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イワテバイクライフ 2009年 10月前半
「もっと出来るはずだ」と欲張るな。 頑張らないお前でいてもらいたい者もいる。 その思惑にさりげなく寄り添えば、 優しくされることもある。 「こんなことでいいのか」と怒るな。 万事平穏なお前でいてもらいたい者もいる。 その胸中を察して微笑んでいれば、 感謝されることさえある。 「どうしてこうなるのだ」と問うな。 追求しないお前でいてもらいたい者もいる。 その都合をあっさり受け入れれば、 すんなり開くドアもある。 昨日と変わらぬ流れを切望する者にとって、 お前の努力は、時に迷惑であり、 お前の憤怒は、時に凶器であり、 お前の詰問は、時に暴力なのだ。 寝静まる群の中で、熱情はタブーなのだ。 |
ひと山幾らの幸せを 法外な値札で押し付けられることもある。 それも恩着せがましく。 破格の話であると耳打ちされ、 まれに見る好運だと告げられ、 感謝や恩返しまで請求される。 捨ててはならないものを手放し、 貫徹すべきことを止めてしまい、 守るべきものさえ見殺しにして、 さっさと契約書にハンコを押す。 ひと山幾らの幸せであることを認めたら、 あまりに寂しいから、 目を輝かせて迎える。 力の限り抱きしめる。 これでよかったんだと心に言い聞かせる。 本当に有難いことだと日々笑顔で暮らす。 丁寧に謙虚に素直に明朗に今日を生きる。 (嘘でもいいから、そうする) すると、やがて、 ひと山幾らの幸せは人生に馴染んでいく。 (払った代償の記憶は封印されて) |
川を渡ることを拒否しない。 向こう岸に焚火が燃え盛っていれば、 秋の水に濡れてもいい。 谷を越えるのに躊躇しない。 彼方の山々に道が開けているのなら、 棘の道に傷付いていい。 宙に跳ぶことに迷いはない。 明日のその先に真の未来があるなら、 目も眩む冒険でもいい。 すべては、窓からの見晴らし次第だ。 それで、人は救われたり悪魔になったりする。 |
燃えているかどうか、 よくわからなければ、 暗がりに佇んでみる。 灯っているかどうか、 はっきりしなければ、 夜を呼び寄せてみる。 火がつくのかどうか、 確信が持てなければ、 闇の中で試してみる。 魂があるのかどうか、 明言できないのなら、 嵐の中に生きてみる。 それでも、だめなら、 我が身を焼いてみる。 (覚悟という炎を持て) |
仲間と楽しみ競う時、 失敗は、けして悔いにはならない。 だってさ。 冷えた大地に温かい拍手が起きるんだぜ。 薄暗い空の下に輝く笑顔が浮かぶんだぜ。 最善の道筋を語り合う熱気が漂うんだぜ。 一面の秋を共有した絆が結ばれるんだぜ。 そんな思いひとつで 今年も疾走する影たちが、ほら、 二度と無い風を収穫していく。 |
わたしの行間を嗅ぎ回る者よ。 戦々恐々の猟犬たちよ。 お前の獲物は何だ。わたしの本心か? 舞い踊る雲を掴み取るには、 風の心を知れ。 お前の魂胆は何だ。わたしの追放か? 歌い狂う鳥を射落とすには、 風の魂を知れ。 お前の執着は何だ。わたしの計画か? 潜むものを突き止めるには、 風の熱を知れ。 お前の恐れは何だ。わたしの告発か? 押し寄せる闇を止めるには、 風の涙を知れ。 泥を纏わず、血も流さず、 机上で読み解けるものは、 所詮わたしの抜けがらだ。 ※画像と本文は一切関係ありません。 |
立場は、棲みかではない。 束の間立っていられる場所だ。 その足の置き場に 「名誉」や「権威」を感じる者は、 次から次へと新しい立場を求める。 曲芸のように立場から立場へ飛び移る。 その巧みさを誇りに思い、 ますます熱心に立場を求める。 次の立場こそが、生甲斐であり夢となる。 (しかし、だ) やがて老いとともに 立っていられる場所は限られ、ついに消えていく。 その時、夜露をしのぐ屋根さえ無いことに気付く。 故郷といえるものを持たないことに気付く。 仕方なく、渡り歩いて来た立場の近くに家を持つ。 立場の思い出を、生涯の宝として生きていく。 立場を捨てた獣にとっては、 見渡す一面が棲みかなのだ。 めぐる季節が棲みかなのだ。 移ろう雲や光さえ棲みかだ。 |
孤独な道には 寂寥という名の記憶が寄り添う。 映画「ダンス・ウィズ・ウルブス」も そのひとつだ。 主演のケビン・コスナーもよかったが、 何より心に残るシーンがある。 主人公に 絶望的な辺境への赴任を命じた直後 拳銃自殺する上官のことだ。 |
漆黒の闇に飛び込んだ瞬間、 わたしは、むしろ歓喜する。 それは、トンネルから抜け出すカウントダウンが 始まった瞬間なのだから。 光の中に抜け出るイメージは刻々膨らみ、 人生は闇の中をばく進する。 高速回転する歳月のカウンターは、 悲しみを巻き込んでいく。 苦しみを飲み込んでいく。 虚しさを噛み砕いていく。 過ぎてゆく過ぎてゆく歳月が過ぎてゆく。 暗ければ暗いほど心は光へ走る。 不幸の到来は幸福への起点。 すべての日々は過ぎ去るためにある。 むしろ幸福の到来が恐ろしい。 砂の様に落ちる幸せな日々が、 残り少ない生命に見えて来る。 |
歳月の速度は、 心の佇まいで決まる。 楽しければ、瞬く間だし、 つらければ、鉛のようだ。 夜明けの時刻がわかっている闇の中なら、 時は着々と流れる。 晴れ渡ることがわかっている嵐の中なら、 時は轟々と流れる。 故郷に戻る日がわかっている旅の中なら、 時は春の風となる。 (恐ろしいのは) 憂い無く繰り返されていく幸福の中で、 やがて時が止まることだ。 恋い焦がれるものを失い、 狂おしいほどのカウントダウンを忘れ果てた時、 人の歳月は停止する。 |
希望も絶望も 所詮は、同じ道中のことなんだね。 明日を信じていれば、 行く手は光り輝き、 不安を抱えていれば、 行く手の空は暗い。 辿り着きたい場所を強く思えば、 体も心も、その方向へ向かう。 辿り着けない自分を想像すると、 体も心も、一歩たりと進まない。 道があるかどうか、ではないんだよ。 どこへ行きたいかという意志が、 結果的に道を開くんだよ。 空を開くんだよ。 |
道は、千差万別だ。 向き合うものの造形。 挑む者の心と技。 両者が折り合ったところに道は開ける。 行けるか行けないか。 越えられるか越えられないか。 それは、つまり、 大地のありのままに 身を投げ出す素直さに尽きる気がする。 怖いと思えば、不可能の山脈に突き当たる。 楽しいと感じれば、地平の彼方に道は開けていく。 |
濃い霧が払われた。 わたしは、一面の水鏡の中に立っていた。 足元には秋の星座が映っている。 ひとつひとつの星が 辿り着くべき場所を告げている。 (もう迷うことは無い) けれど、勇んで走り出せない。 胸弾ませ歌も歌えない。 水鏡を少しでも揺らせば、 見渡す限りに波紋は広がり、 明日へ導く星の道も 崩れ消えてしまうから。 一切の喜怒哀楽を捨て、 闇にまぎれるのだ。 |