TOP

イワテバイクライフ 2008年 4月前半


2008年4月15日(火)
青空のもと、最高気温18度1分(盛岡)。咲き始めの桜より、ほぼ満開のコブシの花こそ主役。 @平庭高原


  「難しいことを簡単に」
  と言う者に限って、そうなのだ。

  生半可に簡単にしすぎて
  事の重大さまで軽くする。
  浅はかに深みなど加えて
  情緒の泥沼にしてしまう。

  (せめて、お願いだ)

  その難しさを正確に伝えてくれ。
  省略せず、要約せず、
  ありのままに伝えてくれ。

  無骨でもよいから、
  ひとつひとつの事実が
  複雑にからみあっていることを伝えてくれ。
  その問題の肌触りや匂いを
  残しておいてくれ。

  要するにどういうことだと問われて、
  切れ味鋭く返せないなら、
  ありのままにしておいてくれ。

  私も、せいぜい理解に努めるから、
  余計な工夫はしないでくれ。

  軽々しく「核心」だとか「根本」などと
  謳わないでくれ。

  目の前に在るものを
  印象ではなく細密画にして見せてくれ。
愛機:HP2


2008年4月14日(月)
小雨に濡れて夜は明けて、青空も開けぬまま、どこか冷え冷えと水滴混じりの夕闇。 @岩手山麓


  山は、離れて見上げるのがいい。
  めざす場所には、
  一番低い所から這い上がるのがいい。

  毎日、間近に頂を眺めていると、
  人は、登頂の気分に満たされ、
  曖昧な場所に居つく。
  やがて、頂を仰ぎ見ることもなくなり、
  人並みだとか、そこそこだとか、
  相応だとか、丁度良い加減だとか、
  無理はしないとか、
  そんな気分に落ち着いていく。

  ところが、
  これ以上落ちようも無いところに
  叩き付けられた者は、
  明確に山の全容を知る。
  高さを知り、裾野の広がりを知る。

  どん底から見上げる頂こそ、
  四季の天空にそびえるものだ。
  信じがたい美しさだ。
  心ふるえる輝きだ。

  どん底から見上げる道程こそ、
  はてしない旅路だ。
  その眺めは、実に歪み無く鮮明だ。

  どん底から求める理想への距離と歳月が、
  すなわち私の未来になるのだ。
愛機:ホンダ モンキー


2008年4月13日(日)
桜満開の南東北に冷気が流れ込んだ。「花冷え」の一日。 @福島県(本宮)  オートバイトライアル東北選手権・第1戦


  昨日、岩手から福島に入った僕ら三人は、
  競技会場の下見をして途方に暮れた。
  どこをどう走ればよいのか
  見当もつかない風景だった。

  晩飯で飲んだ少量のアルコールで
  夢に誘われるわけもなく、
  結局、眠れないまま朝を迎えた。

  寝床の中で、指折り数えていた。
  トライアルを始めて流れた歳月だ。
  12年目の今年、
  初めて競技選手として登録をした。
  成績によってポイントを重ね
  上のクラスへの昇格をめざすという世界だ。
  (もはや、お楽しみではない)

  冷えた曇り空のもとで、
  10のセクションを3回繰り返した。
  成績のことなど考える余裕はなかった。
  関門を抜けられるかどうか、
  時間内に完走できるか、
  それだけだった。

  結果は、形容することすら憚られるものだったが、
  それは、敗北でも屈辱でもない。
  ようやく新たな一歩を刻んだ記念日に
  他ならないのだから。


  私の道は、私以外に引き受けられないのだ。
  私の歩調と意志をもって進む意外に
  明日の私に追いつく手段は無いのだ。
ライダー:太田さん、マシーン:GASGAS TXT PRO250


2008年4月12日(土)
強風吹き荒れる東北。西から雨雲接近。北へ北へ桜前線も早足。 @福島県(本宮駅)


  3台のトライアルバイクを積んだハイエースは、
  強風に煽られながら
  東北自動車道を南下した。

  オートバイトライアルの東北選手権を翌日に控え、
  僕ら岩手勢は、いささか浮かれていた。
  心待ちにしていた
  今シーズンの第1戦(福島大会)なのだ。
  しかも、いつもの仲間が、
  偶然、休暇を確保できて、
  久し振りの遠足気分だ。

  フロントガラスをとかす春の陽射しと、
  間断無い笑い声に車内の温度は上がる一方だ。

  週末は、愛機をトランスポーターに積んで
  競技会場へ遠征する。
  そんなオートバイライフを描いた
  映画を思い出した。
  スティーブマックイーン主演
  「オン エニィ サンディ」だ。
  アメリカ大陸の焼けたアスファルトと
  オートバイが巻き上げる砂煙が
  乾いた印象となって蘇る。

  あの「憧れの週末」が、
  私の人生のリズムになりつつあることに
  深い感慨を覚え、
  車窓に流れる満開の桜を見つめていた。


2008年4月11日(金)
前夜からの小雨は昼過ぎまで街を濡らした。午後の薄日も冷えた夕闇に吸い取られた。最高気温8度9分(盛岡)。 @盛岡市(上ノ橋)


  他人は
  ずっと前の印象で
  今日の私を断じる。
  (懐かしい私が戸惑っている)

  私は
  はるか先の予感で
  今日の私を決める。
  (輪郭も儘ならぬ私が歩き出す)

  歳月の大断層に今日一日の橋をかけ、
  移ろうものを見渡せば、
  嗚呼、私が遠ざかる。

  昨日を演じながら、
  ひとりの私を置き去って。

  明日を探しながら、
  ひとりの私を拾い上げて。

  今日という日が歳月の滝底へ落ちていく。
愛機:ホンダ モンキー


2008年4月10日(木)
薄日はやがて遮られ、本曇りの空から宵闇の小雨。開花した石割桜もしっとり。 @岩手山麓


  叱られながら
  小さなお前が、にこにこするなんて、
  その女教師が滑稽だったんだね。
  あまりに感情に流されていることが
  わかってしまったので、
  お前は
  反発するより、微笑むことで
  思いやりを示したんだね。

  処刑されながら
  老いたお前が、にこにこするなんて、
  時の力の正体は見透かされていたんだね。
  あまりにヒステリックな騒ぎに
  みんなが巻き込まれたので、
  お前は、
  苦しみ抜くより、風になることで
  ひとり正気を保っていたんだね。

  あの狂気の沙汰を
  克明に記録し語り継ぐ者は
  今どこにいる?
  通り雨のような日々に踊らされた者は
  今どこにいる?

  だから、お前ひとり、
  今日の風を浴びて
  悲しく微笑むんだね。
愛機:ホンダ ベンリィ50S


2008年4月9日(水)
いよいよ県南部から桜便り。盛岡の桜も、薄日を浴びながら蕾を脹らませ、花びらの一部さえのぞかせている。 @岩手山麓


  幾度おっしゃられても、
  反省するわけにはまいりません。
  事実無根の言いがかりに
  頭は下げられません。
  業務の時刻ですので、失礼します。

  何とおっしゃられても、
  賛同するわけにはまいりません。
  著しく一方的な主義主張に
  頷くわけにはまいりません。
  不測の事態に備えて、失礼します。

  どう力説されたところで、
  引き受けるわけにはまいりません。
  お宅様だけに理解できる芸術を
  賞賛するわけにはまいりません。
  日が暮れてしまうので、失礼します。

  ご納得いただけなければ、
  電話ではなく、直接おこしいただき、
  簡潔に、冷静に、そして、酔いをさましてから
  この私にお話しください。

  桜が咲きますので、失礼します。

愛機:ホンダ ベンリィ50S


2008年4月8日(火)
岩手山の中腹は薄茶色に染まり、春は頂をめざしている。曇天ながら最高気温は15度(盛岡)。花の準備は進んだ。 @川井村(たぶん)


  板のようなものが浮いていた。
  抱き寄せてみれば、
  ペンキの色から船の一部だとわかった。
  あたりを見回した。船は消えた。

  夜の海原を照らす閃光の直後、
  轟音とともに私は海に投げ出された。
  墨をみたした形の無いプールは、
  深さや方角さえ掴めなかった。
  息の続く限り浮上し続けた記憶が途切れた瞬間、
  私は海面に浮かんでいた。

  船の残骸を小脇に抱えて泳ぎ出すと
  重油の匂いがする。皮膚がぬめる。
  おびただしいコールタールだ。
  巨大な蛭(ひる)の群れのようだ。

  私は、漆黒の油にまみれながら、
  そこが広大な運河であることに気付いた。

  岸壁にそって灯が見える。
  その中にバーが一軒。
  私は、陸に這い上がると、
  油をしたたらせながら店に入った。

  カウンターに白いスーツの男が待っていた。
  船を沈めた彼は、私のグラスにビールを満たした。

  「さあ、君の望み通りだ。
  許しがたいものは、沈んだのだ」
愛機:XL1200Rスポーツスター


2008年4月7日(月)
春霞というより春の混濁。岩手山は、いつの間にか姿をくらませた。最高気温17度6分(盛岡)。ああ、空気がやわらかい。 @岩手山麓

  昨日、人を励ました男が、
  今朝、自殺していた。

  珈琲を入れて、ジャズを流して、
  落ち着こうとする自分が嫌になって、
  少し煙草を吸い、花瓶を叩き割って、
  吐いた。

  (イメージさ)
  そんな気分を白いワイシャツに包み、
  青いネクタイで結んだ。

  (イメージなんかじゃない)
  そんな朝を幾度も迎えたから、
  時々、夢と現実が刺しあうのだ。

  薫風吹き渡る最前線。
  ポスターカラーの青空を背景に
  戦闘機が行く。
  地平線を機銃掃射しながら
  操縦席の私の鼓膜は破れている。
  (これもイメージかい)

  足元には
  鎮痛剤のビンが転がり跳ねる。
  対空砲の弾が風防をかすめ、炸裂する。
  私は、硝煙の匂いを深く吸って、
  急降下する。
  鉄臭い私の血糊が風に飛ばされ
  どす黒いシミを空に残していく。

  眼下に揺らめく悲しい蜃気楼に
  500kg爆弾とともに吸い込まれていく。
愛機:ホンダ ベンリィ50S


2008年4月6日(日)
これぞ春爛漫。大気に刺さっていた針はとけ、夜風さえ頬にやさしい。県南から桜の便り。 @滝沢村(トライアルパーク)


  よく寝た。気持ちのいい目覚めだ。
  昨日のことなど春霞の彼方だ。

  飯が美味い。好物をゆっくり味わう。
  他愛も無い話を熱いお茶でしめくくる。

  山は春だ。ふっくらした土を掴む。
  ぬくもる風に希望が膨らむ。

  今日も仕事だ。思いのままに片付ける。
  迷い無くひと筆でことを運ぶ。

  酒がすすむ。憂いの無い街灯りだ。
  しみじみ人生に酔ってみる。

  いい感じだ。
  鎖はとかれた。嬉しいなあ。
  棘は抜けた。楽しいなあ。

  これが、惨憺たる過去の代償というものか。
  明日も働いて、
  そして風にとけるだけなのだ。
  まったく、それだけでよいのだ。
  何と安らかな私だ。
ライダー:曽原さん、マシーン:ベータ


2008年4月5日(土)
肌寒かった、心も浮かなかった。けれど、雲間にのぞく青空と陽射しは、春本番へ向かう大気の意志だった。 @花巻市(トライアルパーク)


  それは、もはや
  鍛錬とか努力とか、そんなものではない。

  魂に通じる道があって、
  わずかに、ほんのかすかに
  揺らめくものがあるのだ。

  それは、
  鳥になれるかもしれないという予感や
  大地をひと蹴りして跳ぶカモシカの
  しなやかな手応えなのだ。

  繰り返すトライの中で、
  まれに、ごく稀に、
  心の奥底に灯が揺らめくのだ。

  何とも美しい瞬間を
  もう一度たぐり寄せたくて、
  上手くいくとか、いかないとか
  そんなことは、もうどうでもよくて、
  ただ、その灯を見たくて、
  一刻も早く見たくて
  眼前の不可能という岩に跳びかかるのだ。
  一心不乱に突き刺さっていくのだ。

  幾多の歳月に流されず、
  轟々たる季節の川に流されず、
  思いを打ち込み続けるある日のこと、
  まったく突然に、
  空が割れて、目も眩むほどの光がさすのだ。
  この先に待ち受ける果てしない困難を
  照らして見せてくれるのだ。
ライダー:豊間根さん、マシーン:GASGAS


2008年4月4日(金)
彼方を霞ませ光溢れる青空に、少し遠出をしてみれば、夕刻の黒雲。冷えた水滴。最高気温13度4分(盛岡)など束の間の事。 @葛巻町


  まったく嫌な言葉だ。
 「なった気」だとよ。
  
  独房みたいな街だからな。
  まあ、いいや。
  まずは「なった気」して投げてみろ。
  マウンドから堂々投げてみろ。
  そんな気持で投げ続けるうちに
  人はエースになるものだ。
  鼻っ柱をへし折られながら成るものだ。
  (そういうものだ)

  いいか、お前たち。
  何ものかになる気力も無く
  なる術も無い輩に限って
  よく使う台詞に惑わされてはいけない。
  志を持つ者よ。
  なりたいものを強く思い浮かべ、
  なりきって修練することだ。
  そうして、ある日、
  なりきる必要も無いほど
  めざすものに成っているのだ。

  成るか成らないかは、
  他人が決めることではない。
  それとも、なにかい。
  謙虚に佇む何ものでもないお前が
  ある日、突然、誰かに認められたら、
  慌てて何者かを演じるのか。振る舞うのか。
  (そうではあるまい)


  稲穂は自ら頭をたれるのだ。
  誰かに押さえ付けられるのではない。
愛機:XL1200Rスポーツスター


2008年4月3日(木)
最高気温は10度1分で煮え切らない春。岩手山の印象も希薄な薄曇り。昼過ぎまで薄日もこぼれたが、やがて小雨に濡れた。 @盛岡市


  遠くに来たわけじゃない。
  けれど、ここに暮らしていなかったなら、
  ここは、地平線の彼方だったのだ。

  ここに立ち止まった私の偶然。
  ここに風景があった朝の必然。

  ああ、雲が流れる。私とは無縁に。
  ああ、光が照らす。まさに私を。

  縁と無縁の境界線で
  私は、この場にすがりついたのだ。

  空も丘も口ごもる。
  突然故郷に舞い戻った男を見るように、
  戸惑っている。

  この天地を愛してしまった私の道程を
  物語る時間は無い。

  だから、せめて、
  跪き、土を叩き、残雪をほおばって
  (どうか受け入れてくれ)と
  懇願するのだ。
  (ここに私を埋めてくれ)と

  哀願するのだ。
愛機:ホンダ ベンリィ50S


2008年4月2日(水)
仕事に追われ、時々窓の外を眺めるだけだったのですが、そうですか、14度8分まで行きましたか。取り戻しましたね、春を。 @岩手山麓


  私の出現は予想外だったのか?
  (驚くことはない)
  この天地を独り占めするのは、
  君ひとりじゃない。

  私の道程に見覚えがあるって?
  (まさに其処だよ)
  蜜の在り処を探し当てたのは、
  君ひとりじゃない。

  私の本気を嘲笑っていたのか?
  (自惚れてはいけない)
  季節を越えて走り続ける者は、
  君ひとりじゃない。

  私の台詞がそれ程疎ましいか?
  (勘違いしてはいけない)
  道の風に天上の声を聞く者は、
  君ひとりじゃない。


  私はね、
  ことさら声にする必要もない幸福を
  右手にしのばせて、
  今日も微笑むだけさ。
愛機:XL1200R スポーツスター


2008年4月1日(火)
濃淡まだら模様の雲は、やがて切り開かれ、柔和な光が溢れ出した。けれど、吹き荒れる風に人は身を固くするばかり。 @岩手山麓(八幡平市)


  そうかい、
  そんなに「ありのまま」が良いのかい。
  (大丈夫)
  君が何をしようと
  世界は、ありのままだから。

  そうかい、
  そんなに「無色透明」でいたいのかい。
  (大丈夫)
  君が何色であろうと、
  全ては、時代に染まるから。

  そうかい、
  そんなに「さりげない」のがお好みかい。
  (大丈夫)
  君が何に関わろうと
  深く突き刺さることはないから。

  そうかい、
  「たかが人生」と言ってみたいのかい。

  (大丈夫)

  一切は君の心の出来事だから。
  他人にとっては「たかが君の人生」だから。

  (心配せず、ひとり君でいればいい)
愛機:XL1200Rスポーツスター


このページの先頭に戻る