イワテバイクライフ 2008年 3月前半
2008年3月15日(土)
最低気温が6度3分(盛岡)の衝撃。日中も各地4月上旬から下旬並の陽気。ただ青空の印象は希薄だった。 @盛岡市
(まったく、申し訳ないことに) 私が考えていることは、遊ぶことばかりです。 あの山の向こうに広がる風景のことや、 夕闇に消えていく細道の行方や、 道を塞ぐ大岩の越え方や、 そんなことばかりが 私をぎっしり占領しているのです。 (先生、わたくしは、おかしいですか?) 刀を振り下ろしながら、 加速していく鉄馬を思っています。 返り血を浴びながら、 焼けたオイルの匂いを思っています。 すれ違いざまの抜刀で、 首を宙に飛ばしながら、 雲雀(ひばり)舞う天空の春を思っているのです。 (ああ、先生、わたくしは気が変なのでしょうか?) 気が付くと、仕事は呆気なく終わっているのです。 どれだけ斬れば、 そんな血の海になるのかわらないほど、 仕事をしたようです。 そして、記憶に残ることと言えば、 修羅場のまっただ中で 清々しい詩を口ずさんでいたことだけなのです。 |
2008年3月14日(金)
最低気温+4度5分こそニュース。朝から湿った暗い雲に覆われ、やがて夕暮れを濡らす春の雨。 @浜藤の酒蔵(盛岡市鉈屋町)
大切な相談を受けながら、 窓の外の鳥を眺めていた。 (辿り着ける枝があればいい) 厄介な問題を論じながら、 ずっと雨のことを考えていた。 (洗い流されてしまえばいい) 来年の計画を立てながら 放浪の日々を想っていた。 (一切は未定と知るがいい) 理不尽な命令を聞きながら 休暇の口実を練っていた。 (風になれればそれでいい) こんな「うわのそら」の私に 話しかけてはいけない。 一心に正気であろうとしているだけだから。 |
2008年3月13日(木)
曇り空に青空もにじみ出たし、薄日も射した。午後には、ぼんやり岩手山も現れた。最高気温9度9分(盛岡) @八幡平市
破壊などしない。 (それでは、つまらない) 崩壊するのを眺めてみたい。 告発などしない。 (それでは、平凡過ぎる) 先送りされ隠し切れなくなる様を 見届けてみたい。 疎外などしない。 (それでは、なまぬるい) いい気になって転落していく様を 見物してみたい。 いずれ朽ち果てるものはね、 生き延びるために、 あらゆる無駄をするんだよ。 その様を間近に観ることほど 贅沢なことはない。 いっときの激情で舞台に幕をおろしては もったいない。 |
2008年3月12日(水)
絵に描いたような春霞の朝。やがて空の蒼さは深まり、見渡す山の稜線も浮き立った。もはや残雪の白さが奇跡にすら思える夕暮れ。 @岩手山麓
酋長は、人を狩ることに長けていた。 村に近づく「ひとかどの者」に めざとく近づき、盛大に歓待した。 しばし中心に座らせ、賛美の嵐で包んだ。 名馬を貸し与え、色香と美酒で酔わせた。 (あなたこそ一番の友だ) 滞在を勧め、名誉を授け、 ついには永久の友情を約束した途端、 納屋に放り込んで鍵をかけた。 そこには、同じ手口で捕まった輩が つながれていた。 紳士がいる。博士がいる。 文士がいる。楽士がいる。 次の晩、村では、新たな客人を迎えて 宴が始まった。前夜と変わらぬ狂乱だった。 (あなたこそ、神が準備した友だ) そのように酋長は、自らを人で飾った。 祭りの日には、 納屋から獲物を引き出し並べて披露した。 やがて、村は廃れ果てた。 政から戦まで、いつも寸分違わぬ酋長の手口に 人の心は遠ざかったのだ。 そして、あの納屋には、 おびただしい人骨が放置された。 (固い絆でつながれたまま) |
2008年3月11日(火)
灰色の空。途切れ途切れの薄日。断続的な霧雨。風は淡い春の感触。最高気温11度3分(盛岡)。 @花巻市(トライアルパーク)
打ち込む汗のぬくもりに 春夏秋冬は無い。 目にしみる雫を拭っているうちに とけていく冬を掬い取ることもなく、 風染める春を抱きしめることもなく、 気付けば、もう三月のど真ん中だ。 ひたすらに 未来の困難を予見して 乗り越える力を積み上げる日々は、 雪に埋まらない。 雨に怯まない。 花に溺れない。 大地を攻め抜いて喘ぎ 胸におさめた空や土の匂いが すなわち命の季節の香りだ。 手を伸ばし求めたものに届く瞬間こそ、 歓喜の季節だ。 (だから) カレンダーとは無縁の歩調で 私は、移ろうのだ。 |
2008年3月10日(月)
最高気温13度5分(盛岡)。見渡す限りの春霞。何もかも曖昧でぼんやり。覚めないで欲しい夢。 @花巻市(トライアルパーク)
挑む者にとって 大地は、漠然たる風景ではない。 夢中で駆け巡った山の感触や 心に決めた一本の道筋(ライン)が 今日見たもののすべて、ということもある。 浮き出た岩の形や固さ。 横たわる丸太の曲面。 胸を突く坂の勾配。 それらを乗り越えた瞬間は アルバムに残せるものではなく、 体の芯に打ち込まれた 今日という日の手応えなのだ。 ぎりぎりの呼吸や間合いに我が身を置き、、 頑として扉を閉ざす行く手に挑む私の 手触りなのだ。 目を閉じれば、 道を削りだそうとして、 山肌に決心を叩きつけ突き立てた私が 記憶の無限軌道を駆け巡っている。 真に走破してこそ 巡り会える絶景はある。 遂に頂に立った時、 至福の展望がひらける。 |
2008年3月9日(日)
山田町の最高気温が15度3分など、岩手各地で10度を大きく上回る地域が続出。「季節の勇み足」は、怖くなる程。 @岩手山麓
間断なき日課は 湿潤な思考をもたらす。 持続する意志は、 揺ぎ無い力をもたらす。 たゆまぬ探求は、 新たな舞台をもたらす。 果てし無い夢は、 未知の道程をもたらす。 そして 追い続ける空は、 喜ばしい光をもたらす。 |
2008年3月8日(土)
前倒しされて春はやって来た。最高気温7度5分(盛岡)。その数字を口にするだけで心は青空にとける。 @盛岡市
注意すれば済むことが、 どこでこじれたものか、 厳罰の標的になる。 改善すればよいことが、 どこでどうなったのか、 廃止の対象になる。 誤りに対する指摘が、 どこで曲げられたのか、 反逆の重罪になる。 長い長い回廊には、 ついに伝わらないことばかりだ。 だから、 何事も無ければ、みな笑顔だ。 何事も起きなければ、みな優しい。 何事もせず時をやりすごすだけでも、 無事であれば良しとする。 (こんなことだから) 先送りされていく私を引き受けるのは、 結局、明日の私なのだ。 |
2008年3月7日(金)
真っ青な空の中に岩手山は立っていた。広げる稜線は鋭く鮮明だった。やがて、冬と春が混濁する雲に覆われた。 @盛岡市(天峰山)
(私の声が聞こえる) 見知らぬ公会堂の演壇に私が立っている。 大勢の人の前で話している。 過ぎ去った日のことを話している。 そんな夢だ。 (けれど、私は知っている) 私の心は、そこに無いのだ。 人々の顔の向こうに 今日のイーハトーブを見渡し 今日の道程を思案している私を 私は知っている。 私は、誰に向かって語っているのではない。 悲しい記憶を声にして、 今日の私を確かめている。 (そのように長年続く精神の治療) 嗚呼、終わり無き過去よ、 さっさと話をまとめて切り上げろ。 雪原の真ん中でキックバーを踏み抜き 火炎とともに目を覚ませ。 明日のことを風に物語れ。 |
2008年3月6日(木)
午前中限定の春本番。最高気温6度6分(盛岡)。夕刻、暗雲に覆われ湿った雪。再びの底冷え。 @盛岡市
私をめぐる風は この空とは無関係なところに吹き始め、 ある日、突然、私にからみつく。 (知らなかったのか?)と 真実だけ告げて逃げていく。 私をめぐる物語は、 この地から遠く離れた場所に芽生えて、 ある日、突然、私に語りかける。 (まさかと思ったか?)と どんでん返しをしてみせる。 私をめぐる奇跡は、 この胸の奥底から急浮上して燃え盛り、 ある日、突然、私を狂走させる。 (誤算だったかい?)と 私は、風を嘲笑い、 よくある運命とやらを書き換える。 私は、待ちはしない。 お前達の思惑や算段の遥か先に回りこみ、 痛烈な楔を打ち込んでいることを (知らなかったのか?) |
2008年3月5日(水)
寒々しい曇天だが、虫も這い出る頃らしい。どこかの寺の「こも外し」のニュースが、今年も律儀に流れていた。平穏な一日の証。 @盛岡市
「喜ばしい日々」の到来が すでに確定していて、 その事実を知る ごく少数の人間の一人だとしたら、 何と心躍ることだろう。 まして、その事実が 私の未来のことだとしたら、 歩いていても微笑がこぼれる。 風に吹かれるだけで、深い安息に包まれる。 雪原に顔を埋めて 歓喜の叫びを上げたくなる。 この北国の三月は、 まさに、そのような日々だ。 冬は、頑なに冬を貫き通しているが、 刻々土台を失っていくのだ。 黙って見送るだけだ。 すでに春の芽は、氷を突き破り、 むせかえるほどの甘い香りだ。 若草が輝く「その日」より、 「その日」が確定している3月の雪原にこそ、 春の喜びがある。 |
2008年3月4日(火)
冷えて固まった灰色の空は、みるみる春爛漫の空。それも束の間、夕暮れとともに冬の雲に覆われ、雪が舞った。 花巻市(トライアルパーク)
南風が吹き渡る。 雲は一切の想像を置き去りにして、 純白の印象を踊らせる。 空の蒼さには、春の羊水がしたたっている。 その雫に濡れた心の軌跡を振り返えれば、 記憶の丘に幾多の悲しみが立ち尽くす。 嗚呼、健気にも 今日生きている私を祝福し、 手を振っている。 あたたかい涙がとめどなく溢れる。 (涙の理由を、ずっと考えていたよ) 神様はね、 どうしても贈りたい幸福が とても大きくて、大き過ぎて、 その鞄に入り切らないとわかると、 何か大切なものまで 持っていってしまうんだよ。 涙に暮れる者の鞄に出来た隙間に そっと新しい未来をしのばせてくれるんだよ。 (そう信じて、笑顔を空に向けよう) |
2008年3月3日(月)
最低気温−2度4分より薄ら寒い夜明け。最高気温+2度7分が虚しく聞こえるほど薄暗く濡れた一日。 @岩手山麓
間違っているものと闘うことは容易い。 正義の御旗を振りかざし ひとつひとつを糾弾すればよい。 (だが、勇んではいけない) 利害の及ばぬ者から見れば 大義ある戦も犬の喧嘩と大差ない。 どちらが正しかろうと、 どうでもよいことで、 厄介者という網で一括りだ。 そのような手で正義を貶める謀すら 珍しくはないのだ。 ならば、どう見ても間違っているものを いっそ愛してしまえ。 誰もが認める鼻つまみ者と 平和に過ごせれば、 それはそれで、ひとつの度量だ。 この世界にとっての問題は、 間違ったものが闊歩することではなく、 その存在に対して正気の者が どんな態度をとり、 いかに対応するかなのだ。 |
2008年3月2日(日)
もはや気温に関心は向かない。とろけそうな春の青空の占有率こそ、刻々のニュースだ。 @花巻市(トライアルパーク)
ねえ、タケちゃん。 おいらの仕事場の仲間がさ、 君の写真を見て、 「へえ、あんたも、こんなことするの?」って 聞いてきたからさ、 「あたぼうよ、国内B級をなめたらアカン」と 大見得切ってやった。 そしたら「それは、どの程度のクラスか」と 突っ込んできたから、 「ABCDE(エンジョイのE)のB」と 説明してやった(笑)。 やつら大真面目に受けて 「サッカーで言えばJ2ですね」と感心しきりだ。 で「この写真の人のクラスは?」と聞かれたから 「国際A級と言ってな、 サッカーで言えばワールドカップ目前の青年だよ」と 解説してやった。 すると「あんたは、いつ国際A級になれる?」と きたもんだ(爆笑)。 おいらは、待ってましたとばかりに答えたね。 「そりゃあ、有給休暇しだいさ」 |
2008年3月1日(土)
春へ雪崩を打つ大気。最低気温+0度3分、最高気温+4度6分(ともに盛岡)。青空と雪雲が隣接した。 @雫石町
君は、何時 君がめざす者になるのだ? もしや君は、 誰かが認めてくれるまで待っているのか? 誰かが勲章をくれたら さっそく胸に飾って その日から何者かになるというのか。 ろくでもない権威の おそまつな審査に 君の魂を値踏みしてもらい、 誰かの都合や気分で「可」となれば、 君は、その日から「ひとかどの者」なのか。 そういうものなのか。 通りすがりの旅人に 褒めちぎられるのを待って、 街道の陽だまりに 打ち込んだ歳月を野晒しにするのか。 誰かに決めてもらう明日を待ちわびるのか。 |