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イワテバイクライフ 2008年 5月前半
2008年5月15日(木)
天気回復の動きにもメリハリは無く、岩手山の印象は夕刻のシルエットのみ。最高気温14度7分止まり(盛岡) @滝沢村
(大混乱をおそれて) 到来する不幸を ありのままに予告する為政者はいない。 ただ、ひたすらに 「備えよ」と繰り返す。 生き延びられるか否かは、 「心がけだ」と念を押す。 「脇を固め、朝に夕に身構えておけ」と その日を暗示させるだけだ。 (それで責任を果たしたつもりだ) 押し寄せる災いの気配をよそに、 テレビは、享楽とナンセンスに時を費やし、 不幸の正体を語ろうともしない。 予測させず、行く末を思い描かせず、 ついに整然と不幸を迎え、 壊滅の風景を他人事のように見渡し、 粛々と片付け、 やがて復興の名のもとに 莫大な何かが動き出す。 |
2008年5月14日(水)
曇りのち昼前から冷えた小雨。最高気温12度1分(盛岡)。所によっては暖房器具復活。 @盛岡市(中津川)
旅人は、 花の前に立ち止まる。 束の間、目を細め、 そして、きまって嘆息する。 (はかなくも、散っていくのだね) そう言い残して旅を続ける。 行き交う旅人を 花は、道が刻まれる遥か前から見てきた。 花は、けして散らなかったのだ。 鮮やかに四季の空の下に咲き続けたのだ。 その様を見届ける旅人などいないから、 花は散ったことになっている。 花は散るものだと信じる者たちに 花は、ただ揺れてみせるだけだ。 人は移ろうものだと決めつける者たちを 花は、根を張り、見送るだけだ。 |
2008年5月13日(火)
ひんやり夜明け。薄雲を通した陽射しでは、最高気温16度6分(盛岡)が精一杯。夕暮れを迎え、大気は透明度を増した。 @北上高地
はじめから 出来ないと決め付けていないか? 世界が違うと自分に言い訳していないか? (道はあるはずだ) 扉を開くのは好奇心。 歩き出すのは探究心。 継続するのは向上心。 諦めないのは執着心。 挫けないのは自尊心。 そんな気分から解放されて 余計な力や思い込みを捨てた途端、 すんなり出来ることがある。 (もしや、達人とは) ごく当り前のことを あるいは単純なことを 精密に、厳格に、柔軟に やり抜いているだけなのかもしれない。 |
2008年5年12日(月)
快晴が招いた放射冷却。藪川で最低気温・氷点下2度4分など、内陸はひんやり。でも、青空の透明度は極上。 @盛岡市(北上川)
暮らしの中の川なんて 上流と下流の向きさえ忘れている。 通りすがりの川なんて 澄んでいるかいないか気付かない。 (ところが、心の川は、どうだ) 拘るものの蛇行に 一喜一憂し無駄な石を投げ入れる。 成り行きを思い煩い 橋の上に立って川を止めようとする。 川の源を知りもせず、 目の前の流れに意見したところで 何も変らない。 それでも人は、 移ろうものを追いかけることで、 橋の上に突っ立つだけの自分を忘れる。 とめどない流れに寄り添えず、 誰かが今日も溺れ死んでいく。 |
2008年5月11日(日)
冷え冷えとした五月の日曜日。陽射しと時雨入り乱れ、最高気温は13度6分(盛岡)。 @青森県大鰐町
入り口を前に 彼方の出口を見据える。 飛込む前に 最も安全な道筋を心に決める。 胸を突く丘を前に ブレーキレバーから指を離す。 勝負の時を前に 登り切ることだけを思い描く。 (でもね) 群がる小岩は、転がっているだけだ。 偶然、転がっているだけだ。 危うく在るだけのものたちだ。 ある日ある時 そこに現れた私が勇んで駆け出し 岩を蹴散らすから、 岩は、自由気ままに傾き、動き、転がるのだ。 その岩に前輪を揺さぶられ、 思いもかけぬ方向へ持っていかれる。 すべての原因は私にある。 今日、ここでトライする私が原因なのだ。 一切を理解した上で、 道を外れ、失速し、空転する私を なお頂に押し上げようというなら、 もはや、澄み切った空をめざして 半狂乱になるほかないのだ。 |
2008年5月10日(土)
最低気温3度7分からの大気は多少の青空や陽射しで温もるわけもなく、16度4分止まり(盛岡)。 @盛岡市
全部取り替える必要は無い。 新しいオイルを入れるだけで 滑らかだ。 新しいハンドルを握るだけで 伝わるのだ。 新しいタイヤに変えるだけで 馴染むのだ。 ほんの少し良い方向へ整えるだけで 道の印象は大きく変る。 私が入れかえるべきものは何か 風に問うだけで、 今日の私も大きく変る。 ひたすらに流れ続けるものを すべてすくい取ることは不可能だけれど、 この瞬間の川に触れることは出来る。 五月の緑がとけた水に濡れるだけで、 道を辿る心は潤う。 ささやかな出来事が 行方を大きく変える。 |
2008年5月9日(金)
大気は冷えて(盛岡の最高気温17度4分)、所により小雨。まれに山の上の霰(あられ)。空は、ゆっくり安定へ向かった。 @八幡平市
来る日も来る日も あなたを見上げるほどに 山は、あなたでなければならなくなる 幾度も幾度も あなたを描くほどに 四季は、あなたの物語になっていく。 走りに走って あなたを追うほどに その姿は、別人のあなたになっていく。 立ち止まり立ち止まり、 あなたを記憶するほどに 抱きしめきれないあなたになっていく。 束の間の水鏡に私を映して あなたに寄り添えば、 ああ、今日という日が流れていく。 在り続けることの悲しさが 風にふるえ、 雲に押し流される。 |
2008年5月8日(木)
乾いて霞んだ晴天は、しだいに薄雲に覆われ、所によっては小雨。曇天でも菜の花の黄色は鮮烈。 @岩手山麓
「良いことなどしなくてもよいから、 悪いことをしないことこそ良いことだ。」 そんな口癖の通り、 2年や3年、波風を立てず、 結果、死んだような港を残して、 都に帰る者がいる。 (逃げ切った安堵の笑顔をふりまいて) 「優れていなくてもよいから、 間違い無く仕上げることこそ優れているのだ。」 そんな原則の通り、 2年や3年、無事故を貫き、 結果、去勢された島を残して、 都に帰る者がいる。 (無傷の勲章を誇らしげに胸に並べて) 「耳目を集めなくてよいから、 世間を騒がさないよう全精力を傾注すべきだ。」 そんな方針の通り、 2年や3年、やり過ごし、 結果、もの音ひとつしない砦を残して、 都に帰る者がいる。 (個性を発揮し大いに頑張れと演説して) そしてまた、都からやって来る。 平穏と無難と無傷を熱望する者が。 都に戻る算段で頭が一杯の者が。 (もはや、私には、ひとつの風物詩だ) 2年や3年、眺めて見送るだけだ。 |
2008年5月7日(水)
夕べの雨に現れた大地は、五月の風と陽射しに乾いた。久し振りに岩手らしく澄んだ青空。 @岩手山麓
おそろしいのは、忘れてしまうことだ。 残酷な日々が 良い思い出になってしまうことだ。 裏切りどもが 懐かしい登場人物に変わることだ。 耐え抜くことで掴んだ盾と 乗り越えることで得た剣で 切り拓いた荒野が、安住の地になった途端、 拷問も、剥奪も、背信も、 すべての記憶が光にとけていく。 土を掘り起こした怒りや 棘を叩き払った悲しみや 岩を動かした憎しみが、 ぬくぬくと黒土の中で眠り出す。 夜露をしのげるだけの場所をつくったら、 来た道を引き返すと心に決めたのは誰だ。 (こんな様だから) 記憶よ、春に別れを告げて飛び立て。 翼よ、復讐の翼よ、 極寒の海原をかすめて飛び続けろ。 凍った針の風を浴びて燃え盛れ。 二度とはない好機を窺え。 時に臨み急降下せよ。 焼けただれた思い出が眠る大地深く 垂直に突き刺され。 |
2008年5月6日(火)
昼前後、青空に割り込んで来た黒雲。雷鳴まじりの雨。まれに雹(ひょう)が街を叩いた。 @盛岡市(岩手山遠望)
分かれ道で、 君たちは、それぞれの方角を選びとっていく。 その瞳は、あまりに自信に満ちて その姿は、眩しいほどに輝くから、 精一杯手を振って送り出す。 そうかい、山へ登るのかい。 行くがいい。大地踏みしめ。 (明日、大爆発する山へ) そうかい、海を渡るのかい。 行くがいい。潮風を受けて。 (明日、火蓋を切る海へ) そうかい、空へ舞うのかい。 行くがいい。星を見上げて。 (明日、流星が襲う空へ) 君は、強く賢いから、何とかするのだね。 溶岩に焼かれながら、理想を謳いたまえ。 核爆発のど真ん中で、平和を訴えたまえ。 隕石に激突しながら、未来を叫びたまえ。 せめて私は、この夕風に吹かれ 旅立つ君に手を振るから、 思い通りの最期を迎えるがいい。 |
2008年5月5日(月)
空は緩やかに下り坂へ転がり出した。大地は影を失っていった。夕刻の風に水滴がまじった。 @岩手山麓
(支配することに血眼の者よ) あなたが、おいしいと言うのなら、 泥でも何でも入れましょう。 そのまずさに顔もゆがめず満足するあなたを 私は、にっこり眺めます。 あなたが、たのしいと言うのなら、 毒でも何でも混ぜましょう。 その危うさに気付くことなく堪能するあなたを 私は、頷いて眺めます。 あなたが、安心したいと言うなら、 嘘でも何でもしのばせましょう。 その怪しさを疑うこともなく熟睡するあなたを 私は、祝福して眺めます。 あなたが、頂をめざすと言うのなら、 力でも何でも差し出しましょう。 うま過ぎる話に立ち止まらず勢いづくあなたを 私は、後方から眺めます。 罠へ突き進むあなたを邪魔する者など 私が追い払います。 口約束に浮かれるあなたを諭す者など、 私が斬り捨てます。 (さあ、すべてを思い知るまで、まっすぐに) |
2008年5月4日(日)
データ上は「夏日寸前」(盛岡で24度5分)。けれど、太陽の熱と乾いた風は、すでに、夏の真ん中を思わせた。 @遠野市
このひと月 毎週のように厳しいトライアルが続いた。 自らの力の境界線上で頑張った。 いささか疲れがたまった。 今日も大会だ。 けれど、慣れ親しんだ遠野の里山だ。 馴染みの顔がそろって、和気藹々だ。 (まったく、里帰りした気分だ) 新緑が初夏の風を浴びて踊る。 思わぬ方向に野鳥のさえずり。 何より、途絶えることのない川のせせらぎ。 いっさいを胸におさめて セクション(競技区間)へ入る。 撫でるように倒木を越える。 肩を叩くように岩を越える。 抱きしめるようにターンする。 五月の岩手のひとつひとつが 今日の私を待っていたように やわらかく走らせてくれる。 このひと月、成績という宙に浮くものを求め、 求めるほどに空を切り続けた。 その理由がわかった気がした。 (すべては、地上のことだったのだ) 見渡す一面は、踏みしめるためにある。 足を着くことを恐れることは無い。 本当に大地に触れる瞬間を選び取ればいい。 (大地と和解した、と思えた) |
2008年5月3日(土)
真夏日にはならなかったという程度の異常気象。ただし、透明度を取り戻した青空は正常。 @岩手山麓
私が見上げるのは、 そこに、ひとり立つあなたです。 あなたに群がるものではありません。 私が描きたいのは、 そこで、彼方を望むあなたです。 あなたの後を追うものではありません。 私が憧れるものは、 そこで、志を立てるあなたです。 あなたの陰に隠れるものではありません。 あなたにすり寄るものに 何と言われようと、いいのです。 どうでもいいものと手を握るくらいなら、 私は、遠く離れて待つだけです。 あなたの裾野が、 雪に埋まり、氷に閉ざされ、 ついに、あなたが孤独な頂になる日を 待つだけです。 |
2008年5月2日(金)
内陸北部では27度前後まで気温が上がった。夏を思わせる大気の中に残雪と花と緑が混在する。 @八幡平市
いいさ、いいさ、朝寝坊ぐらい。 (わたしは、君の上司じゃない) いいさ、いいさ、しくじっても。 (わたしは、君の査定はしない) いいさ、いいさ、惨敗したって。 (わたしは、君の監督じゃない) いいさ、いいさ。手遅れだって。 (わたしは、君の父親じゃない) いいさ、いいさ。花が散っても。 (わたしは、君の神様じゃない) 君の結末が何であれ 私にできることは、 君をそっとしておくことさ。 君の厄介に深入りせず、 君の過去を探りもせず、 君の未来に関与もせず、 君の束の間の春に微笑むことさ。 君との穏和な別れまで、 にっこり息を止めているだけさ。 狂ったように善良でいることさ。 |
2008年5月1日(木)
盛岡の最高気温27度4分。岩泉は真夏日寸前だった。晴れてはいるが濁った空だった。 @樹海ライン(八幡平市)
村では、ひと月もすれば、 人が移ろう季節です。 なのに、あなたは、 ふた月も先のことを私に託したのです。 (いいのですね、本当に) ここで夏を迎えて、いいのですね。 それはそれで、よろこばしいけれど、 季節をひと巡りするたび延命される者にとって、 花の香りも、光の匂いも、どこか虚ろです。 根を張らない花は、やがて枯れます。 その場限りの灯は、闇と隣り合わせです。 あまりに不確かな約束に翻弄されて、 私は疲れ果てたから、 もう、どうでもよいのです。 見知らぬ誰かの帳尻あわせで 引き離されたり、押し流されたり もう、どうでもよいことです。 もし、ここを出て行けと言われれば、 私は、あなたと無残に刺し違え、 ここに眠るだけです。 そう思えた途端、 憶測の風は止み、噂のさざ波も消え、 誰かが持ちかける怪しい未来さえ 風に飛ばされていくのです。 |