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イワテバイクライフ 2009年 6月前半
2009年6月15日(月)
さらり、ひんやり、夜は明けた。形の定まらない雲も多かったが、まずまず晴天だった。 @北上高地
(ああ、そうだったのか)と思うことがある。 凡庸な者が破格の評価を授けられる理由が、 見えて来る瞬間がある。 突然異様なまでに頑張り始める者の理由が、 鮮明になる瞬間がある。 寡黙な者が壇上から理想を叫び出す理由が、 飲み込める瞬間がある。 正義を振りかざす者が急に沈黙した理由が、 説明できる瞬間もある。 長い間、凍結していた違和感が、 (なんだ、そうだったのか)と 解けることがある。 長い間、首をかしげた不自然が、 (なんだ、そうだったのか)と 頷けることがある。 理由は何であれ、 ものごとを裏で支配するものが わかってしまえば、楽なものだ。 怖がることも、悩むこともない。 (なるほど、そうだったのか)と 微笑んでいられる。 |
2009年6月14日(日)
澄み切った空の蒼さと光。乾いて肌を優しく撫でる風。そして、緑陰のひんやり。これぞ北国の六月。 @田沢湖高原(秋田県)
日々、決まった時に 何か述べなくてはならないとしたら、 それは、地獄だ。 日々、何時何処でも、 こみあげる思いを述べられるのなら、 それは、楽園だ。 日々、たったひとつ、 本当に生き抜いた証を描けるのなら、 それは、芸術だ。 日々、現れる人々と、 絶対に嘘の無い言葉を交わせるなら、 それは、奇蹟だ。 日々、流れゆく雲と、 光と影の中に明日を予感出来るなら、 それは、啓示だ。 |
2009年6月13日(土)
「チャグチャグ馬コ」の歩みを追うように青空が広がった。とはいえ、大気不安定で雷注意報。 @岩手山麓
論評するなら、言い切ってくれ。 半端な分別を持つ者は、 一面を灰色の言葉で塗りつぶし、 とってつけた様に花の絵など添えて、 その場から逃げ出す。 なまじ肩書を持つ者は、 細部にわたる知識をちりばめて、 難解な概念の螺旋階段を上って見せ、 教養の誇示で終わる。 つまらないものを、つまらないと、 すばらしいものを、すばらしいと、 すんなり声に出せない者が、 意味不明の猶予期間を設け、時を浪費する。 倒壊するものを放置、傍観し、悲劇を招く。 (考えるフリほど悪質なポーズは無い) |
2009年6月12日(金)
まるで梅雨明けを思わせるエネルギッシュな晴天だ。ここから引き算で、季節は陰気になるのだろう。 @岩手山麓
冷えた会議室に呼び出された。 見知らぬ男が待っていた。 私の名前を確かめるその額には、 じっとりと汗がにじんでいた。 「実は」と言いかけて、 男は、窓のブラインドをおろした。 「あなたの知り合いに幽霊がいるのです」 ひと息に伝えられた意味を 私は、受け止め切れず、聞き返した。 男は、頷いて、ゆっくり声にした。 「そうです。幽霊がいるんです」 私は、私の知る限りの顔を思い浮かべた。 「無駄です。記憶の中にはいません」 男は私の狼狽を制止すると、 慣れた口調で説明した。 「あなたが何か事を起こそうとすると、 それは現れて、あなたを妨害するのです。 幽霊にとって、あなたは都合の悪い人だ。 だから、幽霊は、あなたの意識に従って 発生するのです。 あなたの意識の内容に応じて、 幽霊は誰かになりすまし、あなたに近づくのです。」 私は、たまらず部屋の空気を震わせた。 「では、彼も彼女も、みんな幽霊だと言うのか」 男は、肯定も否定もしなかった。 「いいですね。何も想像しないことです」 そう言い残して部屋を出ていった。 (そんな夢を見た) |
2009年6月11日(木)
暗い雲に頭を押さえ付けられ小雨断続。東北北部に梅雨入り宣言。はぐらかす様に夕刻の青空。 @盛岡市
気位と劣等感で突っ張る者は、 うまく隠したはずの素性を見抜かれると、 他人(ひと)の目を見られなくなる。 (だから、私は気遣うのだ) あなたの正面に立たないように。 あなたに微笑みかけないように。 あなたに真実を告げないように。 知らぬふりをするのだ。 逃げ回るあなたが哀れだから、 そっとしておくのだ。 あなたの名前さえ口にせず、 良く通る声で呼びかけもしない。 振り向かせるような質問などしない。 目を合わせずに済むことで、 あなたが矜持を保てるなら、 何よりだ。 |
2009年6月10日(水)
時折薄日がさしたけれど、形の無い白い雲と湿って生ぬるい風が、梅雨の接近を知らせている。 @盛岡市近郊
いやしくも人にものを教える者は、 生徒の歩みに向き合うべきだ。 もっとも恥ずべきは、 懸命な歳月を重ね、 僅かでも進歩を遂げた者に対し、 「知らぬ間に何処で修行したのだ?」と 寝ぼけた台詞を吐く教師だ。 「そんな技を誰に教え込まれたのだ?」と 薄汚い台詞を吐く業者だ。 「ブラボー」のひと言も贈れない者は、 虚飾の教壇を降りる他あるまい。 |
2009年6月9日(火)
西の彼方から梅雨の知らせが届く中、乾いた風が吹き渡る北国の晴天。 @滝沢村(トライアルパーク)
静寂の山に彷徨い、 爽快な夕風を浴び、 一日は暮れていく。 この信じ難い楽園に暮らしていると、 ひとつの確信に包まれる。 誰かが骨を拾ってくれたのだ、と思えて来る。 私の骨を拾ってくれたのだ、と。 一切の希望を剥奪された死者に、 せめてもの居場所を与えようと、 此処へ導かれたのかもしれない。 前例のない自由。 破格のもてなし。 すべては、 莫大な闇を負わされた者に対する 憐憫の情か。あるいは贖罪なのか。 その昔、骨になった私が、 今日、自ら生きる記憶を拾い集めている。 その習慣を許したものは、 もはや、神よ、あなたに違いない。 ※画像と本文は一切関係ありません。 |
2009年6月8日(月)
暗い雲は、みるみる明るく乾いた雲に移ろい、午後の空に青空がのぞき、爽やかな夕風。 @滝沢村(トライアルパーク)
思い出したように 美しく囀る鳥より、 今日も生きている限り 泥地に餌を探し回る鳥の方が、 心を許せる。 忘れた頃に現れて 理想を語る者より、 今日も生きている限り 薮の中で血まみれの者の方が、 肩を組める。 私が疲れ果てた時 棺へ誘うものより、 今日も生きている限り 容赦なく私を照らす光の方が、 神と言える。 |
2009年6月7日(日)
色彩の希薄な晴れ間はあった。温もりの無い陽射しもあった。けれど主役は梅雨を思わせる雲だった。 @岩手山麓
牙を剥かず、吠えもせず、 移ろうものに身を寄せ、 陽ざしの中に欠伸して、 風に撫でられ昼寝して、 気付けば、 この大地の堆肥となっていたとしても、 うろたえたりはしません。 己を語らず、表に立たず、 崩れ去るものを見渡し、 墓標の群の中を彷徨い、 やがて夕闇に抱かれて、 気付けば、 帰らぬ者の名簿に載っていたとしても、 声を上げたりはしません。 剣は、森のどこかに置き忘れ、 盾は、川の流れに持ち去られ、 筆は、めぐる季節に風化して、 友は、退屈を嫌って遠ざかり、 私は、道端に憩う野良犬です。 神よ、この大地の歳月を私に許した神よ。 私が求めた「恐ろしいほどの平穏」とは、 つまり、この日々のことだったのですね。 |
2009年6月6日(土)
終日、小雨断続。両盤地域・沿岸部に大雨警報。盛岡も夜になって本降り。 @岩手山麓
みたされた場所に反骨は芽生えない。 理解者だけだと訴える心は育たない。 賛美に包まれると猛毒も色水になる。 担がれたままだと己の歩幅を忘れる。 先を保証されると昨日のままになる。 名誉で飾られると冒険から遠ざかる。 地縁血縁に安住すると腐臭さえ漂う。 ぬるい輪の中では濁ることも覚える。 予定調和の中で反乱の斧は錆びつく。 去勢された群は独裁に恋い焦がれる。 幸いにも渇き切った者よ、 暗い雨に打たれ不機嫌の意味を問え。 幸いにも飢えている者よ、 静けさに染まって喪失の質量を思え。 幸いにも怒り震える者よ、 和やかな森の中に不条理の影を追え。 |
2009年6月5日(金)
大気に水滴がまじり、陰気な雲が頭上を覆い、かすかに蒸し暑く、梅雨の匂いさえ漂った。
肉声はね、 閉ざされた場所で、 いくら飾ってみても、 所詮つくりものなんだ。 ほんとうはね、 見渡す限り遮るものの無い空間で、 今日限りの風を受けて、 押し出す声が、 めざす人の心に届くかどうか、 それで言葉に宿るものが試されるんだよ。 大地が揺れて、なお、 泰然とした精神を発する声か。 大地が凍って、なお、 厳冬をとかす熱を帯びた声か。 それは、野鳥のさえずりや、 獣の雄叫びと何ひとつ変わらぬ野性の響きさ。 よどんだ空気を突き破る命の声こそ、 未来に届くんだよ。 |
2009年6月4日(木)
朝から湿った曇天で、午後には大雨・洪水・雷の注意報。夕刻、音を立てる降雨。 @盛岡市
あんたも目出度いな。 自分から勝手に殿様になって、 すっかりその気になって、 俺たちを家来扱いだ。 その気位は、どこから来るんだ? (因習を継承したんだろうなあ、きっと) あんたも怪しいな。 他人を引っ張り込んでおいて、 誰にも本心は明かさず、 俺たちの腹をさぐる。 その狡さは、どこから来るんだ? (何か負わされたんだろうなあ、きっと) あんたも訳有りだな。 縁もゆかりもない土地に来て、 此処が故郷だと言い張り、 俺たちに過去を明かす。 その決断は、どこから来るんだ? (闇を見せられたんだろうなあ、きっと) どうだい、あんた達。 ちょいとした田舎芝居になりそうじゃないか。 |
2009年6月3日(水)
太陽がまるい光の輪に囲まれた。天気が下り坂に向かう現象「日暈(ひがさ)」。夕刻、所により小雨。 @岩手山麓
人と別れることが年中行事になると、 送別会は、壮絶な縁切りの宴になる。 ほら、座敷の片隅で議論が始まる。 (いいぞ) ほら、恨みつらみの怒号があがる。 (引くな) ほら、ビール瓶を派手に叩き割る。 (来たぞ) ほら、畳の上に血の川が流れ出す。 お前ら、心ゆくまでぶつけ合え。 年に一度の真っ正直を演じ切れ。 明日になれば、また羊の群だぜ。 文句ひとつ言わず、また一年だ。 ただし、今夜の痕は残すな。 血の一滴、前歯一本、 落ちていないか確かめろ。 (かつて、そんな時代があった) |
2009年6月2日(火)
朝方の澄んだ青空は、やがて白濁のベールを纏った。けれど、風は乾いて軽かった。 @八幡平市(岩手山遠望)
うまい酒は、 少し飲んだだけで満たされる。 半端な酒は、 いくら飲んでも心を開けない。 よい旅路は、 少しの道程にすら物語がある。 退屈な旅は、 距離を伸ばす事が目的になる。 本当の友は、 少しの沈黙だけで通じ合える。 にせものは、 馴れ馴れしく長話をしたがる。 良い作品は、 少しの真実で酔わせてくれる。 それ以外は、 うんざりする程の気分を描く。 (簡潔にハートを貫いてくれないか) |
2009年6月1日(月)
雲は昼前には途切れ、青空が広がった。けれど、寒気の影響で、明暗・寒暖入り乱れる空だった。 @北上高地
なあ、友よ。 誰にも言い分というものがあるのだ。 裁判で主張するほどのことではないが、 頑として握り締めているものだ。 それが正しいか、そうでないか、 実は、あまり重要なことではないのだ。 いいか、友よ。 己の言い分を突き出したくなったら、 少し確かめてくれ。 それを押し通さないと、 暮らしが成り立たなくなるのか。 未来が大きく変わるというのか。 自らの誇りを守れなくなるのか。 純粋で真剣な眼差しを前に、 相手の心を砕くような言葉を吐けるか。 穏やかに温もる輪の空気に、 冷や水をかけるような言葉を吐けるか。 それが言い分だからと、言い放てるか? だから、友よ。 そんな時は、心の枝を離れて、 大空から自分の姿を見下ろす鳥になるんだよ。 ありのままを受け入れるんだよ。 (すると、みんな笑顔だよ) |