イワテバイクライフ 2007年 9月前半
9月15日(土)
曇天にも曖昧な陽射しはあった。それより、岩泉で真夏日になるなど、南風が運んで来た残暑の印象は強い。 @岩手山麓
いつか 最期の朝を迎えることを 知りながら、 何事も起きない今朝を ここへ連れてきた。 林を揺らす風もなく、 池を騒がす雨もなく、 心を惑わす光もなく、 罠を仕掛ける影もなく、 緑は、ただ緑のまま 秋の朝を染めている。 いつか訪れる最期の朝よ。 (思い出せるか?) 何事も無くここに佇んだ今朝は もはや記憶の塵となって 風に飛ばされていることだろう。 (だがな・・・) もの静かな朝ほど 恐ろしいものはない。 今朝が最期の朝になるかも しれないのだから。 |
9月14日(金)
朝方の濃霧注意報は、すぐに解除された。曇天と晴天せめぎ合ううちに、秋の日はつるべ落とし。 @盛岡市
大きなものを一撃で倒すには、 惜しみなく歳月をかけ、 準備せよ。 静かな秋には、 仔細に状況を記録せよ。 凍てつく冬には、 克明に歴史を調査せよ。 目覚めの春には、 強靭な大儀を確立せよ。 燃え盛る夏には、 決定的事実を奪取せよ。 老いることと引き換えに、 孤独な夜と引き換えに、 莫大な絶望と引き換えに、 轟音とどろくその日を迎えろ。 時代を塞き止めるものが土台を失い、 自らの重みで崩れ去る瞬間を 見届けろ。 |
9月13日(木)
朝霧は間もなく払われたが、青空の拡大に勢い無く、山々は雲に覆われたままだった。かすかな蒸し暑さ。 @八幡平アスピーテライン
美しい山脈を周囲に仰ぎ、 透明なせせらぎを間近に眺め、 輝く丘が幾重にもうねるところに、 神々が群れをなし 明瞭で力強い声が リズミカルに飛び交い、 迷い無き思考と思考が 火花を散らし、高め合い、とけあい、 希望のマグマとなって 次の世紀へ押し寄せていく。 そのような場所があれば、 すべてを捨てて旅立つ。 善良な無気力や 肩組む懐古趣味や 老衰する権威や 甘いもたれ合いや 閉ざされた絆や 暗い気位だけでは、、 もはや、明日にすら届かない。 |
9月12日(水)
午前中は小雨に濡れた。昼過ぎには回復し、印象も希薄な青い空が広がった。乾くには乾いたが、曖昧な一日。 @滝沢村(トライアルパーク)
君が握った事実とやらは、 狂って先を争い走り出し あたり一面蹴散らすほどのことなのか。 興奮しないでくれないか。 (赤子が寝付いたばかりだ) 飛ばさないでくれないか。 (老人が道を渡っているのだ) 怒鳴り散らさないでくれないか。 (病人は痛みに耐えているのだ) 砂埃を立てないでくれないか。 (人々は飯を食っている時間だ) 天気予報を遮らないでくれないか。 (曇りのち晴れなのか?雨なのか?) 山の中まで電話しないでくれないか。 (最善の道が見えて来たところなのに) せめて、数分、数呼吸、 ほど良き時を待てないことなのか。 地震や津波や核戦争以上のことなのか |
9月11日(火)
真っ青な空の制空権は、概ね夏の雲に握られていた。依然、残暑。 @滝沢村(トライアルパーク)
思いがあればこそ、 力は積み上げられる。 思いがあり過ぎて、 崩れていくこともある。 その繰り返しの果てに もの静かな風に巡り逢う。 必要なものは、 けして多くはない。 けして大きなものでもない。 心に目を細めないと 明らかにならない 繊細なものだ。 それに気付いた日から 無駄な言葉と余計な行動は 消えていく。 難関を前に高ぶらず、 成功にはしゃがず、 失敗に騒がず 理由を突き詰め 対策を思い巡らし、 淡々と燃え続ける。 熱狂の季節が終った時こそ、 次の道が照らし出される。 |
9月10日(月)
曇って陽射しが遮られようと、夕刻の小雨に濡れようと、涼しさを実感できない生ぬるい一日。 @北上高地
幸せであることを 克明に語るな。 (憎まれ、撃たれる) 不幸であることを 子細に綴るな。 (嘲られ、指差される) 平穏であることを 延々述べるな。 (苛立たれ、焼かれる) 言葉にしたくなることほど、 危ういものは無い。 饒舌に伝え切るから、 正体をあらわし 切り札を読まれ、 狙いを付けられてしまう。 どれほどの鈍感に向けるものであれ、 これでもかと語ってはならない。 ほのかな予感を 風にしのばせるだけでいい。 愛想の無い野の花になって、 その場所に居座るがいい。 |
9月9日(日)
北国の9月の真夏日は、残暑というより異常気象の範疇だが、さすがに幕引きの雲が夕暮れの空を覆った。 @姫神山麓
死んだものですら 夢を見る。 空の彼方を 地の果てを 思う。 死んだものですら 人を愛す。 狂おしいほど 大地掻き毟り 思う。 死んだものですら 涙を流す。 裏切られた日を 置き去られた日を 思う。 幽霊になったものですら、 喜んだり悲しんだりして 生きている。 昨日を忘れ、明日を待ち焦がれ 生きている。 (だから、私ですら) |
9月8日(土)
台風9号が過ぎ去って青空。フェーン現象で真夏日の地域続出。県南では33度を越えた。 @盛岡市
この理想郷さえ 見飽きたというのか。 ならば、 見渡す限りを 異国の草原と思うがいい。 舞い上がる雲に運ばれて 耳慣れない歌が聞こえてこないか。 初秋の光にとけて 見慣れぬ瞳の女(ひと)の香りが届かないか。 嗚呼、 救済も治療も修復も すべてはイメージだ。 破壊されたものが生きていられる場所は、 心の中だ。 |
9月7日(金)
台風9号の北上。沿岸部の嵐に比べれば、内陸は風弱く、雨もそこそこ。宵のうちに秋の虫の音復活。 @盛岡市
誰かに 何かしてもらうから、 誰かに 何かしなければならなくなる。 誰かに 何者かにしてもらうから、 誰かを 何者かにしなければならなくなる。 そのような鎖の輪が からみにからんで ついに迷宮となり、 ガマ蛙みたいな権威が生まれる。 不思議な杖を持つ老婆が徘徊する。 得たいの知れない天使が飛び回る。 美しく人影も稀な場所ほど 鎖の輪は複雑だ。 |
9月6日(木)
「29度9分は真夏日では無い」と言い張る者の額にも汗は滲んだ。曇ったり、照ったり、降ったり。熱帯雨林な一日だった。 @盛岡市
粛々たる日々よ。 はやくはやく過ぎていけ。 一日二日、 飛ばして過ぎていけ。 どんどんどんどん過ぎていけ。 ひと月ふた月、 置き去りにして過ぎていけ。 さっささっさと過ぎていけ。 春夏秋冬、 まとめて過ぎていけ。 手続きに等しい時間なら、 はやく、どんどん、さっさと 流れ去れ。 素っ裸でいられる日々に 辿り着け。 からみつくものなど、 振り切り、断ち切り、引き千切り、 ついに、 安息の丘へ逃げ切ってみせろ。 |
9月5日(水)
曇りのち時々晴れ、のち夕暮れの小雨。最高気温26度1分(盛岡)の数値以上に汗を誘う湿ってなまぬるい大気。 @盛岡市
波乱含みの夕闇に包まれるたび、 君への思いがつのる。 君は、 僕が堪えた涙を 代りに流してくれた。 君は、 僕が飲み込んだ言葉を 振り絞るように声にしてくれた。 君は、 僕が待ち望んだ日を ひたすら指折り数えてくれた。 僕が奪われた夢を 寝息の中で追い掛けてくれる君よ。 嗚呼、今度は、 僕が、君の思いに唇を重ねる番だ。 |
9月4日(火)
予報には無かった「朝からの青空」。おまけに陽射しは「残暑の一種」。夕暮れの雲が秋のフィルターとなった。 @滝沢村(トライアルパーク)
ブログに珍しくO氏の書き込みがあった。 「さあ、練習しましょう。滝沢で待っています」 イーハトーブトライアル大会では、 私のマシーントラブルに 最後まで付き合ってくれた戦友だ。 夕暮れの山中、ゴールの制限時間を睨み、 死に物狂いでセクションを巡った。 「急ぎましょう。ゆっくり下見する余裕はありません」 冷静な0氏が、初めて大きな声を出した。 惨憺たる成績を背負い 倒れ込むように安比高原に戻った時、 あたりは、すでに夜だった。 あの激しい夏のラストシーンから、十日が経った。 抜け殻のような毎日だった。 自身の無力を思い知り、 不甲斐なさを噛み締める日々だった。 久し振りの山には、青空があった。 新しい仲間が練習を始めていた。 私が立ち止まっているうちに 季節はみるみる変っていく。 秋風に吹かれ、見慣れぬ雲が流れていく。 「イーハトーブ、楽しかったですね」 それでいいじゃないか、と O氏は、次の目標に向って走り出していた。 この空の先にあるものは、 存分の汗を流した者にこそ見えて来る。 |
9月3日(月)
街を離れるほど空は開け、透明な青空が広がった。形だけの夏日に滲んだ汗も、夕刻の風に冷えて乾いた。 @葛巻町
ありのままの眺めが 美しいと思える場所があれば、 佇んでみるのもいい。 見渡す限りの景色が、 愛しいと思える場所があれば、 住んでみるのもいい。 果てしもない物語が、 私を待っている場所であれば、 生きてみるのもいい。 二度と無い夕焼けが 貫いた道を照らしてくれる場所なら、 骨を埋めるのもいい。 けして変らぬ顔ぶれが、 人の心を潰し夢を腐らせる場所なら、 その最期を見届けるまで 居座ってやるのもいい。 |
9月2日(日)
雲には覆われたが、薄日も射し、どこか乾いて、盛岡では24度(県内最高)。まずまずの初秋。 @盛岡市(天峰山)
居心地を求めるなら 牙無き者を集めておけばいい。 汚れを忌み嫌うなら、 天使の様な者だけいればいい。 結果を優先するなら、 大敗を知る者を揃えればいい。 モラルを高めるなら、 瞳輝く者を並べておけばいい。 地位を守りたいなら、 犬の如き風貌で固めればいい。 不条理と闘うのなら、 理由など求めない者こそいい。 山を動かしたければ、 黙々繰り返す者を探すがいい。 悪魔と対峙するなら、 正しさを笑うぐらいの者がいい。 |
9月1日(土)
昼過ぎまでは垂れ込める雲間に青空ものぞいたが、もはや薄日に熱は無かった。 @盛岡市
見晴らしを求めているのではない。 心弾む道を探しているのではない。 今日の風に ありのままの地球を受け止めたい。 遠ざかるものや深まるものの香りを 心におさめておきたい。 虚ろな朝の村はずれには、 誰が焚く煙か知らないけれど、 火葬場の記憶が蘇る。 丘のススキの群れには、 誰の黒髪か思い出せないけれど、 艶めく恋の記憶が蘇る。 そして、舞い飛ぶ雲には、 誰の物語だったか忘れたけれど、 夢奪われた日々が蘇る。 |