イワテバイクライフ 2007年 10月後半
10月31日(水)
秋晴れというには雲の往来が目立った。まあ11月目前にしては、柔和な陽射しが救いだった。 @岩手山麓
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刻々流れ去るものに支配されることなど 所詮、未来を縛るものではない。 (それに気付けば) 指図されても生返事。 命令されても上の空。 怒鳴られても薄笑い。 鞭打たれても大欠伸。 (いいんだよ) この朝以上に大事なことでは ないのだから。 (構わないさ) 体裁のために頑張ることなど ないのだから。 (そんな事より) この天地の境界線で 心の弦はどうふるえたのだ。 その旋律は、 今日という日を どれだけ幸福にしたのだ。 今日という世界に どれだけ貢献できたのだ。 |
10月30日(火)
この時季にしては暖かく薄日も射した朝。やがて、この時季としては薄ら寒い曇天の午後。 @滝沢村
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愚かなものに 拳などあげてはいけない。 哀れなものに 刀を振り下ろしてはいけない。 つまらぬものを 打ち砕き両断すれば、 すなわち、それだけのものになる。 したたかな使い手は、 吠えさかる犬を追い払うこともせず、 困り果てた眼差しで降参するだけだ。 ひとふりの鞭も与えず、 けれど、ひとかけらの餌も与えず、 吠えるものを 精根尽き果てるまで吠えさせ、 弱らせるのだ。 やがて誰かが気色ばみ、 石を手にする一団が 押し寄せる日を待つのだ。 「やっちまえ」と雪崩を打つ日を 指折り数えるのだ。 (時をかけて、ゆっくり、楽しみながら) |
10月29日(月)
早朝の青空は、無造作に雲に覆われ、所により断続的に小雨。暗くなって広範囲の雨音。 @岩手山麓
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乗り切ること 抜け出すこと そんなことに熱中した翌日は、 ぼんやり雨に濡れてみたくなる。 きのうの泥を洗い流したくなる。 ありのままの山に触れてみたくなる。 熟した季節の色が 濃厚な雨に濾過され、 澄んだ酒になるような気がして、 頭上の葉を仰ぎ、何かを叫び、 したたり落ちる水滴を口に受ければ、 腹の底に炎が立って 機嫌良く人里に下り立てるのだ。 |
10月28日(日)
太平洋の遙か沖へ遠ざかった台風。秋雨を吸った大地は、瞬く間の秋晴れに戸惑い、風に乾かされた。 @室根山
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うまくいっている私に 興味は無い。 みんなが拍手し 賛辞を贈ってくれるなんて、 醒めるためにあらわれた 白日夢かもしれない。 (そんなことじゃなくて、さ) 思いもよらぬ方向へ ものごとが動き出した時に 私が何をしでかすか 目を凝らしておきたいのだ。 破綻し 出口を失い 絶望的な私が、 それでもなお、 進み続けようとする時 何を繰り出して来るのか、 見極めてやろうと思うのだ。 |
10月27日(土)
いささか唐突な台風20号のあおりを受けて、雨が降ったり止んだり。まったく陰気な週末。 @盛岡市(高松の池)
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居場所を得て はじめて 季節は繰り返えされるのだ。 其処だけの風があり光があるのだ。 其処だけの色があり影があるのだ。 其処だけに漂う花の香があるのだ。 其処だけに積もる雪や葉があるのだ。 其処だけに立ち止まる者がいるのだ。 同じ場所で いつまでも 同じことが繰り返されるから はじめて歳月の意味が滲み出すのだ。 ゆっくり、実にゆっくり、 染まるのだ、深まるのだ。 身じろぎもせず 瞬きもせず 其処で天地とつながっているから 其処になくてはならないものになるのだ。 |
10月26日(金)
朝方は暖かい青空ものぞいた。けれど、ゆっくり坂を転げ落ちて、曇りのち雨。 @盛岡市
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自らを知るために 流す汗がある。 濡れる雨がある。 昨日とは違うもの。 思いの温度。 関心の角度。 認識の精度。 情熱の深度。 意志の強度。 そのひとつひとつを 丹念に撫で、 子細に眺め、 (なるほど)と 一日を胸におさめるために、 いつもの道 いつもの場所 いつもの夕闇が 必要なのだ。 |
10月25日(木)
夜明けは冷えて、山並み隠す霧。青空は広がったが、ついに岩手山の稜線は不鮮明だった。 @岩手山麓
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(まあ、待ってくれ) 僕が聞きたいのはね、 「世界」のことなんだ。 君の観光旅行の土産話ではない。 僕が知りたいのはね、 「人間」のことなんだ。 君の青春時代の武勇伝ではない。 僕が触れたいのはね、 「精神」のことなんだ。 君の高邁な趣味の披瀝ではない。 僕が見たいのはね、 「全体」のことなんだ。 君の都合や誤謬で選ばれた欠片ではないんだよ。 |
10月24日(水)
「そうこう」言っている内に「霜降」だとか、「しもふりの日」だとか(笑)。それはさておき素晴らしい秋晴れ。 @盛岡市
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金と暇にまかせた旅の果てに待つ 凡庸な眺めのために 何かを浪費するくらいなら、 絵葉書を眺めていればいい。 求めているのは、行先ではない。 (天地の印象なのだ) 辿っているのは、道程ではない。 (心を導く光なのだ) 願っているのは、生還ではない。 (いっそ、神隠しにしてくれる秋の不思議だ) さて、 権力と縁故にすがるキャリアの果ての みすぼらしい勲章のために 何かを浪費するぐらいなら、 ここで人を愛していたい。深々と。 ここで山を仰いでいたい。高々と。 (凡庸ではあっても、嘘は無い) |
10月23日(火)
青空と陽射しは容易に戻った。けれど、秋晴れと言い切るには、冷えた雲の往来が目立ちすぎた。 @滝沢村(トライアルパーク)
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昨日できたことが 今日はできない。 焦るほどに一層できなくなる。 でも、いいんだよ。 今日は、そういう日なんだから。 そういう順番なんだから。 私の道が、 前進と後退をあざなえるものなら、 こんな日も必要なんだね。 後退するから進み出る喜びがわかる。 失敗するから成功の理由を突き詰める。 本当の力が身に付くまでには、 とても大切な日なんだね。 勇気をもって足踏みしていれば 答えは、ゆっくり、はっきり 見えて来るんだよ。 |
10月22日(月)
思わせぶりな青空ものぞいた。けれど、雷注意報のもと、冷えた雲がとめどなく流れ、時折強い雨。 @滝沢村(トライアルパーク)
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月曜日が定休日なんて、 せっかくの楽園を 絶海の孤島に置くようなものだ。 案の定、この山だって ついに私一人だった。 けれど、 微塵の孤独も感じなかったのは、 一人にされたことで 向き合う自身が 鮮明に見えて来たことだ。 全山を打つ雨を浴びながら 泥の中にのたうち、 滝となって流れ下る濁水に 纏った泥を洗われる。 そのように頂をめざしながら 息を弾ませることの 何と清らかなことだ。 何と安らかなことだ。 たった一人だから 辿り着ける心がある。 解けていく問がある。 |
10月21日(日)
朝方、青空も見え隠れしたが、天気は回復せず時折小雨に濡れた。岩手山がまた白いものを纏った。 @滝沢村(トライアルパーク)
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今 朝の8時半だ。 日本の北にいる。 イワテだ。 (理由は、いずれ、わかる) すこし冷える。 秋の終わりだ。 もうすぐ冬だ。 山が白く染まっている。 私か? 年はとったが、 どうにか暮らしている。 安心しろ、仕事もある。 相変わらずさ。毎日オートバイさ。 今朝はトライアルだ。 急なターンを切ったり、 岩を越えたり、 まあ、そんなところだ。 お前は、どうしている? 今日もヒロシマの河川敷か? 無限軌道の中か?孤立無援か? 少しは気が晴れたか? 頑張れ、もう少しだから。 いいか、死ぬなよ。 家族をよろしく頼むぞ。 (13年前の私よ) お前が、この地に巡り会う日を 私は、ここで待っているから。 |
10月20日(土)
頑なな雲に覆われ、どんよりと時は過ぎ、案の定、夕闇は小雨に濡れた。かすかな薄ら寒さ。 @雫石町
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辿り着いたのではない。 朝を迎えただけだ。 探し出したのではない。 そこにあったのだ。 記憶に刻むのではない。 束の間眺めるのだ。 走り出せば巻き起こる風の中で 何かが遠のき 何かが近寄る。 そのように今日も たまさかの天 たまさかの地 たまさかの色とすれ違う。 いかに鮮烈なものであっても 求め続けたものではないから、 たまさかの出会いだから、 離れる時は、すぐにやって来る。 その印象は、やがて小雨に洗い流される。 |
10月19日(金)
晴れのち曇り。八幡平の観光道路は、凍結などに備えて、今日から夜間通行止め。 @盛岡市
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だから言ったじゃないか。 俺は、そんなつもりじゃないと。 (やっとわかったかい) だから言ったじゃないか。 俺は、そんなヤツじゃないと。 (やっと気付いたかい) だから言ったじゃないか。 俺は、そんなものじゃないと。 (やっと見えたのかい) 誤解はとけると確信していたけれど、 今日という日をイメージしていたけれど、 こつこつ季節を繰り返さないと 証明できないことがある。 黙々と歳月を重ねないと 現れてこないことがある。 いまさら馬鹿馬鹿しいが、 だから、言ったじゃないか。 (きっとうまくいく)と。 |
10月18日(木)
晴れてひんやりした早朝の通勤路はポケットに手を入れたくなったが、やがて、のどかな秋の陽射し。 @滝沢村
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(おそろしい話だ) ひと晩で 数時間に及ぶ舞台の脚本を 仕上げなくてはならない。 (そんな夢だった) 原稿の升目を埋めても埋めても 異国の文字に化けていく。 (間に合わない) 逃げ出そうとしたその時 私の肩に天使が舞い降りて ささやいたのだ。 「日々綴ってきたものこそ、 あなたの物語」と。 私は、綴ってきた記憶を 目が覚めるまで 声に出し続けたのだった。 |
10月17日(水)
雲の出入りは激しかった。日に照らされれば汗ばみ、陽がかげれば冷えて、季節の猶予期間としか言いようの無い午後。 @滝沢村(トライアルパーク)
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風は 誰かに急かされているのではない。 (大気の法則のままだ) 雲は 誰かの為に踊っているのではない。 (消えるまでの営みだ) 光は 誰かを殊更に照らすものではない。 (遮るものが無いのだ) 私は 誰かをここで待っているのではない。 (ただ暮れていくのだ) |
10月16日(火)
おおむね晴天。時折の雲に陽射しが遮られると、かすかな「うすら寒さ」。鮮明な秋にはまだ遠い安穏。 @滝沢村(トライアルパーク)
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辿って来た道は、それぞれ。 越えて来た山も、それぞれ。 くぐり抜けた闇も、それぞれ。 じっと流した涙も、それぞれ。 握りしめた怒りも、それぞれ。 酔い潰れた夜も、それぞれ。 追い続けた夢も、それぞれ。 それぞれが、今日もここに集い、 同じ道筋に向き合い、 同じ場所でつまずき、 同じ笑顔で声を上げ、 同じ汗を流している。 色々あった遠い昔のことは、さておき、 目の前の困難を越えないことには、 今日を終らせるわけにはいかないから、 夕闇に包まれるまで、 それぞれの色の炎でいられるのだ。 |