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イワテバイクライフ 2009年 2月後半


2009年2月28日(土)
穏和な青空だった。オブラートに包まれたような陽射しだった。ただ、日陰の雪は凍ったままだった。 @岩手山麓


  莫大な退屈と引き換えに
  広大な眺めを手に入れた。
  大欠伸を繰り返しながら、
  季節の歯車になっていく。


  無為の日々と引き換えに
  無垢な人々と巡り合った。
  果てしない世間話の中に、
  墓場の在処を悟っていく。


  強烈な睡魔と引き換えに
  底無しの思索をはじめた。
  とことん突き詰めた挙句、
  善や悪を離れて午睡する。


  凄まじい嘘と引き換えに
  真実の井戸を掘り当てた。
  どんなに汲み上げたって、
  虚実はとけあったままだ。

愛機:HONDA Ape100


2009年2月27日(金)
日陰の雪が、どう鋭く凍ってみせようと、大気を貫く陽射しは、すでに春なのだ。 @岩手山麓


  舞台が終わって
  楽屋に戻り、化粧を落とそうとすると、
  きまって、その若い女が座っていた。

  偶然を装ってはいるが、
  目的の無い化粧の手が震えている。

  だから、わたしは、
  屈託無く話しかけたのさ。

  誰が正直で、誰が嘘つきなのか。
  誰が誰と密約を結んでいるのか。
  誰が内偵され、告発されるのか。
  隣の鏡に聞かせたのさ。
  (ここだけの話だよ)と
  釘まで刺してみせたのさ。
  (凄いことになるよ)と
  ウインクしてみせたのさ。

  女は、一切を聞き取ると鏡を離れた。
  醜い化粧のまま、
  暗がりに舞い戻って行ったのさ。
  私の嘘を土産に誰かのもとへ走ったのさ。

  そこで私は、
  はじめて化粧を落とすのさ。
愛機:HONDA Ape100


2009年2月26日(木)
岩手山を照らした朝日の柔らかさ。家々の屋根の雪の軽さ。確かに三月は目前だ。 @盛岡市


  心ひそかに求めるものが
  北にあるのなら、
  南ばかり眺めることだ。

  ほら、南へ通じる街道に関所が増えた。
  お前を見張る目が増えた。
  お前を阻む防塁が増えた。

  いいか、そのように
  お前を自由にさせない備えを
  うんとさせるがいい。
  無駄骨を折らせてやるがいい。

  そして、南に旅立つまさにその日。
  暁に踵(きびす)を返して北へ走れ。

  ほら、街道は寝息を立てている。
  門番たちは、大いびきだ。

  お前の高笑いが北へ駆け抜ける。
  日が暮れる頃には、
  まんまと国境を越えている。
愛機:HONDA Ape100


2009年2月25日(水)
日中は小雨が屋根の雪を崩した。東北地方の3ヶ月予報によれば、春の訪れは早いとか。 @盛岡市(櫻山神社近辺)


  ある日突然、
  見知らぬ影に声をかけられる。
  不可解な好意にとり囲まれる。
  これで仲間だと決め付けられる。
  そんな日がある。

  酒を飲まされ、飯を食わされ、
  家族のことを聞かれ、
  仕事のことを聞かれ、
  今後のことを聞かれ、
  まる裸にされる。
  そんな夜がある。

  それはね。
  交流とは言わないんだよ。
  検分というんだよ。
  懇親とは言わないんだよ。
  品定めというんだよ。

  ならば、
  カラオケ三昧の後は、
  約束させられる前に便所へ立て。
  逃げ場を塞がれる前に店を出ろ。
  慇懃に、そして無礼に、
  下心や思惑にサヨナラするんだよ。
  悪魔のような背中を見せて
  闇にまぎれるんだよ。



  ※本文と写真は一切関係ありません。
愛機:HONDA Monkey


2008年2月24日(火)
がっちり凍って夜は明けた。陽射しは午前中だけで、午後はうすぼんやり。 大地の解凍には至らなかった。 @岩手山麓


  一般論をふりかざす者よ。
  人が、なまぬるい幸せに走ると
  信じているのは、お前だけだ。
  (苦楽では語れないものを知らないのか)


  一般論で斬り捨てる者よ。
  人が、今日の棲家にこだわると
  決め付けるのは、お前だけだ。
  (守るものを捨てる覚悟を知らないのか)


  一般論で追いつめる者よ。
  人が、脅迫されて夢を捨てると
  読んでいるのは、お前だけだ。
  (夢と火達磨になる狂気を知らないのか)


  厳冬に凍ることのない花の前で、
  何ひとつ受け止められない通念よ。
  何ひとつ説明し尽くせない常識よ。
  所詮、お前は、
  わけしり顔の「ありきたり」だ。
愛機:HONDA Ape100


2009年2月23日(月)
霞がかかった晴天。風もなく穏やかな一日。先週末の雪も原形を失っていく。最高気温4度(盛岡) @盛岡市


  仰ぎ見てきたものが、
  実は、とうに地に墜ちていたことを知る。
  けれど、その幻のおかげで、
  ここまで登ってこられた。

  追撃してきたものが、
  実は、とうに撃墜されていたことを知る。
  けれど、その幻のおかげで、
  ここまで走ってこられた。

  対立してきたものが、
  実は、とうに崩壊していたことを知る。
  けれど、その幻のおかげで、
  ここまで立っていられた。


  結局、
  私は私を追いかけ、
  私は私と闘い、
  私は私に辿り着いたのだ。
愛機:HRC RTL260F


2009年2月22日(日)
分厚い雪の原は、午後からの小雨を吸って、じくじくと重く崩れだした。 @花巻市(トライアルパーク)


  「会おう」と
  約束なんかしない。
  誰からともなく、
  そこに集う。
  (必要な場所だから)
  
  「語ろう」と
  提案なんかしない。
  誰からともなく、
  話を始める。
  (皆同じ思いだから)

  「走ろう」と
  号令なんかしない。
  誰からともなく、
  挑み始める。
  (道程は同じだから)

  別れ際に
  再会なんか約束しない。
  この場所に来るのは、
  それぞれの思いひとつだから。

  縛られず、囲まれず、一人立つ。
  そんな、それぞれだから、
  風は清々しい。
  時は淀みない。
ライダー:(左から)村松さん、工藤さん、高橋さん


2009年2月21日(土)
各地、最高気温は0度前後を彷徨った。昨日の雪が氷となって固まった。 @盛岡市


  信じるものを
  心に思い浮かべられるか、どうか。
  それだけのことのように思えるのです。


  心地よい約束など、
  無残に破られ、
  初めて己の愚かさに気付くのです。

  揺ぎ無い盟約など、
  一晩で焼かれ、
  初めて謀られたことを知るのです。

  勝ち得た安息など、
  瞬時に裂かれ、
  初めて戦が続くことを悟るのです。


  それでもなお、
  信じるものを思い浮かべられる限り、
  心は、幾度、破られ焼かれ裂かれようと、
  人は、幾度でも冬を生き、春を迎えるのです。
愛機:HONDA Ape100


2009年2月20日(金)
目にざんざんと、肌にさらさらと、傘にチリチリと、小粒の雪が降った。盛岡では30cm近く積った。 @盛岡市


  あまりに大きな闇は、
  どうかすると、
  月明かりの無い夜のようにも見えるから、
  人は、漆黒の牢で夜明けを待つ。


  あまりに大きな罪は、
  どうかすると、
  誰もが願った奇跡のようにも見えるから、
  人は、殺戮の跡で勝鬨を上げる。


  あまりに大きな嘘は、
  どうかすると、
  独り占めしたい宝のようにも見えるから、
  人は、蜃気楼に向かい狂走する。


  あまりに大きな悲しみは、
  どうかすると、
  とても美しい物語のようにも見えるから、
  人は、神を求めてどん底へ飛ぶ。
愛機:HONDA Monkey


2009年2月19日(木)
最高気温0度(盛岡)。ひ弱な青空を雪雲が包囲し、岩手山の印象も希薄だった。 @岩手山麓


  することが何もないと
  退屈するとは限らない。
  無為の日々にこそ、
  渇望という力が湧く。


  語ることが何もないと、
  さみしいとは限らない。
  沈黙の日々にこそ、
  想念という扉が開く。


  得ることが何もないと、
  むなしいとは限らない。
  不毛の日々にこそ、
  理想という光を見る。
愛機:HONDA Ape100


2009年2月18日(水)
まあ、そりゃあ、きりっと、いつものことだよ。でも、いくら寒くたって、、あと、ひと月ともたない季節さ。 @盛岡市


  轟々たる風に
  聞かなかったか?
  明日生まれる命の泣き声を。
  (抱きしめるがいい)


  猛り狂う雲に
  見なかったか?
  ついに形にならなかった夢を。
  (弔うがいい)


  駆け抜ける光に
  照らされなかったか?
  息を殺して雪原に潜む牙を。
  (待つがいい)


  舞い上がる気流に、
  感じなかったか?
  明日の行方を追撃する魂を。
  (見届けるがいい)
愛機:HRC RTL260F


2009年2月17日(火)
冷えてはいるが、どこか春を思わせる陽射しだった。厳冬のピークを過ぎようとしている。 @岩手山麓


  準備はできています。


  あなたが、捨てろと言うなら、
  今日までの道程を
  全て消しましょう。

  あなたが、飛べと言うのなら、
  今日の居場所から
  飛び降りましょう。

  あなたが、来いと言うのなら、
  今日が終わる前に
  橋を渡りましょう。

  あなたが、走れと言うのなら、
  夜明けが来る前に、
  流星になりましょう。


  嗚呼、神々の大地よ。
  あなたが送る光と影こそ、
  私の未来であることを
  確信するのです。
愛機:HONDA ベンリィ50S


2009年2月16日(月)
岩手の冬が戻った。氷点下1度の真冬日(盛岡)。所により吹雪。一面の水墨画。 @滝沢村


 いいんだよ。
 語らなくても、いいんだよ。
 今朝は、白いか黒いか、それだけだから、
 鮮烈な心模様など遠慮してくれ。

 いいんだよ。
 言い張らなくて、いいんだよ。
 今朝は、一切が凍るために在るのだから、
 血をたぎらせたりしないでくれ。

 いいんだよ。
 斬り捨てなくて、いいんだよ。
 今朝は、束の間無垢でいられるのだから、
 善悪や清濁を峻別しないでくれ。


(この温かい雪の中に眠らせてくれ)
愛機:HONDA ベンリィ50S


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