イワテバイクライフ 2007年 8月前半
8月15日(水)
猛暑継続。多少の風など焼け石に何とやら。太陽の熱を蓄積した大地。 @滝沢村(トライアルパーク)
山に入って5時間。 思いつくトレーニングは、すべてやった。 焼けた山砂を汗が濡らした。 「そんなに頑張って、どうしようというのだ?」 仲間の質問に即答するのは簡単だった。 けれど、言葉にすれば、あまりにシリアスだから 「暑い暑い」を連発するだけにした。 (つまり、こわいのだ) 美しい森も、ひとたび競技の場になると、 魔物があらわれる。 出来ることが出来なくなる。 考えられないミスが出る。 その「こわさ」がわかってきたから、 いつもの走りと、いつもの心を確かめるのだ。 内底に「あるべき私」を打ち込んでおこうと、 繰り返すのだ。 いかなる道筋にも揺らぐことのない 中心線を刻んでおきたくて、 繰り返すのだ。 |
8月14日(火)
連日の熱波に順応してきたのか、36度4分(盛岡)と聞いても、もはや驚かない。 @滝沢村(トライアルパーク)
そっと夜明けのカーテンを払えば 化け物のような夏空があった。 私に出来ることは、 日々猛暑の山に入る変わり者に なるくらいのものだ。 昨日に比べれば太陽は確実に近い。 けれど不思議なことに 昨日の汗が 体の芯の疲れまで 洗い流してくれたのか、 気力も目標も高まるばかりだ。 荒れた山肌を行く前輪が ふらつきそうになる瞬間、 全身の筋肉と平衡感覚を ぎゅっと、けれど柔らかく束ねて 向うべき場所へ押し出していく。 (乱れる心のラインを制御せよ) 出口と入り口の間の「当り前」を すんなり実現できるなら それもまた、化け物に違いない。 |
8月13日(月)
猛暑衰えず、川井村で37度5分(全国最高)。この北国の夏の激変は、地球規模の何かに違いない。 @滝沢村(トライアルパーク)
イーハトーブトライアル大会まで10日余り。 私の夏休みは、今日が初日。 心は前夜から決まっていた。 納得のいく夏にするための第一歩。 つまり、 |
8月12日(日)
陽炎の中に気が遠くなりそうな猛暑日。軽米町の35度は観測史上最高。川井村では36度を突破。 @滝沢村(トライアルパーク)
減点を嫌うなら 楽な道筋を選べばいい。 冒険が好きなら 敢えて困難を追うがいい。 最善をめざすなら、 とことん準備すればいい。 勝負を賭けるなら 人が行かない道を行け。 納得したければ、 刻々の己を越えていけ。 |
8月11日(土)
一関市など県南で35度を越える猛暑日。盛岡でも34度1分で、この夏一番。帰省ラッシュもピーク。
(この大地において) それらしいものなら、 腐る程だ。 綺麗なものなんて、 至る所だ。 感動することなど、 無尽蔵だ。 けれど、 (そんなものじゃない)と お前は、草の上で 水筒の水を飲み干した。 (まずは腹を満たせ)と お前は、ガソリンを どくどく注ぎ足してみせた。 「人の気持ちなど待ちはしない力が、 お構いなしに吹き飛んでいく夏空が 俺達の真上にさしかかっているのだ」 お前は、 濁った汗と白い唾を飛ばして叫ぶと、 無造作に発火し、 対空砲となって積乱雲を突き上げた。 |
8月10日(金)
大気不安定。かすかな青空と陽射しを一掃するスコール。洗われた大地を染める夕焼け。帰省ラッシュ始まる。 @盛岡市
日は西に沈む。 それだけのルールのもと、 光は刻々の筆で風を染めていく。 (まったく、囚われず、あるがままだ) 心に従い移ろう時に身をまかせ 街の灯りを見渡せば、 何と先々のことが決められていることか。 政略や利害 密約や禅譲で固められていく未来の みすぼらしさが 今日も宵闇に飲まれていく。 お前たちの思惑通りの朝なら 夜は、永久に明けなくても構わない。 |
8月9日(木)
雨雲、青空、混濁の真夏日。北国には無縁な亜熱帯の汗。 @盛岡市玉山区
風の呟きを聞きつけて、 「それは、きっと自分のことだ」と思うのは、 何か心当たりでもあるのか。 執拗に好意を求め続ける者は、 誰かのかすかな微笑みにすら 愛を錯覚して声を上げる。 「それは、きっと私のことだ」と。 執拗に敵意を抱き続ける者は、 誰かのわずかな不機嫌にすら 毒を錯覚して声を上げる。 「それは、きっと私のことだ」と。 思い込むことで、 醜悪な片思いから救われたいのか。 決めつけることで、 敵味方の境界線を引いておきたいのか。 (風は、お構いなしに口笛を吹く) |
8月8日(水)
暦に従い「秋」かと言えば爽やかさは皆無だ。むしろ気象機関が終らせたがらなかった「梅雨」そのものだ。 @滝沢村
ピカピカのブリキのオートバイだった。 やっと買ってもらえた宝物だった。 まったく不幸なことに、 村の子供のリーダーも それを持っていた。 彼は、ニコニコして みんなの前で命令した。 「ねえ、泥水の中を走らせてごらん」 歯車までどっぷり泥を吸った。 「ねえ、黄色いペンキを塗ってごらん」 道化師の自転車のようだった。 「ねえ、屋根の上から飛ばしてごらん」 悲しい放物線の果てに壊れた。 村の子供達は、 ニコニコとリーダーの後を追いかけた。 それぞれ傷だらけの玩具を握って 懸命に追い掛けた。 (君は、今、父親か?) |
8月7日(火)
まれに薄日を許しながら雲のベールは払われず、通り雨が湿度を押し上げた。 @滝沢村(トライアルパーク)
雨は 容赦なく山の二人を叩く。 一切の息を使い切って 休憩に入る。 吹き出る汗と引き換えに 食塩水をあおぎ飲む。 何かの拍子に 頑張る理由を口にする。 (無様なトライは、したくないんです) すると、大先輩は静かに返した。 「他人の目を気にしちゃいけません。 自分が本当に気持ち良く走り切れれば、 誰が見ても、良いトライなんです」 今日も、あなたは、 私の大地が一回転するほど 走破する力を授けてくれたのです。 |
8月6日(月)
最高気温31度9分(盛岡)。もはや免疫も確立されて、特段心が流す汗も無い。ただヒロシマの涙があるだけ。 @滝沢村(トライアルパーク)
「少し遠回りだけど、歩こうか」と 上司のあなたは昼飯に誘ってくれた。 広島のオフィス街の裏道をしばらく歩いて あなたは振り返り、空を指さした。 「ここ、爆心地なんだよ」 見上げれば、ビルに囲まれた小さな空に 夏雲がわきたっていた。 一年後 心を焼土と化すキノコ雲を仰いだ。 一年後 反核の父・森瀧市郎氏の肉筆日記を 読みあさる日々が続いた。 ヒロシマの心を 私なりに、ひとつの形にした。 一年後 私は、広島を去り、盛岡という所に着任した。 美しい稜線を見せる北の山が 岩手山であることを知った。 それから11年余り 私の心は、ここまで蘇生したのです。 |
8月5日(日)
曇り空で、蒸し暑く、けれど真夏日にひと息及ばなかった盛岡。大船渡の34度7分は、想像の範囲外。 @滝沢村(トライアルパーク)
必要の無いものを 何故のぞき込む? 汚れた窓ガラを そのままにしておけないだけか。 心の向かないものに 何故笑顔を送る? 争いの無いことを 自分に言い聞かせたいだけか。 尊敬や信頼もないまま 何故手など組む? どうでもよいものが 力を持つ日が怖いだけなのか。 ※ 画像と文は、一切関係ありません。 |
8月4日(土)
台風5号は、津軽半島に足をかけ太平洋に抜けていった。大雨・大風の不安も遠のいた。 @盛岡市
ひたひたと進む一生懸命や、 ひたひたと重ねる無心の仕業や、 ひたひたと目指す天上の夢に 共感する者ばかりではない。 王座の既得権を掴んで放さない者には、 危険極まりない風だ。 群れのど真ん中にしか棲めない者には、 体裁に関わる問題だ。 古くからの順位以外は認めない者には、 歴史を嘲笑う悪魔だ。 (そのように) 縛られない者を看過できない者がいる。 誰かの自在や奔放に苛立つ者がいる。 気位で固めた城に立て籠もる者がいる。 己の貧相を宝石で飾りつくろう者がいる。 権威に寄り添って権威になる者がいる。 何か高邁でないと落ち着かぬ者がいる。 予想を越えるものが許せない者がいる。 そのような者どもに 一心不乱の汗など目障りなだけだ。 あってはならない正々堂々なのだ。 (だから、刺客の影に気をつけろ) |
8月3日(金)
西日本なら当り前の31度9分(盛岡)が、この北国だからこそ炎熱地獄になる。 @北上高地
真夏日の夕闇は 漆黒の時への最後通告なのだ。 天体の回り舞台に 一瞬立ち会い 置き去りにされるのなら、 あたり一面に叫んでおこう。 (ああ、何と爽快な日々だ) 野太い息と 艶めく母音と 剃刀のような活舌で この薄暮に 杭を打ち込むのだ。 (ああ、何と明快な日々だ) 夜に飲まれようが、 遂に朝を見ずに終ろうが、 確信の炎は、こう揺らめくのだ。 (ああ、何と痛快な日々だ) |
8月2日(木)
最高気温は33度を越えてこの夏一番の暑さ(盛岡)。太陽が痛いほど近かった。 @岩手山麓
粗末な役者には、 ちゃんと 粗末な舞台が用意されている。 (存分に演じればいい) 陳腐な説教には ちゃんと 陳腐な哲学が準備されている。 (存分に物語ればいい) 鈍感な観客には、 ちゃんと 似合いの椅子が指定されている。 (存分に楽しめばいい) 機会も場所も理屈も月も太陽も みな等しく持っている。 (実にうまくできている) |
8月1日(水)
梅雨が明けようが明けまいが、ま、いいじゃないか。まぎれもない真夏なんだから。 @盛岡市役所前
手を握り合ったものは、 やがて目も合わせず、 束の間求めてみたものも、 すでに無用で、 一心不乱の願いすら がらんとした陽だまりに 埃をまとって転がる。 その一方で、 思ってもみなかった道筋が、 人生になっていたり、 ささやかな縁(えにし)が 逞しい絆に育っていたり、 そのように 歳月に削り出される私は、 ひとつの不思議です。 |