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イワテバイクライフ 2009年 8月前半
ひとつのことに夢中になれる。 (いいことだ) ついに夢で終わるものでも、 そのラストシーンを見届けた者は 再び夢中になれる。 ひとつの道を深く掘り下げる。 (いいことだ) ついに幻で終わるものでも、 地下深く眠る鉱脈を見届けた者は、 再び探求を始める。 ひとつの技を何年も磨き込む。 (いいことだ) ついに未完で終わろうとも、 日々進化するものを見届けた者は、 再び努力を始める。 限界に踏み込んだ者ほど、 (まだ足りない。まだ出来る)と 思えるのかもしれない。 |
無傷で迎えた大型連休は、 さて、どんな気分だい? ここまで無難に運んだ人生が勿体なくて、 冒険なんかできないかい? 山で転んだり、海で溺れたりするのが怖くて、 ひたすら家にとじこもっているのかい? 結局、危機管理で日が暮れるのかい? 息を殺して暮れるのかい? 名誉へつらなる大渋滞は、 さて、どんな気分だい? ここまで勝ち進んだ人生が誇らしくて、 Uターンなんかできないかい? 小さなミスや勘違いで道を外れるのが怖くて、 行列が流れ出すのを待っているのかい? 結局、現状報告で旅は終わるのかい? 欠伸しながら終わるのかい? (で、結局、誰のための夏休みだい?) |
雨の気持ちはね、 窓から眺めているだけじゃ、 わからないよ。 向い風にまじる雨を 胸板に受け止めて走っているとね、 増水した川の土臭さや、 柳の葉の甘い揺らぎや、 墓地に漂う紫の香りが、 夏の大気の予熱にとけて 体を濡らし、心に滲みて、 今日という日の記憶になるんだよ。 乾いたタオルで拭い切れない八月の雨が、 記憶の中に降りしきって、 秋を濡らし、冬を洗い、春を潤すんだよ。 |
いったいどれだけ走ったことか。 雄大にうねる大河や、 天空にそびえる山岳を見渡す異郷の地で 墓参りを済ませた。 長旅に疲れ果て、 私は、村はずれの宿に転がり込んだ。 真夜中、月明かりにくすぐられて目が覚めた。 窓の外に何かいる。どう猛なうなり声だ。 寝床で目を見開き身構えていると、 隣で誰かが寝返りを打つ。 見知らぬ女だ。大女だ。 闇の中に青い瞳が笑っている。 (ナツカシイ夜ダワ。オボエテイル?) 女の長い指が私の額に触れた。 その瞬間、記憶が数千年逆流した。 故郷を捨てたあの日。 夜が明ける前に家を出て 東へ駆け出す自分が見えて来る。 放浪の旅を重ね、幾度死に、幾度生き、 今の私に辿り着いたことか。 気の遠くなるような歳月を思うほどに 私が残した何百、何千という墓標が見えて来る。 丘一面を埋める墓の中を 一匹の狼が彷徨っている。 (そんな夢を見た) |
(静かだな。静か過ぎる) 夏の休暇が終われば、 人は帰って来て、 活気が戻るはずなのに、 そんな気配がまったく無い。 カレンダーに従って 人は己に復帰し、 生活が始まるはずなのに、 そんなイメージも描けない。 冷房のきいた部屋に ぽつんととりのこされた私には、 ひどくわかる気がする。 (誰も、ここへ帰って来る気は無いのだ) それぞれに生きる算段を求めて忙しく、 ここへ戻って来る気など毛頭無いのだ。 やりかけたことに一片の未練も残さず、 山積みの計画に見切りをつけたわけだ。 焼き払われなかっただけの「昨日」が、 ここにあるだけだ。 見捨てられた膨大な夏に埋もれて、 私は、その留守番をしているだけなのだ。 |
黙って走りなよ。 道の先は、何から何まで決まっているから。 まず手を挙げ声を上げるのは誰か、 決まっているよ。 (いつもの人々さ) 検討を重ね話をまとめるのは誰か、 順番の通りだよ。 (いつもの面々さ) 異議を唱えて盛り立てるのは誰か、 専門の役者だよ。 (いつもの配役さ) 最後に決着させてみせるのは誰か、 話題にもならないよ。 (あまりに有名さ) そんな流れを裏で糸引くのは誰か、 よく見ていてごらん。 (いつも片隅に居るから) そのように、行く手を覆う霧の中で、 誰かがうまくやっている。 霧が晴れれば、相変わらずの眺めだ。 だから、目をつむっていても駆け抜けられる。 もし、目を見開いて走りたければ、 人影も稀な新しい道を選ぶことさ。 |
言っちまいなよ。 「梅雨は明けました」と。 (良く似た話だ) 白状しちまいなよ。 「お前と別れた俺が馬鹿だった」と。 「お前との日々を忘れられない」と。 「お前が居ない夕暮れは残酷だ」と。 お願いしちまいなよ。 「どうかどうか帰って来てくれ」と。 「塒を用意して待っているから」と。 「機嫌良く火炎を立てておくれ」と。 約束しちまいなよ。 「二度と手放したりしないから」と。 「地平線の彼方へ連れて行くよ」と。 「俺の骨でシリンダーを埋める」と。 真夏日の倉庫の片隅で、 取り返しのつかない夢を見た。 確かなことは、 未来への思いが沸騰して来たことだ。 (夢からさめても、現が加速する) |
夏になれば そんな風景が広がると 思っていないか? 自然にわいて、生えて、伸びて, 夕風にそよぐと思っていないか? (見えないか?) 見渡す一面を支え整え愛しむ人影が。 香ばしい野焼きの煙を立てる人影が。 旅人を彼方から凝視している人影が。 守るべきものを胸におさめる人影が。 一日の汗を拭き夕闇に染まる人影が。 |
平均速度に走行時間をかければ、 何時に何処にいるか想像できた。 (そんな旅もあった) 地図を指でなぞるように走れば、 風景は記号となって流れ出した。 (そんな道もあった) 冒険せず過不足無く汗を流せば、 機械仕掛けの幸せがやって来た。 (そんな日もあった) 今、ひとり、この空の下に 置き去りにされて、どうだ? 掴み切れないものを求めて、あと一歩だった。 空に舞い狂うものを追って、来た道を離れた。 振り向けば自分の影は無く、記憶さえ失った。 (だから、光にとけて果てしなく微笑んでいる) |
一国を滅ぼすのに武器は要らない。 まずは、贅沢に麻痺させることだ。 個人の利益に夢中にさせることだ。 努力や労働の評価を下げることだ。 文学や芸術の地位を下げることだ。 哲学や論争を毛嫌いさせることだ。 子供をわがまま放題にすることだ。 社会に厭世観を蔓延させることだ。 事実を断片的な情報にすることだ。 白黒しか判断できなくすることだ。 本質を笑い草にしてしまうことだ。 思考する者を引き籠らせることだ。 結束をスポーツに限定することだ。 老若の間に言語の溝を掘ることだ。 大波は流行の範囲に収めることだ。 巨悪を細分化して告発することだ。 衰退の途上に祭を演出することだ。 危機管理で互いを縛らせることだ。 独創性など精神病棟に送ることだ。 歴史への眼差しを覆い隠すことだ。 その日まで、 人々はビールなど呑気に飲み干し、 飢える子を眺め、虚しい芸で笑う。 |
2009年8月2日(日) 朝霧は払われ、昼過ぎまで真夏の陽射しが照り付けた。夕刻になって降雨。 @青森県大鰐町(トライアル大会会場) |
もし、ひとつの挑戦が 完璧な結果をのこせたとしても、 その勢いで、 次の挑戦を始めてはいけない。 弾みだとか、 リズムだとか、 テンポだとか、 そんな気分で残せる成果なんて、 たいしたものじゃない。 まずは、勇む風から離れることだ。 一度火を消し、 彼方を見渡し、 今日という日の意味を問い返し、 そこで、はじめて 足元の石ころひとつから 行く手の一切を確かめるのだ。 深々と息をため 覚悟に背中を押されて 思い描いた道筋に踏み出すのだ。 |
2009年8月1日(土) 終日の濃霧注意報を嘲笑うように夏空拡大。「さんさ踊り」初日が終わる頃、かすかに水滴。 @盛岡市役所前 |
余韻を楽しむのが「祭」だ。 手際よく撤収するのは「イベント」だ。 さて、その場の空気がどうであれ、 決められたエネルギーを 決められた時間示して見せるのが、 いわゆる「まつりごと」だ。 |