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イワテバイクライフ 2009年 9月前半
余計なことは何もせず、 明日を迎えるのが、 正しい態度のように思える。 どうにかしようとか、 なんとかしようとか、 日頃使ったこともない力を出して、 川の流れを変えようとしたり、 風の向きを変えようとしたり、 東奔西走したところで、 所詮、今日限りの汗なんだよ。 無心に生きてきたこれまでの自分が すでに明日を決めているんだよ。 良いことも、そうでないことも、 大切な友も、そうでない他人も、 一切は、これまでの自分が招いた必然なんだよ。 それを素直に受け入れることこそ、 自分に対する礼儀じゃないのか。 余計なことはせず、潔く従うことこそ、 自分でいられる唯一の道ではないのか。 その道を辿っていけば、 もつれた糸は、いずれ解きほぐれるはずだ。 ※本文と画像は一切関係ありません。 |
わたしはね、 近未来のその日のことで もう頭がいっぱいなのだ。 思い描いた夢が、 現実になるその日まで、 秒読みに入った嬉しさで 水鏡一面を震わせるのだ。 今日の夕暮れは、 つまり束の間の闇夜の入り口だから、 思い煩うこと無く眠りに就いて、 あとは目覚めるだけだ。 その夜明けのために わたしは今日を走り、今日を記憶に残す。 ひとつひとつの瞬間が 何万、何億と折り重なって 来年の秋や再来年の秋に届く橋になる。 昏睡の季節を渡り切る橋になる。 絶望の此岸から希望の彼岸を結ぶ橋は、 去り行く今日を記憶し続ける狂気だ。 |
何もしなくても、なるようになる。 手を尽くしても、なるようになる。 結局、行き着くところが同じなら、 何かひとつ自分の道を外れてみる。 何かひとつ自分の裏をかいてみる。 何かひとつ自分の宝を捨ててみる。 それでも同じ結末に辿り着くなら、 百年の友のように受け入れようか。 |
今日の秋は、 今年だけの秋ではない。 来年の秋のために もうひとつの眺めを撮る。 再来年の秋を思い もうひとつの瞬間を撮る。 その次の年の秋のために もう一枚の絵を仕上げる。 (そのように冬に備えるのだ) 心におさめ切れないほどの 「今日」の印象を糧にして 歳月という大山脈を越えようと思うのだ。 押し寄せる氷河期に備えて、 今日の秋の中に薪を拾うのだ。 来年の今日をしのぐために、 再来年の今日を満たすために、 その次の年の今日を在らしめるために、 粛々と準備するのだ。 (そうさ。この道は途絶えない) |
大きな力を借りたければ、 見知らぬ者に頼むことだ。 なまじ知り合った仲では、 事情がわかり過ぎていて、 ひと息に事はすすまない。 まして利害が絡めば複雑だ。 密告の影さえ見えてくる。 慣例や通念に囚らわれず ものごとを動かす知恵は、 白紙の状態から生まれる。 突如吹く起死回生の風は、 意外な方角に巻き起こる。 だから、今夜も まだ見ぬあなたへ 長い長い手紙を書くのだ。 ひとつ間違えば 身を滅ぼすような手紙を 夜が明けるまで綴るのだ。 |
俺はね、 日曜日の午後のショッピングセンターで 道化者をしている自分を思うことがあるよ。 分厚い化粧の下から 秋空に溜息を付いて 自分が求めた自由について考えるのさ。 これでよかったのかな、と。 本当によかったのかな、と。 後悔で脹らむ風船が目に浮かぶのさ。 きっと夕闇の家路で思うのさ。 確かに此処は愛する地ではあるけれど、 確かに北に聳えるのは愛する山なのだけれど 実は、そんなことは、もうどうでもよくて、 明日の生活のために這い回ることで精一杯で、 やがて、風になった日々のことさえ 忘れていく自分を、いま思い浮かべるのさ。 死ぬほどの退屈をやり過ごし、 不条理に怒り震えながら、それでも、 自分とやらを綴っていられた日々を羨む道化師が 見えて来て仕方ないのさ。 |
よし、わかった。 信じようじゃないか。 裏切られる日まで信じようじゃないか。 その瞬間まで ほがらかな人間でいられるなら、 信じようじゃないか。 裏切られることを予見して 苦しむことこそ地獄なのだ。 信じた末の結果が、 いかに酷いものであろうと、 信じていれば、 その日までは夢を見て暮らせるじゃないか。 愛する者を悲しませなくて済むじゃないか。 騙されまいと気を張るのは、もう止めよう。 策略を暴こうと意地など張るな。 許し難い暗躍を追跡するな。 いいじゃないか。くみしやすい者で。 思惑通りにわたしを貶めてほくそ笑む者は、 それ以上の毒を使わないのだから。 (殺されるわけじゃないのだから) せいぜい信じて時を送り流そうじゃないか。 |
追放の前夜、 私は、その声で目を覚ました。 押し殺した声だった。 蚊帳の外の闇からだった。 「動いてはなりません。 声に出してもなりません。 動けば思うつぼです。 声に出せば標的です。 あなたにとって、 一番不本意なあなたでいることが、 つまり、あなたを守ることなのです。 きっかけを与えてはなりません。 口実を与えてはなりません。 穏やかに過ごす姿こそが、 あなたを助けるのです。 いいですね。 束の間、心を離れ、気配を消しているのです。 いずれ、魔法の様にすべては変わります。 追放する者もまた、時が来れば追放されるのです。 静かに待つのです。 季節を数えて待つ強さだけは必要なのです。」 見慣れた大地は夜明けを迎えていた。 悲しいほどに澄み切った空だった。 |
新天地に舞い降りた者は、 誰もが高揚している。 自らの力で すべてを刷新しようと意気込んでいる。 先住の民の習慣や伝承を絶ち切り、 固く守られて来た掟まで叩き潰す。 おずおずと寄せられる嘆願の類は、 とことん黙殺され焼却されていく。 では、そのように張り切って 何をするのかと言えば、 過去幾度と無く繰り返された 「顔ぶれの入れ替え」程度のもので、 その工作に追われるうちに時間切れを迎え、 自らも入れ替えられていく。 なのに、本人は先の先まで 決めておこうと意地を張る。 責任など取れない遙か未来のことまで 「今日の机」の上で決めたがる。 自分が居なくなった後の天地を 想像できる者にこそ、 明日を託したい。 |
生きることの渦中にあって、 人は望みを握り締めることに拘る。 それを見透かして、 脅しや揺さ振りをかけ、 まるめこもうとする影が現れる。 自らの幻想を守ろうとする者ほど、 そんな仕掛に弱いものだ。 なんとか妥協しようとする。 どうにか折り合いを付けようとする。 その場をしのぐことで精一杯になる。 自らの夢を手放せない者ほど、 安易な打開策に奔り、 深みにはまり、溺れていく。 狡猾な罠にはまらない術を知っているかい? 暗愚となり、理解せず。 言葉を捨て、思考せず。 ただ心に決めた道筋を辿り切ることだ。 出口を見据えて、無心に進むことだ。 昨日と何ひとつ変わらず、 揺れず、崩れず、平然と、 一日一日を終わらせることだ。 (それこそ鉄の構えだ) ※画像と本文は一切関係ありません。 |
群のあれこれを聞かされ言わされ、 それを生業とするものがいる。 実にもっともらしく話すのだが、 注意深く聞いていると、 背後に控える黒い影が見えてくる。 (そこでだ) 誰かの言葉を伝えるだけの者に 言い返すことはない。 聞いておけ。 誰かの思惑を伝えるだけの者に 気色ばむのは愚かだ。 頷いておけ。 誰かの罠に誘い込む役目の者を 詰問してはならない。 恍けておけ。 さしさわりなく、 どうとでも取れるように、 その者が安堵しそうな「微笑」を 駄賃に持たせてやるがいい。 (無駄に騒ぐな、考えるな、動くな) |
気が付けば 私の速度の中にお前がいる。 振り向けば、 今日の私にお前が追い付く。 目が合えば、 めざす場所を了解している。 カットインではなく、 すみやかに、なめらかに、 躊躇ない合流だ。 フェードインとは違い、 押し寄せて、染み渡る、 堂々たる合流だ。 何事も無かったように、鞭を当てれば、 お前はしなやかな弧を描いて 私の楽園へ飛び込んで行く。 初めて迎える道の向こうを 覚えていたかのように、 躊躇なく堂々と飛び込んで行く。 (なるほど、これが風の遺伝子か) |
いつか迎える「おわりの時」を 探ったり、思い浮かべちゃいけない。 嬉しいことが嬉しいまま 溢れる思いが熱いまま 愛が出会いの時のまま 一切は、この瞬間のことであり続けるように 初めと終わりなど無いかのように 風に吹かれていたい。 光の中に今日のことさえ忘れていたい。 ただ消えることの無い印象でありたい。 ある日、誰も観ていない漆黒のスクリーンに エンディングの白い字幕が流れ出し、 私というものの終わりを告げていたとしても、 ほろ酔いの私は 夜空に明日を探すのだ。 |
あんたがつくり上げたものは、 あんたのすべてを映すものだ。 あんたが消えたら抜け殻だよ。 そう簡単には辞められないよ。 あんたが始めた祭は、 あんたの大風呂敷で賑わってきたのだから、 これからもずっとホラでも何でも吹かなくちゃ、 その祭は祭じゃなくなるよ。 そう易々とは逃げられないよ。 あんたが決めた掟は、 あんたの我儘に皆が従って出来たのだから、 これからもずっと誰彼と無く押し付けなくちゃ、 その掟は掟じゃなくなるよ。 そう単純には捨てられないよ。 あんたが愛した人は、 あんたの腐った性根を抱きしめたのだから、 これからもずっと仕様もない人間でいなくちゃ、 その愛は愛じゃなくなるよ。 |
今日のあなたの良さを他人が理解するのは、 遥か先のことだから、力を抜いておやりよ。 (証明してみせようなんて思わぬことだ) 今日のあなたのミスを他人が見咎めるのは、 今日中のことだから、気を張っておやりよ。 (明日何とかしようなんて思わぬことだ) 今日のあなたの思いを他人が受け取るのは、 他人の心次第だから、思いのままおやりよ。 (形にしてみせようなんて思わぬことだ) |