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イワテバイクライフ 2008年 12月前半
2008年12月15日(月)
最低気温・氷点下5度4分(盛岡)で、水道管凍結が各所に発生。日中は青空もあった。 @岩手山麓
この大地の仕組が見えてくるほどに、 私の辿る道は形を失っていくのです。 あまりに奔放な心が、 地図に無い何処かを求めて もう止まらないのです。 この季節の美しさを知ってしまうと、 私の様は正気の沙汰ではありません。 あまりに愛しすぎて、 いっそ雪原に凍死したくて もう離れられないのです。 嗚呼、こんなことを 嗚呼、こんな私が 果てしもなく繰り返す理由を ひとり叫びながら、 みしみし凍土を踏みしめるのです。 ばりばり氷を割るのです。 |
2008年12月14日(日)
波乱の気配も無き曇天は、やがて青空を許し、満天の星空へ移ろった。明朝の底冷えを予感。 @岩手山麓
追い越していく。 私を追い越していく。 実に様々な影が先へ走る。 スレンダーな肢体をレザースーツに包み、 黒髪をなびかせて女が追い越していく。 タンクローリーに激突して飛び散っていく。 アメリカンバイクを片手運転する若者が、 明日の天気を気にして追い越していく。 降ってきた岩とともに谷底に吸い込まれていく。 ミラーに黒い雨合羽が現れ接近してくる。 沈鬱な風を巻き起こして追い越していく。 見覚えのある横顔が追い越していく。 私の後ろ姿が、悲しげにカーブへ飛び込んでいく。 |
2008年12月13日(土)
陽気になることを許さない北国の師走。曖昧な陽射しなど山並みを隠す雪雲の敵ではなかった。 @岩手山麓
わたしは、夢を見たのです。 それは確かです。 けれど、わたしは、思い出せないのです。 どうしても思い出せないのです。 その夢は、 わたしの魂が救われるお話だったのです。 熱い涙がとめどなく溢れ、 わたしは笑顔を浮かべていた気がするのです。 あまりに嬉しい物語だったので、 あなたに教えたくて走り出した途端、 夢の記憶は途絶えたのです。 水が指の間からこぼれて砂に吸われるように、 美しいストーリーは、 記憶の彼方に消えたのです。 夢から覚めても、 その温もりだけは残っていて、 わたしは、 夢を思い出すために生きていこうと決心したのです。 生涯をかけて、あの物語を手繰り寄せ、 かき集めようと思ったのです。 このイーハトーブなら、叶うような気がして、 今日も、こうして夢の欠片を探し歩いています。 |
2008年12月12日(金)
寒さは猶予されて、曖昧な青空と陽射しがあったが、周囲の山は冬雲に支配されていた。 @岩手山麓
最後まで待てないのは、 幼子に限ったことではない。 人が語り終わらぬうちに 得意気に結論を謳い上げ、 批評まで始める影がある。 その習性は、 しかし、役に立つこともある。 私の行先を予想させ、先回りさせれば、 なるほど、その器がわかる。 たいがい、方向違いの地の果ての 丘の上で勝鬨をあげている。 せめて一週間、せめて数行、 せめて、ひと呼吸 私を待てないばかりに、 正体をさらす影がある。 |
2008年12月11日(木)
朝から小雨断続。師走にしては、やわらかい水滴。夕闇に轟く雷鳴。 @滝沢村
たった一日のことに拘っていると、 先を見失うよ。 今日の私が全部だと思っていると、 人を見失うよ。 数行の暗さに心を曇らせていると、 話を見失うよ。 移ろうものに一喜一憂していると、 置き去りだよ。 (だからさ) 暗い私は、夜明け前。 歌う小鳥は、鷲の餌。 流れ流れて道はある。 ならば、走りながら今日を読め。 せめて、三日を見渡す者であれ。 |
2008年12月10日(水)
北国の、それも師走も中旬なのに、最高気温が12度5分(盛岡)なんて、大寒波のフェイントでなけれがいいが。 @岩手山麓
その古老は、 いったい何百年生きているのかわからないほど 白髪の下に深い皴を隠していた。 村の掟を決めたのも古老だった。 村の儀式を司るのも古老だった。 戦も、狩も、生産も婚姻も、 すべては、古老の意見ひとつで決まった。 その白髪が、冬晴れの中に現れた。 実に何十年ぶりのことだった。 うめく様な声ではあったが、意志は伝わった。 「世代交代」である。「新旧交代」である。 壮年の男たちは、言われるがまま、命を絶った。 あるいは、村を去った。 新しい村のかたちは出来た。 大きな人の輪が出来た。 少年達が手をつないでいた。 狩も戦も、まして恋などしたこともない少年達が 村を支えることになった。 その輪の中心に古老が立っていた。 素直な心の輪に、古老の号令が飛んだ。 「すべては更新された。何と清々しいことだ。 さあ、お前達、私の理想についておいで。 悪いようにはしないから」 |
2008年12月9日(火)
最高気温が6度8分(盛岡)なら、まずまずの平穏。けれど、陰気過ぎる曇天は罪だ。 @岩手山麓
いいんだよ。 君の裏切りなんて。 私が、ここに暮らせるのなら、 いいんだよ。 かまわない。 君の画策なんて。 私が、ここを闊歩できるなら、 かまわない。 気にしない。 君の狡猾なんて。 私が、ここで順調であるなら、 気にしない。 何でも良い。 君の悪意なんて。 私が、ここに歓迎されるなら、 何でも良い。 (そしてね) ある日、君は宴に招かれるんだよ。 さんざん語り、歌い、踊り、 笑い狂った後にね、 満座の中に正座させられ、 げえげえ吐くまで 君の諸行が告げられるんだよ。 朗々たる声で、 君の悪行が読み上げられるんだよ。 (そんな夜のためなら、私は、何十年でも待てる) |
2008年12月8日(月)
曇天。最高気温4度6分(盛岡)。雨や雪が降らなかっただけでも、よしとしよう。 @岩手山麓
そんなはずではなかった、と 世間知らずのあんたは思うのだろう。 幾多の闘争の果て、 思いを遂げて 辿り着いた椅子に身を沈めた途端の朝。 机の上に「いわく付きの鍵」が置かれ、 地下室に招かれ、 「これです」と突き出されるものがある。 目を疑う汚濁の歴史。 怠惰と不正の活断層。 リセット不能の時と金。 到底実行不能の誓約書。 いかがわしい盟約の痕跡。 半日限りという延命策。 闇に葬られて来た崩壊宣言。 それら一切を腹にしまい、 夢や理想を謳い続ける厚顔でいられるのか。 未来を約束する詐欺師になれるのか。 その椅子に深々座る自分に うっとりすることが目的なら、話は別だが、 (いずれにしても、ただでは済まない) |
2008年12月7日(日)
粉雪の薄化粧は、青空のもとで、はかなくも、とけて消えた。冷えた風だけが取り残された。 @花巻市(山屋トライアルパーク)
こんな 冷えて透き通った空を 見上げているだけでは、 やがて、私というものを 心の中に 美しく仕立て上げるばかりだ。 本当の私に向き合うために、 手も足も出ない難所に 立つべきなのだ。 どうにも非力な私から 目をそらしてはいけない。 なんとも情けない私から 逃げ出してはいけない。 もう、いやと言うほど、 ありのままの私を噛み締めた後は、 心静かに、言葉少なく、その場を去り、 明日への決心を燃やすのだ。 夕闇の彼方の山並みを 食い入るように見つめるのだ。 |
2008年12月6日(土)
昨日までの温暖に慣れた身には辛い「平年並みの気温」。夜になって、いよいよ本気の寒気。 @盛岡市
おびただしいサーチライトの光が 獲物を探していた。 男は、鉄壁の要塞を見上げて呟いた。 高慢なものに頭を下げる。 簡単なことだ。下げた後は、胸を張るだけだ。 傲慢なものに道をゆずる。 簡単なことだ。ゆずったら、道を塞ぐだけだ。 独善のものと握手をする。 簡単なことだ。握手の後は、舌を出すだけだ。 尊大なものの大言を聞く。 簡単なことだ。欠伸を噛み殺して頷くだけだ。 門番の態度に憤慨する暇があったら、 世辞でも笑顔でも何でも使え。 さっさと扉を開かせ、用事を済ませろ。 男は、ずしり詰まった破壊の予感を背中に回し、 「行くぞ」と目で合図した。 |
2008年12月5日(金)
うすぼんやり陽がさしていたが、各地、師走の常識を破るほどの温暖。久慈では19度。 @盛岡市
通勤電車に乗るのは、久し振りだった。 けれど、私は、慣れた動作で改札口を抜けた。 入り組んだ通路を迷い無く歩いていく。 階段を一段飛ばして駆け上がり、駆け下りる。 しみついた間合いが、どこか懐かしい。 銀色の電車は、海底トンネルを上昇し、 やがて海原の上に出る。 ウミネコが紺碧の空に舞う。 彼方の工場地帯には、 潮風を浴びて幾筋も煙がたなびいている。 眼下には、輝く浅瀬にボラの大群が黒くひしめく。 車内は空いていた。 向かいの座席には、うたた寝をする老女と 文庫本を読み耽る女学生だけだ。 窓からさしこむ陽射しを首筋に受け、 私も、いつしか瞼を閉じていく。 それにしても、私の職場は何処にあるのか、 それが思い出せない。 がくんと電車が揺れて停まり、私は目を覚ました。 すっかり日が暮れていた。 (寝過ごした。遅刻だ) 狼狽する私の前に、老女が立っていた。 「ねえ、あなた、着いたわよ。」 差し出された皴だらけの手を握り、 立ち上がろうとして、私は、はっとした。 (君との岩手の日々は、その後、どうなったのだ) 曖昧な夢は、そこで途切れた。 |
2008年12月4日(木)
深い朝霧は、つまり温暖の証し。土曜日前後の雪と低温の予報。今日の青空が、どこか頼りなくて・・・。 @岩手山麓
それは、暗い道だった。 吹く風は黴臭く、時折血が匂い、 聞こえるのは、すすり泣きばかりだった。 ついに、ひとりの旅人が声を上げた。 「この暗さは、何だ。 こんな道を歩いて、どこへ辿り着けるというのだ。 せめて、何か灯りはないのか」 すると、道の先に炎が立った。 松明を持って神が立った。 旅人が、その松明を求めると、 神は、少しためらった。 「これで照らせるものは、道のありのままだ。 お前の心までは照らせない」 旅人は、懇願の果てに松明を手にした。 もはや神の姿は無かった。 炎をかざすと、道がくっきり浮かび上がった。 行く手に横たわるものの輪郭があらわれた。 旅人の足は止まった。震えが止らなくなった。 それっきり一歩も動けず、旅は凍りついた。 以来、その松明は道端に転がり燃え続けている。 漆黒の道を照らしたまま。 |
2008年12月3日(水)
朝方の霧は払われたが、うすぼんやりとした青空。最高気温12度8分(盛岡)は、何かの前触れか。 @雫石町
人は あなたの考えや思いについて、 説明を求めているのではない。 知りたがっているのではない。 それを述べる態度を注視しているのだ。 それを綴る気分に神経を尖らせるのだ。 だから、幼子は 何を喋ろうと描こうと、 拍手され、抱きしめられる。 正しいことを ことさら正しいと言い張るから、笑われる。 大変なことを ことさら深刻な言葉にするから、疎まれる。 美しいものを ことさら飾り立てて伝えるから、汚される。 あなたの態度や気分など どうでもよくなるほど 伝えるべき圧倒的な事実や世界があれば、 話は別だ。 けれど、そんな天才に限って表には立たない。 実にもの静かに、不意に人の魂を揺さぶって 立ち去るだけだ。 |
2008年12月2日(火)
夜明けの地表は熱を奪われ、空は朝焼け。日中は柔和な青空。夕闇の気温表示が7度とは、冬の足踏み、いや後退。 @岩手山麓
人が崩れていくのを幾度も見た。 その兆候は、実にささいなことから始まる。 例えば、真面目な者が一層真面目になるのだ。 情熱的ともいえる真面目さなのだ。 やがて、他人の失敗を許せなくなる。 忠告は罵倒になり、悪口雑言へとエスカレートする。 公衆の面前で見知らぬ人を批評し始める。 あたりかまわず口論を仕掛け、追及する。 自らの正しさを果てしなく論証する。 (そのように) 明るい者は、一層明るくなって、崩れ出す。 一途な者は、一層一途になって、崩れ出す。 芸術家は、一層芸術に打ち込み、崩れ出す。 みんなみんな一層鮮やかな気分で 張り切って語り出し、描き出し、崩れ出す。 そして、ある日、表情が無くなる。 (そうなのだ。表情を失うのだ) けれど、敷かれたレールは続くから、 無残な終着駅まで突っ走るのだ。 私には、 レールから飛び降りるチャンスが一度だけ巡って来た。 宙に舞った私は、深い新雪に受け止められ、助かった。 星がひしめき、輝き、凍り、地平の彼方へ流れていく。 私は、寒気に震えながら、血がたぎるのを感じた。 つまり、それが正気というものだった。 つまり、そこがイワテだった。 |
2008年12月1日(月)
凍って夜は明けた。何を飛ばすためなのか、ひとかけらの雲さえ払われた冬晴れ。宇宙の果てを思わせる夕闇。 @八幡平市
ひとつ難所を抜けると 何十という関門に試される。 何十という関門を破ると 何百という壁に囲まれる。 何百という壁を越えると、 何千という問いが並んでいる。 何千という問いに答えると 何万という運命が現れる。 何万という運命を生き抜くと、 何億という星が降ってくる。 何億という星を浴びると、 (するとね) そこに、ひとつの扉が待っているんだよ。 扉を開ければ、最初に挑んだ場所に戻る。 何もなかったことにして家に帰るのか、 それとも、たったひとり、 漆黒の宇宙へ挑み続けるのか、 たったひとつの選択が待っている。 |