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イワテバイクライフ 2008年 12月後半
2008年12月31日(水)
雪の薄化粧は、淡い陽射しを浴びて消えた。乾いた街を冬の雲が包囲して、占拠の機会を窺っていた。 @盛岡市
希望によく似たものが飛んでいく。 笑顔のわけさえ不確かなまま、 きっと明日は良くなると 大きな声を上げて飛んでいく。 (もしや、それは絶望の兆か) 友情によく似たものが走っていく。 握手のわけさえ不明なまま、 きっと生涯支え合えると 高らかに歌って走っていく。 (もしや、それは反目の始まりか) 復讐によく似たものが待っている。 怒りのわけさえ曖昧なまま、 きっと思い知らせてやると、 実に陰気な影が待っている。 (もしや、それは嫉妬か) 音楽によく似たものが流れている。 歓喜のわけさえ描けぬまま、 きっと魂は救われるはずだと、 思い入れたっぷりに流れている。 (もしや、それは自惚れか) |
2008年12月30日(火)
ほのかな雪化粧を小雨が濡らす朝。日中の青空も、周囲の雪雲を払う力は無かった。 @盛岡市(開運橋)
片付けるべきものはある。 しかし、決着をつけるほどのものではない。 (だから、血は流れない) 選択すべきことはある。 しかし、命運を分けるほどのことではない。 (だから、確信などない) 捨てるべきものはある。 しかし、決別するほど深刻なものではない。 (だから、涙は流れない) 熟慮すべきことはある。 しかし、根本を問うほどのことでもない。 (だから、突き詰めない) 更新すべきことはある。 しかし、全部やり直すほどのことはない。 (だから、汗も流れない) 厳しいことを言うようだが、 お前は、もう一度、大切なものを失うべきなんだよ。 そこから立ち上がることが、 お前の未来のすべてなんだよ。 曖昧な今日を、終わらせるがいい。 居心地のよい思い出を叩き割るがいい。 |
2008年12月29日(月)
最高気温5度6分(盛岡)の晴天。圧雪路はとけてゆるみ、走るほどに水飛沫を浴びた。 @盛岡市(岩手山遠望)
人間嫌いの男が いくつも山を越えて、その村に辿り着いた。 周囲は絶壁に囲まれ、外界の音さえ届かなかった。 里の住人は数えるほどで、 めったに顔を合わせることはなかった。 男は、孤独な暮らしが気に入った。 ひとり黙々畑を耕し、気が向けば絵などかいた。 季節の風を呼吸しながら、心は満たされていった。 冬を迎えて男の暮らしは、にわかに揺れ出した。 土地の境界をめぐって諍いが始まったのだ。 睨み合いの真ん中に男の塒(ねぐら)はあった。 「お前は、どちらの人間だ」と執拗に問われた。 (どちらでもない)とこたえようものなら、 村では生きていけそうもなかった。 朝から晩まで、激しく戸を叩く音がする。 「お前は、どっちだ」 男は、空を仰いだ。 絶壁に囲まれ、逃げ出すことも出来ず、 とうとう心を決めた。 誰かの味方になることを。 そして、誰かの敵になることを。 静けさと引き替えに、男は村人になった。 |
2008年12月28日(日)
ちりちり小雪、ちくちく寒気、みるみる夕闇。 @盛岡市
腹の立つ話なら、 祭りの日にでもやってくれ。 御輿担ぎの弾みのひとつにしてくれ。 悲しい話なら、 よく晴れた日にやってくれ。 乾いた花を濡らし潤す涙にしてくれ。 嬉しい話なら、 地吹雪舞う日にやってくれ。 凍り付く心をとかすものにしてくれ。 腹の底の話は、 酒など飲まずにやってくれ。 明日の役に立つ話にしてやってくれ。 言葉にして気が済む程度の話なら、 せいぜい、そんな感じでやってくれ。 |
2008年12月27日(土)
粉雪の薄化粧で朝を迎えた。最低気温、氷点下5度8分から這い上がれず、真冬日。 @岩手山麓
そうだよ。知らなかったのかい。 わけのわからないことばかりだよ。 生まれて来るものや 死んでいくものに 値札のような理由なんか 付いていないよ。 友情も、恋も、戦争も わけのわからないものが もたらした何かだよ。 あなたひとりのために、 理由を教えてくれる者など、いない。 あなたの気が済むように 説明してくれる者など、いない。 わけのわからないものと格闘して あなたが発狂したところで、 夜は明けるんだよ。 それでも歩き続けるのなら、 右手に理性、左手に忍耐。 口元に微笑、瞳には希望。 言葉には静けさが必要だよ。 (何より、推し量る心を) |
2008年12月26日(金)
日中は氷点下3度前後(盛岡)だった。そこそこの青空や陽射しなど無力。 @滝沢村
憎み合い、いがみ合い、反目し、 避け合っていると、 いつも同じ方角を眺めて暮らすようになる。 いつも同じ道ばかり選んで歩くようになる。 いつも同じ顔ぶればかり並べるようになる。 (たいがい、そうなのだが) 美しい眺めは、 見ようとしない方角にあるものだ。 新しい世界は、 選ぼうとしない道の先に開けているものだ。 しなやかな絆は、 多彩な顔ぶれが認め合うことで生まれるものだ。 言い張り続けていると、 小さな輪の中をどうどう巡りだ。 すべては地上の出来事なら、 越えられるものは、さっさと越えることだ。 すべては心の中のことなら、 にっこり笑って「元気か」と手を振ることだ。 (本当の強さとは、つまり、そういうことだ) |
2008年12月25(木)
冷えた雨だった。屋根から、車の天上から、雪を崩し、落とし、とかした。濡れて剥き出しの街は、一層寒々しかった。 @盛岡市(中津川)
こんな陰気な夕暮れに、 灯で照らしてまで見たいものは無い。 克明に照らすべきものは無い。 手探りで、 それとわかる場所があればいい。 目を閉じ そことわかる音が聞こえて来ればいい。 心を向け そこに明日があるとわかれば、いい。 (もう、それだけで、いい) |
2008年12月24日(水)
最高気温1度3分(盛岡)は、岩手の師走の範囲。けれど、見上げる青空の眩しさは、少し意外なほどだった。 @盛岡市(北上川)
東から怒号。 西から罵声。 轟々たる風が、混乱の雲を奔らせる。 その真っ直中を行く者がいる。 悠然と歩む姿がある。 「お前は、どちらだ」 詰問の声にこたえて曰く 「我が道は、東西に非ず。 人心の方角に非ず。 ただ天空の果てに続く道なり。 真実へ続く直線なり」 その時 黒雲は千切れ飛び 鋭利な光が大地を照らす。 かつてない晴天の眺め。 生きるものすべての心はとけて しばし諍いを忘れ、 春の川音に聞き入る。 |
2008年12月23日(火)
最高気温1度1分(盛岡)。青空もあったが、山並みを覆い尽くす冬雲が、すべてだった。 @盛岡市(高松の池)
大きな湖は、 小魚を遊ばせなければならなかった。 小魚にとって居心地がよくなければならなかった。 受け入れ、養い、育てる義務があった。 誠心誠意、面倒を見なければならなかった。 何より肝心なことは、上機嫌で泳いでもらうことだった。 小魚の群れが、 どんなに傍若無人でも、湖は波風を立てなかった。 どんなに湖水を濁そうと、湖は沈黙していた。 どんなに性根の腐った泳ぎ方をしても、 湖は微笑んでいた。 小魚の権利は絶大で、手厚く守られた。 侵害しようものなら、湖は裁かれ、 即刻埋め立てられることになっていた。 そんな時代になっていた。 なすすべを失った湖は、祈った。 良い思い出とともに 小魚が旅立ってくれることを ひたすらに祈った。 湖底に沈潜した大魚たちは、 じっと目を閉じていた。 いずれ、小魚の群れに湖が蹂躙される日を思っていた。 歴史を築き上げてきた湖が、 見るも無残な水溜りになりさがる日を予感していた。 今日も、湖の広さも深さも知らない小魚の群れが、 わがもの顔で水面を騒がせる。 |
2008年12月22日(月)
未明の湿った雪を請け負った街は、いささか混乱した。とけていく雪さえ大騒ぎで、うんざりするばかりだ。 @盛岡市
わたしが、 きっと、すぐに諦める者だと あなたは思っていたのですね。 わたしが、 たぶん、撃ち返せない者だと、 あなたは油断していたのですね。 わたしが、 早晩、逃げ出すに違いないと、 あなたは予想していたのですね。 わたしが、 いつか、転げ落ちるはずだと、 あなたは踏んでいたのですね。 わたしが、 ついに、すがりついて来ると あなたは読んでいたのですね。 (まさか、夢にも思わなかったのですね) わたしが、正気の沙汰ではないことを。 未来を犠牲にすることに躊躇しないことを。 |
愛機:HONDAベンリィ50S愛機:HONDAベンリィ50S
2008年12月21日(日)
終日けだるい曇り空では、最低気温の5度5分(盛岡)以上に明るい話題はなかった。 @盛岡市
新しい骨格に抱かれた 新しい力を前に、 新しい年を思う。 見えて来るのは、 越えるべき壁であり、 這い上がるべき大地なのだ。 聞こえて来るのは、 断末魔の咆哮であり、 成し遂げた者への大歓声なのだ。 この真冬に 私に火を入れることで、 目覚めることで、 挑むことで、 こいつとひとつになって、 汚れ傷付きながら、 遠い遠いゴールをめざすのだ。 予感するのは、 未来に向き合う私が、 この真新しい骨組みに包まれたことだ。 |
2008年12度20日(土)
宮古で15度9分など、岩手全体、冬を忘れる陽気。けれど、どこか頼りない陽射しだった。 @岩手山麓
なあ、ひとつ尋ねるが、 俺は、あんたが想像していた様な人間だったかい? 美しい場所を、 けして他人に教えようとはしなかったが、 魂を救う手だてなら、 何から何まで言葉にしたつもりだぜ。 誤ったことを、 けして見過ごすことなど出来なかったが、 あんたの嘘なら、 黙って聞いて、時々頷いたりしたぜ。 胡散臭い者を、 けして受け入れようとはしなかったが、 あんたの友達となら、 百年の友の様に酒を酌み交わしたぜ。 怒りに燃えて、 けして復讐の手を休めはしなかったが、 愛する場所の為なら、 静かに微笑みながら血を流していたぜ。 |
2008年12月19日(金)
朝から、ずっと晴々。青空広々。陽射し、まあ、優しく。それでも最高気温は6度(盛岡)まで。 @岩手山麓
村はずれの神社の陽だまりに 古老は座っていた。 胡坐をかき、腕を組み、 背中を丸めて、うつむいていた。 黒光りするドテラが、冬の光を吸って、 酸っぱい匂いが漂っていた。 寝ているのか、考え事なのか、 それとも、とうに逝ってしまったのか、 とんと、わからない。 村人たちは、 日々の出来事を古老に報告した。 困ったことが起きれば相談した。 病にかかれば御祈祷を懇願した。 古老は、じっとして、沈黙を返すばかりだ。 村人たちは、それでも手を合わせ、 貢物を積み上げた。 ある日「古老は何年も前に死んだ」と噂が流れた。 その夜、噂を流した者の一族は、生き埋めにされた。 古老参りは一層厳粛に行われるようになった。 それで人々の心の平穏は保たれた。 (村が消える日まで) |
2008年12月18日(木)
真冬を迎える覚悟を溶解させる温和な朝。霧が払われ束の間の青空。午後は、暗く小雨に濡れた。 @盛岡市(上ノ橋)
切れる剣を持つ者は、 都の戦に出払った後だった。 残された村は、おそろしくのどかだった。 村人は、いつも微笑んでいて、 激論する姿など無かった。 役人は、総じて、もの静かだった。 誰が悩みを訴えても、誠実に耳を傾け、 よい方策を考えておきますと、約束するのだった。 教師は、総じて、慈愛に満ちていた。 学芸会は常に平等で、主役など立てず、 いつか立派な大人になれると、約束するのだった。 新聞は、総じて、友愛に満ちていた。 記事は概ね前向きで、無闇に批判せず、 ありのままを隠さず伝えると、約束するのだった。 芸術家は、総じて、思慮深く見えた。 発表会などは活発で、絆は固く結ばれ、 多彩な才能を発掘していくと、約束するのだった。 それらの約束が、いつ実現されるのか、 村人はけして問わなかった。 ある日、都の激戦から帰った一団が目にしたものは、 廃墟に等しい故郷だった。 実に穏和な墓場だった。 |
2008年12月17日(水)
平年より暑かろうが寒かろうが、厳冬を猶予してくれる青空があれば、まあ上出来の一日さ。 @岩手山麓
言ってみたい。言ってやりたい。 けれど言うことが見つからない。 だから、書庫に引きこもる。 自分の気持ちを代弁してくれそうな数行に すがりつき声にしてみる。 けれど、みすぼらしい声が耳につくだけで、 語られた誰かの言葉は、 寒風にさらされるばかりだ。 (なんと、もったいないことだ) 浅はかな己を甘やかすために、 貧しい己を飾り立てるために、 無縁な者の精神にすがりつく。 (なんと、あわれなことだ) 自身の賢さを書き記すために、 誰かの人生をあざ笑うために、 犬の様に書棚の間を渉猟する。 (なんと、ぞっとすることだ) 精神は、空の下にある。 言葉は、地の上にある。 今日は、風の中にある。 道は旅の中にあるのに。 |
2008年12月16日(火)
空を覆う雲も無く、放射冷却。きりっと冷えて快晴。雪を纏った岩手山にとっては晴れ舞台のような一日。 @盛岡市
愛機:KTM 200EGS | 私だけの静寂が 待っていた。 私だけの夕闇が 押し寄せた。 私だけの大気が 流れ出した。 いくら待っても 人は来ない。 だから、この無垢なカーブに佇んで、 夜の奥のその果てに はたして、明日の光は射すのか 見届けたくなったのだ。 凍った闇と抱き合いながら、 かすかな希望を夢見たくて、 ここに白い息を吐いたのだ。 |