イワテバイクライフ 2007年 10月前半
10月15日(月)
岩手山で初冠雪。平年より2日、去年より6日遅い冬の兆し。その麓は、穏やかな秋の一日。 @岩手山麓
その風の芳しさときたら、 果実に雪をまぶしたようだ。 その光線の鋭さときたら、 空の蒼さを切断するほどだ。 その雲の奔放さときたら、 神が操っているかのようだ。 その男の執念深さときたら、 大地に打ち込まれた鋼のようだ。 けして消えないものが、 恐ろしく鮮明なものが、 止めようのないものが 一歩も引かないものが、 今朝も、 この丘で睨み合ったままだ。 |
10月14日(日)
晴れ切った夜明けと引き換えに、いささか地表は冷えた。けれど、上々の陽射しを吸って明朗な秋を取り戻した。 @室根山
君を 夜明け前に起こし ここまで連れて来たのはね。 君に 「今日の私」を見てもらいたかった。 油断して減点される私を。 道筋を失念していく私を。 遂に曲がり切れない私を。 障害を前に失速する私を。 辛い私のありのままに 君は首をかしげ笑顔を返すばかりだ。 君に 「今日の私」を見てもらいたかった。 更に一段上に挑む私を。 連なる困難を渡る私を。 土壇場で堪え切る私を。 秋晴れの宙に跳ぶ私を。 嬉しい私のありのままに 君は首をかしげ笑顔を返すばかりだ。 (いいさ、それで充分だ) 私がめざす道(ライン)に 心を寄せてくれるだけで、 もう、充分だ。 |
10月13日(土)
寒気団の通過で朝方はぐっと冷えた。青空が広がったが温もりは無かった。霜注意報(内陸・沿岸北部)は遂に消えなかった。 @姫神山遠望
道の先に 待つ者はいない。 知る者はいない。 阻む者もいない。 冷えた10月の朝が、 首筋を撫でてくる。 手首を強ばらせる。 胸板に滲みてくる。 透明な光を、季節の雲を、静寂の風を ひたすらに呼吸する私に 倦怠する瞬間が訪れたら、 迷わず引き返すだけだ。 帰り着けば、 私を待つ者がいるのだ。 (愛する者も、無縁な者も) 私を知る者がいるのだ。 (理解する者も、誤解する者も) 私を阻む者がいるのだ。 (高潔な者も、卑劣な者も) そのように 旅する理由を確かめたら、 また走り出せばいい。 (引き返す場所まで) |
10月12日(金)
朝方の雲は早々に払われ、清楚な青空が広がり、脱力した光線に満たされた。北国を忘れさせる秋のまろやかさ。 @御所湖畔
すべてを語ろうとして 語るべきことの無いことを知る。 真実を綴ろうとして 一行の真実も持たないことを知る。 友情を結ぼうとして、 何も求めていない自分を知る。 |
10月11日(木)
朝方の薄曇り。昼過ぎの回復を告げる予報は裏切られ、所により小雨。穏やかな夕空だけが予報通り。 @盛岡市
誰かの機嫌をうかがい びくびくするほど 隷属しているのか。 (その権力は、それほどのものか) 全体の足並みを横目に 息を詰めるほど 従属しているのか。 (その全体は、それほどのものか) 発言の過不足を恐れて 結局沈黙するほど 監視されているのか。 (その抑圧は、それほどのものか) 無傷で生き延びることを願い 生気失せる群よ。 (せめて正気でありたければ) 真に守るべきものを思へ。 愛するものを体温で包め。 (その上で、恐れて来たものを凝視せよ) 即座に捨てる覚悟を持て。 瞬時に離れる覚悟を持て。 一撃で叩き割る腹を決めろ。 (それだけで、自由だ) |
10月10日(水)
曇天は、予報に抵抗して午前中の空を占拠した。けれど意志無き雲は風に運ばれ冷えた秋が開けた。 @滝沢村
今日がどんな日であろうと、 風になる時間はある。 何処かで静かに 季節を見渡す心はある。 休暇でも余暇でも休息でもない。 ある日ある時なのだ。 よどみない歳月の まぎれもない一瞬なのだ。 特別なことではない。 暮らしの一部だから、 今日も雲を追って走り出す。 求めることではない。 人生そのものだから 今日も移ろう空に寄り添う。 |
10月9日(火)
光すら揺さぶる強風に、天地は温もり切れず、秋は深まった。 @滝沢村(トライアルパーク)
そうかい、 基本の真っ最中かい。 たしかに、 基本は何より大切だ。 そりゃあ、 基本は一切の土台だ。 おろそかにしようものなら、 痛い目に遭う。 でも、だからといって 基本の檻の中を どうどう巡りしているだけで いいのかい? ほんの指先ほどの予感でもいい。 もっと自由に出来そうな気がしたら、 やってごらんよ。 繰り返し繰り返し飛び付いてごらんよ。 そうして出来たことが 自分の宝になって、 またひとつ、その先に心が向くんだよ。 先は果てしなく長い。 何より今日は青空だ。 ほら、また風が背中を押した。 |
10月8日(月)
午前中は小雨に濡れた街も、やがて薄日を浴びて乾いていった。夜の風に明日の青空が匂う。 @盛岡市(中津川)
雨上がりには、 土砂降りの時こそ 重く濡れた夕暮れ時こそ、 昨日の苦しみに |
10月7日(日)
雲は、ゆっくりゆっくり流れ、晴れ間は、ごく控え目に見え隠れしたが、まずは穏やかな秋。 @一戸町
上には上がある。 だから楽しい。 ずっと楽しい。 とうとう辿り着けない境地があるから 何だか誇らしい。 達人を 呆然と見上げるうち、 何故凄いのか分かって来ると、 私も階段をひとつ上っていたりするから、 ますます楽しい。 ここで打ち込む限り 永久に嬉しい。 |
10月6日(土)
幾度とは無い、完璧な秋晴れだった。とりわけ乾いた大気が、見渡す眺めを美しく見せた。 @八幡平市
開戦直後の戦闘機のように 急ぐ必要はない。 国境を越える旅団のように 距離を貪らない。 狂走の果てに道程を失って 地図を開くことも無い。 私の目的地は、 この大地なのだから。 ここを日々走り続けることこそ ひとつの旅なのだ。 幾万キロという旅路なのだ。 (私は、目的地に暮らしているのだ) |
10月5日(金)
夕べの水溜りが今朝の青空を映していた。夏を思わせる雲は、やがて秋の雲に夕空を譲った。 @盛岡市
たった一行の文章を読む声を 聞いただけで その正体がわかることがある。 認識の精度。 呼吸の強度。 自身の掌握。 自立の錬度。 精神の平衡。 覚悟の度合。 意志の輪郭。 決断の速度。 その人間の人生を知りたければ 数行の詩を用意すればいい。 すなわち 声の善し悪しに非ず。 読みの巧拙に非ず。 (息にこもる魂の微粒子なのだ) |
10月4日(木)
曇りベースではあったが、さらりと心地良い大気。そして薄日。けして悪くない一日が夕闇を迎える頃、こらえきれず小雨。 @岩手山麓
小料理屋がいい。 板前は無口で 女将に愛嬌があればいい。 ビールはグラス一杯。 早速の地酒が、きりっと冷えていればいい。 旬の小鉢と刺身が少しあればいい。 秋刀魚と貝がいい。 背後の上がり座敷は笑いが絶えず、 見上げるテレビは野球中継で、 ひとり放っておいてもらえれば有り難い。 やがて腹に微熱が宿り、 どうにも語りたくなって、 数奇な歳月を独白したくなって 隣を見ると、 薄化粧の君がいればいい。 盃を満たし会い、 (嗚呼、苦労をかけた)と 手を握ってあげられたら、いい。 |
10月3日(水)
雲の印象も稀な晴天だった。気温などではなく、肌に馴染む秋の大気だった。 @岩手山麓
親子ほど歳の離れた後輩から それも3人から食事に誘われた。 老舗の焼肉と冷麺の味が 忘れられないらしい。 勿論、速攻で日取りを決めた。 親子ほど歳の離れた後輩から ひさしぶりに大仕事を頼まれた。 新しい防災システムの事を 簡明に伝えたいらしい。 勿論、速攻で仕上げてあげた。 (げんきんなものだ) 日曜日のトライアルで残した クリーン(減点無し)の数で、 この私ときたら、 飯はうまいし、 仕事は快調で、 まったく秋晴れなのだ。 |
10月2日(火)
夏雲が随所に小爆発し、秋風に吹き流されていた。夏の記憶は、あかね雲になって燃えて消えた。 @滝沢村
10月の風を浴びて 草原に寝ころぶ。 雲の群が 東へ東へ流れていく。 その多くは 気流の剣に切り裂かれ、 千切れ飛び、 やがて空の蒼さに染まって消える。 北上高地を越えられるのは どれほどの雲だ。 太平洋に流れ着けるのは、 どれほどの雲だ。 旅を始めた勇姿は 無残に破壊され、 面影すら失っていくのか。 けれど、西の空にわき立った 純白の思いだけは、 どうか辿り着け。 |
10月1日(月)
晴れていた気がする。けれど、陽射しを遮る雲もあって、どこか曖昧。朝晩の冷気だけが鮮明。 @岩手山麓
低いものを高々と越えて 満足してはいけない。 小さなものをひと跨ぎして 威張ってはいけない。 単純なものを即座に解いて、 誇ってはいけない。 いかなる条件でも、 幾度繰り返しても、 完璧なまでに その低いものを、高々と越えられるか? その小さなものを、ひと跨ぎできるか? その単純なものを、即座に解けるか? 老いて衰弱し、なお、 越えられるか?跨げるか?解けるか? 大地を削る嵐の中で ゆるぎなく 越えられるか?跨げるか?解けるか? (物事は、常に秋晴れの下にあるとは限らない) |