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イワテバイクライフ 2008年 8月後半


2008年8月31日(日)
朝方、雨は小休止。かすかな薄日もあった。やがて、大雨警報や土砂災害警戒警報が各地に。 @盛岡市(中津川のほとり)


  昨日までの出来事が
  どんなに素晴らしくても
  明日、更に素晴らしくなるとは限らない。

  これまでの頑張りが
  どれほど真っ直ぐでも
  これから正当に報われるとは限らない。

  遠い過去の思い出が
  眩しいほど輝いていても
  はるか未来が振り返るとは限らない。

  だから、今日、
  昨日を明日に手渡すのは、君だ。
  これまでをこれからに繋げるのは、君だ。
  記憶を未来に伝えるのも、君だ。
  今日の君なのだ。
  意思ある今日だ。
  その積み重ねだ。
愛機:HONDA Monkey


2008年8月30日(土)
依然、大気不安定。未明に音を立てた雨。午前中は薄日も射したが、午後になって小雨断続。霧に包まれて夜。 @八幡平市(安比高原)


  とっくに日は暮れた。
  雨は降り続いている。
  霧が立ちこめて来た。
  深い山中に道は続く。
  我ら三人は、黙々と山を下る。

  挑むべき20のセクション(競技区間)は、
  あと二つだ。ゴールの制限時間が迫っている。
  先頭を走るO氏のペースが上がる。
  砂利道のコーナーに矢の様に突き刺さっていく。

  もはや、今日一日のことなど問わなかった。
  濡れた黒土の困難や、
  私の凡ミス、弱気、詰めの甘さの一切を忘れて、
  ひたすら完走しゴールすることを念じた。
  そうすることが、
  何か崇高な目標のようにも思えて来て、
  運命共同体は憑かれた様に山を下った。

  安比高原に出ると、
  すでにセクションは暗闇の中だった。

  ヘッドライトを頼りに濡れた丸太を越え、
  最終セクションをクリーンした。祝福された。
  (もう、それで充分だった)

  完走を果たし、ゴールのサインをした。
  手が震えた。涙が溢れた。
第32回出光イーハトーブトライアル大会・「ネリ」「ブドリ」クラスのゴール会場


2008年8月29日(金)
西から豪雨災害の知らせ。岩手も不穏な雲の流れ。夕刻、局地的なスコール。 @八幡平市 



  明日のトライアルに備えて
  早めに灯りを消した。

  すると、私の足首を掴むものがいる。
  ベッドごと壁際に引きずられていく。
  (そんな夢を見た)

  ペンションの慣れない枕のせいかもしれない。
  屋根を打つ雨音が聞こえる。
  明日のトライは、どうなることか。
  テレビをつける。
  歴史番組だ。
  戦国時代の城跡を紹介している。
  司会者が、城の奥へ案内していく。
  追いつめられた主と一族が
  自決した秘密の湖があるという。
  カメラは、目も眩む断崖を映す。
  と、宙に真っ赤な奥方の衣装が舞った。
  腕には幼子を抱えている。
  蒼く透き通った湖水に飛沫が上がる。
  もがく子の口を母親が押え、
  湖底に沈んでいく。
  続々と男も女も飛込んでいく。
  私はオートバイで崖を下り始めた。
  あの幼子だけは助けたくて、
  見たこともない大岩を飛び降りた。
  (そんな夢を見た)


  薄暗がりの部屋の中の現実は、
  とうとう眠れない私と
  雨の音だけだった。

愛機GASGAS TXT PRO250


2008年8月28日(木)
未明の小雨に濡れた街は、曇天ながら上昇する気温の中で束の間乾いた。だが、夕刻、再びの小雨。 @盛岡市(某オートバ屋さん)


  どんなことがあっても
  続けることがある。途切れないことがある。

  私にとっての「イーハトーブトライアル」。
  世界最大のツーリングトライアル大会が
  教えてくれた「岩手の人と自然の素晴らしさ」。
  それこそが、私の道を定めてくれた。
  11年前のことだった。

  (ここで生きていきたい)
  その声に従ってイワテに終の棲家を建て、
  仕事の場もイワテに戻した。

  その思いが溢れる8月下旬。
  大会を迎える度、真剣な「祭の準備」が始まる。

  新しい「イーハトーブ」に
  漫然と走り出したくはない。
  年毎に進歩していたい。
  その様に、トライは準備段階から始まる。

  今年は、恥ずかしながら
  前後のライトや方向指示ランプの装着など
  電装関係の作業に挑戦した。
  配線の複雑さにうんざりしながら、
  師匠に手を添えてもらい、
  何とか点灯にこぎつけた。

  思いだけが先行したこの10年余り。
  やっと、足元の面倒に向き合う気持になってきた。


  (スタートラインに立った、というべきか)


愛機:GASGAS TXT PRO250(左)


2008年8月27日(水)
初秋では無い。晩夏である。空は澄んでも、かすかな蒸し暑さ。盛岡で28度。惨憺たる8月後半の印象、僅かに挽回。 @盛岡市(岩手山遠望)


  大好きなマリアおば様

  私は、今、カナダの南西部
  アルバータ州にいます。
  もちろん勉強のためよ。
  ホームスティしながら
  地元の大学に通っているの。
  早いもので、もうひと月。
  日本が恋しくなることもあるけれど、
  大丈夫、そんな時には、
  マウント・イワテの写真を見ることにしています。
  おば様とあの頂に立った日の秋空、
  とても澄み切っていたわね・・・。
  (そんな思い出に浸っていられない事が起きたの)
  ニュースよ。びっくりしないでね。
  おば様の「モトカレ」ヤスキー卿が現れたのよ。
  大きなBMWに跨って、
  熊さんみたいな顔して、ね、懐かしいでしょ?
  今、庭で愛車の修理中よ。
  明日、ロッキー山脈へ向うと言っていたわ。
  「風景に関する哲学的な考察」の為ですって。
  でもね、本当は、美女とのタンデムを
  楽しみたいだけじゃないかしら。
  エメラルドグリーンの瞳が彼の作業を
  見つめているわ・・・。
  あ、ごめんなさい。
  余計な話だったかしら。
愛機:HONDA Ape100


2008年8月26日(火)
朝方の霧は払われ、雲さえ途切れ、所々青空が滲み出したが、結局は日中は陰鬱な曇り空。ところが望外の夕焼け。 @岩手山麓


  どうだ、元気か。
  風邪などひいていないか。

  お前は、特別頭がいいわけではないし、
  まして、才能があるわけじゃないのだから、
  俺は、過大な期待などしていない。
  (ただ、つまらん努力だけはせぬように)

  今をときめく巨匠を訪ね
  門弟の末端に名前を押し込んだりしていないか?
  夜毎、一派の宴に通い
  水割りをつくり、カラオケの司会をつとめ、
  夜明けの代行運転に励んだりしていないか?
  街をのし歩く連中に
  無理難題を押し付けられ、
  面倒を見たり、ひと肌脱いだり、
  あぶない裏工作に手を染めていないか?
  駄賃にお情けの賞状をもらい、
  祝賀会など開いて貰っていないか?
  テレビかどこかで見かけた先生が
  高い酒を不機嫌そうに飲み干し、
  祝辞を述べたりしていないか?

  そんなことを繰り返しながら
  お前は、誰のためのお前になるのだ?

  秋の夜に夢が終わると、さぞ寒かろう。
  腹など冷やすな。
愛機:HARLEY−DAVIDSON XL1200R SPORTSTER


2008年8月25日(月)
時折の小雨も街を洗うほどではなく、大気を湿らせるだけ。肌寒さは無かったが、湿度は梅雨並みだった。 @盛岡市(八幡町)


  そこで
  ずっと暮すってことはね、
  自分の了見なんか
  とんと忘れちまうことさ。

  そこで
  ずっと生きるってことはね、
  他人様のお情けに
  すがりつくっていうことさ。

  そこで
  ずっと同じ空を仰ぐってことはね、
  地べたのひとつになって
  雨や雪や光を受け止めるってことさ。

  そこで
  ずっと歳月の川に立つってことはね、
  とめどなく流れる悲しみを見送って
  自らに火を放ち他人様の心を照らすことさ。
愛機:HONDA ベンリィ50S


2008年8月24日(日)
小雨断続。昨日に続いて18度台の最高気温。晩夏の雨は、街を暗く染めるばかり。 @盛岡市(盛岡劇場界隈)


  東か西か、どちらへ行くんだ?
  誰かに決めて貰う君は
  誰かの気分を追うだけだ。

  是か非か、どう判断するんだ?
  誰かの裁決に従う君は
  雲上の顔色を窺うだけだ。

  盾か鉾か、どちらを持つんだ?
  誰かの作戦通りの君は
  体よく捨駒になるだけだ。

  天か地か、どちらにつくんだ?
  誰かの選択を待つ君は
  世間の風に怯えるだけだ。

  生か死か、結局、どうなんだ?
  誰かに餌をもらう君は
  他人の罪をかぶるだけだ。


  声を出したことがあるのか?
  一度でも自分の声を聞いたことがあるのか?
  その声に従って走り出したことはないのか?
  
愛機:HONDA Monkey


2008年8月23日(土)
二十四節気のひとつ「処暑」。だが、暑さもおさまる頃どころか季節はずれの寒気。最高気温は18度2分(盛岡)で10月中旬並。 @滝沢村


  うぬぼれた群は、思い込む。
  「人は、仲間はずれにされることを
  おそれるに違いない」と。
  だから、
  自立しない者が増えていく。

  (風は、輪に入らず、人と和す)



  気位だけの女は、信じ込む。
  「男は、冷たく無視されることが
  死ぬほど辛いはずだ」と。
  だから、
  険しい皴ばかり増えていく。

  (風は、駆け引き無く、心を奪う)



  よく裏切る者は、よく喋る。
  「人は、心の底を見せ合うほどに
  信用されるはずだ」と。
  だから、
  心にも無い話が増えていく。

  (風は、言葉に乗らず、地を巡る)
愛機:HONDA Ape100


2008年8月22日(金)
夜明けの窓から忍び込む北国の秋。体の芯に届く冷気。午前中は、純度の高い青空が広がった。 @盛岡市


  わかる。とてもよくわかる。
  君が、僕の行く手を塞いでしまいたいのは
  よくわかるのだけれど、
  すまないなあ、
  もう君の力が届かない
  確定した事項なんだよ。
  (ずっと先まで予定でいっぱいだ)

  そうか。それは理解できる。
  君が、僕の名誉を著しく傷付けたい思いは
  実に理解できるのだが、
  申し訳ないなあ、
  もう君の投げる石では、
  びくともしないんだよ。
  (築き上げた城の中でのんびりだ)

  ふうん。うなずける話だ。
  君が、僕を孤立させてしまいたいという話は
  まったく頷けるのだが、
  お気の毒だなあ、
  もう君の画策などでは、
  何も変わらないんだよ。
  (輪の中にいない者から輪は奪えない)

  そういうわけだから、
  すまないなあ、
  申し訳ないなあ、
  お気の毒だなあ。
  僕は、君とは無縁の場所で
  笑って生きているから、
  君は君で、せいぜい気持を整理してくれ。
愛機:BMW HP2


2008年8月21日(木)
広範囲に大雨警報。太陽の記憶を奪う黒雲。夕刻には晴れ間も見えたが、秋の雨に洗われて肌寒いほどの夜。 @岩手山麓


  毎夜、
  丘の上に狼が出て吠えた。

  王は
  その遠吠えを
  歯牙にもかけなかった。
  家臣は「負け犬」と嘲った。

  狼は吠え続けた。
  朗々と、吠え続けた。
  美しくも悲しい歴史を物語るように
  狼は吠えた。

  街は、じっと耳を傾けていた。
  人々は、しみわたる声に聞き入った。
  何年も、そんな夜は続いた。

  ある日、
  王のもとに使者が走った。
  (手遅れだった)
  反乱の波が押し寄せ、
  城の門が破られた。
  家臣は散り散りに逃げた。

  その夜、城の頂に狼が立った。
  何事もなかった様に
  月に向かって吠えた。
  これまでと何ひとつ変わらぬ声だった。
  敗北を知る者が頂に立つことの虚しさを
  狼は、夜通し叫んだ。
愛機:HONDA ベンリィ50S


2008年8月20日(水)
冷えて不透明な一日。日中の薄日も長続きせず夕刻の小雨に大地は艶めいた。 @滝沢村


  (実況者に告ぐ)

  世界最高峰の
  速さや高さや距離や
  技や肉体や精神を伝えるなら、
  覚えておくべきだ。

  自らの地平線を
  もの静かに保て。
  劇的な瞬間を迎えて
  なお冷静に燃えていられる者こそが
  事実に寄り添えるのだ。

  自らの知識など
  捨てる勇気を持て。
  想像を超える展開に
  ひたすら無垢でいられる者こそが
  その意味を掴み取れるのだ。

  大歓声に自らの声を失わず、
  しなやかに張った弦であれ。

  大激戦に自らの軸を失わず、
  志を束ねた一本の矢となれ。

  (そのようにマイクに向かえ)
愛機:HONDA Ape100


2008年8月19日(火)
未明から雨音が強まった。朝の出鼻を挫く本降りだった。昼過ぎには雨も上がり、かすかに明るさが戻った。 @雫石町


  あれこれ嘆く前に
  降り注ぐ雨に濡れたらどうだ。
  じっと濡れたらどうだ。
  (下手な涙より、よほど澄んでいる)


  あれこれ怒る前に
  黒雲に押し潰されたらどうだ。
  ぐっと潰されたらどうだ。
  (ケチな牙より、よほど力がわいて来る)


  あれこれ追う前に
  水鏡など覗き込んだらどうだ。
  その面を見たらどうだ。
  (何ものにも届かぬ無力さが揺れている)


  あれこれ描く前に
  森の深さに目を凝らしたらどうだ。
  押し黙るものに向き合ったらどうだ。
  (歳月をじっと待てない心が見えて来る)
愛機:HONDA Monkey


2008年8月18日(月)
秋の冷気と水滴がしみた大地は、曇天のもと黒ずむばかりで、夏の居場所など見当たらない。 @八幡平アスピーテライン


  ひとつの岩さえ
  再会すれば、風雪の色を濃くしている。

  まして樹木など
  何時の雷か、無残に叩き割られている。

  その様に山岳も
  崩れ、削られ、抉られて
  見渡す限り姿を変えていくというのか。

  (向き合い方ひとつさ)

  間断なく向き合えば、
  その移ろいは、無に等しい。
  昨日と今日の違いだけだ。

  忘れた頃に再会し、
  変わり果てたものを見て
  無常など語るくらいなら、
  狂ったように同じ場所に通い詰め、
  昨日と今日が
  見渡す限り連続していることを
  確かめるがいい。

  (時の断層こそが、死を予感させるのだ)
愛機:HARLEY−DAVIDSON XL1200R SPORTSTER


2008年8月17日(日)
暗い雲は、時折小雨をもたらしながら、徐々に明るくなり、ついには晴れ間さえのぞかせていった。 @花巻市(トライアルパーク)


  走ること。撮ること。
  私にとって、
  それは、別々のことではないんだよ。
  (ひとつのトライさ)
  
  一方が上手くいかないからといって、
  その原因をもう一方に押し付け
  止めようとは思わないんだよ。

  撮ることを止めたからといって、
  走りに専念できるというものでもないし、
  まして、走りが変るわけじゃないんだよ。

  特別なことじゃないんだよ。
  道筋(ライン)を探ることの楽しさ。
  道筋を辿ることのときめき。
  道筋の中に呼吸していることの感動。
  その手応えを記憶することこそ、
  私の走りの流儀なんだよ。

  道の真ん中で泥にまみれ、
  減点の嵐に笑顔を失わず、
  飛び立っていく仲間の姿を
  記憶する喜びを力に
  いつか、きっと、
  私も、大きく飛ぼうと思うんだよ。
愛機:GASGAS TXT PRO250


2008年8月16日(土)
依然、大気は定まらず、混濁の雲流れ、陽射しなど薄く、夜になって雨音など立ち、涼しさは秋。 @八幡平市



  結局、八幡平山頂の霧は晴れなかった。

  それでも、稀に白いベールが途切れ、
  大山脈の全容が明かされた瞬間はあったのだ。

  その印象があまりに鮮やかなものだから、
  頂に立ち尽くす。

  轟々たる霧の流れは、視界の一切を運び去る。
  実に、夢みるものが遠ざかっていく様だ。
  辿り来た道が幻になっていく様だ。
  信じるものの輪郭さえとけていく様だ。

  冷えた水の微粒子を全身に纏い、
  目を閉じていると、
  やがて秋の気流にとけていく私に気付く。

  心を洗い切れず、
  天空の濁流に身投げする希望を
  今日という日につなぎ止める力もなく、
  睫毛の水滴に押し潰されていく。

愛機:HONDA ベンリィ50S


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