TOP

イワテバイクライフ 2008年 6月後半


2008年6月30日(月)
雨は夜明けを見届けることなく止んだ。乾いた風に濡れた夜の記憶は乾き切り、青空が現れた。 


  一面の防弾ガラスをはさんで世界が広がる。
  私は、はらわたを溶かすほどの酒をグラスに満たし、
  飛び交う銃弾や空中分解する戦闘機を見渡す。
  双眼鏡で蒼い水平線を辿れば
  貴女がいる。
  血まみれで抱き合い接吻している。
  私が向こう側へ駆け出そうとした瞬間、
  眼前に核弾頭が砕け、
  巨大な炎が世界を包み込む。
  閃光が硝子の皮膜を貫通し、
  私の白日夢を焼き払う。


  空一面のバリアーをはさんで宇宙が広がる。
  私は、地の底から湧き上がる声で明日を予言し、
  消滅するものや誕生するものを見渡す。
  万華鏡で光の旅の果てに目を凝らせば、
  貴女がいる。
  白い翼が黒い星雲に吸い込まれる。
  私が向こう側へ舞い立とうとした瞬間、
  流星群が降り注ぎ、
  巨大な炎が天空を覆い尽くす。
  神々が硝子の天井を貫いて、
  私の時空を無に還す。


  (地中海上空で、そんな夢を見た気がする)
愛機:HARLEY−DAVIDSON XL1200R SPORTSTER


2008年6月29日(日)
梅雨前線の接近。昼過ぎ降り出した県南の雨は、夕刻、盛岡に届いた。被災地の大雨が気になる・・・。 


  どれほど走っただろう。
  急ターンを重ねて追っ手から逃れ
  昼夜駆け抜けて来た過去を振り返る。

  激しい砲撃を受けて
  着の身着のまま逃げ出した僕らは、
  あの夜を限りに互いを見失った。

  確かなことは、
  いつか、この地で再会しようと約束したことだ。

  今日、彼方を見据え、
  耳を澄ましてみても、
  十数年前の私は現れない。

  さては、野心の罠にかかったか。
  それとも、偶然の成功に溺れたか。
  あるいは、私を見捨て、私を売ったのか。

  雲に雨が匂う。
  風が猟犬の接近を知らせる。

  (もう待たない。先に行くよ。ひとりで)
愛機:BMW HP2


2008年6月28日(土)
太陽の熱を間近に感じた。漂う雲も少なく、どこか白く霞んだ一日。北国の28度9分(盛岡)は、ほぼ真夏。 @八幡平アスピーテライン


  離陸しようとするマシーンに
  ブレーキをかけ、
  アスファルトロードにクリップ。
  視線をコーナーの先へ流せば、
  風は、鋭角に向きを変える。

  (貴女の手を取り逃げ出すように)



  彼方へ伸びる道に
  胸一杯の炎を燃え盛らせ、
  一気にシフトアップ。
  低く身構えダッシュすれば、
  風は、夏雲の群れを突き破る。

  (貴女の唇を奪い、とかすように)



  渦を巻いて急降下する道に
  意識を立て
  螺旋の方向へ腰を切る。
  傾く風景を抱き寄せれば、
  風は、センターラインを巻き込んでいく。

  (貴女と滝底へ落ちていくように)
愛機:BMW HP2


2008年6月27日(金)
カラ梅雨の風に火がついて、猛烈な夏空。積乱雲乱立。焼けたアスファルトを叩く天気雨。最高気温27度2分(盛岡) @八幡平市

  北へ向かって走っていると、
  不思議だ。
  オートバイの音が消えていく。
  静かだ。
  私の呼吸まで遠ざかる。
  求める方角へ
  私の意識が流れていく。
  心を向けるだけで
  彼方の風景が目前に迫る。

  聞こえる。聖歌だ。
  冷えた歌声だ。
  大聖堂が香る旋律だ。

  瞬きはスローモーションのように
  光を払い、時を払い、憂いを払う。

  辿り着いた丘で
  ヘルメットを脱いだ途端
  轟音に包まれる。

  雲の爆音だ。
  山岳の鳴動だ。
  大気の唸りだ。
  真夏の絶叫だ。
  
愛機:HONDA Ape100


2008年6月26日(木)
雲を払い切る風は無かった。所により晴れ間、あるいは通り雨。印象の薄い「夏日」(盛岡で25度1分)。 @岩手山遠望(盛岡市)


  おもちゃ箱には、
  ひとつやふたつ
  壊れたままの玩具が眠っていた。

  初めて手にした時の嬉しさに
  嘘は無かったけれど、
  どちらからともなくつまらなくなって
  玩具は突然壊れ、背を向けた。

  修理してあげればよいのに、
  お気に入りの玩具に夢中で、
  触れることさえ無くなった。

  必要なものと、そうではないもの。
  子供心にも、すっかり整理できているのに、
  玩具箱は混然としていた。

  ある夜、何かの拍子に息を吹き返すことを
  期待していたのか。
  それとも、プレゼントしてくれた誰かを
  落胆させたくなかったのか。

  壊れたものを、
  きれいさっぱり捨てられるまでには、
  大人になるまで待たなくてはならなかった。
愛機:HARLEY−DAVIDSON XL1200R SPORTSTER


2008年6月25日(水)
おおむね薄曇り。午後には少し青空ものぞき、薄日も差した。何よりサラリとした夕風。  @岩手山麓


  川には汚れたものも流れて来る。
  それを、どうしても許せない者が、
  ついに川をせき止める。

  山には不純なものまで入り込む。
  それを、どうしても許せない者が、
  ついに頂への道を断つ。

  街には説明不能なものが溢れる。
  それを、どうしても許せない者が、
  ついに戒厳令を発する。

  人の心には時に黒雲が流れ込む。
  それを、どうにも理解しない者が、
  ついには迫害を始める。


  放っておけば、気が済むまでやる。
  至極大真面目にやる。
  目を輝かせてやる。
  憑かれたようにやる。
  音楽にのせて一糸乱れずやる。
  破壊し尽くすまでやる。

  独尊の暴走は、実に天災以上だ。
愛機:HONDA Monkey


2008年6月24日(火)
大雨警報は朝7時前に解除された(盛岡地域など)。時折小雨もぱらついたが、夕刻には乾いた青空が現れた。 @岩手山麓(滝沢村)


  若いリーダーが、
  朝の挨拶も早々に、私の横に座り込み、
  先日のトライアル大会の結果を聞いて来た。
  (いいねえ、その乗り)

  今シーズン初の「ポイント獲得」を告げると、
  爽やかに祝福が返って来た。
  (いいねえ、そうこなくちゃ)

  どんなレベルの競技なのかと尋ねて来るから
  とんでもなく難しいと身振りを交えて伝えた。
  すると「ランクが上がると厳しいのですね」と
  深くうなずく。
  (いいね、いいね、わかってるねえ)

  「そこでご相談ですが、今後、先輩の休日を
  土曜日から日曜日にシフトするというのは、
  如何ですか?」
  (いいね、いいね、おい、君、いいねえ)

  「前日から競技会場に入るケースがあれば
  どうぞ、ご相談ください」
  (おい、おい、おい、おい、君は神か仏か?)

  「その代り、夏休みは諦めてください」と
  宣告するための予防線ではあるまいな?(笑)

  (まあいいさ。働く他あるまい。身を粉にして)
  ついに認められた「日曜日の人生」のために。
愛機:HONDA ベンリィ50S


2008年6月23日(月)
沿岸北部を中心に大雨を予想する報道。盛岡の北の空には青空も頑張っていたが、夕刻、冷えた風に乗って小雨。 @岩手山麓


  遅かれ早かれ
  この地を離れるなら、
  招きという招きに
  すべて出掛けるべきだ。
  そのように
  良い思い出を残すべきだ。
  (怠けてはいけない)
  瞬く間に過ぎ去っていく日々だから、
  頑張り切れる。
  あとになって
  舌打ちとともに振り返られるよりは良い。


  何があっても
  この地に生きるなら、
  招きという招きに
  すべて応じてはいられない。
  大切な事は、
  控えめに向き合うことだ。
  (恐れてはいけない)
  宴の主役になれないだけの話だから、
  何のことはない。
  老いさらばえて
  誰かに憎まれながら一人になるより良い。
愛機:HONDA ベンリィ50S


2008年6月22日(日)
快晴・夏日の秋田から戻ってみれば、どこか冷えた曇天と強風の盛岡。 @田沢湖スキー場


  力を出し切れない私に
  理由なんか付け始めたら、
  キリがない。

  (すべきことをしていないのだ)

  愛車も、作戦も、技量も、体力も
  すべて
  その場しのぎの今日の私だ。

  完璧に整えていたのか?
  冷静に観察できたのか?
  道具を使い切れたのか?
  体を労り養っていたのか?
  何より集中していたのか?

  突き刺さる無数の自問に俯きそうになる。
  それでも顔を上げ笑顔で挑む。

  累積していく減点の山に潰されそうになる。
  それでも素直に反省して続ける。

  今日、私に出来たことは、それだけだった。
  (最後まで諦めない)
  気力だけで完走した。
  夢遊病者のようにゴールした。

  惨憺たる成績ではあったが、
  今シーズン初のポイントを手渡された。
  想像もしない結末だった。

  誰かが見ていた気がして、夏空を仰いだ。
ライダー:工藤さん(国内A級) 田沢湖エンジョイトライアル大会にて


2008年21日(土)
最高気は温31度3分(盛岡)。だが、北東北の真夏日だから、夕暮れとともに「さらり」、夜は「ひんやり」。 @岩手山麓(雫石町)


  3時間に渡る討論に寄り添った。
  キーワードは、
  藤原清衡、宮澤賢治、新渡戸稲造、
  そして、浄土思想。

  曰く、
  「憂うる」「人」は
  ついに「優しく」なるのだ。

  どしようもない悲惨さに向き合うから、
  切実に「救い」を求めるのだ。
  生きているからこそ「救い」を求めるのだ。
  だから現実の中にこそ「浄土」は生まれるのだ。

  絵空事のユートピアではなくて、
  暮らしの中に「それ」はあるのだ。

  まして、この大地には、
  国境を越えて人の心に届く「安らぎ」があるから、
  ここに芽生えた「平和」への思いは、
  普遍的な力を持つのだ。

  (なるほど、そうだったのか)

  この天地に人を救う何かがあって、
  ついに、それに触れたい一心で
  走り続ける者がいるということは、
  けして不可解なことではないということが・・・。
愛機:HONDA ベンリィ50S


2008年6月20日(金)
梅雨入り直後の梅雨の晴れ間。日中の最高気温は29度(盛岡)。夜はさらり乾いて冷涼。梅雨明けのイメージ全開。 @岩手山麓


  付け焼き刃、というのか、
  昨日から平泉の文化遺産に関する資料と
  格闘していた。

  地震に追われた日々の疲れも重なり
  不覚にも、うたた寝。

  気付いた時には、日もすっかり傾いていた。

  (少し気分を変えよう)

  雫石の田園地帯を流してみる。
  メッシュジャケットで浴びる夕風が心地良い。
  里山に立つ煙がこおばしく匂う。

  樹林の影が道を覆い、かすかな冷気。
  鋭角に森を抜けた光が行く手に断続する。
  乾いて軽く、どこか夏休みの夕暮れだ。

  仕事も暮らしも楽しみも、
  こんな天地の狭間にあることが、
  心のままにあることが、
  実に何とも、ほっとする。

愛機:HONDA Ape100


2008年6月19日(木)
東北も梅雨入り。雨は昼過ぎからぽつりぽつり。宵のうち強まった雨は、すぐ止んだが、地震の被災地では、油断ならない雨。 @岩手山麓


  地震発生から
  仕事は不規則をきわめている。
  ひと月前に申請した
  22日(日)の休暇のことなど諦めていた。
  (トライアル大会どころではない)

  ところが、勤務の予定表を見て驚いた。
  休暇はすんなり認められていた。
  当日の勤務を肩代わりしてくれたのは、
  新任の上司だった。

  恐縮して尋ねた。(本当によいのか)と。
  すると、15歳年下の彼は言い切った。
  「いいんです。気にしないで下さい。
  人間なんですから、休まなくちゃいけない日が
  あるのは当然です。助け合えばいいんです。
  働く時には大いに働いていただければ、
  それでいいんです」
  屈託の無い笑い声が職場に響いた。

  30年前、尊敬する上司が私に言った言葉に
  そっくりだった。笑い声まで似ていた。
  久しく出会わなかった心意気だ。
  ノーマルな精神だ。

  明日、明後日、休日を返上して働くことなど
  もう何でもない。頑張るさ。


  だから、お願いだ。
  (最後まで気持ちよく騙してくれ)

愛機:HONDA Monkey


2008年6月18日(水)
そうでしたか、27度8分(盛岡)まで気温が上がっていたんですか。確かに額に汗が滲みました。梅雨入り前のヒートアップですね。 @岩手山麓


  静かだ。
  光ぬくもり
  穏やかなだけの私など、
  もはや、綴るほどのこともない。
  (救われたのだから)と鳥が囀る。

  透明だ。
  花香る朝を
  呼吸するだけの私など、
  もはや、語るほどのこともない。
  (愛されているから)と風が歌う。

  嬉しい。
  開けた道を
  素直に受け入れる私に
  もはや、明かすことなど何もない。
  (昨日を許したから)と未来が微笑む。


  心という心を
  どれほど投げ込んでも
  水音ひとつしない
  深い深い安堵の湖(うみ)だ。
愛機:HONDA Ape100


2008年6月17日(火)
夕べも度々の余震(最大で奥州市の震度4)。夜が明けて霧は払われ爽やかな6月。 @葛巻町


  昨日、葛巻町の高原で
  ひと休みして、さあ帰ろうとしたら、
  エンジンがかからない。バッテリーだ。
  ライトを点けたまま停車していたのだ。
  (オ〜、マイ、ガ〜)

  すでに6時前だぞ。夜は近いぞ。
  見渡す限りに夕闇がせまるぞ。
  (まずい、相当にまずい。マジ、ヤバイ)

  そこに携帯電話が鳴る。週末の仕事の件だ。
  それどころではない。が、電話が通じるのだ。
  速攻で、いつものバイク店に救出要請。
  「まずは、押し掛けを試して下さい」との返事。

  馬並みの愛機(HP2)を押してエンジン始動なんて
  「アリエナ〜イ」と諦めかけたが、
  目の前には長い長い下り坂だ。

  愛馬に跨る。スイッチを入れる。
  ギアを3速に入れる。クラッチを切る。
  そろり坂を下る。惰性で下る。速度が乗る。
  (落ち着け、人生の勝負どころだ)
  夕風にクラッチをつなぐ。
  後輪にわずかなショック。
  同時にエンジンがかかる。
  (そうさ、やれば出来ることは、たくさんある)
  私の奇声が道を照らし闇を駆け下りる。

  その余韻を求めて、
  今日も、同じ場所、同じ時刻を楽しむ。

愛機:ハーレー  XL1200Rスポーツスター


2008年6月16日(月)
夕べの雨に濡れた街は、みるみる乾いた。濃厚な青空。奔放な雲の白さ。乾いて甘く匂う風。 @葛巻町

  あなたは
  良い人だ。

  よく笑う。
  人を労る。
  腰も低い。
  気がきく。
  なにより、
  骨がある。
  弁が立つ。
  先を読む。
  策を練る。
  群を掴む。
  人を使う。
  人を選ぶ。
  人を斬る。

  そして又
  よく笑う。
  頼られて、
  担がれる。
  どんどん
  敵を潰す。
  とうとう
  君臨する。

  それでも
  あなたは
  良い人だ。

  だからね、
  ある日ね、
  謀られる。

 
愛機:BMW HP2


このページの先頭に戻る