覚ました。 周囲の大人達は驚嘆し 歓声を上げ、手を叩いた。 向うところ敵なし。 期待の星だった。 やがて進学。上京。 トライアルの全国舞台で鍛えられた。 岩手の子天狗は 大きく成長してふるさとに戻った。 国際A級6年目。28歳。 残雪の道場で ひと息に物語ってくれた大先輩は、 とうに還暦を過ぎていた。 「落ち着いて、切れのある、 いい走りになって帰って来た」 我が子を見るような眼差しだった。 |
2月17日(土)
どう転んでみても、2月も後半なんて、どんな雪の白さも、いずれ離れていく旅人のようで。 @盛岡市(天峰山)
ささやかな力と技で 冬の懐に分け入り、 傾く太陽がもたらす 光と影を独り占め出来るなんて、 素敵じゃないか。 血気盛んな若人には、 行き着く果ての寂寥かもしれないが、 (このくらい離れなくちゃ) 行動に意味を与える人には、 発作としか言いようの無い試技だが、 (このくらい狂わなくちゃ) 場所を次々に変える者には、 とり残される恐怖かもしれないのだが、 (このくらい抱きしめなくちゃ) |
2月16日(金)
どしっと残された大雪も、好転一方の空の下、凍る間もなくとけていく。走れば水飛沫。止まれば雫のしたたり。 @盛岡市(天峰山)
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