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イワテバイクライフ 2009年 8月後半
敗北を重ねてきた者は、 勝つことの意味を知る。 それが、 どれほど険しい道か。 どれほど嬉しい事か。 どれほど耐える事か。 だから負けるたび、それを 受け止める強さを身に付ける。 突き詰める厳しさが磨かれる。 無駄にしない賢さが生まれる。 それらの狭間で真摯に生きていると、 勝ち負けでは無いことが分って来る。 所詮人生の表裏であることに気付く。 |
うれしいこともあれば くやしいこともある。 最高の瞬間もあれば、 最低の瞬間もある。 好運な一日もあれば、 運の悪い一日もある。 ストライクもあれば、ボールもあるし、 ホームランもあれば、凡打もある。 すべては、隣り合わせ。 一切は、紙一重。 どれもこれも、あるがままの私。 だから、理由をかみしめて歩もう。 だから、この青空の記憶を抱きしめて走ろう。 何もかも、受け入れて微笑もう。 |
村の見回りに使う車なのに、 なぜフェラーリが必要なの? 乗りこなせるの? 可哀想なことだ。 やがて埃が積って、最後には愚政の遺物か。 (せめてレースの夢でも見ていておくれ) 村を荒らす猿に備えるのに、 なぜ最新の戦車が必要なの? 使いこなせるの? 勿体ないことだ。 やがて錆びついて、最後には無用の長物か。 (せめて大勝利の夢でも見ていておくれ) 村の祭りの余興大会なのに、 なぜ世界の巨匠が必要なの? 価値がわかるの? 気の毒なことだ。 飼い殺しにされて、最後には邪魔者扱いか。 (せめてカーテンコールを夢見ておくれ) |
標識には従うさ。勿論ね。 だが、行く先は自分で決めるのさ。 たとえ行方不明になったって、 「早く帰れ」と指示する標識なんか無いのさ。 だから、そのまま神隠しさ。 楽譜には忠実さ。当然ね。 だが、音色を奏でるのは自分なのさ。 どんなに聴き手を陶酔させても、 「正気に帰せ」と記した楽譜なんて無いのさ。 だから、そのまま踊るのさ。 人の道は守るさ。絶対ね。 だが、生き様だけは自分で選ぶのさ。 どんなに遠回りや道草をしても、 「他人と同じ道」を求める掟なんて無いのさ。 だから、そのまま未完成さ。 |
この地を追われる日が来たらね、 最後の砦を失う時が訪れたらね、 安息を奪う波が押し寄せたらね、 もう、わたしは 名を伏せる必要は無くなるのだ。 わたしが誰で、どんな旅の果てに この地へ辿り着いたのか、 一切を明らかにしようと思うのだ。 何十年という根気と、何万頁という執念で、 山が跡形もなくなるまで語ろうと思うのだ。 善悪の境界で起きた出来事を綴ろうと思うのだ。 わたしが、この地で穏やかに生きている限り、 封印される黒い記憶。 わたしが、この空の下で風になっている限り、 けして起きない反乱。 愚かにもその箱をこじ開けるのは、 大概、いきさつを知らない役人だ。 ニュアンスを感知できない石頭だ。 だから、この地を追われる日が来たらね、 わたしは火達磨になって 群衆の中へ飛び出そうと思うのだ。 焼けただれた喉から、 逃げ切ることを願う者達の名を 鮮やかに叫ぼうと思うのだ。 ※現場では許可を得て撮影。作業道のみ走行。 |
何かにすがりついて生きるということはね、 何かにすがりつかれるということなんだよ。 ひとたび助けられたら、 いざという時には、その何かのために、 全財産を投げ出せるかい? 命までも差し出せるかい? 間違った意見でも受け入れられるかい? 大切なものを泥の中に捨てられるかい? 信じるものを裏切ることができるかい? 身代りに重いものを背負い切れるかい? それを、ある者は 「友情」と言い「絆」と言い「信仰」と言う。 その覚悟が無いのなら、 何かにすがりつくことなく、 時にどんな目に遭おうとも、 孤独を貫いていけるかい? それを「自由」とも言うのだけれど。 |
どんな山にも頂を占める者はいるが、 誰も理由を問わない。 誰も異議を唱えない。 頂を見上げる度、心は静まるからだ。 そこに技は無い。 ただ無事に過ごしてきただけの者だ。 そこに魂は無い。 ただ如才なく振る舞っただけの者だ。 そこに志は無い。 ただ己の地位に執着しただけの者だ。 それでも、山は形を成しているから、 なるほど、そんなものかと得心する。 だから、頂をめざし競う影も消えた。 (見上げてごらんよ) みすぼらしい者が、颯爽としている。 退屈きわまる者が、嬉々としている。 赤面を誘うものが、堂々としている。 (それはそれで腹も立たない眺めだ) もはや麓に生きる者は、 何も求めず何も追わず、不条理にも揺れず、 足元の暮しを見つめ、汗を流していられる。 |
ほほお。 火傷がこわくて、遠巻きにしているのかい。 ふうん。 巻き添えが嫌で、黙り込んでいるのかい。 そんなわけで、誰かの意のままに 右へ向き、左へ走るのかい。 本当は真っ直ぐ進みたいのにね。 ならば、よく見るがいい。 お前が跨っているものを。 お前が握っているものを。 お前が奏でているものを。 (わかるかい) 高まるエンジン音は、お前の思いだ。 見据えるその先は、お前の未来だ。 つなぐクラッチは、お前の決断だ。 さあ、跳べよ。跳んでみろよ。 迷っていると、 瞬く間に夜だ。瞬く間に冬だ。 秋は、心を決める時だ。 |
他人の歳月など、瞬く間だ。 待ち続けていた時間や 積み重ねてきた時間の 果てしなさなど、分らない。 何かのついでに目を向けて、 まだ元気だとか、相変わらずだとか、確かめて、 5年や10年を、いともたやすくひとつに括る。 (でもね、それで、いいんだよ) 壊れては直し、 泣いては笑い、 憎んでは愛し、 捨てては求め、 日々狂おしく彷徨う他人の生き様を 間近で見つめてはいられない。 じっと寄り添っていられない。 遂に見届けられはしない。 所詮は受け止めきれない。 (それぞれの歳月を知る者は、それぞれだけだ) ならば、せめて、その道のりを思いやり、 偶然すれ違う時ぐらい、 腹の底から声をかけ励まそうじゃないか。 ※画像と本文は一切関係ありません。 |
走るものが 蛍光灯に照らされ、 ショーウインドウに佇んでいる。 何とはかない姿だ。 石ころひとつ飛んで来ただけで砕け散る ガラス細工だ。 (泥にまみれて旅を重ねてこそ、走るものだ) 闘うものが、 肘椅子に座らされ、 涼しい部屋で時計を睨んでいる。 何とむなしい姿だ。 数行の文書一枚で呆気なく勝敗が決まる 机上の世界だ。 (生身の人間と向き合ってこそ、闘うものだ) 生きる者が あてがわれた道を 無駄口も叩かず歩き続けている。 何と残酷な風景だ。 遥か昔に定められた計画をひたすら守る 絶望の日々だ。 (夢を潰され立ち上がってこそ、生きる者だ) |
わたしはね、もしかしたら、 もう、ここには居ない人間なのかもしれない。 ぼんやりとした抜け殻かもしれない。 (そう思うことがあるんだよ) 誰がどんなミスを犯しても、 怒鳴らず、騒がず、問い詰めず、 ひと言「まあ注意しよう」と微笑むだけの そんな人間になってしまった。 それぞれの責任は、それぞれが自覚していて、 誰もが懸命なのだが、 ちょっとした意識の加減で、 過ちを犯してしまうんだよ。 では、その責任を全うできない者に対して、 どうしろと言うんだい。 反省では足りないから、 指をつめれば済むのかい。 追放されれば済むのかい。 そんな審判に目を血走らせて、活気付いて、 どうするんだい?何が守れるというんだい? 人間なんてものはね、過ちを繰り返すんだよ。 (あんたもね) ぎりぎり頑張るほど、それは避けられない。 ならば、過ちの理由を凝視して、 歯を食いしばって進み続ける他ないんだよ。 その切なさを知らない無傷の役人どもが、 今日も責任の追及に嬉々として走り回る。 その喧噪の中に、わたしは幽霊となって佇んでいる。 (わたしはね、もう、ここには居ないんだよ) ※本文と画像は一切関係ありません。 |
収穫を終えた場所に今日も居る。 区切りのついた場所では、 誰もが大らかで、 私のことなど見過ごしてくれる。 だから、私だけの実りの季節を思い描いて、 今日も奔放に種をまく。 物語が終わった場所に今日も立つ。 幕をおろした舞台では、 誰もが虚脱して、 私のことなど視野には入らない。 だから、私だけのプロローグを思い描いて、 今日も嬉々と演じる。 夢からさめた場所で今日も走る。 無数の熱情の墓場では、 誰もが絶望して、 私なんかに期待したりはしない。 だから、私だけのささやかな希望を追って 今日も自在に風になる。 |
公に罪を負うと、さあ大変だ。 犯したミスそのものなんか どこかに置き去りにされて、 全人格そのものを叩き出す群が現れる。 やれ、無愛想だった、とか、 やれ、破綻者だった、とか やれ、酒飲みだった、とか、 とことん、 どうしようもない人間だったことにしたい輩が、 あることないことを喋り出す。 私憤にまみれて潜んでいた悪意が、 蛆となってわいて出て、 ここぞとばかりに欝憤を晴らす。 (だからさ、私もね、用心しているのさ) 退屈な日記を「詩人気どり」だとか、 生業を指差し「露出の趣味」だとか、 日々の散歩を「スピード狂」だとか、 話をつくりたがる一人一人の顔を思い浮かべて、 悪魔のように慎重に暮らすのさ。 毒々しい程に正しく生きるのさ。 |
何かしようとするな。 まずは、静かに佇め。 誰にも心配されず、警戒されず、 放っておいてもらえる者であれ。 遂に何もしでかさない者であれ。 何か語って誤解など招くな。 何か訴えて敵味方を作るな。 何か指摘して狼狽させるな。 何かを信じて滑稽になるな。 何か創って評価を求めるな。 何か決心して無理をするな。 そのまま、いつも通り、 置物のように佇み、 波紋など広げず、 ゆるやかに忘れられていくことこそ、 至難の業だ。 ともあれ、この世の空気を ひとつまみ分けてもらって、 今日の命に置き換える者であれ。 (風景のひとつになり切れ) |
人は、人の世のあれこれには敏感で、 多彩な感情と意見を持ち、 言葉にしたがる。 けれど、そのほとんどは、 言い放った途端、 泡のように弾けて消えて、 気が済む程度のことだ。 その怒りに義は無く、 その悲しみに同情の余地は無く、 その主張に理の欠片も無いことを知る。 ならば、 名状しがたい日々の天地を前に、 阿呆となって、 道端に立ち尽くしていたい。 |