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イワテバイクライフ 2008年 4月後半
2008年4月30日(水)
最高気温23度3分(盛岡)は、まあ季節の勇み足程度のこと。注目すべきは、白く濁った大気。海の彼方の汚染の気配。 @八幡平アスピーテライン
長老様、聞いてください。 私は村の誰より早起きして働きます。 無駄口も叩かず汗水流します。 日が暮れて酒も飲まず、夜なべ仕事です。 ところが長老様、 村人は、私に口をきいてくれません。 長老は、微笑んでこたえた。 (そういうものさ) 長老様、聞いてください。 私は村の誰より山や川を知っています。 秘密の道を辿り、どっさりキノコをとります。 秘密の沢を渡り、ずっしり魚を釣るのです。 ところが長老様 村人は、私を認めてはくれません。 長老は、ため息をついてこたえた。 (もっともなことだ) 長老は問い返した。 お前にとって、村のものたちは、 本当に必要なものたちなのか? 語り合ったことはあるのか。 分かち合ったことはあるか。 もしや、 お前の心を満たすための道具ではなかったか? (頑張るほどに、丸見えだ) |
2008年4月29日(火)
ひんやりと祝日の夜は明けた。終日、霞み加減の青空だった。午後2時過ぎ、盛岡で震度3の地震。 @北上高地
事実は過去にあり 結末は未来にあり 動機は今日にあり、 人は、その境で揺れる。 振り返り、向き直ることを忘れ、 過去に埋まる。 先を急ぎ、辿った道程さえ忘れ、 未来は遠のく。 逡巡して、選び取ることを忘れ、 今日は終わる。 深追いするな。過去を。 幻影にするな。未来を。 今日という日から、 半歩進み出て、事実を知れ。 半歩後ずさり、結末を思へ。 |
2008年4月28日(月)
定まらない青空。濃淡をまじえて流れる雲から時折の雨。最高気温10度6分(盛岡)は、冷えた夕闇を招いた。 @岩手山麓
花に情けを与えず 風が吹く。 闇が凍る。 散りかねて苦しむものを 風が斬る。 闇が覆う。 捨てられぬ夢を 風が飛ばす。 闇が消す。 春になるたび、 わけもなく咲き乱れるものを 風が踊らせる。 どうしても生まれて来るものを 闇が引き受ける。 そのように、束の間狂った花が ふと黙る瞬間(とき) 闇の風は、その首を斬り落とす。 風よ、この夕暮れに 幾億の介錯(かいしゃく)をした? 幾億の春にとどめを刺した? |
2008年4月27日(日)
曇りのち晴れ。やがて強風に雨がまじり、黒雲が流れ、雷鳴が轟いた。 @秋田県(金浦) 東北トライアル選手権・第2戦の会場
初めての舞台で力を出すのは難しい。 定められたものに 動かされ 歌わされ 踊らされ 結局、私ではない私を演じてしまう。 (気持で負けているんだね) 岩に向かって不満をぶつけても 何も越えられない。 愛機に向かって恨み事を言っても 何も改善しない。 入り口から出口まで すべてを決めるのは、私の心だ。 目で見てわかったつもりになってはいけない。 他人が選んだ道筋に惑わされてはいけない。 柔らかい呼吸で刻一刻を楽しみ、 鮮明な意志で行先を見据え ひたすらに進み続けるなら、 どんな舞台も私の舞台になるはずだ。 そう思えるようになった競技終盤。 クリーン(足つきゼロでセクションを通過)が ふたつ出た。 (そうさ、ひとつひとつさ) |
2008年4月26日(土)
すでに初夏と言うべき陽気。花から新緑へ。季節の移ろいも急だ。 @秋田県(金浦)
明日の競技会を控えて 秋田に入った。 すっかり日が傾いた会場で セクションの様子を下見した。 急斜面に連続する岩を見渡すほどに 私の進むべきラインが イメージの中で寸断される。 立ち往生する私の頭上で 海猫が鳴いた。 胸を突く丘の斜面を登りきると、 日本海が広がった。 ひとつの岩に心を縛られる前に、 雄大な眺めに向き合っておこう。 陸地と海原の境界に立てた この夕暮れこそ 人生のトライに他ならないのだ。 |
2008年4月25日(金)
天気は回復したが、気温は13度4分(盛岡)止まり。岩手山も白濁の大気に霞みがち。 @盛岡市
わたくしは、 この地を授けられたと思うのです。 闇に置き捨てられたわたくしが、 かすかな鳥の囀りを頼りに歩み出し、 辿り着いた場所が、ここでした。 力を誇るだけのものが 見向きもしない安全地帯です。 富を求めるだけのものが 踏み込むはずのない天地です。 勲章に拘るだけのものが 照らされることのない光です。 運を転がすだけのものが、 最後まで予測できない風です。 都に恋焦がれるものには、 あまりに静かな時の眺めです。 (嗚呼、空高く、あの日の鳥の囀りです) 無言で移ろうものの気持ちがわかるまで、 一面を見渡すのです。 音も無く流れるものの気配がわかるまで、 ひとり呼吸するのです。 |
2008年4月24日(木)
小雨にけむる、というより、イワテ全域に濃霧注意報が出ていた。どこか寒々しい12度7分(盛岡の最高気温)。 @盛岡市
雨に濡れて 引き返した。 花を纏って 家に帰った。 そんな私に 君は呟いた。 あなたは、 こうして 365日、 あなたを供養しているのね。 爆心地に立ち尽くした日々を 供養しているのね。 とうとう救われなかったあなたを あなたは供養しているのね。 そうなのね。 春の雫が とめどなく したたり落ちた。 |
2008年4月23日(水)
白濁の濃度を増しながら、とりあえず晴天は維持された。最高気温は22度6分(盛岡)。葉桜も、そこかしこに。 @八幡平市
鉄の重さが道にとける。 加速すれば、 隕石のように丘の向こうへ吸い込まれていく。 (ふくよかなレールが果てしなく続く) 私の心が薫風にとける。 旋回すれば、 猟犬のようにカーブの向こうへ飛込んでいく。 (鋭くターンして獲物を追い込んでいく) この時が過去にとける。 振り向けば、 昨日の私が、怖ろしい速さで追い上げて来る。 (追いつかれた瞬間、私は記憶になる) 目前の未来を追走して 春に叫べば、 明日の私が振り向き、ニヤリ笑って遠ざかる。 (追いつけない限り、私は虚ろな今だ) |
2008年4月22日(火)
春霞の彼方に目を凝らせば岩手山の残雪。見渡す限り「ぼんやり」。最高気温23度(盛岡)。 @八幡平市
わかりやすいものを 不用意に受け取ってはならない。 わかりにくいことが 省略されていることもあるのだ。 目あたらしいものを 追いかけ踊らされてはならない。 カビのはえたものが 裏返しされただけかもしれない。 軽く爽やかなものを 達観の境地と信じてはいけない。 人の心で商うものが、 気休めを歌っていることもある。 ものしずかなものを 深遠だと勘違いしてはいけない。 ものを言えぬものが、 身を伏せているのかもしれない。 微笑んでいるものを 寛大なものと思ってはいけない。 打つ手が無いものが、 狂いだす寸前なのかもしれない。 |
2008年4月21日(月)
月曜日だというのに桜の名所には車の行列。春霞のてんやわんや。緑の芽生えは着々。 @早坂高原
風は、異国から吹き渡る。 深く胸におさめれば、 花が香る。街が匂う。 風は、ひたすらに移ろう。 地平の彼方を思えば、 森が香る。戦が匂う。 ある日ある場所の風景に 漂った空気の一切が、 空を旅して流れ来る。 安住の地も無き風の生涯。 時に乱れ舞い花を散らす。 留まれば腐乱のはじまり。 行先無き壮大な祭行列よ。 草木なびかせ踊りながら、 季節の津波が押し寄せる。 ここに立つだけで世界だ。 ここを走るだけで地球だ。 ここで沸き立つマグマだ。 (ささやかな夕暮れの幻だ) |
2008年4月20日(日)
眩しい青空に咲き乱れていく桜。いささか乾きすぎて砂埃の印象。最高気温21度4分(盛岡) @花巻市
二人で競技会場へ通うようになった。 亭主が 青空に染まって トライする姿に女房は寄り添った。 亭主が 減点の嵐の中で のたうつ無様を女房は受け入れた。 亭主が 袋小路にはまって闘っている時、 女房はタラの芽を夢中で摘んでいた。 今日という日は 亭主にとって不本意の極み。 女房にとって至福の日曜日。 (ねえ、もっと楽しんでトライしなくちゃ) かりっと揚がったタラの芽の天ぷらを ビールで味わいながら、 女房は、亭主のど真ん中を言い当てた。 |
2008年4月19日(土)
強風に桜が揺れた。青空を探して人が走った。道は白く乾いた。 @盛岡市
せめて、 支配者は、力まかせの者がいい。 その刀は、 人の地位を斬るだけで、 心に突き刺さることはないから。 (没落の日まで吠えるがいい) せめて 伝道師は、楽観的な位がいい。 その話は、 人の気分を擽るだけで、 決断を邪魔することはないから。 (気休めを歌っているがいい) せめて 羊の群は、静まり返ればいい。 その姿は、 味方を呼びはしないが、 怪しいものを近づけないから。 (闇の奥まで凝視するがいい) |
2008年4月18日(金)
関東地方の風雨を見せつけられながら、「曇天と時折の水滴」で持ちこたえた盛岡。桜安泰。 @盛岡市(高松の池)
テレビドラマの大人は、 現実を前に 気休めの言葉を欲しがる。 その場しのぎの術を探す。 甘口な占いを信じたがる。 そんな大人を相手に 虚ろな商売が始まる。 表を裏にして 「ほらね」とおどけてみせる。 裏を表にして 「たかが」と微笑んでみせる。 軽いタッチで、斜に構え、 ことさらに楽を装う。 それで、何ひとつ解決しなくても 誰も怒らない。困らない。 所詮、答えの無い人の心のことだから、 ガマの油と一緒だ。 効くか効かぬか、 カモの気分ひとつだ。 |
2008年4月17日(木)
ほぼ初夏の陽気。盛岡では桜満開宣言。観測史上3番目の早さ。 @岩手町
道に迷い途方に暮れる青年を 男は励ました。 「たかが人生。思い詰めないことです」 飢えと乾きに苦しむ村人達を 男は励ました。 「たかが人生。さあ霞を食べましょう」 天変地異に遭い神を探す群に 男は言い放った。 「たかが人生。終わる時には終わります」 やがて雨が男を濡らした。血の雨だった。 そこは戦場だった。 流れ弾が指を吹き飛ばした。 (たかが人生)と男は呻いた。 砲弾の雨は、手足を奪った。 男は捕虜になった。拷問が待っていた。 (たかが人生)と男は微笑み耐えた。 将校が煙草の煙をくゆらせ、男の肩に手を置いた。 「力を抜きたまえ」涼風のような声だった。 「君は、人生を口にする前に、痛みを知ることだ」 男の「誇り」とやらに煙草の火がねじこまれた。 薄紙を焦がす匂いがして、瞬く間に穴が開いた。 格子窓の月が、悲鳴を聞いて笑い出す。 |
2008年4月16日(水)
陽を浴びて動くだけで額に汗がにじんだ。今年一番の暑さ。大船渡市で26度など夏日も飛び出す。 @盛岡市
蒼い空はね、 仰ぐ心が澄み切っているから 深いんだよ。 良い声はね、 まっすぐ伝えようとするから 響くんだよ。 天と地はね、 人が夢に向って疾走するから 続くんだよ。 |